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反発から創造へ、自分たちのほしい「公園」ができるまで。 住民主導のACT×ART「パーク・フィクション」

ある日突然、家の隣に大きなビルが建てられることが決まったら、あなたはどんな行動を起こしますか?

そのビルが建つことで経済効果は見込まれる。
多くの人が訪れ、まちは賑わうかもしれない。
でもそこにはあなたの大好きな景色があって、それが遮られてしまうとしたら?

どこのまちにでも起こりうる、開発計画。
私たちの暮らしの周りを見渡せば、マンション建設に反対する住民運動や、駅の再開発にまつわる行政・企業・住民の長い抗争など、多くの対立を見つけることができるのではないでしょうか。

Park Fiction(Photo: Margit Czenki 2013)

1995年、ドイツ・ハンブルク。繁華街の南に広がる歓楽街ザンクト・パウリで、再開発に反対する地域住民による活動「Park Fiction(パーク・フィクション)」は生まれました。その活動を牽引してきたアーティストの二人、マルギット・ツェンキ(以下、マルギットさん)クリストフ・シェーファー(以下、クリストフさん)がこの度初来日。アーツ千代田3331で開催中の「ソーシャリー・エンゲージド・アート展 社会を動かすアートの新潮流」(2017年2月18日(土)〜3月5日(日))への出展を中心に、森美術館や東京ドイツ文化センターでの講演を行いました。

初回の講演にたまたま居合わせた私は、彼らのプレゼンテーションに完全にハートを射抜かれました。社会と関わり、よりよく変えていこうとするアーティストの活動「ソーシャリー・エンゲージド・アート」をテーマにしたディスカッションの中にあって、彼らの活動は私が思っていた“アート”の範疇をゆうゆうと超え、コミュニティ形成、地域活動、そして社会へのインパクトへと広がり、実際に「公園」という場を勝ち取っていたのです。

それは、アーティストでありザンクト・パウリを愛する住民である彼らが中心となって、実に10年以上の時を経て行われたプロジェクトでした。彼らのまちへの関わり方や活動のスタイルは、私たちに大きな視点の転換と、アートがもつ可能性を示してくれ、そして何よりも大きな勇気をもたらしてくれるのです。

どうしても!とお願いして、お忙しいスケジュールの中、1時間だけ、彼らのパッションを直接注入いただく機会を得ました。パーク・フィクションのこれまでの活動について、そして日本初となる二人のインタビューをお届けします。

パーク・フィクション
Margit Czenki(マルギット・ツェンキ) / Christoph Schäfer(クリストフ・シェーファー)

1995年、ドイツ・ハンブルグ港湾の貧困地区ザンクト・パウリの開発計画に反対してコミュニティ・プロジェクトを開始。住民による港湾委員会とアーティスト(クリストフ・シェーファー)、映像作家(マルギット・ツェンキ)が主導し、単なる抗議運動ではなく、開発予定地をゲームやピクニック、フェスティバル、展示、集会などに利用し続けた。アイディア溢れるさまざまな手法で住民の声を集め、独自の公園計画を作成。この一連の活動は世界最大規模の現代アートの祭典「ドクメンタ11」(2002年)で大きな注目を集めた。市は計画を断念し、2005年に公園が実現した。
http://park-fiction.net/

空間をつくりだすのは、建築家のプランではなく“行動と想像力”

1995年に持ち上がった、ザンクト・パウリの川沿いの土地に高層住宅とオフィスビルを誘致する市の開発計画。その頃のドイツでは、こうした開発計画に対して市民が取り壊し予定の住宅に居座ったり、建設予定地に座り込んで反対するという運動が活発化していました。中でもハンブルクでは大規模な対立が長期化し、暴力的な衝突や1万人規模のデモももたびたび起きていたと言います。

移民が多い貧困地帯であり、風俗店が立ち並ぶ赤線地帯も含まれるザンクト・パウリ。美しい港の眺望を奪うことは社会に影をつくることだと、多くの住民が反発しました。

座り込みをするメンバーの中にいたマルギットさんと、その活動を支援する側にいたクリストフさん。二人が出逢い、この場所に公園を求めるグループに合流したことで「パーク・フィクション」が始動。行政に反発することではない全く新しいやり方を見つけようと、二人はアートの力を活用した数々の取り組みをはじめていきます。

“反発”へ向かっていたエネルギーを“創造”へと方向転換する

様々なリソースを持つ住民たちをフィールドに巻き込むパーク・フィクションの仕掛け。クリストフさんのプレゼンテーションより。(Park Fiction Website)

