ISSUE インクルーシブ

3 weeks ago - 2016.09.10

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当たり前のことが、当たり前でない人がいる。福祉やLGBTの視点で求められる“トイレ”から考える、多様性のある社会のありかた

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

“福祉”という言葉から、気づかないうちに壁のようなものを感じていることはありませんか。 例えば健常者と障がい者の接点がほとんどない現状では、特にそうかもしれません。

2013年に、意識のバリアフリーを目指す「超福祉」をテーマに掲げ、「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」がスタートしました。

福祉の概念を破る「かっこいい」「カワイイ」、刺激的なアイデアやテクノロジーに触れることのできる「超福祉展」がスタートしてから約3年。

2度の開催を実現するかたわらで、渋谷区では日本初となるLGBT(性的マイノリティ)に関するパートナー条例が成立。さらには東京都で2020年のパラリンピックに向けたキャンペーンが始まるなど、福祉に対する意識変化の機運が高まっているようにも思います。

さらに今年は、 “超福祉”の日常のためのトイレというテーマで渋谷の街を舞台にアイデアをぶつけ合う「超福祉デザインコンペティション」も開催されます。トイレはもちろん健常者、障がい者に関わらず誰もが使う場所であり、そこにはさまざまな配慮が必要とされます。

審査員のトランスジェンダー活動家の杉山文野さん、パートナー企業のTOTO株式会社の伊藤剛士さん迎義孝さん、超福祉コンペティションのディレクター及び実行委員の岡部修三さんに、 “超福祉”という観点から見るトイレについてお話を訊きました。

”超福祉”としてのトイレを考えるきっかけに

14285263_883802638388498_1224433486_o2015年の「超福祉展」では、使ってみたくなるデザイン、大きなイノベーションを期待させてくれるテクノロジーを備えた福祉機器の展示やシンポジウムのほか、タウンイベントとして折りたたみ電動カー「Luggie(ラギー)」とパーソナルモビリティ「WHILL」に乗って、渋谷の街中を回るツアーも開催されました。

村山 コンペティションをおこなうのには、どんな狙いがあったのでしょうか。

岡部さん 「超福祉展」というイベントだけではなくて、少しでも実際の社会に何か形として残していきたくて、コンペという形をとりました。

渋谷の実際の場所を対象に、アイデアやデザイン、問題解決策を提案していくことで、渋谷が福祉を超えたまちになればいいと思ったんです。主旨としては、超福祉という考え方をもとにトイレを考え直したらどうなるんだろうということですね。

特に渋谷区はLGBTに関するパートナー条例(男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)もあるので、LGBTの方々への配慮も大きなポイントとしつつ、本当の意味で多目的であり、さらには渋谷らしさ、楽しさみたいなところも含めた提案が集まるコンペになればいいなと考えています。

もちろんコンペに参加しない人でも、LGBTに対しての理解が広まるきっかけになればいいですね。
 
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超福祉コンペティションのディレクター及び「超福祉展」実行委員の岡部修三さん。upsetters architects代表。

村山 水まわりの住宅設備機器メーカーとして、LGBTの方に対する配慮の必要性についてどのようにお考えですか。

伊藤さん 一年ぐらい前、行政や設計事務所からLGBTの方へ配慮した商品開発をしてほしいという話をいただいて、それがきっかけとなりプランを考えました。

配慮の必要性は確実にあるので、既存の男女ベースのトイレで何ができるのか、メーカーとして一緒につくり出していかなければと思っています。今回のコンペでは、ぜひアイデアをということで、関わらせていただくことになりました。

トランスジェンダーにとってのトイレ問題

村山 実際に、LGBTの方が生活の中で不便と感じていらっしゃることを杉山さんにおうかがいできますか?

