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平和への道は、クリエイティブ思考でつくる!クラウドファンディングで“平和学の父”ガルトゥング氏を招聘した関根健次さんインタビュー

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平和学の父ガルトゥング博士を招いた講演ワークショップの様子。2015年8月、JICA横浜にて。写真提供: Kenji Sekine

あなたはいまの日本を平和国家だと思いますか?

日本は事実上、戦争をしていません。大きなテロも起きていません。しかし、みなさんがご存知のように2015年9月に安全保障関連法(安保法案)が参院本会議で可決され、2016年3月から施行。自衛隊は集団的自衛権が認められ、海外での武力行使が可能になりました。

もう少し個人的レベルでも考えてみましょう。あなたはたとえば職場で、何らかの差別を受けていませんか?働いても働いても労働条件が良くならないという不満はありませんか?

平和学では人々を搾取したり、生まれた国や地域、宗教などの理由で差別することを「構造的暴力」と呼びます。これは手放しで「平和」と呼べる状態ではありません。そしてまた、こうした「構造的暴力」がなく、さらに対話や協力などが進んだ状態を「積極的平和」と呼んでいます。

この考えをものさしにすると、戦争やテロなどの大惨事がない状態でも、さまざまな軋轢の要因が暮らしのなかにあるならば、本当の平和とは呼べないのです。と同時に、平和は奇跡のように尊い状態で、みんなが意識して築き上げるものだとわかります。

世界のあらゆる課題解決をミッションに、映画買付・配給を行う非営利会社「ユナイテッドピープル」代表の関根健次さんは、2015年7月、MotionGalleryのクラウドファンディングを用いて、“本当の”「積極的平和」の概念を唱えた平和学の第一人者であるノルウェーのヨハン・ガルトゥング氏を招聘することを決めました。

“本当の”「積極的平和」とは? 関根さんがクラウドファンディングによって得た気づきと学びを糧に、今取り組んでいることとは? 平和憲法を持つコスタリカに滞在する関根さんと海を越えてオンラインでつながり、お話を聞きました。
 
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写真左。写真提供: Kenji Sekine

関根健次(せきね・けんじ)
1976年神奈川県藤沢市生まれ。ベロイト大学経済学部卒業。卒業旅行でパレスチナ・ガザ地区を訪れたことがきっかけで、戦争も紛争も飢餓もない平和な世界を築くことを志す。2003年5月、社会の課題解決に努めるNPOやNGOを支援する募金サイト「イーココロ!」を立ち上げる。2009年より映画事業を開始。現在ユナイテッドピープル株式会社代表取締役社長。国際平和映像祭代表理事。

本当の「積極的平和」とは?

関根さんは今から約17年前、世界半周の旅の途中でパレスチナを訪れたことをきっかけに「平和の実現」が人生のミッションになったといいます。2002年にユナイテッドピープルを設立し、2009年から映画事業を開始。

『それでも僕は帰る』、『幸せの経済学』などをはじめ、世界が直面する課題をテーマにしたドキュメンタリー映画を数多く買いつけ、上映を実現してきました。国連が定めた平和記念日である国際平和デー(毎年9月21日、通称ピースデー)には国際平和映画祭(UFPFF)を開催し、ピースデーを広める活動も続けています。

このように、「平和の実現」を自分のミッションとする関根さんですが、クラウドファンディングを行ったのは、何より自分が生まれ育った日本の平和に危機感を抱いていたからだと言います。2015年7月のことです。覚えている方も多いでしょう。安保法に反対する学生らによる国会前のデモが活発に行われていた頃です。

当時、安倍政権が「積極的平和主義」という言葉を頻繁に使うようになっていました。同時に、米国などとともに積極的にテロと戦う、とも発言していました。私はこの「積極的平和主義」という言葉にひっかかりを覚えていろいろ調べました。

現在、外務省のホームページには次のように書かれています。

現在の世界では,どの国も一国で自らの平和と安全を維持することはできません。

(中略)

日本として,国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から,同盟国である米国を始めとする関係国と連携しながら,地域及び国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に寄与していかなければならない(中略)。

(外務省HP http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000407.htmlより一部抜粋)

