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「D&DEPARTMENT HOKKAIDO」は公民館をめざす?暮らしかた冒険家が聞く、クリエイティブオフィス&カフェ&雑貨屋の先にある札幌の未来

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。

greenz.jpでも度々登場する、高品質低空飛行生活をモットーに結婚式や新婚旅行、住居などの「これからのあたりまえ」を模索する、ウェブディベロッパーの池田秀紀と写真家の伊藤菜衣子による夫婦ユニット「暮らしかた冒険家」が、エネルギーの自給の先にある、暮らしかたを、考えます。エネルギーも、インフラも、人間関係も、どんなつながりをつくるのかを考えるオフグリッドライフな対談シリーズ。
 
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「暮らしかた冒険家」池田秀紀さん(以下愛称ジョニー)・伊藤菜衣子さん
ウェブディベロッパーの池田秀紀と写真家の伊藤菜衣子による夫婦ユニット。高品質低空飛行生活をモットーに結婚式や新婚旅行、住居などの「これからのあたりまえ」を模索中。 100万人のキャンドルナイト、坂本龍一氏のソーシャルプロジェクトなどのムーブメント作りのためのウェブサイトやメインビジュアルの制作、ソーシャルメディアを使った広告展開などを手がける。

札幌の超絶イケてるクリエイティブオフィス「3KG」を率いる佐々木信さん(本人は、いちデザイナーです。と謙遜してるけど)は「D&DEPARTMENT HOKKAIDO by 3KG」のオーナーでもある。

道立近代美術館や、ステキなカフェやレストランが立ち並び、札幌で一番カルチャーな香りのする「西18丁目」駅近くにオフィス兼店舗を構え、今年で9年目。暮らしかた冒険家もお世話になりっぱなしな信さんが、最近「公民館」をキーワードに、いろいろ企画しているらしい。ということで、札幌のワクワクする未来を一緒に想像してきました。

東京は見ない。札幌から世界へ。

菜衣子 信さんの初期の仕事で「Hi Hi Puffy AmiYumi」 のキャンペーン映像の制作がありますけど、あれ、すごいことですよね?

信さん うん、PUFFYはすごいことだと思う(笑) ご本人たちには、なんだこいつって思われたと思うけど。だって、アメリカの会社から雇われて来たのが、日本人でなんだか頼りないんだから(笑) いや、本当に大変だった。
 
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佐々木信(ささき・しん)
3KG代表。D&DEPARTMENT HOKKAIDOオーナー。1974年北海道生まれ。2001年3KGを設立。札幌市交通局のICカードSAPICAのデザインや、笑顔をテーマにした札幌市のブランディング「SAPP‿RO」のほか、AIR DOのマスコット「ベアドゥ」のデザインなどを手がける。’07年にD&DEPARTMENT PROJECT 最初のフランチャイズ店となる北海道店をオープン。’08年に松屋銀座で開催されたデザイン物産展 NIPPON では iPod touch を使ったガイダンスを制作。’09年には d design travelの創刊号となる北海道号の制作に携わるなど、店舗とデザインの両面からD&DEPARTMENTとの関係を強めた。街をキャンパスに学びの場を提供するシブヤ大学の姉妹校である、特定非営利活動法人 札幌オオドオリ大学理事。

菜衣子 すごそうですね…。でも、どうしてそんなことに?

