ローカルと食のおいしい関係。「野菜とお肉のバル333」の桑原宏治さんに聞く、小さなお店のはじめかた

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大人になった今、夢というとちょっとむず痒いですが「いつか、自分のお店を開きたい」と、思っている人は意外と多いかもしれません。

なんとなく思いだけはあるものの、具体的にはならない。やはり、実際に一歩を踏み出すのは簡単ではないですよね。だって、何からはじめればいいのか、どんなお店にしたらいいのか、どうやって売上をつくっていけばいいのか、分かりませんから…。

そんなときはセンパイの体験談を知ることが一番だと思うのです。

今回紹介するのは、「野菜とお肉のバル333」の桑原宏治さんです。

横浜の関内にあるビルの2Fの奥という、条件としては不利な場所で、お店のテーマの変更や、ITの活用など、試行錯誤を繰り返しながらお店を続け、今では2店舗を経営。さらに3店舗目をローカルなエリアに出店しようとしています。また、その手腕を買われ、空き物件を活かしたまちづくりを提案する「リノベーションスクール」にてユニットマスター(講師)も務めています。

お店を運営する過程で、都市から地方へと、興味の方向が変わっていたという桑原さん。その辺りも大変興味深いお話でした。

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桑原宏治(くわはら・こうじ)
株式会社333代表取締役 AKファーム法人担当
1982年東京都生まれ。元外資系飲食チェーン東京エリアマネージャー、店舗損益計算プロジェクトチーム、エリア別個店販促担当。2011年から現在は横浜市関内エリアを中心に野菜とお肉のバル333を2店舗、野毛山のマンションガレージ内に居住者と近隣住民向けのkioskを兼ねたコミュニティスペース、飲食店専門の農直野菜の卸業を運営。飲食店×農業×ITの新しいあり方を実践するべく、マーケットインが中心のプロダクト計画で、飲食店が欲しい野菜を農家さんと育て飲食店に卸している。「意味のあるIT」を現場に取り込む事で、高度化と効率化を生み出す飲食店経営を行っている。 

オープンして3ヶ月で3.11。いきなり大ピンチがやってきた

まずは、お店を出す上で、一番重要になりそうな“場所”について。なぜ横浜、関内だったのでしょうか?

そもそも東京でやるつもりはありませんでした。目黒が地元なんですが、友だちが集まってこないような場所で探していて。

地元で開いたとしても、友だちが遊びに来てくれるのは、開店して3ヶ月くらい。それを頼りにしていると、あっという間にキャッシュが稼げなくなります。それに、新規のお客さんが入りづらい状況になるのも、嫌でしたし。

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お店がある関内は、昔からの商店街と歓楽街である伊勢佐木モールや、横浜DeNAベイスターズのホームである横浜スタジアム、さらに横浜市役所をはじめとする官庁街もあり、歴史と遊びが入り乱れ、カオティックなエリア。

いろいろ見て回りましたが、ここは自分の予算の中で借りられる物件だったし、なにより大家の岩崎さんがとても良い人だったんです。この岩崎さんとの出会いが、後ほどお話しするTHE CAVEや、リノベーションスクールなどの活動につながっていきます。

そしてはじまったお店。しかし、道のりは相当険しかったようです。

お店をオープンしたのが、2011年の1月。本当に、本当に苦労しました。その年の3月に東日本大震災があり、オープンして3ヶ月後の1番キャッシュがない時期に、お客さんが全く来なくなってしまった。

そもそも、オープン当初は、カフェだったんです。目黒川沿いのカフェが流行っていた時期にそこらへんでよく遊んでいたので、憧れがあって。でも、ビルの2Fの奥、こんな立地でカフェなんてやろうと思うほうが、頭がおかしいですよね(笑)

酷いときは、1日の売上が500円なんて日もありましたし、家の家賃が払えなくて、裁判所から出て行けって言われたこともありました。

こんな通路の中ほどにお店はある。

こんな通路の中ほどにお店はある。

良い食材との出会いが、流れを変えた

そこからはとにかく試行錯誤。カフェからイタリアンに業態を変え、さらに「野菜とお肉」というテーマに集中していきます。

飲食店の戦略は、資金力がある・ないで大きく変わります。資金力があるなら、立地の良い大型物件を借りて、利益率を低く抑え、のべ来客数を増やしていくことで売上をつくっていくのがセオリーです。

