ISSUE☆おすすめの連載! わたしたちエネルギー

2 months ago - 2016.09.23

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電気もやる気も元気も、ある時はあるように、ない時はないように過ごすだけ。 愛知県豊田市で暮らす、下野智子さんの良い加減なオフグリッド生活

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクト。経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

私、ひそかに憧れてます、オフグリッド生活に。

でも、たくさんの数字や記号が出てきて、専門知識もDIYスキルも必要になるオフグリッド生活は、ライターなんて職業からもわかるとおり、典型的な文系女子には、正直ハードルが高いと感じていました。

ところが、私と同じように数字は苦手といいながら、井戸水ポンプの電源以外は完全オフグリッドでの生活を送っている女性がいると知りました。愛知県豊田市の中山間地で暮らす下野智子さんです。

文系女子にも自給自足的オフグリッド生活はできるものなのか、下野さんの暮らしを訪ねてきました。

手づくりのオフグリッドハウス

下野智子さんは、小学生のふたりのお子さん、そして仕事の関係で2地域居住をしているご主人との4人家族です。もともとオフグリッド生活を希望したのは智子さんのほう。週末はご主人がいらっしゃいますが、平日はお子さんと3人だけで暮らしています。

山道を心細くなるほど進んだ先に、屋根にいくつかの太陽光パネルを積んだお宅が小さく見えてきました。玄関をくぐると、コンパクトながら居心地のいい空間が広がります。
 
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じつはこの家は多くの方々と一緒につくった手づくりの家(詳細は後述)。屋根が少し高くなっている左側がもともとあった納屋を改装した部分、手前がゼロからつくった部分です。屋根に乗っている太陽光パネルはたったこれだけ。裏の崖には太陽熱温水器を設置しているのも見えます

入ってすぐの土間のキッチンスペースには、オーブンもついた大きな薪ストーブ。燃焼効率がよく、天井に穴を開けるなどの大工事をしなくてよい松園式燃焼ユニットを煙突として採用しています。冬は天板の上で料理を温めたり煮込んだり。オーブンでグリル料理をつくることもできます。

調理はガスコンロ、1口のみ。数ヶ月前までは、そのガスコンロもなく七輪だけで暮らしていたそうです。

お風呂は太陽熱温水器と薪のハイブリッドで、トイレはバイオガストイレ。バイオガスを出して液肥をつくる仕組みになっていますが、こちらはうまくガスが発生しないため、新たなエコトイレをつくろうと検討中だそうです。
 
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リビングからキッチンを望む。断熱材には、地域の方々から集めた不要な布団を再利用しています

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お風呂用の薪ボイラー。太陽熱温水器もついているため、比較的すぐに温まります

コンパクトだけど必要充分なオフグリッド発電システム

このように、電気だけでなく、エネルギー全般に配慮し持続可能な暮らしを満喫する下野家。

オフグリッド発電システムで使っている太陽光パネルは、145Wが6枚、蓄電池は105Ahが6台です。元々は8台ありましたが、井戸水ポンプをオフグリッドで動かそうと奮闘しているうちに過放電させてしまい、使えなくなってしまったのだそう。
 
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バッテリーやインバーターは家の裏側にありました。「本当は工夫すれば井戸水ポンプもいけそうだったんですけど」と下野さん。水は重要なライフラインのため、無理をせず、現在は電力会社の電気を使って動かしています

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室内には、電圧や蓄電量がわかるメーターが設置されていました。特に便利なのが下の蓄電量が表示されるもの。写真の表示だと、現在は165.4Ah蓄電されていることになります。バッテリーを長持ちさせるために、容量の半分である100Ahを切りそうになったら、蓄電量が増えるまで、電気は使えません

最大瞬間出力に耐えられるように、インバーターは性能の良い大型のものを採用していますが、オフグリッドシステムとしては、全体で1kWに満たない小さなシステムです。しかし、生活するにはなんら支障は感じていないといいます。

