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消費者ではなく、当事者をつくる。「食」を通じて都市と地方の関係性を紡ぐOWNERS谷川さんが描く未来。

みなさんは、日々の暮らしを彩る食材を、どのように入手していますか?
全国の果物や魚介などの農水産物や日本酒・乳製品といった加工品など、とっておきの食材がシーズンに合わせて自宅に届く「オーナー」に登録できるプラットフォームサービス「OWNERS(オーナーズ)」が今、注目を浴びています。

OWNERSの発案者で運営責任者でもある、谷川佳(たにがわけい、29歳)さんに、どんな思いでこのサービスを立ち上げたのか、話を聞きました。

写真右が谷川さん(株式会社エル・エス・ピー OWNERS運営責任者)

都市と地方がつながる。「自分ごと」としての関わりがはじまる仕組み

2015年12月にスタートした「OWNERS」は、こだわりの産地や生産者・商品からお気に入りのオーナープランを探し、自分がその生産物の「オーナー」になれるプラットフォームサービスです。

OWNERSのトップページ。「食べるを、もっと豊かに」がコンセプト。

オーナープランには、北海道から沖縄まで全国の果物や魚介などの農水産物・お酒・乳製品などの加工品などがあり、ユーザーが登録して「オーナー」になると、生産者から発信される産地や商品に関する情報を定期的に受け取ることができます。双方でのやり取りがあることで、とっておきの商品が生産者から直接自宅に届くだけではなく、その生産プロセスをも楽しめる仕組みになっているのです。

生産者のこだわりやストーリーが見える、魅力的なオーナープラン。

生産者が産地や商品の生産状況などを発信している「コミュニケーションページ」。オーナーが生産者に対してコメントを入れることもできます。

生産物の「オーナー制度」という仕組みは、これまでにもありましたが、「OWNERS」はどのような違いがあるのでしょうか。

これまでのオーナー制度は、“売れないモノを売る”というディスカウント的感覚が強かったと思うんです。

生産地の一区画のオーナーになることで、その区画内でできた生産物がすべてオーナーに届くという仕組みが主だったのですが、プランの詳細を生産者に個別に問い合わせたり、FAXで登録したりといった申込までの障壁が高く、なかなか広がっていなかった。

僕もそうなのですが、田舎を持っていない人にとっては、ただお得に商品が手に入るというだけではなく、商品を通じて、“その産地(生産者)と関わっている”という感覚を持つことができれば、消費の仕方も変わるはずだと思ったんです。

旅行やお取り寄せといった“瞬間的な関係”ではなく、“長期的な関係”をつくる「OWNERS」は、まさに都市と地方をつなげるプラットフォームの役割を果たしています。地域の生産物を購入するというよりも、「生産者の仲間になる」というスタンスに近いのかもしれません。

現に、オーナープランに登録したオーナーと生産者とのやり取りも活発。「OWNERS」内の「コミュニケーションページ」では、生産物が今どんな状況で、どのようなプロセスでつくられているのか、さらには「おまけでこんなのも入れておきましたよ」といった生産者からの生の声が発信されています。

こうした生産のプロセスを知ることで“共感”が生まれ、オーナーがわざわざ産地まで会いに来ることもあるのだそう。単なる通販サイトでは考えられない関係性が、「OWNERS」にはあります。

また、商品を受け取ったオーナーから生産者宛にお礼の手紙が送られることもあるとか。今までは買って食べるというだけで完結していた食生活が、「OWNERS」を介して生産者とのコミュニケーションが生まれることで、生産者・地域と「関わっている」という感覚になるのです。

生産者と消費者という枠を超え“関係性を構築する”プラットフォーム

OWNERSの発案者である谷川さんは、大学卒業後、東京のPR会社に入社。当時、自治体からの案件で、地方の「生産者」と関わる仕事があったそう。大阪府岸和田市で育ち上京した谷川さんは、それまで見たことのなかった農産物の生産現場を見て、ひとつの生産物がその土地と生産者の愛情によって産み出されている過程に惹きつけられたと言います。

自治体の食のプロモーションに関わっていましたが、予算や方針が変わってしまうと、その瞬間に関係が切れてしまう。それに、ひとりの生産者がどんなに頑張っても、企画という枠の中では、均一的かつ網羅的に打ち出さなければならないもどかしさがありました。

せっかく生産者とつながり、対話を重ねても、個々の生産者にコミットすることが難しい。また、いいモノをつくっていても、生産者が自身でブランディングをして情報発信することはかなり大変であることも痛感したそうです。

本来いいモノは、お客さんがお金を払ってでも買いたいもの。「OWNERS」は、単に商品を購入するサービスではなく、生産者個人の生き方やストーリーに共感した消費者が、オーナーという当事者になって “関係性を構築する”プラットフォームです。

