ISSUE☆グリーンズ企画 編集学校の卒業作品

8 months ago - 2016.03.21

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“出来ないこと”が魅力に変わる! クラウン(道化師)を育てる白井博之さんに聞く、自分らしく自由に生きるコツ

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市民クラウン大集合(提供:大道芸ワールドカップ実行委員会)

この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。

みなさんは、自分に自信が持てなくて、コミュニケーションに消極的になってしまったことはありませんか? あるいは欠点に対するコンプレックスから、「自由に生きることなんてできない」と諦めたりしたこととか。

現在、エンターテイメント教育の分野で活躍されているG・E-JAPAN主催の白井博之さんも、実はそうでした。

高校2年から3年の時に、勉強の強迫観念とか、いわゆるストレス症みたいな感じで、ちょっとおかしくなっちゃったんです。当時、ウツやひきこもりという言葉はなかったんですけど、学校に行けなくなって。

病院で「医学的にはどこも悪くない」と言われても、ただ自覚症状だけが増していく地獄の日々。担当の医者から言われた「お前はもう治らないかもしれないし、明日死ぬかもしれない。もしやりたいことがあったら、今すぐやっておけ」という言葉が、白井さんに突き刺さります。

慌てた白井さんの心に浮かんだのは、自分の日常生活とは正反対の、華やかなエンターテイメントの世界。まさに死ぬ思いで、タップダンスを習いに行き始めます。すると徐々に、病気の症状も消えていきました。

エンターテイメントの世界に救ってもらった。この経験は、自分と同じような悩みを持つ人を支援する活動へと、白井さんを導いていきます。
 
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白井博之(しらい・ひろゆき)
1965年生まれ。中野ブラザーズ両氏にタップダンス、若月つねお氏にパントマイムを師事。クラウンカレッジジャパン第1期を卒業後、様々な舞台・テレビ番組に出演。現在、日本初の総合エンターテイメントスタジオG・E-JAPANを主催し、エンターテイメント教育と、「出来ないことを魅力に変える」エンターテイメント社会福祉をライフワークに活躍している。

クラウンとは

白井さんは、クラウンを育てることで、自分らしいコミュニケーションや温かく心を癒す方法を社会に広げる仕事をしています。ここでいう“クラウン(CLOWN)”とは道化師の総称で、全世界に1,000以上もの種類があるとも言われています。日本で一般的に知られている“ピエロ”は、そのひとつにすぎません。

ヨーロッパでは紀元前からの歴史を持つ、伝統ある文化であるクラウン。その使命は、笑ってもらうことで出会った人にエネルギーと喜びを与え、その人の気持ちを温かくすることにあります。
 
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「クラウン集合」中央が白井さん。クラウン名は「すまいる」

白井さんとクラウンの出会いは大学卒業後、ミュージカルスターを夢見てタップダンスの講師で生活を支えていた頃でした。サーカスの名門「リングリングサーカス」が設立した「クラウンカレッジジャパン」の第1期に合格し、パフォーマーとしての生活をスタートします。

クラウンとして活動して7年目のある日、白井さんのもとにクラウン養成の話が舞い込みます。1992年から続く名物イベント「大道芸ワールドカップin静岡」を見に来たお客さんに、クラウンの格好をした市民がおもてなしをする、そのためのボランティアを育ててほしいというのです。

はじめは、クラウンになるための方法を教えようとしていたんですが、ちょっとずつ考えを変えていきました。というのも、受講生には内気でコミュニケーションに自信を持てていない人が多くいて。

彼らが求めていたのは、「クラウンになること」というよりも、「あたかもクラウンのように自由に生きる」ことだったんです。

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市民クラウン養成講座 講義風景(提供:大道芸ワールドカップ実行委員会)

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クラウン・レッスン風景

クラウンになることで少しでも自分自身を変えたい、自信を持てるようになりたい。そういう願いを応援するには、どうしたらいいのだろう? 試行錯誤の末、白井さんは「キャラクター開発」と呼ばれる手法に行き着きます。

この手法は、特に「性格の短所」に注目し、それをデフォルメしたキャラクターを設定するというもの。神経質や潔癖症など、その人にとってコンプレックスだったことが、クラウンのキャラクターとしての魅力となるのです。

普通にやると悪い性格なんだけれど、デフォルメするとコメディーになるというのがいわゆる喜劇の基本なんです。

そういうところをひけらかすことによって、人から笑ってもらえる。そのときに「ああ、良いんだこれで」っていう安心感が生まれるんです。そこが一番のキーポイントですね。

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クラウン・レッスン風景(提供:大道芸ワールドカップ実行委員会)

土曜日の天使達

クラウンになって自分のコンプレックスを笑い飛ばすことで、自己肯定感が高まっていく。市民クラウンの養成を通して、クラウンの大きな可能性に気づいた白井さんは、その活動の場を、社会福祉の現場へと広げていきます。

最初に依頼があったのが、「社会福祉法人かがやき神戸」でした。2006年に障害者自立支援法が導入され、かがやき神戸でも「より前向きに社会の皆さまに障害者福祉を知ってもらおう」ということに。そこで思いついたのが、利用者や家族ボランティアで作るクラウンのチームだったのです。

ワークショップをはじめると、横で見ていたダウン症の子とか、発達障害の子たちが、私の動きを真似し始めたんですよ。そしたらめちゃくちゃおもしろいじゃないですか!!

