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手芸×デザインで、みんなが集まるコミュニティをつくろう! 生涯現役の社会を目指す「patch-work」村上史博さんに聞く、人と社会のつなぎ方

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手芸を通してばあちゃんたちが集えるコミュニティをつくろうと立ち上がった「patch-work」。ワークショップの様子。(c)patch-work

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。こちらの記事は、会員サイト「マイ大阪ガス」内の支援金チャレンジ企画「Social Design+」との連動記事です。

年金受給者は増えるものの、新たに加入する人口は減少している高齢社会の日本。
あなたも「年金には頼れない」という、うっすらとした危機感を抱いていませんか?

国立社会保障・人口問題研究所の平成25年の統計によると、総人口のうち実に25.1パーセントが65歳以上の高齢者が占めているとあります。

核家族化が極度に進んだ現在の日本では、平成22年の国勢調査によると、65歳以上の高齢者のうち、男性は10人に1人が、女性は5人に1人がひとり暮らしをしています。配偶者のどちらかが先だった場合、残された方は独居老人となり、こうした老人をめぐる孤独死も問題となっています。

高齢者と聞くと自分とは遠い存在だと思いがちですが、自分の両親や祖父母のこと。とても身近な人が孤立する可能性があるということです。

こうした高齢社会で必要なのは、高齢者が孤立しないコミュニティ。以前にもgreenz.jpでご紹介した、手芸を通しておばあちゃんたちが集えるコミュニティづくりに取り組んできた「patch-work」は、新たに“高齢者の貧困”という課題の解決にも向き合おうとしています。

前回の取材以降に起きたこと、そして新たなチャレンジについて、代表の村上史博さんに改めてお話を伺いました。
 
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「patch-work」(ぱっちわーく)
村上史博さん(写真左)と丸井康司さん(写真右)によるユニット。手芸を通して高齢者のコミュニティをつくることを目標に2012年に活動をスタート。高齢者のみならず、子どもから中高年までの年代層を巻き込む手芸のワークショップを開催。パッチワーク講師育成の教室も運営する。(c)patch-work

高齢者、自分の街、若い世代。その全てをつなごう

「patch-work」はインテリアデザインを手がけてきた村上史博さんと、丸井康司さんからなる男性2人組の手芸ユニット。活動を始めたきっかけは、村上さんがパッチワークを習っていたおばあちゃんからもらった、ひとつのポーチでした。

「孫に使ってほしい」という愛情溢れるおばあちゃんの気持ちと「使ってあげたいけど、デザインが惜しい」という自分の気持ち。そのギャップを「自分が仕事にしている“デザインの力”で埋められないか」と村上さんは考えたのです。

「patch-work」では、これまで手芸が得意なおばあちゃんを先生として招き、手芸を教わったり、村上さんたちが自ら講師となって、パッチワークのワークショップを開いてきました。

ワークショップなどで心がけているのはお母さんが子どもにつくってあげたり、おばあちゃんが孫につくってあげたくなる手づくりの品であること。さらに地域とのつながりを持つこと。

たとえば、地元の漁港で使われていた大漁旗を譲ってもらったり、「patch-work」の活動拠点である兵庫県の伝統産業の播州織をうまく組み込んで使用。ティッシュケースやあずま袋、保育園の園児の入園プレゼントにするコップ入れなど、ローカル色がありながらもおしゃれなグッズをつくってきました。

また、「patch-work」のホームページでは講師のおばあちゃんの得意な手芸作品に、村上さんたちがデザインのアドバイスを加えた品や、初心者でも始めやすいパッチワークキットなどが購入できます。
 
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播州織を使ったパッチーワーク。手芸が得意なおばあちゃんがつくって見せてくれたゾウに、「patch-work」がデザインアレンジを加えて完成したもの。ホームページから購入可能。(c)patch-work

活動の幅は、福祉施設やアートの分野まで

村上さんたちは、ワークショップをおばあちゃんだけでなく、手芸が好きな若い人たちも巻き込みながら実施してきました。高齢者だけではなく、子どもと若者が自然と集うことを目指した老人福祉施設「musubi」に併設されたカフェで行われたワークショップの様子は、以前greenz.jpでもお伝えした通り。