信さん あのプロジェクトは、世界各地のデザイナーに声がかかったコンペで、僕らはその中の1組。

とにかくスケジュールがめちゃくちゃで。たぶん、いろいろなデザイナーに打診したけど直前まで決まらず、流れ流れて、僕たちのところに話が来たときはもうプレゼンは明後日(笑) それは無理でしょうというか、もう、できることは限られているから、ダメ元でプレゼンしてみたら、通っちゃった(笑)

当時製作中だったPUFFYの二人のアニメーションと、二人のブルーバックの実写と、モーショングラフィックスと、ライブ映像を組み合わせてつくったんだけど、技術的にやったことのないことが多すぎた。

電話会議は時差があるから深夜か早朝で、しかも英語だったし、数千万円規模の仕事を受けたのは初めてだったから、与えられた予算の使い方がわからなくて、上手に使えない。本来は20人位のチームを組むことが前提の予算なのに、お金の使い方がわかってなかったからそれを5人でやっていて。もう寝なくても時間が足りなかった。僕のデザイナー歴の中でも最も大変な仕事のひとつかな。

菜衣子 信さんは海外の仕事が多いけど、どうやったら、そんな仕事が来るんですか?

信さん 今はそんなことないけど、確かに昔は多かった。僕らがデザインを始めた頃、ちょうどインターネットが盛り上がり始めていて。ウェブでいろいろ発信していたら、海外から連絡が来るようになった。

海外では法人だとか個人だとか、実績があるとか無いとかは関係ないから、ときどき実力以上の仕事が入ってきてたんだよね。

菜衣子 何年前くらいの話ですか?

信さん 僕が20代半ばくらいのころだから15年以上前かな。インターネットが、それまでの秩序や順番をどんどん組み替えていた。僕たちでいいんですか?という予想外の仕事がたくさん入ってきたよ。

菜衣子 札幌にいながらですよね?

信さん そうだね。札幌にいたけど、やっぱり、札幌の枠に収まらないことをやりたいじゃない?だから、規模の大きい札幌の仕事より、規模の小さな海外の仕事を選んだりしていた。そうすると、思いがけないところで楽しいことに巻き込まれていって。

菜衣子 東京に出ようとは思ってなかったんですか?

信さん 本気で海外に行きたいと考えていたから、当時、東京は見てなかった。

菜衣子 おー、かっこいい! 10年以上前からそんなことを考えてたのか。最先端すぎる。

大きすぎたお店。違いすぎた文化。

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「D&DEPARTMENT HOKKAIDO」の店内。1Fは、雑貨とカフェ。2Fは、家具とギャラリースペース。3Fにデザインオフィスがある。

菜衣子 そんなデザイン会社だった3KGが、どうして「D&DEPARTMENT HOKKAIDO」をはじめることになったんですか?

信さん あの頃、仕事の依頼は結構あって、デザイン会社としてはそれなりに利益を出せていた。少人数のデザイナーが寝る間を惜しんで全力で働けば、たいてい儲かる。

ただ、誰かの商品を宣伝するために、自分たちの時間のほぼ全てを捧げている毎日に疑問を感じて、こんな調子で働き続けるのは、もうやめよう。リセットしよう、と。やめるなら口座にあったお金を全部使って、新しいことをしてみようと思ったの。

リセットの方法はいろいろ考えていたんだけど、そのときにちょうどナガオカケンメイさんが、47都道府県に「D&DEPARTMENT」をつくりたいと言っているのを知った。もともとお店をつくりたいと思っていたし、「D&DEPARTMENT」の考え方や雰囲気が好きだったから、面識はなかったけど、共通の知り合いを通じて連絡をとってみた。

1月くらいに話をしはじめて、11月にオープンしたから、オープンまでの準備期間は約1年くらい。それが2007年のこと。

はじめてみたら、お店はお店ですごく大変で(笑) 今、当時の自分にアドバイスできるなら「やめておけ。その選択はかなり危ないよ」って教えてあげたい(笑)

菜衣子 どんな大変さですか?

