ISSUE 食と農

1 month ago - 2016.10.23

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アクアポニックスは、決して新しい概念ではなかった! アクアポニックスにつながる、古代から現代まで、1000年間の循環型農法の軌跡を振り返る

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こちらの記事は、家庭菜園ウェブマガジン「おうち菜園」で掲載された記事を再構成しました。

魚と野菜の生産を組み合わせ、ひとつの統合システムにする農法「アクアポニックス」。きっと、みなさんの中にも「最近たまに噂を聞くようになった」「テレビや雑誌で見た!」という方がいるかもしれません。

一見、新しい農法のように見える「アクアポニックス」ですが、このアイデア、実は新しいものではありません。統合された水産養殖の先例としては、メキシコの「チナンパ」と呼ばれる農法や、アジアの一部に広がる水田システムが含まれ、古代から存在していました。

しかし、私たちはどのようにこれらの古代技術を知り、現代の(庭にも置けるサイズの)「バックヤードアクアポニックス」までたどり着いたのでしょうか? 今回は、その歴史を振り返ってみたいと思います。

ルーツは1000年前

「アクアポニックス」という言葉は1970年代に誕生しましたが、そのルーツは古代にまでさかのぼります。ただ、最初の発生時期については未だ議論が続いていて、はっきりはしていません。

最も古い事例のひとつは、低地に住んでいたマヤ族、それに続いてアステカ族が行っていた、河の表面につくった”いかだ”上で植物を育てる農法です。今から1000年ほど前の、西暦1000年頃だと言われています。

メキシコ原住民族のアステカ族が、「チナンパ」と呼ばれる”浮き島”上で植物を育てる技術を生み出し、これが農業用途のアクアポニックスとしては最初の形だったそう。チナンパは、運河と人工的につくられた浮き島とのつながりで形成され、浮き島の栄養豊富な泥と運河からの水をつかって作物が栽培されていました。
 
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photo credit:milkwood

初期のチナンパでの植物の栽培場所は、浅い湖に浮かんだ固定(ときには移動も可能)の島。運河や周辺の都市から栄養豊富な水が流れこみ、それを灌漑に利用していました。
 
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肥やしを魚のエサとして利用するために池に設置された動物小屋。photo credit:milkwood

水田栽培 – 古くからあった”循環”

もうひとつ、古い事例が見つかるのは、中国南部、タイ、そしてインドネシア。これらの地域では、魚を用いた水田栽培が行われていました。

この農法では、多くの極東地域の国々でも存在し、東洋ドジョウ、タウナギ、コイ、フナ、そしてタニシなどを育てていたといいます。古代の中国では、畜産・水産・農産が統合されており、そこではアヒル、魚類、植物が共生関係の中で一緒に育っていたそう。

アヒルは、かごの中に収容された状態で魚の池の上に配置され、その老廃物は魚のエサに。さらに低い位置の池では、魚の池からあふれた老廃物を食べて育っているナマズが泳いでいました。そしてシステムの最下部では、ナマズの池からあふれた水が、米と作物の灌漑に使われていたのです。

現代のアクアポニックスの発展

さて、「アクアポニックス」という用語は「New Alchemy Institute」と、ノースカロライナ州立大学のMark McMurtry(以下、マクマートリー博士)の様々な研究に起因します。
 
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ニュー・アルケミー・インスティテュート。photo credit:milkwood

John & Nancy Jack Todd夫妻、そしてWilliam McLarneyが、1969年に設立した「New Alchemy Institute」。彼らの努力の集大成は、バイオシェルター「Ark」(箱舟)のプロトタイプ建設でした。
 
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「ニュー・アルケミー・インスティテュート」の日誌ナンバー2に残されていた、「mini-ark」の進歩版として提案された「Ark」(箱舟)の設計図。photo credit:milkwood

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「ニュー・アルケミー・インスティテュート」にある「Ark」(箱舟)のアクアポニックスユニット。photo credit: Land Arts Studies

「Ark」(箱舟)は、総体的に技術を適用したソーラー発電式の自給自足バイオシェルターで、4家族が1年間に必要とする魚、野菜、そして住まいを提供できるものとしてデザインされました。

