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震災後の今だからこそ、伝統文化から学ぶことがある。グリーンズスタッフが「でんみら」主催のワークショップに参加してきました!

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いま注目の「谷根千(*)」エリアのとあるカフェ。昨年から「グリーンズの学校」の事務局スタッフとして働いているQちゃんこと高橋奈保子さんは、つい数日前の出来事をぼんやり思い出していました。

それは、最近、おばあちゃんから譲り受けた着物の手入れをはじめた母が、手際よく着付けをすませうれしそうにでかけていく様子のこと。和装は素敵だと思うけれど、なんだか準備が面倒くさそう。母を見送ったあと、そんな風に感じていたことをです。

(*)東京文京区から台東区にある「谷中・根津・千駄木」界隈のこと。いまなお残る下町の風情に注目が集まり人気のスポットとなっている。

greenz.jp編集部からの依頼を受けて、これからQちゃんは「でんみら」が主催する「つまみ簪(かんざし)」づくりのワークショップに参加するところです。正直それほど興味があるわけではなかったけれど、最近伸ばしはじめた髪も浴衣を着る頃には髪飾りが似合う長さになっているかも・・・。そんな軽い気持ちで行くことにしたのでした。

「つまみ細工」って?それは繊細な作業を繰り返すこと

あでやかな舞妓さんの髪にしゃらりと揺れる「つまみ簪(かんざし)」。そのもとになる「つまみ細工」は、江戸時代から伝わる技術で東京都の伝統工芸に指定されています。
 
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つまみ細工の魅力は、「布」でしか表現できない繊細な動きと美しさ

正方形に小さく切った「羽二重」とよばれる薄い絹布を、ピンセットでつまみ花びらのような形にし、ふたたびつまんで形を整え、台紙にのり付けしていく。これを繰り返し行うシンプルな製法が特徴です。

舞妓さんでなくとも、晴れ着に身を包み、華やかなかんざしで髪を飾るという風景はほとんどみられなくなりました。つまみかんざしの需要は減り、いまや七五三向けの出荷がほとんどであるのが実情だそうです。
 

形づくった布をひとつひとつ、糊のついた「のり台」にならべていきます

さてここで、ワークショップに参加しているQちゃんの様子をのぞいてみましょう。「ひー、えーっ」。その細かい作業に最初こそ悲鳴をあげていたものの、徐々にその面白さにのめり込んでいった様子。

この日は、東京都指定伝統工芸 江戸つまみかんざし振興会所属の穂積実(ほずみ・みのる)先生が講師であること、またテーブルごとにアシスタントがつきていねいに教えてくださったので、すぐにコツをつかむことができました。
 

時間を忘れて没頭する、「グリーンズの学校」スタッフQちゃんこと高橋さん

小さな布を三角に折ってつまみ、つまんでは引きだす。花びらをふわっとさせるも、きりっとさせるも、すべてはつまみ具合ひとつです。何色もある布から、自分ごのみの配色を考えるのも楽しい作業。もとはデザインを学び、手仕事に対する素地があった彼女ですから、当然の流れだったかもしれません。

2時間半のワークショップが終わる頃には、やり遂げたことへの爽快感とともに、意識の変化を感じている様子のQちゃん。というのも、つまみ細工に集中していた時間は、悩みごとや日常の細々したことを忘れ去り、目の前のただひとつのことに没頭していたというのです。それは最近わすれかけていた感覚だったといいます。

敷居が高いと感じていた伝統文化でしたが、いざ体験してみると、とても効率的にものづくりが行われていることや、限定された素材でいかに美しいものをつくり出すかの工夫がなされていることを、再発見する機会になったのだそう。

Qちゃん ちょっと深呼吸すれば、伝統文化って気軽に取り込めるものなのかも。洋服を着るとか髪の毛を整えるとか、たぶん普段の生活のどこにあってもすべてに当てはまることなんだと思います。そんなことを感じている自分がいることが、目からウロコです。

できあがったのは、思わず歓声をあげてしまいそうな髪飾りとヘアピン。どちらもこの夏、浴衣を引き立ててくれることまちがいなし。伝統文化を日常にプラスすることって、どうやら思っていたほどむずかしいことではなかったようです。
 
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Qちゃんがつくった髪飾り。大きいほうは先生にお手伝いいただきました

伝統と未来がひとつになる。その先にあるものとは?