政府による定義では「積極的平和主義」が、武力を用いて相手の力を取り除くという意味にも取れますよね。自衛隊による武力行使ができるように安保関連法案を成立させることは、本当に日本や世界の平和に貢献するのか?と疑問を抱きました。

さらに、もともと「積極的平和」という概念を提唱したのはヨハン・ガルトゥング博士で、平和学では有名なコンセプトだということがわかり、その考え方は政府が発言していた内容とまったく違っていたことにも気づいたのです。

そこで本当の提唱者を日本に招き入れて、日本が本質的に進むべき道を示してもらおうと思いました。

ガルトゥング博士とは何の面識もなかったという関根さんですが、戦後の歴代内閣が守った専守防衛(※)を覆す法案の成立を前に、状況は非常に切迫していました。関根さんはメールやSkypeで博士とコンタクトをとったところ、博士は来日を快諾。それどころか、ご高齢にもかかわらず「日本の平和のためなら、無償で来てもいい」とまで言ってくれたそうです。

(※)専守防衛…相手から武力攻撃を受けてはじめて防衛力を行使する。またその防衛力行使は必要最低限にとどめる、という日本の防衛戦略の基本姿勢

こうして博士を招聘する交通費などの資金を集めるため、MotionGalleryでのクラウドファンディングが始まりました。
 
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MotionGalleryクラウドファンディングページ

ところで、関根さんは企業から寄付を募るかたちではなく、なぜクラウドファンディングという方法を選んだのでしょう?

クラウドファンディングに参加することは、ひとつのアクションなんです。だから、企業に出資を募って数名だけで博士を呼ぶのではなくて、できるだけ多くの人に関わってもらうことで問題意識を共有して、みんなの力で博士を呼びたかったんです。

関根さんの呼びかけに応じたコレクターは253人、集まった金額は目標を倍以上に上回る223万1千円。海外に住む日本人の方や、脳科学者の茂木健一郎さんもコレクターになって応援してくれたそうです。

博士の来日はテレビ、新聞、雑誌など40以上のメディアで取り上げられました。その甲斐あってか、今では「積極的平和」とインターネットで検索すると、ガルトゥング博士の提唱する「積極的平和」に関する話題が数多くヒットするようになったといいます。

「積極的平和」の捉え方がまったく異なる方向に引っ張られそうだった瀬戸際で、クラウドファンディングを利用してガルトゥング博士を招聘したことをきっかけに、本来の意味を知らしめることができたのです。

博士が残した3つの提言とは?

さて、待望の博士の来日。「博士の来日の目的は積極的平和を軸に、具体的な3つの提言をすること」だったと関根さんはいいます。いったいどのようなことが語られたのか、ここで改めてシェアしましょう。

まずひとつめは東北アジア共同体を構築すること。中国、台湾、北朝鮮、韓国、日本、極東ロシアの6カ国で共同体をつくり、より平和なアジアを構築してはどうかという提案でした。

日本は中国と韓国との間で尖閣諸島や竹島の領土問題を抱えていますが、ひとつの土地をひとつの国が所有するのではなく、共同管理をし、領土から生じる利益は両国で40パーセントずつ分け合い、残りの20パーセントを共同体のためや環境保全のために活用してはどうかという、非常に具体的な提案でした。
 
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ガルトゥング博士来日時には講演ワークショップを開催。写真提供: Kenji Sekine

ふたつめは、日本はこれからも専守防衛に徹してはどうかという提案です。当時はまだ安保法案が成立する前だったため、自衛隊を海外に派遣するのではなく、もっぱら自国の防衛に徹するというものです。

そしてみっつめは、平和憲法である国憲法9条1項を世界中に広めようというものでした。

関根さんは、日本の未来を担う学生を対象に講演会を開催しました。すると、博士から非常にセンセーショナルなメッセージが告げられたと言います。

まず冒頭で博士はこう言いました。「日本は今後、世界の平和のためにどういう貢献ができるかについてお答えしたいと思います。

答えは非常に簡単です。失礼ですけど、今の段階では、皆さんは貢献できないと思います。(途中略)日本はアメリカの指示に従って行動している訳ですから」と言ったんです。

これは聴衆を引き込むための発言だったのですが、その真意は、日本はいまだにアメリカの影響下にあって、何を行うにもしてもアメリカの顔色を見ていると伝えたかったのでしょう。事実上日本は独立国なのだから、独立国として振る舞いなさいと、若い人に向けて力強く訴えていました。