洗濯機も精米機もミキサーもパソコンも、電動ドリルも電動のこぎりだって使えますよ。

交流への変換ロスを少しでも減らすため、照明は12V電球を利用。別系統で、車用のバッテリーからシガーソケットにつなぎ、家の中までコンセントを引っ張って、スマホの充電はそこから行なっています。

そして、下野家でいちばん電力を消費するのが、車載用の冷凍庫。とはいっても、省エネタイプでサイズもかなり小さなものです。夏はこの冷凍庫で氷をつくり、使用していない冷蔵庫に氷を入れて非電化冷蔵庫として使っています。
 
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キャンピングカーなどで使う車載用の冷凍庫は、切り替えれば冷蔵庫としても使える優れもの。その右側に写っているのがミニ冷蔵庫。これはコンセントに繋がず、氷を入れて使用しています

うちは冬は寒くて冷蔵庫は要りません。夏は、この冷凍庫があれば氷がつくれて、氷がつくれれば冷蔵庫も使えるから、これで充分なんです。

システムの説明を伺っている間も「単位はなんだったっけな」「この機械、なんていう名前だったかな」と手持ちの資料を見ながら一生懸命説明してくれた下野さん。

私が知る限り、ここまでしっかりオフグリッド生活を送っている女性はそれほど多くないのですが、下野さん自身、あまり電気のことは詳しくなさそうです。そんな下野さんがなぜ、オフグリッド生活を送るようになったのでしょうか。

自然エネルギー100%の小さな家をつくる講座「千年持続学校」に参加

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下野智子さん

下野さんは、愛知県にある自然なお産の産院でお子さんを出産しました。そこでは運動として妊婦さんが薪割りをやります。

そこで、薪割りの楽しさに目覚めたこと、ごはんをかまどで炊いてくれるお世話係の年輩の方の仕事を見て「こういうふうに暮らせたらいいなぁ」と思ったことなどが、家づくりや自給自足的な暮らしに興味をもつ原点になりました。

直接のきっかけは2011年9月、名古屋大学の高野雅夫教授が企画した自然エネルギー100%の小さな家をつくる講座「千年持続学校」に参加したことでした。参加者で月に1度集まり、ゼロから家を建ててしまおうというとても珍しい講座で、当初は約30組の家族が参加。本当に、木を伐るところから始めたのだそうです。

そうしてできた家が、じつは現在、下野さんが住まわれているお宅。家の半分はもともとあった納屋を改装したもの、そしてもう半分がみんなでゼロからつくったお家です。

オフグリッド発電システムは長野の独立型太陽光発電専門店「オフグリッドソーラー」から名古屋大学に、実証実験のデータを3年間とることを条件に寄贈されました。
 
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上棟式の様子。たくさんの人が関わって、1軒のお家ができました

ちょうど震災が起きたあとだったので、いろいろ考えてたんですよね。ガスが止まっても火が焚ければ大丈夫だなとか、水はやっぱり必要だなとか。ただ、千年持続学校に応募したときは別にできあがった家に住もうなんて思っていませんでした。家がつくれるなんて面白そうだからって参加しただけ。

そして家づくりが進んで1年ほど経った頃、参加者の中から1組、実際にできあがった家に入居する人を募集したのだそうです。

最初は入居希望の家族が結構いたんです。でもそのときはまだ、家がいつできるかわからなかったので、みんな待ってられなくて(笑)

千年持続学校は移住促進的な側面もあって、毎週、豊田に通ってくるから地元の人と縁ができて、お家を紹介してもらえるんですよね。だから、移住希望の家族は家が見つかって、どんどん引っ越すんですよ。

私はただぼやーっとしていたら最後まで残っていて、「下野家どうですか」って言われて「……い、いいんですか」みたいな(笑)

ご主人は仕事を辞める気はなく、最初に相談したときは「うーん……」と悩んでいたそうですが、入居期間の条件はないことなどから、最終的には「いい経験になるだろうからやってみたら」と協力してくれました。