また、本格的な手芸だけではなく、針や糸を使わないワークショップも多数開催しています。時には障害者施設や養護学校に呼ばれてガーランドをつくったり、はたまた高知県にある砂浜美術館が開催する「潮風のキルト展」の関連イベントとしてワークショップも実施しました。
 
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建物を持たずに、自然の美しさをそのまま美術館にみたてた砂浜美術館が開催するアート展「潮風のキルト展」で、ワークショップを開催。(c)patch-work

もともとは高齢者が孤立しないように手芸でコミュニティをつくろう、と始めたのですが、しだいに福祉施設や障害者施設からも呼ばれて、色んなワークショップを開催するようになりました。

おばあちゃんをコミュニティリーダーに!

「patch-work」のワークショップは、世代を超えた交流が生まれ、実に和気あいあい。

このコミュニティづくりを自分たちだけではなく、高齢者が自ら教室を開催することでコミュニティをつくるリーダーになってもらいたい。そう思ったことから、村上さんたちは現在、高齢者の方が独立して教室を開くことができる講師育成のための教室「モダンパッチワークインストラクター講座」も開催しています。

月に2回のレッスンで、半年かけてパッチワーク教室を開くためのスキルやノウハウを学ぶこの教室。

パッチワークの縫い方の基礎はもちろん、インテリアデザイナーという経験を活かし、モダンパッチワークに必要な配色のコツや、教室を開催するにあたっての広報活動、教室のネーミング、ワークショップの開き方まで伝授しているそう。これまで20名ほどの生徒が通い、定期的に教室を開いて活動する先生も輩出しています。
 
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「モダンパッチワークインストラクター講座」の様子。パッチワークの講師を目指す人、集まる時間を楽しむ人などさまざま。(c)patch-work

もともとパッチワークの先生をやっていて、若い人に教えたいけどきっかけがつくれない方もいます。こうした方の背中を押すつもりでインストラクターを養成する講座を設けています。

30代から50代くらいの方が習いに来ていて、世代間交流にもなっていますし、今後の高齢者を巻き込んだコミュニティづくりの担い手になってくれることも期待しています。

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あみものが得意なおばあちゃんと丸井さんのコラボでマスコット「PWレスラー」が誕生。先生のおばあちゃんは見事に編み物の先生として、独立を果たしているそう。(c)patch-work

高齢者が働けるリサイクルショップを開きたい

このように、手芸を中心にこれまで活動を展開してきた「patch-work」ですが、今新たに取り組もうとしていることがあります。それは高齢者の収入アップと社会的つながりを持つことを支援するチャリティショップを持つこと。

具体的には、着なくなった洋服を寄付してもらい、状態のよい衣類だけを販売し、その売り上げの10%を阪神・淡路大震災後につくられた復興住宅に住む高齢者の方たちを支援する団体に寄付しようというのです。

1997年に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに、神戸市や西宮市などの自治体は、仮設住宅を建設するだけではなく、URなどの集合住宅を借り上げて被災者に供給してきました。

しかし、震災から20年が経ち、退去期限が迫っていますが、復興住宅に住む方も高齢化が進み、新しい環境に移り住むことが困難な方も少なくありません。中には単身の高齢者の方も多く住んでいます。

村上さんが高齢者の貧困と孤立を解決する糸口として、チャリティショップに目を向けるきっかけになったのは、海外の福祉状況を視察しようとイギリスを訪問したときに出会った「OXFAM」というチャリティショップでした。

「OXFAM」は、貧困をなくすために世界90カ国以上で活動を展開。不要になった古着を寄付してもらい、売上は貧困をなくすための活動に充てるという仕組みで運営しています。他にもイギリスでは、心臓病や癌などの病に苦しむ人のためのチャリティショップがたくさんあり、自分が寄付・貢献したいと思うショップを選べるような環境ができているのだとか。

