世界を旅して集めた「ばあちゃんの幸せレシピ」。台所で見つけた幸せの哲学とは?

キャリーバッグひとつで世界中を旅しながら、料理上手で美しいシワを持つおばあちゃんたちを探す中村優さんは、これまで3年をかけて世界15ヶ国で100人以上のおばあちゃんのレシピを集めてきました。

右回しのかぼちゃジャム、体を整える緑のおかゆ、おもてなしのチリペースト、葬式うどん……、おばあちゃんたちが教えてくれるのは、人生という長い旅路のなかで編み出した、自分だけの味。

レシピと言いながらも、つくり方や分量などの紹介はかなりアバウト。それよりも、若い日の恋愛話や苦労話、生きる上で湧いてくる疑問への答えなど、おばあちゃんと台所で語り合った物語が描かれています。

どんな状況でも幸せに生き抜くために、いま、時代を超えて伝えたいおばあちゃんたちの「幸せの哲学」とは?

旅の向こう側で見つけた笑顔

旅先ではハプニングに見舞われることも。ミクロネシアのコスラエ島では、地元の人に連れられて知らない人のお葬式に参列(!)。まるでフェスのような賑わいのなか、男たちが次々と豚を目の前で捌いていく(写真提供:中村優)

大学時代から各国の家庭料理に興味を持ち、ヨーロッパを旅していた中村さん。「料理するからタダで泊めて!」と、3ヶ月でスペインやイタリア、フランス、ベルギー、ドイツを回りながら、現地の人と一緒に台所で料理をつくるというマイプロジェクトを行っていました。

一緒に料理すると信頼関係が生まれて、初めて会った人とでもすぐ仲良くなれる。「おいしいものを食べると笑顔になるのは世界共通だ」と実感したのだそう。

卒業後はコンサル会社に入社したものの、働き方に疑問を持ち、わずか2ヶ月で退職。その後、ある編集者と料理人に出会い、好きなことを追求する彼らの人柄や自由な働き方に惹かれた中村さんは「お金はいらないので弟子にしてください!」とオファー。ふたりの師匠のもとで修行を積むことになりました。

おいしさの秘密を訪ねて

ラブレターで旦那さんと育んだ愛が実り結婚したというタイのマリニーおばあちゃんは、「好きな人のために好きなものを楽しんでつくることが一番のおいしさの秘訣」と教えてくれた(写真提供:中村優)

「庭に落ちてきた不発弾でフライパンをつくったの!」と壮絶な経験を小気味良く話す横浜の圭子おばあちゃん。辛いことがあっても、いつだって前向きな精神で乗り越えて来た(写真提供:中村優)

師匠たちのもとを離れた後、「料理と編集の力を活かして自分には何が出来るのか」と考えていた中村さん。そんな時、旅先で美しいシワを持つおばあちゃんたちと出会います。そのシワに魅せられて、いつしか「ばばハント」(おばあちゃんたちをハンティングすること)をするようになりました。

素敵なおばあちゃんを見つけると、持ち前の人懐っこさで近寄り、台所にお邪魔して料理を教わります。料理をしている時は相手に心を許してしまうのか、おばあちゃんたちはついつい色々なことを話してしまう様子。

ばあちゃんの料理と聞くとほっこりしていると思われがちですが、すごくクリエイティブでロック。80歳というのはひとつの指標で、戦争を越えて何も無いところから生み出して来たから、素材を活かす術を良く知っている。無駄がないし、知恵が詰まってるんです

なかには「子守や家事が忙しすぎて10歳で学校を辞めたら、周りには『手伝ってくれる彼氏をつくったら?』と言われたものよ」と壮絶な道をカラっと笑って話すおばあちゃんや「空襲で家の庭に落ちてきた不発弾を分解してフライパンにしたの! その上で炒め物でもなんでもして、『いい気味』って言いながら食べたのよ」と、信じられないようなストーリーをチャーミングに話すおばあちゃんもいたのだとか。

『ばあちゃんのレシピ』は、背景にあるそんな想いが集まって生まれました。

どんな苛酷な経験も美しいシワを寄せて笑顔で語るおばあちゃんたちがつくる料理は、どれも人生を明るく生き抜くためのエネルギーをくれるものばかり(写真提供:中村 優)

幸せの種を蒔く

『ばあちゃんのレシピ』を集める一方、料理のケータリングやライティングなどの仕事を受けながら暮らしていた中村さんは、ある日「生産現場を実際に自分の目で確かめてみたい」と旅に出ます。

「自分が会いたい生産者の情報はたいていネットには出まわらないから、信頼できる人の繋がりと自分の感覚が頼り」と駆け回る日々。そしてさまざまな生産者と出会ううちに、自分が本当に良いと思ったものをみんなにも分かち合いたいと思い立ちます。そこでスタートしたのが、旅先からおいしい食材をおすそわけする『YOU BOX』でした。

「知らない土地へ旅を続けるのは、その土地を自分の目で見て、肌で感じて、容易にカテゴライズ出来ない存在を捉えてみたいから」と中村さん。フランスでは、完全無肥料無農薬で栽培したぶどうを手で摘み、音楽を聴かせながら足で踏んで潰してワインをつくる生産者と出会う(写真提供:中村 優)

さらに、自分で仕事を生み出しながら旅を続けていくなかで「もっと仲間を巻き込んで世界を広げたい」と『40creations』を立ち上げます。つい笑顔になってしまうようなプロジェクトをそれぞれ違うスキルを持つメンバーたちと40(シワ)個仕掛け、終わったら消滅する。おばあちゃんたちから受け継いだ「幸せなシワ」は、今や国や世代を超えて多くの人に広がっています。

「美しいシワは、楽しさや悲しみを乗り越えた時間の記憶」と中村さん。Webデザイン:Mikiko Kikuoka(LETTERS Inc. / Garden Eight)

美しいシワを重ねていくために

レシピを集め始めた頃は、毎回ばあちゃんが加える素材の分量を細かく量っていたんです。でも、ばあちゃんたちはそんなのまったく気にせずつくっている(笑)。大事なのはそこじゃないって気付いたんです。

おばあちゃんから学んだことを自分なりに編み直しながら、幸せな仕事を生み出していく中村さん。レシピを教わる時は、伝統料理をそのまま受け継ぐのではなく「人生を楽しむ心を得ていくこと」を一番大事にしているのだとか。

おばあちゃんたちがこれまで歩んできた人生が料理を通して描かれた一冊。中村さん自身の視点で切り取った写真を眺めていると、一緒に旅をしているような気分が味わえる(写真提供:中村優)

生きる国や時代背景が違っても、美しいシワを持つおばあちゃんたちの哲学は、人生を幸せに生きるヒントを与えてくれるはず。そこから何を学び、何を残し、どう生きていくかは私たち次第なのかもしれません。

(Text:原山幸恵 / たらくさ株式会社)

この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。

– INFORMATION –
ばあちゃんの幸せレシピ
著:中村優
発行:株式会社木楽舎

40creations