今回、Qちゃんが参加したワークショップを切り盛りしたのは、「グリーンズの学校」の前身「green school Tokyo」の卒業生、下藤(しもふじ)裕子さんと、「でんみら」メンバーのみなさん。下藤さんは、日々の暮らしに伝統文化を取り入れる人を増やしたいという思いで、「日本伝統文化未来考案室」、通称「でんみら」の活動に取り組んでいます。

“伝統は、だれかがずっと守ってきた、大切な「想い」。
未来は、いまを生きる私たちの、こうなったらいいなという、「願い」”

「でんとう=想い」と「みらい=願い」、このふたつをつないでいくこと、それが「でんみら」の活動の原点なのだと、下藤さんは説明してくれました。

これまで開催したワークショップは、その数ざっと42(2016年7月現在)。浪曲、和菓子づくり、味噌づくり、うちわづくり、祭りばやし体験に手すき和紙づくり、などなど、座学と体験がかならずセットになっており、そのラインナップはおどろくほど多様。そして何より、子どもから大人まで、どんな伝統文化も1日でその体験を持ち帰ることができるのが大きな特徴です。

その一部をここでご紹介いたしましょう。

和菓子づくり

 
甘いものに目がないという方にオススメなのが、和菓子づくりのワークショップ。御菓子司(おんかしつかさ・宮中などに納品する、格式の高いお菓子屋さんのこと)の職人さんを招いて、定番型2種と創作和菓子5種をつくるという大充実の内容(注:回によって数や内容はことなります)です。伝統と自由な発想が絡み合うほかではできない体験となります。
 
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季節と食

 
「でんみら」が大切にしているテーマのひとつに、季節と食の関係があります。『水都(すいと)江戸の暮らしから知る「旬活」レシピ』では、その時々の「旬」食材を日々の食事に取り入れていく方法を知り、その場で食することができます。
講師は、フード業界の第一線で活躍する方ですので、とてもわかりやすく実際的。その日から日常に取り入れることができるものばかりです。
 
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盆栽

 
1900年のパリ万博で世界にはじめて紹介されてから、いまや世界の共通語となっている「BONSAI」。小さな鉢のなかで自然を表現するというその芸術性は、ヨーロッパを中心に近年ますます注目を浴びています。

「でんみら」でも、『苔が織りなす日本の盆景美を堪能 オリジナル苔庭づくり』や『まぁるい盆栽を愛でる!?苔玉づくり』など、これまで苔や盆栽づくりをテーマとしたワークショップが開催されてきました。ことし秋にも企画されています。なぜいま盆栽が海外から注目されるのか、その答えを自身の五感で確かめてみてください。
 
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伝統文化の発達と、困難を乗り越えるということ

下藤さんは、グリーンズの学校(旧green school Tokyo)の卒業生。生まれ育った街を題材とした、コミュニティデザインについての講座があるよ、と聞いて興味を持ち、スクールに参加することにしたのです。講座を通して得たたくさんの出会い、アドバイスをもらったり、人の紹介を受けたり、変わらず応援してくれるたくさんの人びと、スクールには心から感謝しているといいます。

卒業後にたちあげたのが「でんみら」。そのきっかけはどのようなものだったのでしょうか。日本文化に興味を持ち、日本伝統文化コーディネーター講座を受講していた下藤さん、ちょうどそのころあの東日本大震災が発生しました。

下藤さん 自然豊かな国土に生きるものとして、震災と対峙することを避けては通れないのが私たち日本人。

先人たちはこれをどのように乗り越えてきたのかというと、そこには伝統文化がありました。民俗芸能、工芸、祭り、それらを暮らしのなかの喜び、生きる糧とすることで人びとはつらい災害を乗り越えてきたのです。