マルギットさん ずっと反対運動に情熱を注いでいると、じゃあ新しいやり方を考えようといってもなかなか頭が切り替わらない。そこが非常に難しいところなんです。

これは多くの社会運動が陥る大きな落とし穴だと言えるでしょう。

このまま反発し続けて、その先に一体何があるんだろう?思い描いているものは一人一人、驚くほど違っていることもあります。怒りのエネルギーはパワフルだけれど、反対運動自体が目的化してしまい、戦うことに疲れきってしまうのです。

それに対して、パーク・フィクションのやり方は全く違うアプローチでした。ただ闇雲に反発するのではなく、自分たちの“願い”にフォーカスし、理想の公園のイメージをどんどん具体化させ、実際にその状況をつくり出していきました。

クリストフさん 自分たちの中にある“願い” に “形を与えて”いくこと。そのためには文化背景の違うさまざまな人と意見を交換することが必要。だから、そのプラットフォームをつくることこそ、僕たちアーティストがすべきことだったんだ。

ザンクト・パウリには彼らのようなアーティストもいれば、学校の校長、司祭、カフェオーナー、心理学者、ミュージシャン、子どもたち、不法占拠者……住む人も働く人も多様で、リソースもある。まずは、それらをつなぐネットワークをつくり、対話の場がスタートしました。

トークイベントやディスカッション、上映会など、そこに住む各ジャンルの専門家たちとともに「学び」の要素を入れた会を開き続けることは、まちのムードを「みんなで勉強して学び合って、賢くなろう!」という方向にシフトさせていきます。行政への反発へと注がれていた一人一人のエネルギーを“創造”へと方向転換させたのです。

公園“予定地”で開催された上映会(Park Fiction Website)

住民の“願い”を引き出すさまざまな仕掛け

また、彼らは住民の声を集めリサーチすることさえも「INFOTAINMENT」(information+entertainment)として楽しく遊びごころたっぷりに仕立て上げました。単なるアンケートや統計だけではなく、多様な住民たちの異なる主観を交換できるような問い、たとえば「あなたが幸せだと感じた場所を描こう」というようなお題で想像力を湧き起こさせ、まちを自分たちの手に取り戻していったのです。

マルギットさん まったく新しいやり方をつくっていくんだ!という気持ちだったわ。私たちは“自己決定”できるんだって。このまちに住んでいるのは、私たち住民自身なのだから。

数々の対話の場には子どもからお年寄りまで多様な住民が参加し、“招かれざる都市プランナー”が続々と誕生。スケボーのランプがほしいとスケッチを描く少年。(Photo: Christoph Schäfer 1995)

公園“予定地”には、活動のプロセスを開示する「プランニング・コンテナ」までもが出現し、意見交換を楽しむ場として機能しました。そこには住民たちのコミュニティができあがり、住民たちは“まるですでにそこに公園があるかのように”行動していきます。

停車している車の間でのバーベキューや、露店を出して食を楽しみながらのピクニック、音楽イベント…周辺のお店のショーウィンドウをアーティストに開放したエキシビジョンには多くの見物客が訪れ、メディアにも取り上げられました。

「こんな公園ができたら楽しい!」「こんなまちに住みたい!」という“願い”が現実になっている状況をつくり出し、それを実際にみんなで体験することで、住民同士はイメージを共有することができ、コミュニティの結束はより強くなっていきました。

プランニング・コンテナ周辺が音楽フェス会場に! (Photo: Hinrich Schulze 1997)

1997年、行政はこの場所を最終的に公園にすることを承認し、当初の開発計画は凍結。公園の開発プロセスをオープンに行うという考えに同意し、パーク・フィクションと市との協働がはじまりました。

時にハチャメチャでもある彼らの行動を行政が無視できなくなったのは、やはり、これだけ多くの住民参加があったからという理由に他なりません。反発ではなく創造の力こそが行政を動かしたのです。

街中に対話を持ち出す「アクション・キット」


ゲームボードには公園の計画プロセスにどのようにアクセスできるかが示され、コミュニティに広く配布された

公園予定地だけでなく、街中に対話を持ち出すべく開発された「アクション・キット」なるものも非常にユニークです。トランク1つにセットされたキットの中には、公園の開発プロセスがわかりやすく示されたゲームボードやサイコロのほか、折りたたみ式の港のパノラマ、紙粘土、ポラロイドカメラやレコーダー、スケッチの道具など一式が揃い、まちのどこででも対話をはじめることができます。

声の大きい人の意見だけを反映させるのではなく、ありとあらゆる方法で多様な住民たちを巻き込む彼らの手法は注目を集め、2002年には5年に1度開催される世界最大規模の現代アートの祭典「ドクメンタ11」にも招待され、広く世界に知られることとなりました。

