ISSUE☆おすすめの連載! わたしたちエネルギー

1 month ago - 2016.10.27

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人口約1,520人の小さな山村なのに最先端!「西粟倉村」が地域の自立に向けてまちぐるみで森林事業を進めているのはなぜか?

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西粟倉村の温泉旅館「あわくら温泉元湯」のスタッフ(©S.mizumoto)

わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクト。経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

全国の自然エネルギーなどを活かしたまちづくりを取材している、ノンフィクションライターの高橋真樹です。今回ご紹介するのは、豊かな森林とともに生きることを決断した岡山県の小さな集落、西粟倉村(にしあわくらそん)です。

西粟倉村といえば、これまでグリーンズでは、バイオマスの取り組みをすすめる井筒耕平さんの話を中心に何度か紹介されてきました。今回は、その井筒さんに加え、地域資源である森林とエネルギーを活かして地域づくりに挑む、西粟倉村のキーパーソンにお話を伺っています。

人口約1,520人の小さな山村で、地域の自立に向けてまちぐるみで事業が進んでいるのはなぜか? その秘訣を聞いてきました!
 
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森の学校の代表、井上達哉さん(©S.mizumoto)

ノウハウのない森林事業をなぜ始めたのか?

西粟倉村が「森林」を掲げてやっていこうと決めた理由は、村を訪れればすぐにわかります。なにせ、どこを見ても緑…、村の面積の95%が山林に覆われているのです。とはいえ、全国的に林業が衰退している時代に、いまさら森林を柱に稼いでいこうと決めるのは大きな決断でした。

西粟倉村の住民は、全国の自治体が相次いで合併を進めた「平成の大合併」(2005年)の際、合併せずに自立して生きると決めました。しかし財源が豊かなわけではありません。そこで、新しい産業の柱として掲げたのが、森林を積極的に活かす「百年の森林構想」(2008年に発表)でした。
 
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森のなかにつくられた小水力発電所「めぐみ」(©S.mizumoto)

村には、50年前に植えられた杉や檜などの人工林があるのですが、育った頃には価格が見合わなくなり、山の手入れは不十分になっていきました。これを再び地域資源として事業化することで、森林を次の50年先にもつなげようという構想です。より大事なことは、補助金に頼らず自立の足がかりにしようという点でした。

しかし当時、村は林業が盛んだったわけではありません。村役場で森林政策を担当する産業観光課課長、上山隆浩さんは当時の苦労を語ります。

上山さん 森を活かすと言っても、流通ルートが確立されていないので、建築用の木材を販売するのは簡単ではありません。最近になってようやく構想を示す形ができてきましたが、当初はノウハウもなく大変でした。

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西粟倉村産業観光課長の上山隆浩さん(©S.mizumoto)

どうしたら、村のほとんどを占める森林を後世に良い形で引き継ぐことができるのか?

まず村役場が取り組んだのは、村が森林の管理ができるよう所有者と森林管理の協定を結ぶことでした。すでに不在地主のようになっている土地も4割近くにのぼっていたため、荒れ放題の山に手を入れることができなかったのです。それを役場が積極的に集約することで、整備しやすくなりました。

また森林組合には、切り出した木を製材する大型の機械がありませんでした。そこで全国の人々に、「一口5万円で村のサポーターになってほしい」と出資金を募りました。集まったのは4000万円以上、それを元手に林業機械を導入することができました。
 
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製材機(左)で裁断した木材を乾燥機で乾燥させる(森の学校) (©S.mizumoto)

また、山で切り出した木材の一部を加工し製品化するため、2009年10月に行政と民間が共同で「森の学校」という第三セクターを設立しました。

森の学校は、間伐を進めて森林を整備しながら丸太を外に売るだけではなく、村内で付加価値をつけた商品開発につなげる事業を進めています。それにより材の価値が高まれば、林業も持続可能になっていくからです。森の学校の株主には、行政の他に76名の村民が名を連ね、運営は民間が担っています。