これと同じ頃の1970年代には、養殖システム内で植物を自然のフィルター(ろ過機能)として活用する研究が始まり、そのなかでも特に注目されたのが、バージン諸島大学のJames Rakocy(以下、ラコシー博士)によるもの。

1997年にラコシー博士とその同僚は、水耕栽培で一般的に使われる「Deep Water Culture」と呼ばれる方法(水に浮く板に穴を開け、植物はその穴から水中に根を生やす)を、大規模なアクアポニックスシステムに用いました。
 
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バージン諸島大学にあるアクアポニックス施設内のティラピア養殖場にいる生徒たち。photo credit:milkwood

一方で1980年代には、マクマートリー博士とDoug Sanders教授が、世界で最初の閉鎖型(循環型)アクアポニックスシステムの開発に成功します。

このシステムでは、魚の水槽から流れ出た水が、砂が敷き詰められた育成タンクに植えられたトマトやキュウリの肥料となり、タンク自体もフィルターとして機能。タンクからあふれ出て濾過された水が魚の水槽に戻り、再循環が実現されていました。マクマートリー博士の研究によって、アクアポニックスの背景にある多くの科学が実証されたのです。

商業用システムの登場

世界で最初の大規模商業アクアポニックスの施設は、マサチューセッツ州アマーストにあるバイオシェルター。完成したのは1980年半ばで、今も現役で動いています。

その後の1990年代初頭に、ミズーリ州の農家、Tom & Paula Speraneo(以下、スペラネオ夫妻)が「Bioponics」という概念を提唱。彼らは、2200リットルの水槽にティラピア(スズキの一種、和名は”いずみ鯛”)を泳がせ、そこから流れ出る栄養豊富な水を利用して、砂利を敷き詰めた循環型の育成タンクで、ハーブや野菜を育てていました。

砂利の育成タンクは、水耕栽培の農家の間では何十年も使われていたものでしたが、それをアクアポニックスにうまく適用したのは、スペラネオ夫妻が初めてでした。彼らのシステムは実用的かつ生産的だったので、様々な地域で広く再現されていきます。

カナダにおいても、1990年代にアクアポニックスシステムの設置が増加。商業システムとして圧倒的に多かったのは、より価値の高い鱒やレタスなどの作物を生産するものでした。

近年、開発・普及している家庭用アクアポニックスの原点も、実はスペラネオ夫妻にあります。彼らは組み立て方法のマニュアル本を書き、それがきっかけとなり、世界中でたくさんの家庭用システムがつくられていったのです。
 
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photo credit: Global Aquaponics

そして現在

現在オーストラリアでは、アクアポニックスへの関心度が上がっています。その理由は、水の制限問題と栄養分に乏しい土壌環境の両方に効果的だとわかったからでしょう。

この動きを加速させたのが、2006年に人気掲示板「Backyard Aquaponics」を開始した、Joel Malcolm(以下、マルコム氏)。庭にも置けるサイズのアクアポニックスをつくるための本を執筆し、自家所有者を対象としたシステムの設置と販売も行っています。
  
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オーストラリアにあるバックヤードアクアポニックス – photo credit: Backyard Aquaponics Magazines

マルコム氏は現在、同名の小売センター「Backyard Aquaponics」をパース(オーストラリア西部)にて運営中。2007年にスタートした雑誌「Backyard Aquaponics Magazines」の編集もしています。

そして、実用的な商業アクアポニックスの経験と知識を持つオーストラリアの研究者、Wilson Lennard(以下、レナード氏)の存在も忘れてはいけません。

レナード氏は、博士課程でアクアポニックスシステム内での植物の成長の最大化と、栄養循環の最適化を中心テーマとして選択。この研究は、科学的に再現された実験用アクアポニックスシステムで行われ、マレーコッド(オーストラリアの大型捕食性淡水魚)とリーフレタスが栽培されました。

魚と植物の最適なバランスが実現できれば、同じ水がシステム内で永続的に循環し、ずっと使い続けることができる。そのことを、レナード氏は証明しました。

レナード氏 これが意味するのは、もし正しく管理をすれば、水がシステム外に流出することはないということです。アクアポニックスは、今日私たちが知ってる栽培技術のなかで、最も水を効率よく利用できるシステムかもしれないのです。