杉山さん 便宜上LGBTとひとくくりにされていますが、大前提として、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)はそれぞれ全然違うもので、中でもLGBとTは大きく違うんです。

LGBは好きになる対象の性がどこに向かうかということで、トランスジェンダーというのは自分の体と自分の心のこと。LGBは、言わなければ人にわからないとも言えますけど、Tは自分らしくあろうとすると見た目が変わってくるので、どこかのタイミングでカミングアウトせざるをえないんですね。

僕はトランスジェンダー特有の、いわゆる“性別の移行期”が大変でした。女性として生まれてきたけど、昔から見た目はかなりボーイッシュだったので男性と勘違いされ、女性トイレに入ると怒られたり、かと言って男性用トイレに入って、知っている人に会うと気まずかったり。

そうすると、外では極力トイレに行かないようになりますね。現実問題として、なかなかトイレに行けなくて、膀胱炎になってしまうトランスジェンダーもいるんです。
 
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トランスジェンダーの当事者として、TOKYO RAINBOW PRIDEなどさまざまな活動に携わる杉山文野さん。女性として生まれたものの、違和感を感じ、現在は男性として暮らしています。

杉山さん 今となっては、ここまで見た目が男性に移行すると女性用トイレに入るわけにはいかないので、男性用トイレに入るんですけど、立って用を足すことができないので、個室を使うんですね。

僕はオープンにしているのでいいんですけど、性別を移行したことを隠している人は、なんでいつも個室ばっかりなんだろうって思われたりしますよね。それに男性用の個室は空いていないことが多くて、なかなか入れなかったりもします。

村山 性別を移行してからも、さまざまな不便さがあると。

杉山さん ただ、男性から女性へ移行した人と、女性から男性へ移行した人ではまた違います。女性から男性に移行した僕が男性用トイレに入っていても、嫌悪感みたいなものは少ないと思うんです。

でも、男性から女性に移行した人は、本人は移行したと思っていても、見た目が移行し切れていなかったりすると、トランスジェンダーなのか、ちょっと変なおじさんなのか、非常に残念ながら見分けがつきづらいこともあったりするんです。

村山 ちなみにLGBの方の場合は、トイレの問題はないのでしょうか。

杉山さん レズビアンの方からトイレの話はあまり聞かないですけど、ゲイの方からは、カミングアウトをした途端、立ち小便器は使いづらくなると聞いたことがあります。

それまでは友だちと一緒にトイレに行っていたのに、カミングアウトした途端、「お前、俺の見るなよ」などと言われたりするそうです。ゲイに対する偏見として、いつもセックスのことを考えている人というイメージがあるんですよね。

違いに寛容で、誰もが共感・共存できるトイレって?

村山 そういった人たちにとって、どんなトイレがいいかは一概には言えないですよね。

杉山さん LGBTにもいろんな人がいるので、感じ方もそれぞれです。限られたスペース・予算の中で、LGBTのためだけに新しくトイレをつくるのは難しいことは理解しているつもりですし、僕個人としてはそこまで望んではいません。

ただ、もしできればいくつもトイレがある場所などは1カ所だけでもプレートを張り替えて男女兼用にしてもらうという工夫がいいかもしれません。使いたい人は使う、イヤな人は使わなければいいという形にすると選択肢が増え、解決される問題もあるのではないかと思います。

村山 メーカーとしては、トイレは男女で分かれていることが大前提としてあると思うのですが、いかがでしょうか?

伊藤さん LGBTの方からは話しにくいだろうと思いますけど、渋谷区など行政もそうした社会的風潮に配慮しようという動きがあり、にわかに我々にも捉えられるようになってきたのかなと思います。ひとつの大きな配慮すべき課題として出てきているのかなと。
 
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TOTO株式会社特販本部担当部長 兼 特販第一課長・伊藤剛士さん。LGBTの方々のトイレにまつわる課題をさらに知るべく、杉山さんのお話に熱心にメモをとっていました。

岡部さん 何か配慮すべきと言う社会的風潮があるけど、実際どうしていいかわからないというのが実際だと思います。トイレを分けることでLGBTへの差別を助長しかねない、ということもあります。