ドクメンタ11(2002年)でのパーク・フィクションのインスタレーション。地域住民による膨大なアイディアや対話のアーカイブが展示された。アーティストだけでなく、教員、ソーシャルワーカー、心理学者などさまざまな仕事を持つメンバーたち。(Park Fiction Website)

そして2005年、ついに公園がオープン。1995年の活動開始から10年の年月をかけ、地域住民の“願い”が昇華された理想の公園が誕生しました。以降も変わらず地域住民の場として活用され、世界に向けてメッセージを発信し続けています。

象徴的なヤシの木は子どものスケッチが元となっている。(Park Fiction Website)

2013年、トルコ・イスタンブールのゲジ公園闘争を受けて、トルコ移民が多いザンクト・パウリ地区からメッセージを届けた。難民を受け入れ、炊き出しなども行われている。(Photo: Margit Czenki)

アーティストの役割と、アートの効能

「ソーシャリー・エンゲージド・アート展 社会を動かすアートの新潮流」の展示では、写真や映像のアーカイブによって彼らの活動を表現。2日間かけて二人で制作し、壁の日本語はクリストフさんが自ら書き上げた。映像作家のマルギットさんが制作したドキュメンタリーも全編見ることができる。

パーク・フィクションが仕掛けてきたことは“アート”なのか?
彼らは“アーティスト”なのか、それとも“アクティビスト”なのか?

このアイディア溢れる一連の活動に定義なんて必要ないけれど、二人がどのような気持ちでこの活動を展開して来たのか、そしてそれぞれの今に至る人生の旅についてもとても興味が湧きました。

マルギットさんは1941年、第2次世界大戦の頃生まれ、戦後の混乱の中で仕事をしながらも独学で映像制作を学び、世の中のいい変化につながるようにと政治的、社会的な映像のプロジェクトに取り組んできたそう。

20歳で出産し、息子が厳しいしつけをする幼稚園に馴染めなかったことがきっかけで、子どもたちとの暮らしを根本から見直すムーブメントに関わっていきます。当時のドイツは学生運動やフェミニズム運動が非常に盛んで、マルギットさんは常にその渦中で声を上げ続けました。管理ではなく、子どものニーズに寄り添い、子どもと保育者、そして親が共同で運営する「キンダーラーデン」をミュンヘンで初めて立ち上げた人物でもあります。

一方、クリストフさんは1964年生まれ。10代の頃から哲学や美学に興味を持ち、ハンブルクの美術学校で学び、社会や政治を変える手段としてのアートを実践してきました。経済優先、機能優先で整備される都市計画に疑問を投げかけ、ジャンルを超えたさまざまな専門家たちとともに都市における場づくりに関わっていく中で、30歳でパーク・フィクションの活動をはじめます。

二人はそれぞれ、別の都市からハンブルクのザンクト・パウリに移り住みました。港町がゆえの国際的な雰囲気。多様なカルチャーが交錯する雑然としたまち。ここを二人は心から愛し、今も公園から徒歩1分のところに暮らしています。

行政への反対運動に疲れきっていた人たちを、どのようにパーク・フィクションの活動に巻き込んでいったのか?その問いにクリストフさんはこう答えました。

クリストフさん それがアートだからとか、そんなことは関係なくて、今までと全く違うやり方だったから興味を持ってもらえたんだと思う。僕のバックグラウンドはコンセプチュアル・アートだから、概念を何らかの形で表現することや、言葉の選び方を変えることは得意で。

例えば、政治っていうものは「参加する」ものだって定義づけられている。それを「“願い”に“形を与える”」っていうふうに表現したんだ。反対運動やデモは危険で、決して誰もが参加できるものじゃない。でも“願い”を表現していくことは、子どもにだってできること。行政と話すのは一旦ストップして、住民同士で、勝手に理想の公園についてプランニングを始めたら、楽しそう!ってみんなが巻き込まれていったね。

全ての人に開かれた場をつくること。誰も排除することなく、多様な人が集うからこその化学反応を楽しむ彼らのやり方。ファッションや音楽など、政治的なことに関係なさそうなジャンルを意識的にミックスしてみると、思いがけない発見や楽しさが生まれるときもある。そうして異なる分野の人同士が一緒に場をつくることで、“願い”が実現されたときのイメージを共有できたのです。

マルギットさん 私たちの仕事は人々をつなげることではないの。あくまでも、プラットフォームをつくること。そうすれば人々は自分たちで、勝手につながることができるから。
パーク・フィクションは社会的なプロジェクトでもあるし、政治的なプロジェクトでもある。アート・プロジェクトでもある。いずれにしても、この目的はね、人々の生き方の風向きを変えることなの。