職員さんも「教えてもないのに、この子たちがこんなことできるなんて」とびっくりして。見てこれだけ真似できるんだったら、すみません、こっちの方が才能がありそうなので、職員さんは職務に戻ってくださいって(笑)

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土曜日の天使達「2009年 大道芸ワールドカップin静岡 出演」

予想外の新たな発見でした。そしてその後も、次々と様々な才能が開花していきました。

走り方を知らなかった子が走れるようになったり、自閉症の子が声を出せるようになったり。いつもルーズで施設に遅刻していた子が、「遅刻したらキャスティングされない」となったら、10分前にパッと来るようになったり。

ほかにも、まったく言葉がなく、白井さんの声が聞こえていないようにも見えた子にも変化が生まれます。

その子がある日突然、「トリップ」というつまずく動きをしたんですよね。つまずくってこうするんだよって言われて、見本を見せられてから、自分で理解して動きを真似するまでに、3ヶ月間という時間が、この子には必要だったんです! この子は聞こえてて、ちゃんと見ててわかっていたんですね。

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土曜日の天使達「クラウン・ワークショップ」

入所者の変化は、施設を動かしていきます。そうして誕生したのが、「かがやき神戸クラウン事業所」という作業所です。

午前中は基本的に作業に従事して、工賃を稼ぎ、午後は稽古という毎日。その結果、3年後には、プロのクラウン・チーム「土曜日の天使達」として活動をはじめることになります。今や人気のチームになり、福祉施設に通う人のあこがれ、夢ともなっています。
 
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土曜日の天使達 舞台「喜劇!?ロミオとジュリエット!」

「土曜日の天使達」は、レギュラーメンバー5人、キャラクターメンバー8人という構成。

レギュラーメンバーは比較的話ができ、体の動きもそれほど重くありません。一方、残りのメンバーは身体的・精神的にそれぞれ条件があります。そこでレギュラーの5人は必ず出演し、オプションで各人の特性に合わせてキャラクターが入ってくる形をとっています。

例えば、かがやき神戸の10周年企画公演で行われた「オズの魔法使い」の場合はこうでした。

ダウン症で、確認行動を取らずにはいられない子がブリキ、天真らん漫な女の子はドロシー、いつも仏頂面した子はかかし、多動な子はライオンと、4人主役でしようと思って、シナリオは完全に彼らにあて書き。

ちなみにブリキの子は動かなかったですよ。ブリキのように動かない。でも、それがとってもおもしろいし、「見世物にするのか」と最初は反対していた子どもたちの家族が両手を上げてくれた。うちの子がスターになったって。

こうして1,000人規模のホールでの公演は大成功! 「出来ないことが魅力に変わる」瞬間が、そこにはありました。

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土曜日の天使達 「クラウン・ワークショップ」

世界初の、障害者のための事業所を目指して

ライフワークとして、さまざまな人たちのコミュニケーション力を引き出している白井さん。最近では、官民共同で運営する刑務所の教育プログラムでも、クラウン講座が採用されました。障害のある受刑者の再犯防止のために、豊かな自己表現力が必要と考えられたためです。

また、社会福祉法人かがやき神戸が進めている「障害者の芸術活動を支援する事業」(バリアフリーアート事業)にも、クラウン指導の専門家として携わる予定なのだとか。将来はこの事業を発展させ、おそらくは世界初の、障害者のための事業所が作れたらとも、夢を膨らませています。

障害を持っている人たちには、余暇活動の選択肢がないのが現状なんですよ。でも、障害者にこそカルチャーは必要だって思うんです。社会的自立の一つとして、やりたいことを見つけるために、そんな自分探しの出来る事業所があってもいいと思います。

卒業した子の数人はクラウンになるかもしれないし、そうでない子もちょっとしゃべれるようになったら、喫茶店で働けるかもしれない。そんな就労を目指す事業所を、兵庫県内につくれたらと思っています。

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市民クラウン養成講座 講義風景(提供:大道芸ワールドカップ実行委員会)

自分の欠点をさらけ出したクラウンでいる時の方が、自分らしくいられるということ。そんなクラウンのあり方にこそ、「健常者・障害者を問わず、自分らしく自由に生きるためのヒントがある」と白井さんは言います。

人間の愚かで儚い、本当にダメな部分というのを、一番正直に表せるのがクラウンなんです。だから、その人よりもその人らしいのが、その人のクラウンなんですよね。

クラウンは人間の本質です。すごいことをやって拍手をもらう存在よりも、庶民の共感。人間ってこうだよね、本当にダメだよね。じゃあ手を取りあったりしてがんばろうかと。

自分が苦手だと思ったり出来ないと思っていることが、実はその人の個性であり魅力なのだとしたら。欠点をさらけ出したパフォーマンスの先に、そんな気づきを得られるのなら、生きることやコミュニケーションも、少し楽になるように思います。

ぜひあなたも、まずは赤鼻をつけて鏡の前に立つことからはじめてみませんか?
 
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(提供:大道芸ワールドカップ実行委員会)

(Text: 加藤良徳)
 
らいたー

加藤良徳(かとう・よしのり)
大阪体育大学教育学部准教授。「greenz.jp編集クラス@関西 第二期」修了。仮名文書記史の研究(平仮名の研究)で学位を取り、現在は「学び方を学ぶ」ことや、自分らしく自由に生きるためのコツに興味を持って、インタビューを使った質的研究を行っています。「清く正しく美しく楽しく!」をモットーに、ゆるく生きています。

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