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来日時に実現した人数限定の対話ワークショップの様子。写真提供 Kenji Sekine

再びクラウドファンディングにチャレンジ

ガルトゥング博士はこうした提言を“答え”として示したわけではありませんでした。「これはあくまでもアイデアであって、答えではない。みなさんでさらにこの考えをクリエイティブに発展させてください」とメッセージを残して帰国しました。

その後日本では安保法案が成立し、2016年の3月に施行されました。また2016年の7月には参院選を控えていました。憲法改正に前向きな与党が政権をとれば、戦争放棄をうたった9条を含めて、憲法が改正されるかもしれない。

2016年5月。関根さんは再び博士を軍拡への道を進む日本に招聘することにしました。博士が残してくれた提言を、自分たちが咀嚼し、本来の積極的平和による道へ向かうための議論を深めたい、との意図からでした。
 
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2度目に招聘した際のMotionGalleryクラウドファンディングページ。

関根さんはこの2度目の招聘でもやはりMotionGalleryのクラウドファンディングを利用し、98名のコレクターから725,005円のサポートを得て、見事に博士を再び招聘することができました。

また、来日中は博士の単独講演に加えて、リバースプロジェクト代表の伊勢谷友介さん、SEALDsの奥田愛基さんらを招いたパネルディスカッションも行われました。また東京大学の学部と院生に向けた特別講義も無償で行いました。

安保法案が施行されて、ある意味僕自身も焦りを感じていました。博士に「どうしよう、このままで大丈夫なのかな」とつい漏らしてしまったんです。

そしたら「健次、心配するな。そんな短期的に物事を考えるべきではない。私が提案しているようなことは、種をまいているようなものだけど、必ず何年か以内に芽を出して実現するだろう。重要なのは、“こう変えたいな”という未来の形のアイデアを、社会のどこかに存在させておくことなんだ」と言ったんです。

1度目のファンディングで「積極的平和」の解釈を軌道修正し、二度目ファンディングでは、専門家や学生に対してもより深い対話の場をつくることができました。

数学的な平和的解決の発想

クラウドファンディングを通じてガルトゥング博士と出会い、接する中で、関根さん自身も「積極的平和」の捉え方がより深まりました。

僕自身もそうですが、人は何かハードル(障害)があると、それを見続けてしまって、「どうにもできない」と思考が進まないことがあると思うんです。

たとえば、中国や北朝鮮を脅威と思う時も、「相手がああなんだから、軍隊を持たなくては有事にどう対応するんだ」というところで思考が止まってしまう。

でも博士は、もし何か障害があるなら、「その障害を利用してお互いの関係をよくすることはできないか」と考えるんですよ。ある意味逆転の発想です。

たとえば尖閣諸島の問題があるなら、「日中が話し合いをするチャンスじゃないか」と言う。つまり、障害をトランセンド(超越)させてしまうんです。博士にかかると、障害ですら良いものに変化させるきっかけでしかないんです。

ガルトゥング博士を形容するなら、関根さん曰く「ポジティブ・クリエイティブ・フューチャリスティック(未来思考)」。過去の出来事を蒸し返すのではなく、どうすれば関係が良くなるのかにフォーカスするのが博士流なのだそう。

博士はこれまでペルーとエクアドルの国境紛争をはじめ、世界中で国家間の紛争や宗教対立を調停してきた実績を持ち、現在も85歳にして現役。国連でも提言や政策のアドバイスも行い続けています。

博士は平和のためのクリエイティブな思考を、どのような方法で鍛えているのか、関根さんに聞いてみました。ぜひみなさんも一緒に考えてください。

たとえば、2つのオレンジがあって、それを3人で、みんながよりハッピーになるように分けるには、どうしたら良いでしょうか?