クリストフさん うん。少なくともヨーロッパでは、ルネッサンス以降、アートは単なる芸術ではなく新しい視点やものの考え方を見つけること。自己表現なんてもうつまらないじゃない?僕が一番重要だと思うのは、プラットフォームをつくって、そこでいろんな人の考えが集まって交換されること。

特にヨーロッパでは意見を主張することや行動することが重要視されるけれど、他の意見に耳を傾けることも同じくらい大事で。
だから、“アクティビスト”っていう言葉は必ずしも好きじゃないんだ。行動の方が強調されてて、聞く耳を持たない感じがね(笑)

願いは家を出て通りへと向かう

The Park (Photo: Margit Czenki 2013)

「願いは家を出て通りへと向かう」(原題:Park Fiction – die Wünsche werden die Wohnung verlassen und auf die Strasse gehen)は、マルギットさんが撮りためたパーク・フィクションにまつわるフィルムをまとめたドキュメンタリー映像のタイトルになった言葉です。

マルギットさん 一人一人の“願い”…夢とか希望を家の中でプライベートなものにしておかずに、外に出していくこと。お互いに交換し合うこと。するとそれが、社会全体の風向きを変えていくことに、必ずつながっていくから。

私たちは、誰もが他の人にとっても興味があるはずなのよ。そこからしか、何も生まれない。

パーク・フィクションが公園を勝ち取ることができたのは、全く違う視点を持つ人々が一緒に活動したから。お互いのやり方に興味を持ち、尊重し合いながらね。1つのやり方しか持っていなかったら、それが失敗したらもう終わり。でも私たちにはいくつものやり方がある。行政も、私たちがいろんな方向から議論を投げ込むから手を焼いてたわ(笑)

これまでやってきたことはいいモデルになった。これからは同じようなクリエイティブなやり方で、すべての人が暮らしに困らない社会をつくっていけたらと思ってる。

マルギットさんはそう言って、キラキラと目を輝かせます。「窓からの港の景色が大好きなの!」と、自分が暮らすまちで、住民たちと手を取り合いながらの作戦会議には、終わりがありません。

PlanBude (Photo: Margit Czenki 2014)

パーク・フィクションで行政との関係性も築き上げた二人は現在、公園から徒歩10分の大通り沿いに2009年に持ち上がった再開発計画に反対するプロジェクトを率いています。「PlanBude(計画小屋)」と名付けられたそのプロジェクトの象徴は、パーク・フィクションでも大活躍したプランニング・コンテナ。ここを拠点に、さまざまなアイディアで2,300件もの地域住民の声を集めました。

「Tactical Furniture」:コンテナの前に出現したプランニングスタジオ。近所の大型スーパーがカートを提供し、即席のテーブルができあがる。 (Photo: Margit Czenki)

粘土を使って”願い”を表現。24,000平方メートルの建物を粘土の量に換算し、500分の1のスケールである1.4キロの粘土を手渡す。(Plan Bude Website)

150分の1サイズのレゴモデル (Photo: Margit Czenki 2013)


言葉だけではなく、粘土やレゴなども活用し集めたアイディアを分析し、この28,000平方メートルの土地に建設予定の集合住宅への要望書をまとめ上げ、市の開発局とも連携しながら国際建築設計コンペを実施。結果的に国内外から5社が選ばれました。

設計図はできあがったものの、今後も行政や土地の所有者とのタフな交渉は続いていきます。パーク・フィクションの公園ができるまでに10年かかったように、彼らは時間をかけることを惜しみません。それはやはり、彼らが第一に、このまちにいつも住んでいる住民だからなのでしょう。

「自分自身の物語を書く」彼らの展示の中には、公園で生まれた数々の物語の写真が。

自分のまちをよりよくすることに徹底的にフォーカスする二人。
その二人のパッションこそが世界中の人々を勇気づけ、一人一人が世界を変えていくのです。

(通訳:小林順子 / 協力:藤井麗美)

– INFORMATION –

「ソーシャリー・エンゲージド・アート展 社会を動かすアートの新潮流」


会場:
アーツ千代田3331(東京都千代田区外神田6丁目11-14)

会期:
2017年2月18日(土)〜3月5日(日) 開館時間:11:00〜20:00 (最終入場19:00)

観覧料:
一般・大学院生 1,000円/ 大学生・中高生 500円(要学生証) / 小学生以下 無料
http://sea2017.seaexhibition.site

ソーシャリー・エンゲージド・アートについては上記の展覧会を主催した「NPO法人アート&ソサイエティ研究センター」のウェブサイトをご覧ください。
http://www.art-society.com