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「飽きたらいなくなるって言ってますよ」。人口3万人の徳島県三好市に移住して映画館をつくった西崎健人さんに、「地域で活動することのリアル」を聞きました!

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

2000年代に入ってから、地域おこしは一種のブームとなっています。あちこちの成功事例にスポットライトが当たるにつれて、「自分も田舎に移住して地域に根ざした活動をしたい」と志す人も増えました。

ただその分、「希望に胸を膨らませて地域に入ったけれど、現実は思い描いていたのと全然違った」という話を耳にするようになったのも事実です。地域での活動には特有の難しさがあるもの。しかし、その多くが人間関係にまつわるものなので、具体的な内容が公の場に出てくることはあまりありません。

問題も解決策も共有されず、世に出るのは成功事例だけ。だからあちこちで同じような失敗が繰り返されるのでしょう。現実を知らないまま若者が地域に入っていくのは、地域にとっても若者にとっても不幸なことなのではないかと思います。

そうした問題意識を持っていたところ、2013年に東京から徳島県に移住した友人の西崎健人さんが、地域の遊休不動産を使ってワーキングスペースやカフェバー、映画館などをつくり、順調に事業を広げていることを知りました。それも、とっても楽しそうに。

「地域で事業を興すって実際どうなの?」「失敗する人も多い中で、どうして上手くいっているの?」——そんな率直な質問を投げかけるべく、徳島県の西端にある三好市池田町を訪れました。
 
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やりたいのは、“ヒト・モノ・カネの往来を増やす”こと

まずは西崎さんが現在行っている活動を紹介しましょう。

ひとつが、「heso camp」というワーキングスペースの運営。徳島県は企業のサテライトオフィス誘致に力を入れています。ただ、企業側としては見知らぬ土地にいきなりオフィスを開設するのはハードルが高いもの。「heso camp」は、短期利用して「業務に支障が出ないか」「地域と合うか」を確認できるお試しワーキングスペースです。

よく聞く“地域あるある話”に「空き家はあるけれど移住者には貸してくれない」というものがありますが、この物件はひょんな縁から借りられることになったといいます。

友人が飲食店で昼ごはんを食べているときに、僕のことを「こういう場をつくりたいと言っている奴がいて…」と話していたら、たまたま隣に座っていた知り合いが「それならうちの実家が空いているよ」と言ってくれたんですよ。

その方のご両親とお話したら、「地域のためになる場をつくるのなら」と貸してもらえることになりました。僕はその2階に住まわせてもらっています。

まだウェブサイト等はないものの、口コミだけでも多くの問い合わせがあるそう。企業の研修所としても使われています。
 
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次に手がけた「heso salon」は、夜だけ営業するカフェバー。ひとりでも気軽に入ることができお酒や料理を楽しめる、居酒屋とスナックの中間のようなお店です。
 
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イベントを開くことも多いという「heso salon」。この物件も知人から借りたそう。

三好で数ヶ月暮らして、「若い人は意外といるな、でもコミュニティが異なる人と出会う場所がないな」と感じたんです。

きっかけさえつくれば若者同士がつながって面白いことが始まるかもしれない。そう考えてお店を始めたんですが、実際に来るのはおじさんが多くて。でも、結果的にはそれがよかったと思います。

20〜30代、40〜50代と今まで交わらなかった世代間の交流が生まれて、新しい動きが起こったんですよ。

そのひとつが廃校を使った婚活イベント。朝礼から始まり、家庭科の授業でチョコレートをつくり、体育館でスポーツをするなど、1日かけて参加者同士の親睦を深めるプログラムです。初回は40人が参加し、好評だったため翌年も開催しました。
 
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イベントでは西崎さんが校長となり、朝礼を行いました

そして2015年12月には、映画館「やぎう坐」をオープンしました。ここは、四国に縁のある作品や、大きな映画館では上映されないような作品の自主上映会を行う場所です。スペースは時間貸しもしていて、仲間内の上映会や映像機能を活かしたワークショップを開くことができます。
 
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「heso salon」の常連さんから、「うちの倉庫が空いているから何か使ってよ」と言われたんですよ。

三好は少しずつ移住者が増えてきていて、ゲストハウスやカフェはちょこちょこできています。いま足りないのはエンターテインメント、遊ぶところ。「池田には昔、映画館がふたつあった」という話を聞き、映画館を復活させようと思いました。