信さん とにかく場所が大き過ぎた(笑) 実は今でも使いきっていないくらい。

きっとナガオカさんは大き過ぎるってことがわかっていたと思うんだけど、ナガオカさんも含めて誰も止めてくれなかったんだよね(笑)「だって、信さんが大きいの選んだから」って、言うんだけど、もう少しアドバイスしてくれてもよかったんじゃないかと思う(笑)

あとは、「D&DEPARTMENT」の新規出店の条件として、カフェをいれることっていうのがあって、これも大変だった。デザイン会社と、カフェと、家具屋では、文化が全く違うんだよね。働き方も、大切にしていることも。例えば、明日のオープンまでにレイアウトを直そうって思って、デザイナーの僕は徹夜するじゃない? 明日のオープンまでにバシッと決めるぞって。

でも、お店の人がそれに付き合って徹夜しちゃうと、明日の営業に差し障るから寝なきゃダメ。今は、かなり分かってきたからバランスが取れるけど、あの頃は全然わからなくて。
 
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「D&DEPARTMENT HOKKAIDO」の1Fを階段から見下ろした写真。写真撮影時は「暮らしかた冒険家展」開催期間だったので、YES/NO MAPの一部が床に見える。

菜衣子 大胆だなぁ(笑)

信さん そうだねぇ。あの時は、口座にあったお金では足りなくて、結局借金もして、1年で、4~5000万円くらい使ったと思う。このぐらいの金額を使うといろいろ勉強になる。使ったことない金額のお金って、なかなか実感が沸かないから。

だってここは、“デパートメント” だから。

菜衣子 でも、オープンして、今年で9年目でしょう?すごいですよね。去年は「D&DEPARTMENT HOKKAIDO」のギャラリースペースで私たちの展示もやらせてもらって。これが東京ミッドタウンの「雑貨展」にもつながっていったので、とても感謝です。

信さん おめでとうございます! うちのギャラリーで展示した時よりも随分バーションアップしてるよね(笑)いやぁ、あれは大変だったねぇ(笑)

暮らしかた冒険家の展覧会の期間中に、連日、トークイベントをやったでしょう?実はあれが今後の「D&DEPARTMENT HOKKAIDO」を運営するヒントになってる。

それまではギャラリースペースの展覧会は、自分たちで企画して、設営して、集客もしていたから、集客の心配とか企画立てなきゃーとか楽しい半面、負担でもあったけど、暮らしかた冒険家の展覧会は、僕たちは何もやってないのに、次々とゲストがやって来て、しかも僕も話を聞きたいひとたちが揃ってて、毎回お客さんもたくさん入ってきた。

自分たちががんばらなくても、場所をあけておくことで、何か楽しいことが起きるんだなって。まぁ、設営は大変だったけどね(笑)

菜衣子 本当にお世話になりました…(笑)

信さん 今年は、写真の現像とか、フィルムの販売をやっている写真屋さんに常設で入ってもらうことになったんだよ。名前にもあるとおり、ここはデパートメントだから、僕たちだけで何かをするのではなく、もっといろんな人とやっていけばいいんだって、暮らしかた冒険家の展示をやってみて感じて。

もちろん自分たちが売っているものもこだわりがあるけれど、自分たちだけでやっていく必要もないなと気づけた。気の合う他の人たちにどんどん入ってもらって、デパートメントをつくっていきたいなって。
 
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右が写真屋さん「マッキナフォト」 左はリペアコーナーになる予定。

菜衣子 いいなぁ。すごくいい。

信さん 地域とのつながりって伝統工芸品を仕入れるとか、そういうことだけじゃない。各地域の「D&DEPARTMENT」で「◯◯県らしさ」を追求しているけど、そういう意味では、これが北海道らしさだと思う。北海道は歴史が浅いから、逆に今の北海道や札幌の魅力がここに集まってくれば、それが北海道らしさかなって。

めざすは未来の公民館。

菜衣子 この間、一緒に企画したフリーマーケットもすごく楽しかったよね。札幌のイケてるお店やデザイナーや建築家が集まって、自分たちの私物や作品を売るっていう。
 
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2月に開催したフリーマーケット。札幌で面白い暮らしや仕事をしている人たちがあつまり、物や情報の交換が行われた。

