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2 months ago - 2016.09.18

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育っているのは大人の方だった。「ほがらか絵本畑」三浦伸也さんに聞く、子どもといっしょに大人も育つ絵本読み聞かせの力とは

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この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。

週末は山や海に出かけたり、長い休みが取れたら旅に出たり、という方も多いかもしれません。心が癒される、見たことのない景色にふれる、今まで気づかなかったことに気づく。そして、「明日からまたがんばろう」という気になる。こんな気持ちになったら、「あ~いい休暇だったな」と思えるのではないでしょうか。

非日常に身を置いてリフレッシュするビジネスパーソンに、新しい休暇の過ごし方として「絵本の読み聞かせ」を提案している人がいます。”絵本のしんちゃん”こと「ほがらか絵本畑」理事長の三浦伸也さんです。

大人の多くは「子どもの世界や絵本は幼い」という感覚を持っているかもしれませんが、子どもの世界って大人よりも広くて深いと思っています。

絵本を通じて、「子どもの世界ってすごい」と感じる大人が増えれば、大人自身がワクワクした未来を描けるようになる。それが子どもにとっても、未来にとっても一番大事なことだと思います。

今回は「絵本を読む人」として、大人に絵本の可能性を広めようと活動しているしんちゃんに、その魅力を伺いました。
 

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三浦伸也(みうら・しんや)
通称、絵本のしんちゃん。1963年生まれ。NPO法人ほがらか絵本畑の理事長。少林寺拳法の本部職員、ベンチャー企業でのビジネスマンを経て、「絵本を読む人」に。年間300本以上の公演・講演依頼があり、幼児に、小学生に、中高生に、大人に、お年寄りに絵本を読み、笑顔を届けている。これまでに接した子どもたちの数は、のべ10万人以上。三重県在住、4人の子を持つ父親でもある。

10万人が参加! 大人も子どもも抱腹絶倒の「絵本読みあそびライブ」

「絵本を読むと家の空気が変わるよ」と知り合いに勧められてはじめて絵本を手にしたとき、しんちゃんは40歳。どんな絵本がいいのか、見当もつかないまま選んだのが、五味太郎さん作の「るるるるる」でした。

飛行機が「る・る・る」といいながら飛ぶ絵本で、出てくる言葉は「る」だけなのに、なぜか子どもが大爆笑。子どもの友だちに読んでも、近所の保育園で読んでも、どういうわけか大ウケ。

子どもが爆笑するのがとにかく気持ちよかったこと、そして「何かがある」という直感を得たしんちゃんは、勤めていた会社を自信満々に退職し、絵本を読む人になることを決意します。
 
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公演には数十冊もの絵本の入ったかばんを持ち込み、もったいぶりながら、その場で読む本を選び取ります。

今では年間300本以上、のべ10万人(!)が参加したしんちゃんの公演。得意とする「絵本読みあそびライブ」とは、主に幼稚園や保育園で行われる参加型の読みきかせです。会場の雰囲気に合わせてその場で本を選び、30分の間に3~4冊の絵本を読みます。

かけあいをしながら一体感を生み出している姿はまさにDJのよう。中にはひっくり返って大笑いする子や、笑いすぎて肩で息をする子もいるのだとか。

子どもの育ちの基礎に必要なのは「安心感」

こうしてたくさんの子どもに絵本を読んできたしんちゃんですが、次第にある違和感に気づきます。読んでいる最中にずっと話しかけてくる子、「そんなのあるわけない」と絵本にツッコミを入れる子など、落ち着きのない子が目につくようになったのです。

かまってもらおうと必死に注意を引こうとする子どものサインが、驚くほど増えてきたように思います。はじめは子ども自身の問題だと思っていましたが、続けていくうちに「これは大人の問題だ」と思うようになりました。

というのも子どもから家庭の様子が透けて見えるんです。「あまりかまってもらえてないのかな」とか、「仕事の愚痴や悪口が多いのかな」とか。

安心感があってはじめて一歩を踏み出すことができるし、新しい世界に飛び込むことができる。「子どもの育ちの基礎にはまず安心感」と考えていたしんちゃんは、その環境を整えるために絵本が重要な役割を果たせると思うようになりました。