「スモールメリット」で闘う − 森の学校

森の学校の若き社長、井上達哉さん(32)が語ります。

井上さん 林業では後発となる西粟倉で小規模に丸太を出しても、それだけでは林業で有名な地域と勝負ができません。森の学校では、逆に小さいからこそ小回りのきく、エンドユーザーに直接届く商品づくりをめざすことにしました。スケールメリットはないけれど、「スモールメリット」を活かそうということです。

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2016年から社長を務める井上達哉さん(©S.mizumoto)

大量生産ではなく、多品目を少量生産する。それが後発の西粟倉だからこそできる道だったと言います。

森の学校は試行錯誤を繰り返し、現在の主力商品となった「ユカハリ・タイル」という正方形の無垢(※)のフローリング材を生み出しました。この板は、床に置いて組み合わせるだけなので、大工でなくとも誰でも簡単に設置することができます。

賃貸住宅や店舗、オフィスなど無機質な都市部の空間が、暖かい無垢材の床に早変わりする斬新さが評判となり、主に関東の都市部などでニーズが高まりました。

井上さん これまでは、エンドユーザー自身が床を張るという概念がなかったので、新しいニーズを生み出せたんですね。こういう個人向けの商売というのは、大手製材メーカーは面倒なのでやりたがりません。ぼくたちの闘い方は、今ある市場のシェアを奪うのではなくて、自分たちが新しい価値と市場を生み出していくところにあると思っています。

※無垢材:合板や集成材ではなく丸太から切り出した木材。天然木本来の風合いをもつ。

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「ユカハリタイル」は、さまざまな木や木目のものが用意されている(©S.mizumoto)

もちろん、ビジネスの現場で大量生産ではないスタイルで勝負するのは簡単ではありません。森の学校は、創業を始めた初年度は数千万円規模の赤字に陥りました。しかし、ユカハリ・タイルなどのヒット商品が定着してきたことで、2014年には初めて黒字に転換、2016年現在もさらに黒字を伸ばそうとしています。

森の学校は第三セクターといっても、現在の行政の出資比率は5%前後。行政から政策的なサポートを受けながらも、助成金には頼らないというポリシーが、自立に向けて実を結びつつあります。

経営を井上さんに引き継いだ森の学校の創業者である牧大介さんは、森林を活かすだけでなく、人口減少の進むこの地域の雇用を生み出すことを大きな目標にしてきました。

森の学校の従業員は現在25名。森の学校があることで、地域外からの移住者も徐々に増えています。牧さんから昨年3月に経営を引き継いだ井上さん自身も、25歳の時に東京から移住してきたひとりです。
 
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村の材を丁寧に商品化する(©S.mizumoto)

大学で森林について学んだ井上さんは、林業界は伝統があるだけにかえって技術革新が生まれず、新しい価値を生み出そうとする挑戦が少なかったと考えていました。そのため森の学校では、既成概念にとらわれず、新しいマーケットをつくることで林業の幅を広げていこうとしています。

井上さん 東京でも働いたことがあるのですが、子どもの頃から自然の中で遊んでいたので、このような地域で働くことが性に合っていたんでしょうね。何より、林業を発展させるなら、現場にいなければ見えないモノがあるんです。

いま、各地で売電単価が上がって儲かるようになったことで、バイオマス発電所の建設が盛んになっています。でも、長い目で見て本当に地域のためになるのか心配な事業が多い。

そんな中、西粟倉村では行政が地に足をつけて地道な政策を進めています。この村で、林業がもっと幸せな形になるにはどうすればいいか、模索を続けていければいいと思います。

エネルギー事業をきっかけに温泉宿の経営へ − あわくら温泉元湯

山から下ろした木の中で、森林組合でも森の学校でも使えない材は、薪(まき)としてエネルギー利用に回ります。その役割を担うのは、井筒耕平さん(41)が社長を務めるエネルギーの会社、「村楽エナジー」です。

バイオマスエネルギーのコンサルタントを手がけてきた井筒さんが、西粟倉村役場と薪ボイラーの導入について話し合うようになったのは、同じ岡山県の美作市を拠点に活動していたときでした。
 
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井筒耕平さん(©S.mizumoto)

