ムズムズをワクワクに! アトピー患者自身が発信する、アトピー患者のための対策共有サービス「untickle」

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アトピーの症状と向き合いながら会社を運営することそのものを、楽しんでいるような野村さん

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

アトピーは、よく耳にする病気のひとつ。友達がアトピー患者、もしくは自身がアトピー患者であるという人はきっと少なくないでしょう。日本にはアトピー患者が600万人いると言われています。治療法が確立していない現在では、患者さんの多くが、大小さまざまな形で不便な生活を強いられています。

そんな人たちのために立ち上がったのが、自身もアトピー患者である野村千代さん。アトピー患者のための対策共有サービス「untickle」をアプリとWEBで展開中の彼女が、重い症状と闘いながらサービスを広めるに至った経緯を訊ねてみました。

そもそもアトピーって?

アトピーと言えば皮膚の疾患。そう思っている人が多いと思いますが、改めてアトピーについて野村さんに聞いてみると、意外なことがわかりました。

アトピーの原因は以前は肌のバリア機能の異常と言われていたんですが、最近は、免疫に異常があって、それが皮膚に現れてしまう病気だと考えられるようになってきているんです。

原因は徐々にわかってきていますが、根治治療法は確立していません。ステロイド薬を使って応急処置的な対症療法をするのが、メインの治療法だそうです。

野村さんは、生まれたときからアトピーに悩まされてきました。野村さんの症状は、軽いときと重いときの差が激しく、悪化すると寝たきり生活になってしまいます。アトピーのために、通常の社会生活を送ることさえかなわない人がいるというのは驚きでした。

アトピー患者であることを受け入れるところから

野村さんが「untickle」を立ち上げたのは、2013年11月。それまでは特にそういったサービスが欲しいと思ったことはなかったそうです。

「untickle」は、体の部位や生活・食事・メンタルといったカテゴリーごとに、自由にユーザーが投稿できます。ユーザーは投稿にコメントしたり、自分の症状についての投稿を探したりすることもできます。
 
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Untickleでは、たくさんの投稿の中から、部位などによって、自分の悩みに合った投稿を検索することができます

そんなSNSの機能を使って、たくさんのユーザーが交流できるサービスなのです。けれども、立ち上げ前の野村さんは、患者として交流するよりも、もっともっと前の段階にいました。

アトピー患者の人にはよくあることなんですけど、自分自身がアトピーであると受け入れるのに時間がかかることが多いんですね。私も、アトピーだと受け入れられたのは、26歳ぐらいでした。

それまでは、できるならば人に知られたくないとファンデーションで患部を隠したり、生活上のさまざまな我慢をするのがイヤでタバコを吸ったりお酒を飲んだりといった生活を送ったこともあるそうです。

特に20代前半の多感な時期は、アトピー患者団体にもいっさい近寄らず、ひどくなったら病院へ行って、ステロイド薬でとにかく症状を抑える、そういった生活を送っていました。

そんな生活の途中、26歳の頃に再び症状が悪化、人生で4度目の寝たきり生活に陥ります。

韓国人と日本人のハーフの野村さんは、それまで韓国で働いていました。アトピーの悪化に伴い、療養のために日本に帰国、そこで「悟りがきた(笑)」といいます。

真剣にアトピーについて調べて、改善するために一から勉強しようと思ったんですね。

初めてアトピーについて調べた野村さんは、ネットでのアトピーの情報がどれだけ混乱しているかを知ります。「玄米がいい」と書いてあるサイトの、ふたつ下のページには「玄米は食べるな」と書いてある、そんな風に情報が断片的で、中立のサイトが全くありませんでした。

野村さんは、多くの患者さんのためにも中立のサイトが必要とされていると感じると同時に、これはビジネスとしても成立するとひらめきました。

ビジネスとしての勝機

「untickle」を立ち上げる以前は、韓国で、現地のスタートアップの企業を日本に進出させるためのローカライズコンサルタントの仕事に携わっていた野村さん。当時のクライアントは全てアプリをつくっており、アプリは身近な存在でした。
 
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韓国で働いていた頃の野村さん。アトピーの症状はありつつも、日本と韓国を行き来しながら、バリバリ働いていました

当時から会社勤めではなく、個人事業主として働いていたことや、スタートアップの人たちのコミュニティにいたこと、兄や親戚など身近な人たちにも起業する人が多かったことも、untickleの立ち上げに際し、背中を押した面があったようです。

性格的に緻密な計画ができないタイプなので、立ち上げたのは勢いでしたね。ただ、アトピー患者の当事者として、アトピーのためにお金を使ってきたという経験があったので、会員さえ集まればビジネスになるということは実感としてありました。

とはいえ、野村さんはエンジニアでもなくデザイナーでもありません。そこでまず始めたことは、ブログを書くことでした。起業家の先輩から勧められた野村さんは、誰よりもアトピーに詳しくなるべく、一日一記事というノルマを自らに課します。そしてそのブログで、アトピーに関する中立のプラットフォームが必要だという自身の意見を発信していくようになるのです。

そこから共感する人が増え、だんだんコミュニティが生まれていきました。サイトの作成を手伝ってくれるエンジニアとの出会いもあり、クローズドのサイトから、untickleがスタートします。