谷川さんはサービス立ち上げに際し、産地に足繁く通うことに。生産者と本音ベースで向き合い、生産者自身も気づいていない魅力を引き出しながら、ブランディングに取り組んだのです。

産地にも自ら出向き、一人ひとりの生産者と膝を突き合わせて語るスタイル。

谷川さんによってストーリーが引き出された生産者の紹介ページ。単なる商品紹介ではなく、「OWNERS」が大事にしている共感をこのページから生み出していこうという強い意思がよく表れています。

自分が挑戦できる環境を与えられているのだったら、自分しかできないことをやりたい

そんな谷川さんですが、少年時代は今の雰囲気からは想像もつかないような生活を送っていたそう。

大阪・岸和田で育った谷川さんは、小学校5年生の頃から地元仲間と非行に走り、勉強をするどころか警察に補導されることも多く、母親も先生も手を付けられない状態。ひとり親でもあった母親をひどく泣かせたそうです。

なにひとつ、本気で頑張っていなかったんですよね。人に迷惑を掛けていてばかりでした。

谷川さんは、後悔だらけの人生を変えようと過去の自分と戦いはじめました。通信制の高校をなんとか卒業し、飲食の道へ。それまで人に頭を下げたことすらなかったのに、初めてお客さんに頭を下げて「ありがとう」と言われ、ただただ感動したと言います。

その後18歳で飲食店の正社員になりますが、ただ勉強をしてこなかったという理由だけで同い年の大学生アルバイトに馬鹿にされたり、悔しい思いをしたそうです。

自分はここでは終わらない。本気でやってこなかった自分を変えたい。

という強い思いから、中学1年生の参考書からやり直し始めた谷川さん。通勤時間などを使って独学で黙々と勉強に取組み、高校レベルにも挑戦できるようになったとき、「ここまできたら大学にも挑戦したい」と思うようになったそうです。

一年の猛勉強を経て、19歳で大学の法学部を受験。見事合格し、20歳で大学生になりました。

僕の大学生活はガリ勉そのもの。それまでやってこなかった勉強が楽しくて仕方なかった。朝の8時には図書館にいて、授業もすべて一番前の席で受けていましたね。サークルなどの課外活動も一切断ち切り、学部以外の勉強や活動も後悔しないように全力で取り組みました。

自分がようやく手に入れた挑戦できる環境で、自分しかできないことをやりたい。こんな自分でも社会を変える何かを産み出したい。そんな使命感に駆られていました。

大学入学後、かつて迷惑をかけた中学時代の先生に近況を報告しに行ったことがありました。すっかり更生した谷川さんの姿を見て先生も嬉しかったようで、時折声を詰まらせて涙する場面も。先生は谷川さんのことを全校新聞でも誇らしげに紹介したそうです。

かつて周囲に迷惑をかけ、何をするにも自信がなかった頃の自分がいつも原点。だからこそ、世の中に何かを返したい。社会の課題や人の暮らしに向き合い、次の時代に必要とされるものを見つけ、作りたい。それが自分のできる恩返しだと思っているんです。

昨日の自分より成長しているか、胸を張れるか

梨のプランを提供する、三条果樹専門家集団の皆さんと。(写真右から2番目が谷川さん)

未来を見据え、挑戦し続ける谷川さん。

自分自身大切にしていることは、毎日を立体的に見て生きること。外の情報や人とつながっていくと、今やっている仕事がより魅力的に感じて、様々な可能性が見えてきます。

地方との接点もそうですが、一見関係ないと思えるものでも、新たな世界をつくるヒントがあると思っています。

現在の「OWNERS」の仕事を通じて、自分がどの場所にいても地方と常につながっているという感覚を持っているという谷川さん。生産者と消費者の日々をつなげているという実感が、日々のモチベーションにもつながっているとか。

OWNERSを立ち上げて、約1年半。谷川さんは、運営責任者として日々苦労の連続。でも、壁にぶつかりながらも、これまでの買う・食べるだけの「消費者」ではなく、誰がどのように作ったものかを理解し、参加する「当事者」を増やしていくという、未来への挑戦はこれからも続きます。

過去から逃げず、今に向き合うことが、谷川さんの原動力。

「昨日の自分より成長しているか、胸を張れるか。その質問に自信を持ってYESと答えられる。そんな生き方をしていきたい。」と谷川さんは最後に語ってくれました。

過去を顧みるだけではなく、自分の使命のもと、ひたむきに未来をつくろうとしている谷川さん。「OWNERS」でつながる生産者と消費者の新たな関係の根底には、誰かのために貢献したいという強い思いがあるのです。

あなたの捨てられない過去はありますか?
それは、きっと未来をつくる自身の使命につながっているはずですよ。