アンテナを張っていると、人は出会いの感度が高まるのでしょうか。村上さんは兵庫県加古川市にある幼稚園で、園児たちに入園プレゼントにパッチワーク作品の製作を依頼されたとき、地元・神戸で活動する「FREE HELP」というチャリティショップと出会い、パッチワーク制作のための古着を提供してもらうことになりました。

「FREE HELP」はもともと神戸で古着の輸入卸業を営んでいた方が中心となり、「日本でも古着のチャリティショップを経営できないか」と2009年に店舗を立ち上げたもの。現在はNPO法人として活動を続け、兵庫県の加古川市と神戸市で3店舗を構えています。

東加古川店の売上はホームレスを支援する団体に、長田店はDV被害者女性や子どもを支援する団体にそれぞれ寄付しています。
 
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フリーヘルプ長田店 店内のようす

村上さんは現在、「FREE HELP」で週に何度か働きながら、チャリティで成り立つリサイクルショップのノウハウを学び、実店舗を持つための準備を続けています。2016年の3月には、まずはオンラインショップの告知のために「SECOUND LIFE」というホームページを立ち上げました。

2016年3月頃にはオンラインショップがオープンさせて、65歳以上の高齢者に梱包や発送業務を行ってもらう予定です。実店舗がオープンした暁には、スタッフとして店頭に立ってもらいたいと考えています。

ちなみにイギリスでは古着の回収率が60パーセント、ドイツでは80パーセントもあるそうです。一方、日本ではわずか20パーセント。ほとんどの衣料は、そのままゴミとして処分されてしまいます。

まだ着られる衣服が捨てられるのはもったいないし、もしいらなくなったものに再び価値を見出して再利用し、さらには高齢者の方の仕事につながるならば、まさに一石三鳥。
 
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「SECOUND LIFE」ホームページより。キャッチコピーは「買い物が高齢者支援につながります」。

ところで、これまで手芸を軸に活動してきた村上さんたちが、チャリティショップの運営を視野に入れ始めたのはどうしてなのでしょうか?

手芸という枠があると、ある意味「ハードル」となってしまい、参加できる人が限られてしまうんです。また、講師を養成するのも時間がかかります。でも高齢社会は日々進んでいますから、もっと早く間口を広げることが必要だと感じたんです。

村上さんが切実な思いを抱えるのには理由がありました。実にひとり暮らしの高齢者の44.6パーセントにあたる102万人が貧困層。そして女性の方が長生きすることから、男女別にみると、女性の方が貧困層の割合が高い。しかも、一人暮らしの高齢者は年々増加しており、現在約480万人いるといわれています。
 
ptchwrk9「patch-work」ホームページより。データは阿部彩「相対的貧困率の動向:2006、2009、2012 年」貧困統計ホームページ(2014)から作成。

社会的孤立を防ぐのに必要なのは、外出です。

外出するためにはある程度お金が必要ですが、特に一人暮らしの高齢者は配偶者のいる高齢者よりも年金の額が少なく、そのために家に閉じこもって社会から孤立しがち。こうした方たちにこそ、お金を稼ぎ、社会とつながりを持ち続けることが必要なんです。

「モダンパッチワークの教室で、配色を学ぶ際に自分の好きな色を2色と、嫌いな色を1色使うというルールを決めているんです。自分の好きなことだけやると、ちぐはぐなデザインになるから」と村上さんは教えてくれました。

社会も、自分と同じような境遇・価値観・年齢層の人とだけいると、偏った見方しかでてこないのかもしれません。

あらゆる状況の人が、いまという同じ一瞬をこの地球上で心地よく生きていくために、現代に最適なコミュニティのあり方を求めて。「patch-work」は、世代を超えて、人を社会に結びつける活動を続けていきます。

– INFORMATION –

 
Social Design+でpatch-workを応援しよう
patch-workでは、おばあちゃんたちが得意な手芸を活かして、高齢者の仕事を増やすために、記事でもご紹介したチャリティショップの開店に向けて準備しています。このチャリティショップを実現するために、現在 「マイ大阪ガス」の「ソーシャルデザイン+」にチャレンジしています。ぜひ応援してください!
https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-1/pc/social/social14.html