さらに、アクアポニックスは他の養殖技術に比べて、環境に与えるダメージを大いに減らすことができる可能を持っています。この理由は主に、栄養豊富な汚水をシステム外に排出せずに循環させるためです。

発展途上国での先導事例

カリブ海の島国バルバドスでは、家庭でのアクアポニックスシステム設置の促進が行われ、それを観光客へ販売し利益を得ることで、輸入食品への依存度を減らす努力をしています。

バングラデシュでは、M.A.サラム博士率いる北部マイメンシンのバングラデシュ農業大学水産養殖学科のチームが、化学薬品を使わずに育てられた作物や魚を生産するための低コストシステムの計画を発表しました。

この事例の対象となっているのは、塩分濃度の高い南部や洪水が発生しやすい北部のハオール(haor)地域などの、気候的に不利な土地に住む人々。サラム博士の研究は、コミュニティと個人レベルにおいての、小規模生産の目標達成のための自給農業の形に、革新を起こしています。
 
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バングラデシュ農業大学にあるバックヤードアクアポニックスシステムの一部で育っている野菜たち。photo credit:milkwood

米国で発展中のコミュニティ

まず挙げられるのは、ミルウォーキー(ウィスコンシン州)のコミュニティ内で食料を生産しながら、若い人たちに雇用機会とトレーニングを提供している非営利団体「Growing Power」です。

「Growing Power」は、アクアポニックス技術を応用した温室をいくつも建設していて、1万匹以上のレイクパーチ(スズキの一種)と100万ポンド(約450トン)を超える作物を毎年生産しています。温室の保温には、コンポスト(堆肥)を活用。通年稼働している農場としては、アメリカ中西部で最も生産性が高い施設になりつつあります。
 
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米国の都市ミラウォーキーにある「Growing Power」のアクアポニックス。photo credit:milkwood

シカゴにある「The Plant」は、都市農場と環境ビジネスを対象とするインキュベーション施設。地下にアクアポニックス農場を持ちます。

ネブラスカ州オマハにある非営利団体「Whispering Roots」は、アクアポニックス、水耕栽培、都市農場を活用して、社会的および環境的に不利な立場にあるコミュニティへ、地元で獲れた新鮮で健康的な食料を提供しています。
 
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以前にgreenz.jpでも紹介した、家庭用アクアポニックスキット「AquaSprouts」

”さかなで野菜を育てる”アクアポニックス、みなさんも挑戦してみませんか?

私が代表の濱田健吾と立ち上げた会社「おうち菜園」では、「″生産者=わたし“を増やしたい」というビジョンを掲げ、その一環として魚と野菜が一緒に育てられる一石二鳥の「アクアポニックス」を、日本で普及させることに力を入れています。

具体的には、家庭でもアクアポニックスを実践できるキット「アクアスプラウト ~さかな畑~」の提供やアクアポニックスの学校「AQUAPONICS ACADEMY」を開講しているほか、世界の最新事例をウェブ上で紹介する活動も。

「今まで興味はあったけれど、なかなかチャンスがなかった」という方は、ぜひこの機会にチャレンジしてみませんか? 僕らもよろこんで相談に乗りますよ!

[Translated from the article “Aquaponics: a brief history” via Milkwood]

アクアポニックスを実践してみよう!
AQUAPONICS(さかな畑)

writer ライターリスト

江里祥和

江里祥和

greenz ジュニアライター おうち菜園広報/共同創業者 1987年大阪生まれ、千葉県育ち。中学時代3年間をサイパンで過ごす。2012年4月より世界各国の農地を巡る旅に。旅中、ヨルダンでアクアポニックス(さかなで野菜を育てる農業)に出会う。2013年4月に帰国後、パートナーと出会い、日本にアクアポニックスを広めるために2014年4月に株式会社おうち菜園を共同創業。雑誌「EARTH JOURNAL」にて「アクアポニックス通信」を連載中。 公式サイト: http://aquaponics.co.jp Facebook: Yoshikazu Eri

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