抗議に必要なのは、怒りだけじゃない。愛も大事だ。アメリカで最低賃金引き上げ運動を成功させた女性たちに聞いた

みなさんは、”持続可能な社会”という言葉からどんなことを想像しますか? きっと環境問題の解決や自然保護を進め、それらに対して負荷をかけすぎない社会を実現すること、と考える方が多いのではないかと思います。

昨年の10月に私が参加したカンファレンス「Bioneers」は、持続可能な社会の実現を目指して、さまざまな専門家と参加者がつどい、ともに「未来のビジョン」を共有する場。私自身、”持続可能な社会”というキーワードを耳にしたとき、環境問題を想像していたのですが、「Bioneers」に参加したことでその解釈を拡張することになりました。
これまでに「Bioneers」を取り上げた記事は、こちら

「Bioneers」ではいたるところにアートがあります。この親子が手にしているのは、ローカルアーティストToni Mikulkaさんによる 「チームワーク・コラボレーション・コミュニケーションによって地球を守ろう」をコンセプトにした大きな鳥の棒付きカイト。

実際、昨年の「Bioneers」は女性やユースをテーマにしたスピーチやワークショップが多く、人権が守られ多様性を受け入れることが、”持続可能な社会”において必要だと感じました。今回はその中でも、「労働者の権利が守られた社会づくり」について話し合ったワークショップ「Mass Movements: Rising to Address Economic Inequality (大衆運動・経済格差問題をもっと取り上げよう)」の参加レポートをお届けします。

ワークショップ会場の廊下には「世界を公正で平等に変えるには何が必要?」と書かれたオブジェが!思わず立ち止まって考えさせられました。

2014年、シアトル、サンフランシスコ、ニューヨークといったアメリカの大都市で、労働者の最低賃金を2018年までに15ドル(1690円)へと引き上げることが決まり、話題になりました。このワークショップは、その労働者たちの運動に関わった女性リーダーたちが、自身の体験を語るというもの。

参加した女性リーダーは、司会進行をつとめたUCバークレー・労働研究教育センターで社会学者として働くAnnette Bernhardt(以下、アネットさん)。そして登壇者として、サービス従業員国際労働組合でカリフォルニアの委員長を務めるLaphonza Butler(以下、ラファンザさん)、アメリカの大手小売業チェーン「ウォルマート」の労働者団体「OUR Walmart」でディレクターとして働くAndrea Dehlendorf(以下、アンドレアさん)、 ニューヨークのレストラン従業員のための団体ROC-Unitedで、ディレクターを務めるSaru Jayaraman (以下、サルーさん)が加わった計4人です。

最低賃金引き上げ運動の様子を話してくれるラファンザさん。(写真中央)

私が会場に入ると、前方に大きなステージがあって、そこにパネルディスカッションのテーブルがセッティングされていました。「でも、それでは参加者である私たちとの間に距離ができてしまうのでは?」というアネットさんの配慮から、急遽ステージを使うのをやめ、フロアにみんなで輪になって座ることに。

参加者は全員で30人ほど、学生から年配の方まで年齢層は広かったものの、8割が女性。アメリカのファストフード店やスーパーマーケットなどで働いている人の多くは女性であるという事実からしても女性のほうが関心が高いのも納得できます。

ひとりずつ、名前、職業、ワークショップに興味を持った理由などを話していったのですが、みんなが見渡せる会場セッティングのおかげで、自己紹介が終わるころには、すっかり緊張感が和らぎました。

本当に大切なのは活動が「飛び火」していくこと

そんな参加者のみなさん誰もが興味をもっていたのが、全米の各都市で最低賃金が7-8ドルが当たり前だと思われていた時代に、どうやって15ドルまで引き上げることに成功したのかということ。

その質問に真っ先に答えてくれたのが、カリフォルニア労働組合のラファンザさん。

ラファンザさん 「Fight for $15」と名づけられたキャンペーンが各地に広がり、現在のような成功につながるには、3つのステップがありました。

1つはこのキャンペーンを立ち上げるきっかけとなった、2012年のニューヨークにおける、ファストフード店につとめる人びとの座り込みによる抗議運動。続いて、シカゴのスーパーマーケットではたらく人びとによるもの。

しかし残念なことに、この2つの抗議運動は大きな話題になりましたが、 最低賃金を引き上げることにはつながりませんでした。

それでも抗議運動は各地で広がっていったのです。やがて2013年にシカゴ空港の職員によって起こされたストライキが反響をよび、シアトル、ワシントンDC 、サンフランシスコへと飛び火した結果、2014年の自治体による法改正につながりました。

思い思いのプラカードを掲げ、最低賃金引き上げと傷病手当金を求めて、ファストフード店の前で抗議運動をする従業員たち。Wikipedia Commonsより。

法改正を実現したあとも「Fight for $15」 キャンペーンは拡大しているといいます。現在ではレストラン従業員、小売業者、空港職員、介護福祉士など、いろいろなサービスワーカーの間に広がり、世界的なムーブメントとして、ギリシャやブラジルなど30カ国に広がっているそうです。

「Fight for $15」キャンペーンの成功は、サービスワーカーによる抗議運動の賜物ですが、「でも、抗議運動に参加するのは抵抗がある」という方も多いのではないでしょうか?