さて、簡単にも思えるこの問いかけ。あなたならどう答えますか?私は、「3人に均等になるように切り分ける」と答えました。すると、関根さんは「それって本当にクリエイティブな考え方だと思いますか?」と言いました。

オレンジを切って均等に配るという考えは、AとBという軸があって、AとBを結んだところの対角線の点に位置します。点数をつけるなら10点満点中、5点くらいでしょうか。でも、博士が目指しているのはここなんですよ。

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縦にA軸横にB軸があり、オレンジを均等に分けた場合は、その対角線上の真ん中くらいに位置するそう。博士が目指すのは赤い点の位置だと関根さんは言います。関根さんが書いてくれた図にならって、筆者が書き改めました。

博士が目指す点が想像もしていなかった高い位置にあったので、思わず「えー?!」と叫んでしまいました。一体その高みに位置するのはどんなアイデアのでしょう?

たとえば、このオレンジをジューサーにかけて、そして凍らせてアイスキャンディにしたら、みんなでおいしく食べられるんじゃないかというアイデアも考えられますよね。すると6点、7点になるかもしれません。

これは、「みんながもっと喜ぶには、どんなアイデアがあるんだろう」と考えるための超越法(トランセンド法)というトレーニングなんですよ。

平和と理想国家を求めて

本当はピンチの時こそ、最大のチャンスのはず。日本がどんどん軍拡の方向を向いている今日にも、この瞬間にも、「積極的平和」への糸口が必ずあるはずです。

関根さんは、クラウドファンディングによって“本当の”「積極的平和」の意味を多くの人と共有し、自らもより深く理解し、博士のように絶えず具体的な提案やアイデアを無数に持ち続けることを学んだと言います。

そして、今年の7月からはこれからあるべき国のモデルを求めてコスタリカに滞在しています。コスタリカは平和憲法を持ち、軍隊を持たず、米軍もいない状態で半世紀以上平和を保っている国家です。

コスタリカの人に、「外国から攻められる恐れはないのか、将来的には軍隊を持つべきだと考えないのか?」と尋ねると、全員が「軍隊を持つことは想像ができない。決してないだろう」とまったく同じ答えが帰ってくるんです。

これは軍隊がいることが当たり前の世界と、いないことが当たり前の世界の違いなんです。つまり、ここの常識は日本の非常識。ですが、そのあり得ない世界があり得ているビジョンを見せることができれば、そこを信じて目指せるんじゃないかと思うんです。

コスタリカは生物多様性が世界一ともいわれるほど、自然が豊かな国。決して経済最優先ではなく、「自然なくして人間は生きられない」という政策を打ち立てているそうです。その様子を関根さんは紹介するべく、いまは現地の暮らしを観察し、人々にインタビューする毎日を過ごしています。
 
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関根さんが今暮らしているコスタリカ北西部。 自然豊かなエリアでリラックスした毎日を過ごしているそう。

戦争や冒頭でお伝えした「構造的暴力」は、遠い国の出来事ではなく、残念ながら私たちの暮らしの延長上にあり、見えない糸でつながっています。

しかし同時に、平和を選ぶ自由も私たちは持っています。戦争やテロといった大きな出来事を前に自分ひとりではどうにもできないと思うこともあります。しかし、諦めて悲観するのも違うし、ただ「No」を叫ぶのも違う。

そんなときは、さっきのオレンジの例題を思い出してみてください。まずは身近な周囲の人を笑顔にすること、そのアイデアを絶えず無数に考え続けること、そして明確なビジョンを持つこと。

さらに、関根さんがクラウドファンディングを使って博士を招聘したように、みんなでつくる平和への道があることを、思い出してください。

– INFORMATION –

 
国際平和映画祭(UFPFF)が開催!
国際平和映画祭は毎年国連が定めたピースデー9月21日に合わせて
横浜で開催している平和がテーマの映像の祭典です。UFPFF2016は9月21日前夜祭、本イベントは9月22日夕方JICA横浜で開催します。
※チケット・詳細のリンク先はこちらの掲載をお願いします。
http://peatix.com/event/191565/view

【概要】
開催日: 2016年9月22日(木)
実施時間: 15:00 – 19:30 (開場 13:30) 懇親会19:30-21:00
会場:JICA横浜 体育館 
参加費:学生無料、一般1000円(懇親会参加者:学生2000円、一般2500円)
※なるべく事前チケット購入をお願いします。
募集人数:200人
主催:一般社団法人 国際平和映像祭
後援:JICA横浜、横浜市国際局、横浜NGO連絡会

[sponsored by MotionGallery]