コストを抑えるため、改装は自分たちで手がけました。隠れた狙いは、作業を通じて自然な形で地元の人とI・Uターン者の交流を生むこと。東京で知り合ったバッタネイションというデザイナーに素人でもできる内装や施行方法を考えてもらいました。オープンまでに50人前後がDIYを楽しみ、新たなコミュニティができたといいます。
 
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酒蔵が3つある三好市。その地域性を出すため、元々倉庫にあったビールケースをインテリアとしてあちこちに使いました。

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壁に貼ったのはなんとアルミホイル! 施行は簡単なのに、独特のお洒落さがあります。

映画館には雑貨店も併設しています。扱うのは、“池田町の人が誰かに贈りものをするときに買えるちょっと気の効いたもの”と、“映画館に来た県外の人がお土産として購入する徳島のもの”。徳島県の食材をPRする事業を請け負っているため、展示販売の場も兼ねているそう。
 
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ここでもビールケースが大活躍! こうして展示されると、ビールケースがお洒落に見えてくるから不思議です。

この3つは池田町を拠点として行っている事業ですが、西崎さんは「一般社団法人ハンモサーフィン協会」「Ma-tourism(マツリズム)」という団体を仲間と立ち上げ、日本各地を飛び回っています。

前者は全国各地の空き家をDIYして別荘に変え、みんなで共有しようというもの。年会費を払い会員になれば、好きなときに好きな地域の別荘を借りられるという仕組みです。

後者は担い手不足に悩む全国の祭と、地域独特の伝統文化を体験したい国内外の人をつなげるツアー企画。参加費を払うと、地域の祭に準備段階から入って交流することができます。

このふたつを組み合わせ、「地方と地方」「地方と海外」をつなげることをしたいと西崎さんは話します。
 
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ハンモサーフィンの拠点のひとつ

どの活動にも、根底には「ヒト・モノ・カネの往来を増やしたい」という想いがあるんです。往来が増えると、今まで見たことがない価値観に触れる機会が増えますよね。それによって多様な価値観を受け入れられるようになる。

僕は子どもの頃、考古学者になりたかったけど、恥ずかしくて言えなかったんです。それは自分がおちゃらけキャラで真面目なことを言うのが照れくさかったというのもあるけど、狭い世界にいると周囲と違うことを言いづらいじゃないですか。だから、子どもが胸を張って自分の夢を言えるような、多様な価値観を認める社会になるといいなと思っています。

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「こういうこと言うとすごくソーシャルな人に見えそうで嫌なんだけど」と渋りつつも想いを語ってくれた西崎さん

田舎は何もないから、自分でつくる楽しみがある

西崎さんは三好に来る前、東京のコンサルティング会社に所属していました。そもそもなぜ、地域に関心を持つようになったのでしょう?

大学では考古学を専攻していて、その派生で都市論や建築など幅広く学ぶうちに、地域の歴史や伝統・文化を切り口にしたビジネスをしたいと思うようになりました。

コンサル会社に入ったのはビジネスの基礎を学ぶためです。その会社は千葉に畑を持って六次産業化に挑戦しているユニークな会社で、畑を耕して農産物を加工して販売して、と一通り実践しました。

3年働いて独立するタイミングで、縁あって三好へ行くことに。今まで訪れたこともなければ事前知識もほぼないという状態でしたが、「東京でコンサル的に地域と関わるよりも、地域に入って活動したい」という気持ちが強かったため、とにかく移住することにしたといいます。そこからひとつずつ事業を立ち上げていきました。

東京には面白いものが溢れているけど、地方は何もないってよく言われますよね。でも、それが楽しいんですよ。何もないから、自分でつくる楽しみがある。何もないから、じゃあ映画館をつくろう、じゃあイベントを開こう、という工夫が生まれる。それがこっちに来て一番の気づきでした。

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東京では陽気な性格で周囲から可愛がられていた西崎さん。「やぎう坐」の改装に掛かった費用約100万円は大家さんがハーレーダビットソンを売って捻出してくれたと聞き、人徳だなぁと感じました。