そもそもトイレだけを取り上げて考えるべきことではないから、そこだけにフォーカスするのではなく、もっと引いた視点で本当の意味での多目的を目指したいですね。

杉山さん 渋谷区の仮設庁舎の建設時にトイレについての相談を受けて、結果的にトイレマークにレインボーカラーを取り入れたところ、逆に炎上しちゃったことがありました。啓発の意味でいいんじゃないかと思ったんですけど、それは特別扱いじゃないかと。

ハードをどれだけ改善しても、ソフト、つまり心理面が変わっていかないと問題解決にならないし、そうした啓発的なことを実施することで変わっていくと思ったんです。トランスジェンダーの方はトイレを使いにくいという理解が生まれれば、トラブルになるようなことはないんじゃないかと、僕個人としては思っていますね。

岡部さん そこは、「超福祉展」が目指しているところと、かなり近しいところがあります。なぜ“超”という言葉を使っているか、と言うところなんですが。

福祉を超えるって、普通に考えたら変だと思うんですけど、超えなきゃいけない心のバリアがあるということを端的に示しているんです。“超福祉”という言葉がなくなったときに、本来の目的が達成できるというのが全体の主旨でもあります。

必要なのは、意識のバリアを取り除くこと

村山 今回はLGBTがフォーカスされていますが、“超福祉”に関わってくるのは、それだけではありませんよね。

伊藤さん まずはバリアフリーですよね。体が不自由な人に対する配慮から始まって、身障者トイレがつくられました。そうすると限定したトイレになってしまうので、多機能・多目的ということになってきた。

体の不自由な人、車椅子の人もほかの人と同じトイレを使うという流れで幅が広がってきて、さらにお子さま連れの人が入るトイレができるといった変遷があります。

その一方で、トイレが混んで、車椅子の人が入れないといったような状況が出ています。そこで機能分散として、いくつかの機能を従来のトイレに持っていく。ベビーチェアを個室トイレに設置するとか、入り口付近にスペースをもうけて、車椅子が通れるようにするとか。できるだけ使いやすいトイレに、というのがこれまでの流れです。

村山 確実に変わってきているわけですね。

岡部さん トイレはどんどん便利になっていると思うんですけど、究極の意味での多目的とは機能を充実させればいいということではありませんよね。特に、トランスジェンダーの方への配慮でいうと、形がどうっていうことではないと思うんです。

杉山さん トイレリテラシーという言葉が合うかわからないですけど、そういうことを共有していくことが必要だと思うんです。雑誌などにイラストと一緒に載っている「大人たばこ養成講座」ってありますよね。あんな感じで、トイレマナー10カ条とか、無理のない感じで知らせていければいいなと。ハードを変えていくより、トイレリテラシーをあげていくことのほうが解決するような気がします。

伊藤さん トイレリテラシーっていいですね(笑)

岡部さん ちなみにトイレ以外にも、不便なことや、逆に便利になったことはありますか。

杉山さん トランスジェンダーに関する理解度が上がれば楽になる部分はありますよね。トランスジェンダーは、男性女性と分けられるところはどこも不便なんです。例えば選挙のときに投票用紙を持っていくと、男女で分かれているので、ご本人さまじゃないですよねと引っかかる。でも最近は、性同一性障がいへの理解が進んできたので、少し説明すればそうなんだ、で済む話になってきました。

以前は女性じゃないと言っても見た目のために理解されなかったけど、それがだんだん説明すれば理解されるようになり、最近では言わなくても分かってもらえるようになってきました。これは認知度が高くなってきたからだと思うんです。LGBTの課題は、お金をかけてどうということではなくて、ただ単に事実としてそういう人がいると知ってもらうことで解決できることがたくさんあるんじゃないかと思います。