「OUR Walmart」のアンドレアさんは、こう言います。

アンドレアさん 「ウォルマート」の従業員たちも、最初は解雇されることを恐れて、不満をなかなか言うことができなかったんです。そればかりか、働いても生活に十分な経済力がないのは、自分の能力のせいだと思い、最低賃金制度の改正にあまり興味を示さななかった人もいたんですよ。

そんな労働環境に大幅な改善をもたらすことができたのは、みんなで何度も話し合ったことにあります。従業員をサポートするグループをつくり、それぞれの悩みを聞き、それを解決するためにはどんな雇用条件が必要なのか、話し合ったんです。

こうした取り組みによってお互いの信頼が強くなり、従業員たちは大きなリスクを背負っても労働環境を改善しようと、勇気がわいてきたんです。

OUR Walmartの正式名称は「Organization United for Respect Walmart(敬意を表すために集まった団体・ウォルマート)」そのリスペクトという旗を持ってウォルマートの前で抗議運動をする従業員たち。Jobs With Justiceより。

自分が願う社会の在り方を声にする

アンドレアさんの話を聞いて、カリフォルニア暮らしの長い私は、アメリカで初めて抗議運動に参加したときのことを思い出しました。それは、大学生のときに学費の大幅な値上げに不満があり、同級生たちと一緒にキャンパスで座り込みをしたときのこと。

それまで私は抗議運動というと、政治や権力に対して批判的なことを発し、個人的な怒りや不安などの感情を発する場というネガティブなイメージを持っていました。

でも、実際に自分の主張を大きな声で訴えると、スカッとして気持ちがよくて、とてもポジティブな気持ちになれたのです。”抗議運動”というと難しく考えがちですが、「自分が願う社会の在り方を声にすること」だと思うとちょっと勇気がわいてきますよね。

トランプ大統領が就任した翌日に世界中でおこなわれたウーマンズ・マーチは破壊行為などのトラブルがなかったことでも話題に。cbc.caより

登壇者の「ROC-United」サルーさんは、「希望(願い)を声にすることで共感者が見つけれられる」と言います。

そんなサルーさんには、人生を変えた出来事がありました。

サルーさん 今から15年前、私はニューヨークで移民のための法律家として働いていました。そんなとき「アメリカ同時多発テロ事件」によって、ワールドトレードセンター最上階にあったレストラン「Windows on the World」で働いていた73人のスタッフが亡くなったことを知ったんです。そればかりか、1万3000人ものレストランで働く人びとが、テロによって職を失なっていました。そんな人びとをサポートするために、私は「Restaurant Opportunity Center(ROC)-NY」を立ち上げました。

「ROC-United」でレストランで働く人びとと関わるようになって私が知ったのが、女性従業員の多くが人種差別やセクシャルハラスメントを受けているという事実。チップ制度のもとで働いている多くの女性たちは、客から嫌がらせをうけても、チップが少なくなることを気にして我慢していたんです。

同じ女性として、子どもを抱える母親として、彼女たちの希望(願い)をかなえたい。そんな気持ちから、チップ制度を廃止し労働賃金を引き上げるという活動に、とても勇気がわいてきました。

UCバークレーで教鞭をとるサルーさん。TEDトークなどメディアでも活躍しているのだそう。

サルーさんの言葉を聞いて、私は彼女は愛をエネルギーにして行動をしたのだと感じました。

ときに私たちは、希望(願い)を声にしたくても、自分の考えに共感してもらえるのか不安な気持ちがわいてくることがあります。そんな時に背中をそっと押してくれるのが「愛」です。自分の家族や仲間、住んでいるまち、みんなを幸せにしたい。その愛情があれば、私たちの行動も変わってくると思うんです。

LOVE > HATE

「愛」についてもう少し考えてみると、アメリカの抗議運動では「Love is stronger than hate(愛は憎しみに勝つ)」という言葉がよく使われます。

満たされない気持ちがあると憎しみになりやすいものですが、憎しみを掲げた抗議運動よりも愛のある抗議運動のほうが、より大きなソーシャルムーブメントを起こすという考えです。

最近ではトランプ大統領に対する抗議運動でも「love trumps hate(愛は憎しみに勝つ)」 という言葉で表現されたりしています。


レディー・ガガも抗議活動! 大統領選挙の翌朝「Love Trumps Hate(愛は憎しみに勝つ)」と書かれたプラカードを掲げ、ニューヨークのトランプタワーの前に現れた写真をツイッターに投稿し「お互いをケアしよう」と呼びかけました。

今回のワークショップで私が学んだのは、いくら社会を良くしたいと願っても、ただ不満をぶつけただけでは、ものごとは何ひとつ解決しないということ。

”持続可能な社会づくり”の根底には「愛」がないと、活動そのものが迷走してしまいがちです。
実際、先日私が暮らしているバークレーでトランプ支持者に対する抗議運動が暴徒化し、建物の窓ガラスが割られたり周辺に火を放たれる被害がありました。

翌朝、街じゅうに飛び散ったガラスの破片を見て、これがリベラルな街といわれるバークレーで行ったことなのかと思うと、とても悲しくなったのです。そして暴力や不満は、何も生まないと改めて気付かされました。

ラファンザさん、アンドレアさん、サルーさんがそれぞれの活動で、大切にしているのは、「コミュニティの声を聞く」ということ。最初はたった一人の意見でも、人びとが耳を傾けることで、やがてそれがソーシャルムーブメントにつながります。

「私のまわりにいる人の話を聞くこと」それだったら今からすぐに、誰でも始められますよね。みなさんもまずは身近な人の、心の声に耳を傾けてみませんか?

[via cbc.ca, jwl.org, sfgate]

松下史佳

松下史佳

greenz.jp ライターインターン卒業生。2003年よりカリフォルニア州バークレー市在住、2016年greenz.jpライターインターンプログラムに参加。現在は、UCサンフランシスコ循環器科・疫学研究アシスタントとして勤務し、主にアメリカの「健康格差」におけるデータを分析。



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この記事を執筆した松下史佳さんは「greenz.jpライターインターン」卒業生です。

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