月1回の作業ではいつ家が完成するのか一向に見えてこなかったため、下野さんは近所のお寺に仮住まいさせてもらい、率先して家づくりを進めました。知人のお父さんが元大工で協力してくれたこともあり、作業は徐々にスピードアップ。

講座が始まってから3年2ヶ月後の2014年11月末、ようやく家が完成し、晴れて入居しました。

オフグリッドな家でどうやったら楽しく暮らしていけるのか

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私はただ単に面白そうなことが好きだっただけ。思いついたものがどうやったらできるのか考えて、それを形にするのが面白いんです。

オフグリッドも、特別に興味があったわけじゃなく、この家はもともとオフグリッドっていう設定の家だから、そこでどうしたら楽しく暮らしていけるのかを考えてやってみるのは面白そうだなって思った感じです。楽しもうって決めたら、あとはもう楽しむしかないんです(笑)

下野さん自身は、丁寧な暮らしに憧れてはいるけれど、けっして丁寧ではなく、いい加減に暮らしているのだといいます。しかし本当にいい加減だったら、オフグリッド生活は難しいのではないでしょうか。

そんなことないですよ。だって、生きていく上で重要なのって水と火なんです。それさえあればとりあえず死なない。それに夜の灯りと洗濯…あと今だったらネット環境ぐらいが整っていれば、あとの電気っておまけみたいなものだと思います。

太陽光発電なので、困るのは雨が降るときぐらい。でもそしたら、雨が降ったときにどうするかを考えておけば大丈夫。うちの場合は、いちばん電気をくう冷凍庫を切って、中の食材が溶けたら食べます(笑) それでも電気が足りなくなったときは「寝る」(笑)

電気がなくても大丈夫なように自分を設定しておけば、なくてもなんとかなりますよ。

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「せっかく天気もいいしソーラークッカーでお湯沸かしましょう」と入れてくれたお茶は不思議とまろやかでおいしい。ここでも「毎日ソーラークッカーでお湯を沸かしているわけではなくて、気が向いたときに使ってます。こうやってお客さんがきたときとか(笑)」と、無理しなさ加減がすてきな下野さん

「できるだけ手を抜く」チャレンジをしたら、楽しくなった

実際、下野さんはこの家に暮らしていて、不便を感じたことはないそうです。

不便を感じたことはないけど、私、なんでこんなに頑張ってるんだろうって思うことはあります。調理も最初の1年は七輪でやってたけど、服が黒くなるし、ちょっと疲れちゃって。楽しようと思ってガスを入れました。1口だけだけど、やっぱりあるとすごく楽です。

ときには「いい加減な私がこの家に暮らしていていいのか」と悩むこともあったそうですが、少し前から「できるだけ手を抜く」というチャレンジをしたことで気が楽になり、ここでの暮らしを楽しめるようになったのだそう。

だから今は庭も草ぼうぼう……(笑) お風呂も入れたくないときは温泉に行くし、ごはんも面倒くさいときは簡単に即席ラーメンで済ませます。

それでわかったのは、オフグリッド生活でも、日中ダラダラして大した仕事もせず、子どもが帰ってきたらちょっとごはんをつくり、ネットも見てとか、そんな暮らしも全然できるってことです(笑)。

電気って送電網で流れてくるのが当たり前みたいになってるから「ないと無理」って思ってるけど、やってみたら意外となんてことないんです。丁寧な暮らしをする人じゃないとできないわけじゃない。こんないい加減な私だってできるんです。

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助産院での経験と東日本大震災を経て暮らし方について考え始め、ご縁があってゼロからの家づくりを経験し、面白そうだからやってみたい、と始めたオフグリッド生活。

自給自足的な暮らしへのこだわりは? オググリッド生活の苦労は? この家のオフグリッドの仕組みは?