村山 LGBTの存在が当たり前の社会であればいいんですよね。

杉山さん “超福祉”というキーワードで言えば、知ったり、慣れたりすることで、なんてことはなくなると思うんです。僕がこうした活動を始めるきっかけは、乙武洋匡さんと出会ったことだったんですけど、最初にご飯を食べに行こうと言われたときに、やっぱりドキッとしたんです。手足のない人とご飯を食べたことないと思って。

どうやって食べるんだろうと思ったし、何か取ってあげたりしたほうがいいのかな、でもお節介かなとか。でも、慣れればどうってことはないんです。外国人とどう接していいかわからないのも、接したことがないからですよね。突き詰めると、人としてどうっていう話になっていく。

人間関係のバイアスとして、LGBTとかハンディキャップであるとか外国人とかがあるわけで、心のバリアフリーが一番の解決になりますよね。ただ、ハードを変えることによって変わる意識もあると思うんで、両輪で変えていくのが大事なんじゃないかと思います。

岡部さん そうですよね。始めは、LGBTを取り上げるのはどうかなという議論もあったんです。取り上げること自体が不自然ですから。でも、あえて取り上げることで、重要なポイントが浮き彫りになるのかなとも思いましたし、一度触れてみる、知ってみることで意識が変わると思って。僕らも含めて、何かを企画・設計する際にそういうことに触れる、そんな機会が少しでも広がっていけばいいなと思います。

村山 コンペティションに期待されていることは何ですか。

迎さん 例えば、今回実際にコンペの対象となるトイレのスペースの中には、自動販売機も設置されているんですけど、それがトイレの入りやすさにもつながるんじゃないかと思うんです。そうしたハード面のアイデアはもちろんですが、ソフト面での提案が、僕らとしては期待しているところではあります。
 
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TOTO株式会社デザイン本部デザイン第一部 デザイン主査、迎義孝さん。トイレはもちろん、汚物入れなどトイレ回りのさまざまなもののデザインを手がけています。

杉山さん 普段トイレを意識する人はあんまりいないと思うんです。でも、僕にとってトイレは、行くたびにお前は誰なんだって突きつけてくるようなものだった。だから、そういうことが少しでも伝わるだけで価値があるんじゃないかなと思います。

でも、LGBTの当事者である僕にも、車椅子の人がどんなところにハードルを感じているかは分からない。分からないこと自体がいけないというより、分かろうとする気持ちがないのは残念ですよね。その気持ちをいろんなカテゴリーを超えてお互いが共有していけたらいいなと。

多様性というのは当たり前のことだから、こういう企画が、トイレ以外のことでも考えるべきことはあるよねと思えるひとつのきっかけになればいいと思います。

岡部さん そもそも、一度気づいてしまえば、見る目が変わってくることがあるんですよね。先ほどの選挙の話がいい例だと思います。

もう少し大きな視点で考えると、新しい課題やどう考えればいいか分からないことは、社会にはたくさんあると思います。そうしたことに対面したときは、積極的に考える視点を持って、当事者として広く聞いたり考えたりして解決していけばいい。そんな、多様性についてみんなで考えるという雰囲気が広がっていってほしいです。
 

(対談ここまで)

 
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実際に、コンペにはどんなアイデアが寄せられるのでしょうか。

どんなに優れたアイデアだとしても、全ての問題を解決することはおそらくできないはずです。それはLGBTの方しかり、障がい者しかり、またそれ以外の既存のトイレに不自由を感じている方しかり。けれども、このコンペをきっかけに、ひとりでも多くの人が、多様な人がトイレを使うという事実に想像を巡らせてみることで、新たな気づきがあるのではないでしょうか。

超福祉デザインコンペティションの詳細は、こちら!
超福祉デザインコンペティション

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村山幸

村山幸

greenz シニアライター 1973年京都生まれ。ライター。雑誌やWEBでインタビューを数多く手がけています。 人権問題に特に関心があり、誰もが自由に自分らしく生きられる世界に少しでも近づくように、小さなアンテナを広げ中。

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