ただ、今までなかったということは、“人口が少ないからビジネスとして成り立たない”など何らかの理由があるのではないでしょうか。ましてや、三好市は高齢化が急速に進み、「クローズアップ現代」で消滅都市として取り上げられたこともあるほどの自治体です。

確かに、人口3万人弱のまちで映画館を運営するというと、難しいと思うかもしれません。

でも、今の時代、流れは地方に来ているでしょう。地方に興味を持つ人が増えているし、面白い場所をつくれば遠くからでも来てくれる。ニーズはあるし、やっていけると踏んでいます。それに、都会に比べて家賃などあらゆる経費が安く済むので、起業のハードルは低いんですよ。

実際、どの事業もちゃんと黒字になっているそう。そうした実績を買われ、西崎さんは徳島大学と徳島新聞が共同主催する「スモールビジネス開発室」のコーディネーターも担当しています。コンサル時代に培った事業の組み立て方やマーケティングの方法といったビジネスの基礎を元に、それらを地域で行う場合のノウハウを伝えているとか。

僕がやっていることは“地域活性化”と呼ばれることもあるけど、僕自身は「金儲けしたい」と思っているんですよ。継続しないとひとりよがりになってしまうし、継続するには経済性が必要でしょう。

「三好の課題を解決する」というとソーシャルに聞こえるかもしれないけど、課題に対してソリューションやサービスを提案して対価をもらうって、ビジネスの基本じゃないですか。その課題がたまたま地域や社会の課題だったというだけで。

あまのじゃくだから“地位活性化”とか言いたくない、というのもあるけど、ちゃんと儲けて次の事業に投資するという循環をつくりたいと思っています。

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2階建ての古民家の1階が「heso salon」。いい雰囲気です!

でも、そういった仕事をしていると、地域で活動したいと思っている移住希望者から相談を受けることも多いのではないでしょうか。冒頭に挙げた「思い切って移住したものの想像と違って悩む若者が増えていること」について、西崎さんはどう思うか聞いてみました。

地域が今抱えている課題って日本の先進課題ですよね。厳しいことを言うと、ふわっとした憧れや、「都会でうまくいかなかったから地域で何かしたい」という考えで移住した人がその課題を解決するのは無理じゃないかと思うんですよ。だって一番難しい課題なんだから。

僕がそれをできているかというのは置いておいて、「地域の課題を解決するのは難しいことだ」というのは確かだと思います。

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ただ、地域に入るなら必ず起業家にならなければいけないというわけではありません。起業家を支える人やフォロワーがいるから地域は盛り上がっていくもの。だから、自分で率先して何かを立ち上げるのに向いていないと思ったなら、サポートの役割を担えばいい。西崎さんはそう続けます。

自分に合う地域、合わない地域ってあるから、とりあえず来てみるのも大事だと思います。よく「地域で活動するなら骨を埋める覚悟で」とか言うけど、「一週間いて合わなそうだったら帰る」位の気軽さで移住してもいいんじゃないでしょうか。

僕も三好に来るときは住むところも決まっていないまま車1台で来たし、今でも周囲の人には「飽きたらいなくなります」って言っていますよ。

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「やぎう坐」のスタッフ、内田さんと。

「地域のために活動したい」という言葉は、元々そこに住んでいる人には傲慢に聞こえることもあるもの。そのすれ違いはやがて、「地域のために」を「地域のせいで」に変えてしまうかもしれません。

自分がやりたいことをやるために、地域という舞台を使わせてもらう。地元の人に過度な期待をさせるようなことは言わず、失敗してもしも誰かに迷惑をかけたなら謝る。けれど過度に負い目を感じる必要はない。それ位の意識がちょうどいいのではないでしょうか。

地域にはまだまだ光の当たっていない未利用資源や、解決してくれる人を求めている課題がたくさんあることも事実です。決して容易いことではないと肝に命じつつ、しっかりとビジネス感覚を持って取り組めば、自分にも地域にも大きなメリットが生まれるはず。

今、あちこちの地域でツアーやお試し移住などが行われています。メディアで語られる成功事例を鵜呑みにしないで(と、メディアが言うのもなんですが)、そうした制度を上手に使って地域に入り、自分と合うかどうかを確かめてみてはいかがでしょう。

不要なすれ違いがなくなり、地域との間に健やかな関係を育める人が増えることを願っています。