お父さん、お母さんからは、「毎日読むのは大変です」「何を読んだらいいんですか」という声をよく聞きます。

毎日読まなくてもいいんです。何を読んだっていいんです。何を読んだかは、大きくなったら覚えていません。覚えているのは、お母ちゃんが読んでくれたこと。お父ちゃんが読んでくれたこと。

子どもにとって大事なのは、今、ここにあるひとときを安心して過ごした、というあったかい記憶です。

子どもの世界で、子どもが教えてくれる3つの大切なこと

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わたしたち大人は、安心して居られる環境を整える役割があると同時に、「環境」そのものでもあります。日々を楽しむ気持ちがあったり、ワクワクしていたり。心にゆとりがある大人の存在自体が、子どもの育ちにとって大切なのかもしれません。

そしてそのヒントは「”子どもの世界”に出かけていくと、子どもたちが教えてくれる」としんちゃんは言います。まずは「自分が磨かれる」ということ。

子どもは素直でわがままなので、言ってることとやっていることがいつも一致しています。すなわち本気。いつも本気なんです。しかも、子どもの前では嘘がつけません。子どもはみんなお見通し、見透かしているのです。子どもの前に立つと、自分の本気が見透かされている、ということに気がつきます。

次に「解放されるということ」。

癒されるという意味での「解放」もありますが、ここではそれとは違う意味で。3~5歳児は言葉はしゃべりますが、論理的に考える力がまだ弱い。論理の枠がないのです。子どもと交わす何気ない会話の中に、枠にはまった大人の考えを解放するヒントがあります。

最後に「明日のことを考えない」ということ。

「今を生きる」「今、ここに、ある」ということ。それがすべて。魅力的な生き方だと思います。ワクワクする明日を思うならまだしも、将来に悲観するなんてもったいないですよね。

言葉が未熟で、論理の枠がなく、時間感覚のあいまいな子どもたちをヒントに、大人が身につけてきた”言葉”と”時間の流れ”を編み込むと、「物語をつむぐ力」が強くなるんです。

いま必要とされている「物語をつむぐ力」

うまくいく仕事やプロジェクトには必ずと言っていいほど、周囲が共感できる「物語」があるものです。

物語はワクワクを生み、ワクワクは行動を生む。自分たちが何をやってきたのか、そこにどんなドラマがあったのか。物語は過去をつづるものでもありますが、同時に、未来を描き、他人と共有するときにも大いに役に立ちます。

もちろんビジネスの場だけでなく、社会的な課題の解決にも「物語」は重要な役割を果たします。ソーシャルデザインの担い手にも、ビジネスパーソンにも求められる「物語をつむぐ力」を鍛えるのに、「絵本の読み聞かせ」は確かな実戦経験になるのです。

実際に最近では、「絵本×地域貢献×人材育成」をテーマにした研修プログラムとして、「絵本の読み聞かせ」を採用する企業も増えているのだそう。
 
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子どもに絵本を読むことを通じて大人が成長し、社会を変えていくそれぞれの一歩を踏み出す。そんな大人を見て、子どもも新たな一歩を踏み出す。そんなワクワクが巡る未来をしんちゃんは描いています。

子どもの世界は、大人はみんな通ってきたところ。だけど大人になったらもう戻ることはできないんです。子どもに連れて行ってもらうしかない。

これからの休暇の過ごし方として、「絵本の読み聞かせ」をする大人が増えていくと嬉しいですね。絵本は子どもの世界に連れて行ってもらうためのパスポートなんです。

そのパスポートをすでに手元に持っている人はきっと多いはず。次の休みは、子どもに絵本を読んで、ワクワクがあふれる子どもの世界に遊びに行きませんか?

(Text: 小松浩也)

小松 浩也(こまつ こうや)
大阪生まれ、東京育ち。鳥取大学農学部卒、三重県伊賀市在住。農業法人に勤めながら、「食べもの教育と子どもの育ち」をテーマに活動。妻、息子2人、鶏6羽とともに日本家屋に居住

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