そんな質問をするたびに「うーん…特にないんですよねぇ」「じつはあんまりよくわかってないんです。えへへ」と答えに悩んでいた下野さん。

ここでの暮らしは、下野さんにとって面白そうなことを選んできた結果、あまりに自然に辿り着いた“日常”なのだなと思いました。そして「いい加減な人でも全然できる」、そんな実践者の言葉に、いい加減な私はかなり大きな勇気をもらいました(笑)
 
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もともとパタンナーの仕事をしていた下野さんは、今も下着や洋服などを手づくりしたり、裁縫や草木染めのワークショップを開催したりしています。「仕事をしているところを撮りたいんで何か適当につくってくれますか」というカメラマンのリクエストに、端切れをチョキチョキしてつくってくれたのは…

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すっごいマッチョなクマ(?)のぬいぐるみ。全員爆笑。裁縫も暮らし同様、意外と適当でもやれちゃうということを、ワークショップなどを通じて伝えていきたいそう(笑)

下野さんから送られてきたメッセージ

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学校から帰ってきた子どもたち。ここ、豊田での暮らしを子どもたちも気に入って楽しんでいます

子どもたちが学校から帰ってきて、私とカメラマンは裏の崖に連れていってもらったり、水鉄砲でびしょぬれになるまで遊びました。その間に下野さんは洗濯物を取り込み、お風呂に太陽熱で温められたお湯を貯め、薪で追い炊きをして、晩ご飯の支度を始めました。

おやつがわりに出された塩ゆでのモロッコインゲンは、ただ茹でただけなのにしみじみ甘くておいしい。子どもたちがニコニコとおいしそうに食べる姿に、癒されます。

陽はだいぶ傾いてきました。私が家にいたら、そろそろ灯りをつけてしまう時間帯です。でも、真っ暗ではないので、下野家ではまだ灯りをともす気配はありません。車で帰る私たちを、夕暮れの中で、ずっと手を振って見送ってくれました。
 
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敷地入口から見た下野家。私たちの話し声と鳥の鳴き声しか聴こえない、とても静かなところでした

約5時間後、家に到着すると、下野さんから1通のメールが届いていました。

お風呂炊きながら
そっかぁ☆ってなったことがあって伝えたくメッセージしています

わたしのエネルギーも
太陽と似てるなーと

電気の無いときの対応方法さえあればオフグリッドでも大丈夫って話しましたよね

電気も
やる気も元気も
無いときは
できるだけなにもしないってのが
同じだ!っておもって
おもしろく感じました

人間も自然だからね

ある時はあるように
無いときは無いように
過ごすだけ

いつでも
同じレベルで
エネルギーを求めることは
人間に対しても
電気に対しても同じで

そこのところが特に
今の社会は無理があるのだなぁと
感じました

そうそう
わたしは
太陽みたいに
ありたいとおもってたから

これでいいんだなぁってことと

そうやって
気分次第で過ごすことのできる
今をありがたいなということを
改めて思いました

貴重な機会をありがとうございます

また遊びにおいでください

(原文ママ)

いつか、こんな心で、こんな暮らしをしたいと思う文系女子は、きっと私だけではないはずです。

(写真: 袴田和彦)

writer ライターリスト

平川 友紀

greenz シニアライター リアリティを残し、行間を拾う ストーリーライター 1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。体調を崩したことをきっかけにマクロビオティックを学び、持続可能なライフスタイルを模索し始める。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らし、コミュニティを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。 facebook:https://www.facebook.com/captainmanbou twitter:@captainmanbou

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わたしたちエネルギーは、エネルギーを、じぶんごとにして楽しむプロジェクトです。エネルギーを減らしたり、つくることを楽しむ。つくったエネルギーで得られる楽しさ、幸せをみんなで共有する。エネルギーで地域が自立する。今、そんな試みが全国に広がっています。わたしたちは、greenz.jpの記事をつくること、グリーンズの学校で共に学ぶことなどを通してそんな動きをサポートし、そして共に歩みたいと思っています。 このプロジェクトは、経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。 ⇒ 特集「わたしたちエネルギー」FacebookページGREEN POWER プロジェクト WEBサイト

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