その頃の彼女を突き動かしていたのは、アトピーに対する情熱でした。

あちこちで自分のやりたいことを言っていました。逆に言うと、口にするしかなかったんですよね。スキルのある人を呼ぶためには、一生懸命広めることが大切だったんです。

ムズムズをワクワクに

現在は、WEBとアプリで展開する「untickle」ですが、実際にはどんな情報が得られるのでしょうか。

今のコンテンツのポイントは、裏ワザみたいなものを知ることができるところです。

アトピー患者さんのための裏ワザ? それは患者さんだからこそ気づく、日常生活のささいなことです。

去年の冬にタートルネックの洋服が着たかったんですけど、首にアトピーがあるとなかなか着られないんです。そのときに、あるブランドが発売している、首がチクチクしないという触れ込みの商品を教えてもらったんです帰りに早速買って帰りましたね。おしゃれとしてはあきらめていたので、着られたときはとにかく嬉しかったです。

そう語る野村さんは、街にあふれる、おしゃれが好きな20代の女性のひとりでした。それに対し、やりたいことを我慢せざるをえないのがアトピー患者さんの日常。そういった課題を少しでも改善しようとするuntickeのキャッチフレーズは、「ムズムズをワクワクに」。

あれもできない、これもできないって我慢することが多い中でも、ワクワクできる方法があると思うんです。その方法のひとつである裏ワザを知っていることがワクワクにつながると思うんですよね。

「untickle」を通して、ムズムズをワクワクに変えていく人は、これからもどんどん増えていくことでしょう。
 
site_2野村さん自身の経験にもあるように、すぐに実際に役立つ投稿がたくさん掲載されています

また、「untickle」の大きな特徴として挙げられるのが、アトピーに対するさまざまな治療法や考えを並立させ、偏らせることなく幅広い情報を提供しているところです。

これは初めから意識している点です。実際には難しい面もありますが、あえて監修医などをつけていないのもそのためなんです。

アトピー治療には派閥とも言えるさまざまな方法があり、その関係は一筋縄ではいかない複雑な面もあるそう。だからこそ、野村さんは中立ブランディングを心がけたのです。

偏ったら「untickle」の存在意義がなくなってしまうと思うんですね。そこがユニークポイントなんです。「untickle」から、治療法や属性ごとに、こういうサイトがあります、と教えてあげられるぐらいのことをしたいです。

「untickle」を利用している人は、アトピー歴の長い人が多いそう。ステロイドを塗っても症状をコントロールできなくなり、皮膚科不信に陥った人が、情報を探し求め始めるのです。そんなときにこそ、中立の立場で幅広い情報を提供する「untickle」は強い味方となることでしょう。

世界1億人の患者さんのために

昨年、再び症状が悪化し、とうとう5度目の寝たきり生活を余儀なくされた野村さん。untickleの活動も思ったように進んでいないところもあります。

笑顔でこれからの展望を語る野村さん。その表情はキラキラと前向きです。
 
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この頃も、決して万全な体調ではなかった野村さん。けれどもUntickleについて生き生きと語ってくれました

それでも、野村さんの野望は大きく、すでにある韓国版に加え、近いうちに英語版の展開も視野に入れています。その背景にあるのは、世界的なアトピー患者の増加。現在世界には、1億弱の患者さんがいると言われており、ビジネス的にも大きなチャンスがありそうです。

そのほかにもさまざまな新しいプロジェクトの準備も進めている最中で、「まだ発表できないんですけどね」と言う野村さんからは、笑顔があふれていました。決して肉体的には楽でなくても、自分が本当にやりたいことに取り組む、その楽しさが伝わってきました。

けれども野村さんは、この取材(2016年4月)の後、アトピーが悪化し、6度目の寝たきり生活に入っていました。その結果、手術にまでいたった状況を、Untickleに投稿しています。

その文章からは、皮膚疾患というアトピーのイメージを覆すような厳しい現実を目の当たりにすると同時に、Untickleをさらに「アトピーと闘うために必要なツール」にしようと決心する、彼女のたくましさを感じました。

9月1日からは、新しいプロジェクトも始まっています。「薬ヒグチ」及び「薬のヒグチ」の店内に、リアルの場では気軽に手に入らなかった、アトピーに優しい商品が並ぶコーナーが展開されることになったのです。
 
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薬のヒグチ店頭にあるかわいいイラストが目印のポップ。アトピー関連の商品の場所がすぐにわかります

これらの商品は、Untickleが成分表やモニタリングデータなどの独自基準で認定したものです。自分に合う商品を見つけやすくするために、特にどういった症状の患者がどのように使用すると負担がすくないかといった情報を、店舗内やUntickleで発信していきます。さらに患者に身近に寄り添う形で、そのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高める一助となることでしょう。

インタビューで話していたように、野村さんのチャレンジはまだまだ続きます。お話をおうかがいしながら感じたのは、野村さんのこの姿勢は、たとえアトピーを患っていたとしてもやりたいことに挑戦することはできるし、大きな夢を描くこともできるという、患者さんを励ます強力なメッセージになっているということでした。