ISSUE まちづくり

6 months ago - 2016.05.20

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無駄な演出はいらない。必要なのは人々が暮らし、力づよく生きている姿を伝えること。鹿児島県垂水市の魅力をじんわりと伝える観光PR動画 『BLESSING -LIFE IN TARUMIZU-』

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今回の記事の舞台は、鹿児島県垂水(たるみず)市。その字にあらわれている通り、シラス台地より水晶のような清らかな水が湧いていて、「垂る水」が語源になったとも、山海の恵みが足り満ちていたので「タリミチ」が転じたとも言われています。

都会のようなエンターテインメントや刺激や便利さはなくとも、自然豊かで穏やかな時間が心を癒やしてくれる、そんな街。

けれど、同じような魅力をもった地域は全国にたくさんありますし、それを街のアイデンティティとするにはちょっと弱い。鹿児島出身・在住の私としても、垂水は“ありふれた田舎”という印象でした。

この動画を観るまでは。
 
『BLESSING -LIFE IN TARUMIZU-』

観光地がほとんど映らない観光PR動画

垂水市水産商工観光課が地元制作会社に依頼し、今年5月に公開されたこの動画『BLESSING -LIFE IN TARUMIZU-』。

観光プロモーション動画といえば、観光スポットやご当地グルメをまとめたものが主流ですよね? 最近では奇抜なアイデアが光るものや映像美で魅せるものも増えてきましたが、『BLESSING -LIFE IN TARUMIZU-』は、そのどれとも違うんです。

その違いとは。まずこの動画には、観光地や観光大使、そしてマスコットキャラクターさえも登場しません。主題となるのは、垂水市内で地に足をつけて生活する4人の人物です。

まだ夜も明けきらぬ牧場で牛の世話を始める、和牛肥育にひたむきに取り組む牧場主。さつま芋の栽培にも取り組む焼酎蔵の若き4代目。伝統工芸品「薩摩ボタン」を現代に復活させた絵付師。そして、良質な漁場である錦江湾で垂水市のブランドカンパチを養殖する漁師。動画では、この4人のそれぞれの日常が淡々と描かれます。
 
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『BLESSING -LIFE IN TARUMIZU-』のワンシーン。薩摩ボタンの絵付けに取り組む室田志保さん

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鹿児島のシンボル・桜島の目の前で、カンパチの養殖は行われています。

ありふれているようで、けれど垂水でしか見ることのできない営み。歴史と文化、自然の恩恵を受け、自分の生業を定め、実直に暮らす4人の表情・言葉にはある種のドラマティックさがあり、胸を打ちます。

途中差し込まれる風景も特別なものではないけれど、美しく力強く、4人の生き方の正しさを裏付けるようです。

垂水の観光スポットは覚えることはできないけれど、この地域の美しさを存分に伝える動画。垂水についてもっと知りたいと思わせる、観光プロモーションとして十分なパワーを持っています。

“視点の切り替え”で要素を削ぎ落とす

とはいえ、よく目にする観光プロモーション動画とは全く毛色の違う、観光地がほとんど紹介されないという内容。なぜ、このような切り口で制作が行われたのでしょうか? そして、そもそもなぜ、動画だったのでしょう?

プロジェクトを牽引した垂水市水産商工観光課・大薗俊一さんは、そこには海外観光客誘致のための“視点の切り替え”があったと話します。

大薗さん 国内はもちろん、海外の方にも垂水の魅力を知ってもらいたい。このプロジェクトの発端は、そんな思いにありました。

海外の方に見ていただくのであれば、メッセージを直感的に伝えられる動画にするべきだろうと。今は拡散力のある世界規模の動画配信サービスもありますし、このような内容にすれば、より多くの方に見ていただけるのでは、という考えもありました。

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垂水市水産商工観光課・大薗俊一さん。垂水のアピールのため奔走されています。

そして海外の目を意識すると、要素も削ぎ落とせることに気づいたと、大薗さんは言います。

大薗さん 観光地を紹介するナレーションもテロップも要らない。細かな情報はこちらが伝えたいだけで、受け手にはあまり重要じゃないのではと思ったんです。逆の立場になって考えれば、異国に求めるのは自国では得られない感動。そう考えたとき、短い時間でいかに映像世界に引き込むかが大切なんだと気付きました。

肝心の内容・構成については、プロにご助力いただきましたが。こればっかりは素人なので(笑)

海外を意識した垂水の魅力は、日本人が忘れていた魅力でもあった

大薗さんが“プロ”と呼ぶのは、鹿児島出身・在住のフォトグラファー島崎智成さん。鹿児島の制作会社に所属し、コマーシャル・フォトから地元アーティストのMVまで幅広く手がけています。

大薗さんを含む垂水市側との打ち合わせを重ねる中で、島崎さんはテーマを絞り込んでいきました。垂水市の持つ“感動”を映像化する。そう考えたとき行き着いたのが、“人”と“風景”という2つのテーマでした。

島崎さん 海外の方を意識したときに、国や人種を問わず根源的に美しいと思えるものを題材にしたいと思いました。一方で、垂水の独自性も表現したい。大薗さんらと話す中で見えてきたのが“人”だったんです。垂水には、地域の風土を受け入れ、共に生きる人がいる。その姿は唯一無二であり、同時に誰しもを感動させられる力があります。

そして、それを補足するファクターとして“風景”も重要でした。垂水市は西側が海に面しており、東側には山が連なる自然が豊かな場所。この環境を大切に守ってきたからこそ、今回撮影した4人のような生き方ができるんです。

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フォトグラファー島崎智成さん(右)。一眼レフカメラでの動画制作に取り組んでいます。

かくして、海外観光客誘致を目的に制作された1本の動画。ですが、日本人の私たちが観ても十分に心動かされます。それは、薄れゆく日本の原風景を彷彿とさせるからかもしれません。

選択肢ばかりが潤沢にある都会とは違う、その地域に根ざした仕事に誇りを持って暮らすという生き方。その姿こそ、地方が日本に、海外に向けてアピールするべきものではないでしょうか。

島崎さんは話します。

島崎さん 近年は、県や市町村の観光プロモーション動画が非常に増えており、そのクオリティも高くなっています。そして、インパクトのある映像やコンセプトで興味を引き付ける作品も多い。観てもらうためには当然のことですが、今回はそれをしませんでした。

なぜかというと、垂水市の動画は一時的な盛り上がりではなく、長期間、何度も観れて、じんわりと心に響くものにしたかったからです。制作サイドの伝えたいことより、まずは「なんか良いな」って、そう感じてもらえたらうれしいですね。

『BLESSING -LIFE IN TARUMIZU-』は、地方に生きる人の日常の美しさと、その可能性を感じさせてくれます。

旅の目的地としての新しい魅力つくりに挑戦したこの動画は、まだ公開されたばかり。国内、そして海外の方が見たとき、どのような反応が返ってくるのか?ひとりの鹿児島県民として、私もとても楽しみです。機会があれば、実際の垂水市もぜひ訪れてみてくださいね。

(Text: 塚本靖己)

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