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京都から全国へ、地方創生のネットワークをつくる。次の1000年につながる出会いの場「ソーシャル・イノベーション・サミット2015」レポート

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京都を舞台に次の1000年を担う企業を育み、ソーシャル・イノベーションで京都と全国をつなぐ、ネットワークをつくる。京都市と「京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)」は、2015年12月17日に全国初となる「ソーシャル・イノベーション・サミット2015」を、同志社大学今出川校地の寒梅館で開催しました。

2015年、京都市は「ソーシャル・イノベーション・クラスター構想(SIC)」を発表。その取り組みと背景にある思いについては、門川大作京都市長とSILK所長・大室悦賀さん(京都産業大学教授)との対談記事でお伝えしました。さらに、SICの原点ともなった1999年に策定された「京都市基本構想」については、哲学者であり京都市立芸術大学学長・理事長を務める鷲田清一さんと大室さんの対談記事でお読みいただいた通りです。

SICは、京都だけにソーシャル・イノベーションを起こそうとしているわけではありません。目指すのは、ソーシャル・イノベーションで京都と日本全国をつなぐこと。SILKは、ソーシャル・イノベーションで全国をつなぐハブとしての機能を持つことも期待されています。

「ソーシャル・イノベーション・サミット」は、京都から日本の未来を切りひらこうとするSICの取り組みを、全国に向けて発信する最初の大きな機会となりました。ちょっとカタカナが多くて恐縮ですが、当日のようすをレポート形式でお伝えします!

ソーシャル・イノベーション・サミットとは?

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京都市が推進するSICは、社会的課題の解決に取り組む企業・NPO・教育機関など、さまざまな団体や個人に、京都らしい価値観をもった生き方を広めようとするもの。さらには、京都から全国に呼びかけて地方創生に向けたネットワークづくりにも取り組もうとしています。

ソーシャル・イノベーション・サミットは、京都から全国へソーシャル・イノベーションの熱い波を伝えようとする最初の大きな試み。当日は、地域社会の課題解決に取り組む全国の自治体・企業・団体から、「地域のために何かしたい」「そのための出会いがほしい」という熱意ある人たちが集まりました。

会場となったのは、全国に先駆けて総合政策科学研究科にソーシャル・イノベーション研究コースを設置した同志社大学。

開会挨拶には、今川晃・政策学部長が登壇。「自治体主催のソーシャル・イノベーション・サミットは全国初。この国を変えた動きは自治体から始まっている」と話しました。また、同志社大学ソーシャル・ウェルネス研究センターの今里滋教授と新川達郎教授からは、同コース開設から5年間の成果発表も行われました。

印象的だったのは「ソーシャル・イノベーターは“社会のお医者さん”」という言葉。社会の健康を保ち、活力をつくり出していくのがソーシャル・イノベーターなのかと思うと、なんだかイメージがふくらみました。

明治維新という危機を乗り越えた「京都の学校づくり」

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シンポジウム「ソーシャル・イノベーションによる地方創生」

第1部のメインは、SILK所長・大室悦賀さん進行のもと、門川大作・京都市長、SILKアドバイザー・井上英之さんの3名による「ソーシャル・イノベーションによる地方創生」と題したシンポジウム。会場には、なんと26都府県から参加者が集まっていたそう! すでに、京都のSICは全国の注目を浴びつつあるのです。
 
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SILK所長・大室悦賀さん(京都産業大学教授)

大室さんは、最初にこんなふうに発言しました。

大室さん 知識や経験をたくさんお持ちだと思いますが、2日間は全部脱いでください。そして、頭で分析せずに主観的に、感覚的に捉えてください。そして、いろんな違和感を持ってください。

違和感を持ったらすぐに手放さず、「なぜ、違和感を持ったのか」を考え続けてください。そうすれば、解決してくれる人との出会うことができ、課題をともに解決しようとする人たちの新しいネットワークが生まれるはずだからです。

いきなり、スリリングな幕開けです!
 
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門川大作・京都市長。2月の市長選挙で再選を果たしました!

大室さんは、門川市長を“カタカナばかりの構想をつくって市長に怒られている”とユーモアを交えて紹介。

門川市長は、歴史的な背景から京都の独自性に触れました。都であった京都は、藩主という支配者のいないふしぎなまち。都であるがゆえに、古くから町衆の自治が発達しました。その一方で、都であるがゆえに多くの危機にも直面したことも。最近(?)の危機は明治維新。

門川市長 天皇陛下は「ちょっと東京に行幸する」と戻って来られません。

そのとき、京都市の人口は約35万人から20万人近くまで激減。現代の地方都市が経験している人口減少を、京都は非常に急激なかたちで経験したのです。そのとき、先人は「子どもさえ地域の宝として育てれば未来は明るい」と、小学校を64校つくりました。

1869年(明治2年)、京都では住民自治組織「番組」を単位とした、64の「番組小学校」をつくりました。このとき、町衆は子どもがいる家も、いない家も、かまどの数に応じて平等にお金を出し合い、学校建設と運営を行ったのです。

ひとりのリーダーを立てるのではなく、誰もが参加できるしくみをつくる。門川市長は、このあり方を「かまど金の精神」と呼び、京都が推進するソーシャル・イノベーションに重ね合わせました。

門川市長 「京都人が大事にして来た価値観を呼び戻し、政策や暮らしのなかに生かしなおす」という理念こそが、ソーシャル・イノベーションにつながっていくと思います。

大きなソーシャル・イノベーションは“ふつう”を担っている

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SILKアドバイザーをつとめる井上英之さん(一般社団法人 INNO-Lab International 共同代表)