薪ボイラーとは、薪を投入して燃やし、暖房や給湯に利用する機器のことです。バイオマス発電所は、導入に設備費がかかり、ハードルが高くなります。西粟倉のような規模の小さな村には、単に燃やして熱を利用するボイラーの方が向いていると、井筒さんが判断しました。

村には温泉施設がありますが、源泉温度は14度で、入浴用には低すぎます。これまでは灯油を使ってお湯を沸かしてきましたが、燃料を地元の薪に替えることで、地域の木材を地域内で消費して、外に支払うお金を地域内で循環させようという構想を立てたのです。

井筒さんは、村役場の積極的な姿勢に感銘を受け、2014年4月に一家4人で西粟倉村に移住しました。

村役場はまず、村の日帰り温泉施設「湯〜とぴあ黄金泉」に欧州製の薪ボイラーを2台設置。ボイラーに定期的に薪を供給する仕事は、井筒さんたち「村楽エナジー」が担います。温泉のスタッフには新たな手間と労力がかからず、村の資源を使う仕組みができたのです。
 
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薪ボイラーに薪を投入する(©S.mizumoto)

2015年には井筒さん夫妻が、休業していた温泉旅館「あわくら温泉元湯」の経営も手がけるようになり、そこに村が国産の薪ボイラーを導入することになりました。旅館の経営を仕切るのは妻の木綿子(ゆうこ)さん(32)ですが、耕平さんも調理や掃除、宿泊客の布団の準備にと、大忙しの毎日。薪ボイラーへの燃料供給はその合間に手がけます。

井筒さん まさか温泉宿の主人になるなんて思ってもいませんでしたが、今はエネルギー事業よりも温泉旅館の売上の方が何倍もあります(笑)。

電気とちがって遠くに運べない熱エネルギーは、地域で消費しなければいけません。だから地域に根ざした使い方が求められてくる。単に薪ボイラーを設置しても、温泉施設が稼働していなければ意味がありません。だから温泉が空いているなら自分たちで経営までやってしまおうという話になりました。

エネルギーをきっかけに、地域のいろいろな分野に活動が拡がっているのが面白いですね。

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「あわくら温泉元湯」のほっこりする朝ごはん(©S.mizumoto)

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森と川に囲まれた「あわくら温泉元湯」は住民に憩いの場でもある(©S.mizumoto)

現在、村楽エナジーのスタッフは井筒さん夫婦を入れて5名、ボイラーへの薪の供給や、温泉旅館の運営を手がけています。井筒さんは、今後はエネルギー事業だけではなく、地域で森のエネルギーを循環していけるように、地域の事情に合わせて観光も福祉も、子どもの教育にもつなげて活動していきたいと考えています。

なお、村では2016年度中にもう一台、国民宿舎の温泉を沸かす薪ボイラーを導入します。さらに、2017年からは村の高齢者施設や子育て施設の暖房をまかなう「地域熱供給システム」も新たに導入することになっています。

地域熱供給システムとは、個別の建物ごとに暖房設備を入れるのではなく、中型のボイラーなどを活用して地中にパイプを這わせ、地域全体に熱エネルギーを供給するシステムのことです。日本ではあまり一般的ではありませんが、欧州では一般的に使われ、効率のよい暖房とされています。

発電に比べて地味な印象のある熱利用ですが、西粟倉村では着実に村に根付いてきているようです。
 
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村楽エナジーで薪ボイラーを担当するダニエル・ブレイズさん(©S.mizumoto)

存在感のある移住者が新たな移住者を呼ぶ好循環

村の政策の根幹を担うような事業を、「森の学校」の井上さんや「村楽エナジー」の井筒さんら若い移住者が社長を務めるベンチャー企業が担っているのは、西粟倉村の柔軟な姿勢を象徴していると言えるかもしれません。

冒頭に登場した村役場の上山隆浩さんは言います。

上山さん 百年の森林構想を掲げたとは言え、行政にできる部分は政策的な面に限られています。

継続的な事業を実現し、雇用をつくるには民間の力が不可欠です。また、そういったことを村にいる人材だけでは実現できません。牧さんや井上さん、井筒さんのような専門知識を持ち、発信力を持った移住者の方たちがリスクをとって事業を手がけてくれるので、本当に助かっています。