一方、うちのように資金力がない場合、立地があまり良くなかったり、面積が小さい物件を借りて家賃を抑え、お店独自のコンセプトや広告に工夫を凝らし、価格に付加価値をつけると共に、お客さんがわざわざ来たいと思える仕組みをつくります。

お店はこれでもかというほど、メニューが貼り出してある。ランチに来たお客さんに夜のメニューを知ってもらおうという作戦だそうだ。

お店はこれでもかというほど、メニューが貼り出してある。ランチに来たお客さんに夜のメニューを知ってもらおうという作戦だそうだ。

うちのコンセプトは、調理人として食材と向き合っていくところから固まっていきました。大きなきっかけは、同級生の生産者との再会です。

八百屋や、スーパーで買う野菜で満足していたんですが、畑に行くと、野菜がすごくイキイキしているんです。生きてるって分かるというか。それが、すごくセンセーショナルで。そこからは、1つ1つの食材を見直していきました。

時代にも味方してもらったと思っています。3.11があって、食に対する世間の意識が変わりました。僕は同じタイミングで、良い野菜との出会いがあって、時代の流れと一致したんです。

ただ、お店としては、野菜だけでは売れないので、野菜と何を組み合わせようか、いろいろ考えました。それで、やっぱり肉だろうと。肉は絶対廃れないでしょうし、お酒との相性も良い。これしかないな、と。

Facebookページより

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既存のアプリを最大限に活用し、効率化を

お店の近くには、姉妹店もオープンし、順調に仕事を広げていきますが、さらに「飲食店×農業×ITの新しいあり方」というキーワードを掲げ、新鮮野菜の卸のビジネスや、効率化を図っています。

同級生の生産者もそうなんですが、新規就農の場合、生産量があまり多くないから、いつまでも収入が増えないんです。良い野菜をつくっているなら、レストランは買いたいですから、生産者とレストランを直で結ぶことによって、お互いに良い関係性をつくっていければ良いなと思って、野菜の卸の事業も行っています。

ただ、その関係性の中で、けっこう非効率なところがあって。例えば、野菜の発注をLINEでやりとりしていたりする。農作業を終えた夜に、複数の卸先からの注文を集計するのですが、LINEではミスも多くなるし時間もかかることが想像できると思います。

でも、今の時代、Googleで検索すれば適したアプリがいろいろ出てきます。新しく専用のアプリをつくるような手間とお金をかけなくてもいいんです。

もちろん、自身のお店の運営にもITを活かしています。力を入れて取り組んでいるのは、顧客管理です。飲食店に1回来て、2回目は来ない理由って「なんとなく」が7割なんです。その「なんとなく」っていうものを解決したくて。

どんなことをしているかというと、注文した料理、誰と来たか、そういった様々な情報を予約情報と紐付けて管理します。使っているアプリは飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」というものです。

トレタの管理画面

トレタの管理画面

そうすると、予約を受けた時点で、この人は女性と来たらここに座るとか、これを注文するなど、予測を立てることができたり、前に来たときのことも踏まえてコミュニケーションできたりする。細かく記録していくために、スタッフがお客さんにより細かく気を配るようになるし。

これを、手書きのノートで管理していたり、WordやExcelを使っていると、効率が悪いですよね。今は、本当に便利なアプリがたくさんありますから、自分のお店に適したアプリをしっかり探し出すことが重要なのだと思います。

「THE CAVE」への移転。新たな挑戦

こうしてお客さんに愛されて、5年半。次の展開が「野菜とお肉の馬車道バル333」の移転です。場所は「THE CAVE」。9月末にオープンした、横浜伊勢佐木町のクリエイティブスペースです。

90年もの歴史がある駅前のビルの地下1階をリノベーションし、アーティストやクリエイターのアウトプットの場と、コワーキングスペース、そして、桑原さんが運営する飲食スペースを設けます。

THE CAVE

THE CAVE

333の大家さんである岩崎さんが代表を務めるのが「THE CAVE」です。クリエイターには、無償で会場を貸し出します。ですから、うちが払うテナント料と売上に応じたマージンが、基礎としての売上となります。うちが売上を上げれば上げるだけ、THE CAVEも収入が増える。それによって、アーティストのサポートも手厚くできます。