耐え忍ぶのではなく、目の前の困難を乗り越えるために、工芸や伝統芸能が発達した。だからこそ、私たちはいまこの時にあってこうしたことを学ばなければいけない。

もともと日本の伝統文化に関心をもち、コーディネーターとなるべく講座で学んでいた下藤さんのこころに、講師の先生が語ったこの言葉が響きました。その成り立ちから地理歴史、文化史にいたるまで幅広く学ぶことにより、なぜ伝統文化に触れることがいま私たちに必要なのか? その答えを、身をもって知ることになったといいます。

被災地のみならず列島全土がうちひしがれている時だからこそ、伝統文化として受け継がれてきた知恵と工夫を知ることが必要。これを広める決意をかため、知人であった、三隅さん、河合さん、森場さんらと、2013年12月、「日本伝統文化未来考案室」を立ち上げます。

いざはじめてみると、企画、講師や会場の手配、集客、参加費の集金、当日の司会、後かたづけまで、ワークショップ運営は想像以上に困難の連続でした。

「でんみら」の知名度がないことから、断られることもしばしば。そんな下藤さんたちを支えたのは、「職人さんが未来へつなごうとしているものをひとりでも多くの人へ」というただひとつの思いでした。

春がきてゆっくりと雪がとけていくように、昨年末あたりからこれまでやってきたことへの手応えを感じるようになってきました、と下藤さん。「でんみら? 聞いたことがある」「あ、知ってるよ」という人に出会うようになり、ワークショップの参加者が増え、予約のうまるスピードがぐんと早くなってきたのだそうです。

下藤さん ハンドメイド作家さんが、伝統の技術を体験したいと参加することも多く、まるで、伝統技術のバトンを受け渡していくようです。そして、各所からお声がけもいただくことも増えてきています。

大きな資本や後ろ盾のないなかここまでやってこられたのは、コツコツと小さな種まきを怠らなかったからこそ。人々の関心が高まっていることを肌で感じるようになった今もそしてこれからも、その手をゆるめることはありません。
 

この日、Qちゃんが受けたワークショップの講師、穂積実(ほずみ・みのる)先生と下藤さん。職人さんたちの思いをつなぎたい、その気持ちが企画するすべてのワークショップの原点です

下藤さん 「でんみら」のロゴマークは、「伝統」の帆を掲げ「未来」に向かって進む月の船を表しています。それはメンバー全員の想いです。今後は、外国のかたに向けた講座も開催していきたいですね。

と、その未来はすでに具体的な青写真に。船のスピードは決してはやくはないかもしれませんが、確実に前へ前へと進んでいきます。
 

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毎日をもっと豊かにするには? そう聞かれたらみなさんはどんなことを考えますか。

ちょっと想像してみてください、現代の暮らしからは想像もできないほど何もなかった時代、先人たちはどんな風に日々を豊かに、どんなことに喜びを見出してきたのでしょう。もしかしたらそれは思いのほかシンプルで簡単なことかもしれません。

誰かがつないできた大切な「想い」に、こうなったらいいなという自分の「ねがい」をプラスしてみる、「でんみら」がワークショップを通して伝えていることのようにです。

今後もさまざまなワークショップが企画開催されます。日常に伝統というエッセンスをちょっとプラスするという体験、これならやってみたい、面白そう、どんな動機だってOK!そこからそれぞれの未来につながる何かがきっと見つかるはずです。
 

「でんみら」 日本伝統文化未来考案室 
【HP】
http://denmira.jp/
【facebook】
https://www.facebook.com/denmira.jp/
【blog】
http://denmira.jugem.jp/
【「でんみら」select shop 和傳十色屋】
https://waden10iroya.stores.jp/

– 8月のワークショップ –
■ 江戸つまみかんざし職人に習う
<福つまみ>でつくる体験講座〜季節の髪飾り

【日時】
8月27日(土)AMの部09:30~12:00/PMの部 13:30~16:00
【参加費(材料費込)】
5,400円/人
【場所】
かっぱ橋道具街 はし藤本店2F
【申込み&詳細】
Peatixより事前申し込み

AMの部  http://edoart0827am.peatix.com
PMの部  http://edoart0827pm.peatix.com