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貧困層の人びとには、トイレットペーパーだって高級品。低所得の人たちが直面する苦しみを伝える「Poverty Line Prices」

みなさん、スーパーで売られている野菜や果物の価格が急騰するのを見たこと、ありますよね?

そんなとき、高くても渋々購入するという人もいれば、買うのを諦めるという人もいるかもしれません。

でも、それが一時的なことならまだしも、行く先々のお店で、理不尽な価格設定を毎回提示されたとしたら・・・。

実際に、そんな不公平な状況に立たされている人びとがいます。それが、低所得で暮らす人たちです。世界中で収入格差が広がるなか、彼らは日用品ひとつ買うにしても、買うか否かの難しい判断を常に迫られています。

その現状を、少しでも多くの人に理解してもらおうと始まったのが、今回ご紹介する「Poverty Line Prices(最低限の生活価格)」。主にインターネット上で、自身の平均所得から貧困層の人びとの感覚を共有することができる取り組みです。

不公平な価格設定の現状を伝える「Poverty Line Prices」

はじめに、「Poverty Line Prices」のサイト上で、自身の平均収入を入力します。今回は、試しに年収6万ドル(約700万円)と入力してみました。

まずは、ホームページ上で自身の平均収入金額を選択

すると、商店街を散策する感覚で、食料品や医療品、バスのチケット代や家賃の価格を確認することができます。収入の多い人ほど、高い金額が提示され、日々の日用品などの買い物が、収入に対してどれほどの割合を占めるのかが分かる仕組みです。さっそく気になる商品をクリックしてみましょう。

商店街を散策する気分で、気になる商品をチェック!

例えば、4つ入りのトイレットペーパー。上記の平均年収を入力した場合に提示された価格は7.65ドル(約900円)で、なんと通常の2倍もします! 買うのを躊躇してしまうのも無理はないかもしれません。しかし、低所得で暮らす人びとは、毎日のようにこのような心情を味わっているのだとか。

4つ入りのトイレットペーパーが、なんと900円も!?

平均収入よりも低い金額で暮らす人びとは、その日のお金の使い道を、食材や医療品の購入か、家賃や学費の支払いにあてるべきか、常に厳しい判断を迫られているのです。

そう話すのは、キャンペーンの考案者でもあり、「Poverty Line Prices」の運営団体「Tipping Point Community」代表のDaniel Lurie(以下、ダニエルさん)。貧困層の人びとが、日々の買い物で味わう苦痛を多くの人に理解してもらい、地域の貧困問題の解決に役立てようと、このプロジェクトを始めました。

Poverty Line Pricesを考案したダニエルさん

ダニエルさんの挑戦は、インターネット上だけにとどまりません。

平均所得以下で暮らす人びとが約20%を占めるサンフランシスコを拠点にしている彼らは、現実のスーパーの価格にまで工夫を凝らしました。

富裕層の人が利用する地元の店舗に協力を仰ぎ、なんの予告もなしに商品の価格を通常の5倍に設定し、利用者の反応を録画するという実験を行ったのです。

いつもの商品を通常価格で購入できると考えていたお客さんの表情は、レジ画面に提示された金額を見た瞬間、豹変します。茫然とする人から声を荒げる人まで、リアクションはさまざまですが、すんなり受け入れた人は一人もいなかったようです。

この他にも、大規模な安売りセールが実施される11月の第4金曜日にあわせて、新聞の折り込みチラシに値上げ広告を織り込ませるなど、普通では考えられない施策を打ち出した「Tipping Point Community」。

彼らは貧困にあえぐ人びとが直面する現状を、理性ではなく感情に訴えかけることで、不快な感情をいつしか理解や共感に変えていきました。

日本でもここ数年、収入格差や貧困についてメディアで取り上げられるようになりましたが、問題の本質は格差や貧困そのものよりも、異なる境遇にいる人への理解や共感が足りていなかったことにあるのではないでしょうか。

今、私たちに必要なのは、「勝ち組」や「負け組」といった言葉で境界線を引くことではなく、お互いが少しずつ歩み寄り、共創意識を持つこと。それが、「Poverty Line Prices」の教えてくれることなのかもしれません。

[via fastcoexist, Huffingtonpost, tippingpoint, brandchannel]

(Text: 竹内謙二)