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子どもの心が、多種多様な社会を映し出す。世界中の小学4年生たちのメッセージが気づかせてくれることって?

突然ですが、みなさんに3つの質問です。

「誰と一緒に住んでいますか?」
「何を願っていますか?」
「何を心配していますか?」

周囲を気にせず、自分の心に手を当てて、正直に答えてみてください。

アメリカに、この3つの質問を世界中の「小学4年生」に聞き続けるアーティストがいます。

彼女の名前は、Judy Gelles(以下、ジュディさん)。世界中の小学4年生のクラスを訪れ、子どもたちにシンプルなこの3つの質問を投げかけ、それをアートで表現し続けています。

小学4年生といえば、自分と他者、すなわち、家族・友人・社会などとの関係性を、少しずつ意識し始める年頃。彼・彼女らのメッセージから見えてきたものとは、一体何だったのでしょうか。

2007年、この活動をはじめるきっかけにもなった、フィラデルフィアのある公立学校の子どもは、こう答えました。

ぼくは、自分の家族が、拳銃で撃たれるんじゃないかと、心配しています。

いとこのお兄さんは、拳銃で撃たれて、死んでしまいました。ぼくは、みんな、拳銃を持つべきではないと思います。警察官でさえも。そうすれば、だれも、撃たれることはないから。

当時、フィラデルフィアでは、拳銃による暴力の連鎖が、大きな社会問題となっていました。ジュディさんはこの問題の解決策を見出すべく、地域の教会による慈善活動として、学校訪問を始めたのです。

フィラデルフィアの、別の私立学校の小学4年生は、こう言いました。

ぼくのお母さんは、ウルグアイで生まれました。家族は、もっとお金を稼ぐために、アメリカに移住しました。

ぼくは一人っ子だけれど、すぐに、中国から、養子の赤ちゃんを迎え入れる予定です。小さな妹に会うのが、とても楽しみ。

ぼくは“世界がひとつの大きな帝国だったらいいのに”と願っています。そうすれば、戦争は起こらないと思うから。

心配ごとは、世界の飢餓と、地球温暖化です。自分はいま、幸せに暮らすことができて、とても幸運だと思います。

同じフィラデルフィアの小学4年生でも、家族の身の安全を心配する子もいれば、世界の飢餓と地球温暖化を心配する子もいる。

3つのシンプルな質問を子どもたちにするだけで、暴力・移民政策・核家族化などの社会問題が、浮き彫りになったのです。

このプロジェクトは、続けなければいけない。

想いに駆り立てられたジュディさんは、その後、アメリカ全土に加え、中国、インド、セントルシアなどの小学校で、子供たちへのインタビューと撮影を続けました。

中国では、出稼ぎのために移住せざるを得なかった家族と、自分の出身地に残ることを選んだ家族との間で、引き裂かれてしまった少年の心を捉えました。

ぼくは、両親と一緒に住んでいます。お姉さんは、ぼくたちの生まれ故郷で、伯母さんと暮らしています。家族みんなが共に暮らせることを願っています。

間違いをしてしまって、両親を怒らせてしまうことが心配です。誤って、誰かを傷つけてしまったら、両親は、治療代を払わなければいけないから。

一方、インドでは、男性がアラブ諸国で出稼ぎをしているケースが多く、祖国に残った女性や子どもたちは、親戚同士で集まって、父親たちからの資金サポートを得ながら生活していました。

私は、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、叔母さん、いとこたちと一緒に暮らしています。叔父さんは、どこか遠くの国に住んでいて、長いお休みの時だけ、インドに帰ってきます。お母さんと叔母さんが、家で料理をします。

私のお父さんは、大学の図書館で働いています。私は読書が大好きで、毎週土曜日には、私はお父さんの図書館に行きます。

大きくなったら、お医者さんになりたいです。学校では、クラスのみんなとお友だちです。

みんな、本質的には同じ。

彼らの言葉には、「家族みんなで、平和に、幸せに暮らしたい」という、共通の願いが込められていることに、みなさんお気づきになったでしょうか。

ジュディさんがこのプロジェクトを通して発見したのは、

世界中の小学4年生は、社会的背景や生活環境が異なっていても、“本質的には同じ(homogeneous)”である。

ということ。

彼らの願いは、人類の普遍的な願いとすらいえるのかもしれません。

世界中から集めた写真とメッセージを、次第に子どもたちにも見せるようになると、さらなる発見がありました。例えば、アメリカのヒスパニック系の学校で撮った、この写真。

ぼくの両親は、メキシコで生まれました。なので、スペイン語しか話せません。
ぼくは絵を描くのが好きです。将来、建築家になることが、ぼくの願いです。
このモヒカン・ヘアスタイルは、ぼくのお気に入り。他と違う人間でありたいから。

この写真を、中南米の最貧国、セントルシアの子どもたちに見せたら、最初は「おかしな髪型だ~!」と、みんな笑い転げました。しかし「他と違う人間でありたいから」という理由がわかった瞬間、しんと静まり返ったそう。小学4年生でも、他人と「同じこと」「違うこと」について、十分に理解することができるのです。

2017年現在、合計7か国15か所の学校を訪問し終えたジュディさんは、こう語ります。

私の夢は、このプロジェクトを学校のカリキュラムに組み込み、世界中の小学4年生たちがつながって、コンタクトを取り合うような、グローバル・コミュニティをつくることです。

彼らは、心を開いています。
他者とつながり、そして他者のことを学ぶ準備ができています。

近い将来、彼らみんなが、手をつなぎ、友だちになる未来がくることを、心から夢見ています。

アメリカの小学4年生からジュディさんに届いた、サンクス・レター

「たった3つの質問への答え」と「子どもの後姿」を組み合わせただけの、シンプルなアート。

多様な社会背景や生活環境をもつ、世界中の小学4年生たちのピュアな心に映し出された言葉は、力強く本質的なメッセージであふれています。

テレビや新聞などで見聞きする世界のニュースは、何となく他人ごととして捉えがちですが、それが「子どもたち」の声に投影された瞬間、ぐっと身近に感じるのは、私だけではないはず。

「同じこと」も「違うこと」も、ありのまま受け入れること。そして、他者に思いをはせること。

そんなお互いを共感し会う関係が波及していくことは、やがて世界平和を実現するといっても、過言ではないと思います。

みなさんも、まずは家族、学校や職場の仲間たちが、「誰と住んで」いて、どんな「願いごと」や「心配ごと」を持っているのか、想像してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

[via Judy Gelles, TEDxPenn,The Good Project,Yakima Herald.com]

(Text: 松尾茜)