信さん うん。こういうのは、もっとやりたいなぁって。僕らにとっては、この場所を持っていることは日常だけど、こういう場所があると、みんなにとってもいいことらしいぞっていうのが分かってきて。

最初はフランチャイズとはいえ、自分の店って感覚が強かったけど、さすがにここまでやり続けていると、自分の店というよりも、人が集まる場所、それでいて、一定のブランディングがされているというか、入ってくる人もなんとくイメージを持って入ってくるような場所だなと思っていて。

もちろん、どうして僕がお金を払ってみんなのための場を維持しなきゃいけないの?という疑問はあるけどね(笑) 正直、自分でも何がやりたいのかよくわからない(笑) ただ、自分だけのことをやっているのはつまらなかった。

個人商店ならもっと濃くて関係性が強いコミュニティづくりをするんだろうけど、それをするには「D&DEPARTMENT HOKKAIDO」は大きすぎるから、丁寧にやっているつもりだけど、こだわりの個人商店と比較するとどうしても雑になってしまう。そこで、自分たちの役割ってなんだろうと考えると、”公民館” かなって思うんだよね。

菜衣子 うんうん。いいね、公民館。

信さん ものを売る商売をしておきながらなんだけど、消費なんてしないほうがいいなって思うんだよね(笑) でも、買わないわけにはいかないから、買うなら長く使えるものか、リサイクルがいいなと。だから、売れなくてもいいとは言わないけど、買物だけではない価値がある店でありたいと思っていて。
 
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フリーマーケットでは、無農薬の小松菜を使ったスムージーや、ポートランド仕込のコーヒーも飲むことができた。

菜衣子 うんうん。そういった葛藤や矛盾は、「雑貨展」@21_21 DESIGN SIGHT にて展示中の暮らしかた冒険家の作品「終わらない自問自答」のテーマでもある。しつこく宣伝して、すみません(笑)

信さん この間のフリマも、お店に売上はないよ。まぁ、みんながコーヒーでも飲んでくれれば、カフェには売上が入るけど。でも、そんなことは大きな問題じゃなくて、この間集まってくれた人は、売る側も買う側も、みんな面白い人たちで、そういう人たちが来てくれるっていうのはそれだけで価値があると思う。

今はもう、単純に、モノを売って買って、じゃあ、お店は成り立たないと思うんです。こうやって、ここで行われている売買っていうのが、未来かなって。

菜衣子 1月は餅つきやったりね…。
 
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1月におこなれた餅つき。外は雪なので店内で開催。

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とっても美味しかった!

信さん そうだね。ノリだよね。フリマもノリ(笑)どうしてもフリマがやりたいわけでも、どうしても餅つきがやりたいわけでもなくて、みんながあつまる機会ができたらいいなって思ってる。

街の中のいい場所に空きスペースをつくっておくと、何かが起こるはずだから。効率を追求するならギャラリーになっている部分をお店にしたほうが利益になるんでしょうけどね。でも、埋めてしまうとみんなが入れなくなるから。僕たちは良い空き地を用意しておく。公民館の管理をやっておくっていうのが、大事かなって。

個人商店ではカバーできない、もうちょっと外に広げていくような役割を果たせたらいいな。

菜衣子 いろいろやっていきたいよね。みんな、仕事が忙しいから、頑張り過ぎないように(笑)

信さん そうだね。僕が頑張るとすれば、それはこの場所を維持しつづけること、かな。
 

(対談ここまで)

 
「D&DEPARTMENT HOKKAIDO」は、一体どういう「デパートメント」で「公民館」に進化していくのでしょうか。

信さんはみんなが集まるスペースを持っていたから、こんなことを企てるようになりました。そして、あなたは何を持っているでしょう?スペースじゃなくてもいいと思うのです。

モノづくりでも、ワークショップでも、ゴミ拾いでも、なんでもいい。それらを街に開いたとき、どんな街の未来が見えてきますか??