井筒さんたちの発信力は強く、移住者は村の人口の6〜7%にあたる100名ほどに増えています。存在感のある移住者が新たに移住者を呼ぶ、といった好循環が生まれているのです。

もちろん、すべてが順調にいっているわけではありませんが、西粟倉村の森林資源の活用は、行政と民間がうまく連携して進められていく中で、村おこしにも波及効果がでているようです。
 
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村楽エナジーのスタッフ、安東勇人さん(©S.mizumoto)

2016年4月から村楽エナジーのスタッフとして「あわくら温泉元湯」で働く奥村さなえさん(23)は、京都の大学を卒業した後、井筒耕平さんが紹介されたグリーンズの記事や、西粟倉村の取り組みを紹介するWEBサイトの人材募集の記事を見てやってきました。

奥村さん 都会で働くより、生活に根ざした仕事をしたいと思って西粟倉に来ました。まだまだ仕事は手探りですが、料理の味付けなど任せてもらえるのでやりがいを感じています。ここには子どもたちもたくさんやってきます。私は大学では教員免許もとっていたので、毎日が新鮮で楽しいですね。

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奥村さなえさん(©S.mizumoto)

奥村さんは現在、温泉旅館では主に接客や調理を任されています。薪ボイラーに関わることは少なめですが、それでもエネルギーという土台がしっかりしているからこそ、温泉旅館の仕事にも筋道が通っている感じがすると語ってくれました。

「ここでしかできないこと」じゃない西粟倉モデル

森林に眠る村の資源は、木材だけではありません。村には川も流れています。村にはもともと、川から水を引いて発電する「小水力発電所」がありましたが、老朽化して改修しようとしたタイミングでちょうど固定価格買取制度(FIT)が始まり、2014年に改修したあとは、安定した売電収入が入るようになりました。
 
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小水力発電所の導水管と上山隆浩さん(©S.mizumoto)

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道の駅「あわくらんど」の屋根には太陽光発電パネルを設置。電気自動車の急速充電器なども整備している(©S.mizumoto)

村の現在の税収はおよそ1億4000万円ほど。小水力発電による売電収入は7000万円で税収の半分に匹敵します。これは小さな農山村にとって、非常に貴重な自主財源となっています。小水力発電の収益は、森林の手入れや低炭素な地域づくりのほか、村民の福祉や教育などにあてられています。

木材や水の流れといった地域資源を資産に着々と変えている西粟倉村は、確かに豊富な人材を活かしたスゴイ取り組みをしていると言えますが、その一方で「西粟倉村でしかできないこと」はほとんどありません。

過疎化に悩むほとんどの地域は、エネルギーや資源になる森や川があり、太陽が降り注ぐ地域です。その資源を資産という形にしていくことは、もちろん簡単なことではありません。しかし、すでに一定の成果を上げている西粟倉村をモデルに、地域づくりを見直していくことは不可能ではありません。

森林資源を活かした西粟倉村の例は、派手な巨大発電所による売電事業などと比べ、一見すると地味に見えます。しかし長い目で見れば、こうした地に足をつけた事業こそが、小さな地域が自立して生きていくカギになってくるはずです。

(文:高橋真樹/写真:水本俊也)
 
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高橋真樹(たかはし・まさき)
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70カ国をめぐり、持続可能な社会をめざして取材を続けている。このごろは地域で取り組む自然エネルギーをテーマに全国各地を取材。雑誌やWEBサイトのほか、全国ご当地電力リポート(主催・エネ経会議)でも執筆を続けている。著書に『観光コースでないハワイ〜楽園のもうひとつの姿』(高文研)、『自然エネルギー革命をはじめよう〜地域でつくるみんなの電力』、『親子でつくる自然エネルギー工作(4巻シリーズ)』(以上、大月書店)、『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など多数。2016年7月25日に新刊『そこが知りたい電力自由化・自然エネルギーを選べるの?』(大月書店)が発売された。

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