岩崎さんに「こんなプロジェクトがあるから、飲食をやらないか?」と言われて「ぜひ!」と言ったのは良いのですが、現場を見たときには「やべぇ」って思いました(笑)関内駅から徒歩1分で、立地はすごく良いんですが、中に入ったらとにかくものすごいボロボロで、まさしく洞窟でした。これはお金がかかりそうだなぁと思ったのが正直なところです(笑)

ユニットマスターをやってみて感じた、ローカルの手応え

このTHE CAVEを進めていく中で、リノベーションスクールを主催する嶋田さんとの出会いがあり、桑原さんはユニットマスターを務めることになります。

いやぁ、めちゃくちゃ面白かったですよ。街づくりに興味があったり、自分の住んでいる街を少しでも良くしたいなって思うなら、ぜひ参加してほしいですね。同じ意識を持つ人との出会いは貴重です。

何かを良くしたいと思うことはリスクを背負うことだったりします。お金のことも地域のことも考えながら、チームで事業計画を練るので、サラリーマンとは違う視点で商売を見られるようになると思いますよ。うちの会社の独立希望の子たちにも、参加させたいです。


桑原さんがユニットマスターとして出席したリノベーションスクールの公開プレゼンテーション

受講生にとって、多大な学びと人の輪が生まれるリノベーションスクールですが、ユニットマスターを経験した桑原さんも、考え方に変化が生まれたと言います。

横浜や東京進出を考えなくなり、逆にローカルを深めていきたいと思うようになりました。さっそく、甲府にお店を出す計画が進んでいます。どんなにお金をかけて、良いコンセプトのお店でも、渋谷のセンター街に開いたら消耗してしまう。

そういうやり方をめざすんじゃなくて、地方にお店を出して、その地域の食材で料理をつくって、そのエリアの人に楽しんでもらえる。このほうが、自分自身が楽しいんじゃないかなって、最近、感じています。

Facebookページより

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地産地消の次へ。全国の生産者さんとつながる。

そんな桑原さんがめざす、次のステージはどんなものなのでしょうか?

日本って縦に長くて、四季が移動します。桜は上に登るけど、紅葉は下に下りますよね。そんな風に、端境期(はざかいき)といって、同じ時期でも、地域によって旬の野菜が変わってくるんです。全国の生産者さんとつながることで、端境期がないレストランをつくりたいと思っています。

地産地消も良いと思うんですが、キーワードだけのファッションになりやすいとも思っていて。流行っているからこそ、助成金も増えていますが、流行りが終われば助成金はなくなって、うまくいかなくなるでしょう。

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食材と本気で向き合うからこそ生まれる、地産地消の先。

良い食材がある場所。それはぼくにとって、ディズニーランドより夢の国なんです。甲府には、おいしいお肉と野菜があって、最高のワインがある。近くには白州もあるからウィスキーもおいしい。そういった山梨のおいしいものだけでお店をつくろうと思っています。

これからは生産者さんにどんどんスポットが当たっていく時代です。料理人が生産者さんのところへ食材を買いに行くことも珍しくありません。だからこそ、地域のブランド付けが逆に生産者さんにとってマイナスになることもあると思うんです。松阪牛だからおいしいというよりも、あの人の牛だからおいしい、と。野菜も畑が隣同士であっても味が全然違ったりします。

生産者さんとしっかりつながって、おいしいものを全国から仕入れて、ひとつ大きいお店をつくれたら良いなと思っています。そのお店を出せたら、ぼくはもう死んでもいいかな(笑)

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生産者さんが良い食材をつくり、お店が良い調理をする。お互いの信頼関係があって、おいしい料理ができあがる。今、お店を出すなら食材の鮮度において、圧倒的に有利なローカルをほうっておくわけにはいきません。

こうやって、実際にお店を経営している人の話を聞くと、決して一朝一夕ではできないことだと、実感します。ただ、考えかたの「型」のようなものがあることもわかりました。

自分のお店づくりへの第一歩として、まずは、リアルに想像してみる、みんなでアイデアを出してみるという体験を通じて、その「型」を学んでみてはいかがでしょか?

リノベーションスクールには、桑原さんのような実践者のみなさんから直接学び、同じ意識を持った仲間と出会うことができます。

桑原さんが教えてくれた”ローカルと食のおいしい関係”のお話をきっかけに、あなたにとってかけがえのない”おいしい関係”が見つかっていくと良いですね。

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