井上さんは、ソーシャル・イノベーションを「今までにない結果を出すために、社会の変え方そのものを変えること」と定義します。

井上さん 世界を変えるには、ひとつの組織にできることには限界があります。だから今、「社会起業家」と言葉よりも「ソーシャル・イノベーション」という言葉が世界を席巻しているのだと思います。

社会起業家のアイデアを大事にしながら、いろんなプレイヤーが協力しあって編み物を編み上げるようにひとつの流れをつくるのかが問われているのです。

また、今私たちが「ふつうのこと」として受けとめている多くのものが、「大きなソーシャル・イノベーション」から生まれてきたものだと指摘しました。たとえば、学校で使う教科書。先生のインパクトを数十倍にしました。ビジネスの分野では、信用を担保に“前借り”を可能にするクレジットカードも大きなソーシャル・イノベーションでした。

井上さんは「イノベーションを起こさないと持続可能な社会にならない」と言います。では、京都がソーシャル・イノベーションによってどんな社会をつくりたいと考えているのでしょうか? 門川市長は「”そうだ、京都いこう”が”ソーシャル・イノベーションを学びに行こう”になってほしい」と言います。

門川市長 市民が自ら課題意識と、夢と目標、そして行動と達成感を共有する。市民の生き方を主体にして、専門家や行政がうまく関わりながらまちを元気にしていく。それがソーシャル・イノベーションだと思います。

生みの苦しみを味わいながら、小さな成功を大事につないでいきたいですね。

「失敗できる環境」がプロジェクトを育てていく

井上さんは「今、ここで起きていることは“大きなこと”の一部だし、身近に起きることは世界で起きることの縮図」だと言います。ごく普通の日常のなかに潜んでいる「特別な幸福」や「変化のきざし」。無意識に受けとめていることを意識化して「プロジェクト」にできれば、世界が変わるきっかけが生まれると言うのです。

井上さん プロジェクトにすれば名前がつきます。名前がつけば、人に話すこともできるし、スケジュールも組めます。自分のなかにあったものが、みんなのものになって動き出し、「うまくいかないことがあるたびに人が寄ってくる」という経験もするでしょう。失敗できる環境をいかにつくるかということも、非常に大切なことです。

すると、門川市長から「ソーシャル・イノベーションを起こす人は、失敗もたくさんする。京都は市政として伴走します」と力強い発言がありました。大室さんも、「SILKでも僕たちはたくさん失敗をしています」と続けます。

大室さん 京都は、市長のお許しをいただきながら暴走しています。たくさんの実験をして、たくさんの失敗をしていますが、失敗したことをみなさんにシェアしたいと思います。企業とも連携しながら、全国の自治体の暴走を加速することも今回の目的なんです。

井上さんが言われたように、大きなことをするよりも、自分中心に、自分から変わっていきましょう。実際に、いろんな自治体でそういった動きも生まれています。

シンポジウムの最後に、門川市長が語ったのは「全国津々浦々とつながり、元気をもらい、京都からも送る。そんな京都創生にしていきたい」と大きなビジョン。その言葉の通り、サミットでは3つの自治体からの事例発表も行われました。
 
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山形県新庄市の「キトキトマルシェ」の発表。

山形県新庄市からは、旧蚕糸試験場を利用してはじまった「キトキトマルシェ・プロジェクト」。“農村イノベーション”とも言える取り組みです。倉敷市からは「高梁川流域連携中枢都市圏の取り組み」。市町村単位ではなく、高梁川を流域の「運命的共有物」として捉え、川の流域全体の経済向上を目指しているそうです。

仙台からは、震災の後に生まれた起業支援センター「アシ☆スタ」について発表が行われました。仙台は、被災した東北地方に支えられてきたまち。平成29年までに「新規開業率日本一」を実現することを目標に据え、東北からソーシャル・イノベーションを起こそうとしています。

kurasiki倉敷市からの事例は「高梁川流域連携中枢都市圏の取り組み」について。

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自治体からの事例発表。仙台市からは起業支援の取り組みが共有されました。

仙台市からは起業支援の取り組みが共有されました。

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NPO法人ミラツク代表・西村勇哉さん。全国の事例を交えた概論のレクチャーと、アイデア形成ワークショップでファシリテーターを務めました

第2部は、ワークショップ 「地方創生のためのソーシャル・イノベーション実現のためのアイデア形成」が行われました。

第2部の企画・運営を担当したNPO法人ミラツクにより用意されたワークショップは2種類。

ひとつは、「地方創生のためのソーシャル・イノベーション」に取り組む18名がそれぞれにテーブルを持ち、現場の課題について参加者が意見交換を行うというもの。もうひとつは、「地方創生のためのソーシャル・イノベーション」をテーマに、全国の事例を交えた概論のレクチャーと、アイデア形成ワークショップを実施しました。

私は、主に前者のワークショップに参加。参加者の人たちと一緒に、18名の人たちのテーブルをめぐりながら、現場の声を聞いてみました。
 
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ワークショップを始める前に、それぞれの取り組みと課題が共有されました。

18名の人たちの立場は、県や市など行政、企業やNPOの担当者、そして個人などさまざま。事例発表で登壇した3名を含む、11名は全国各地で活躍する人々でした。

「地元で必要とされる病院を」(高知)、「田舎を守るために何ができるのか」(岡山・倉敷)、「四方よしクラスター形成に向けて」(熊本・水俣)など。テーブルごとに、取り組みの内容と課題が共有され、一定時間ごとに参加者を入れ替えていきます。
 
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テーブルごとに、真剣な対話が行われていました。議論を深めたあとは名刺交換も。

京都で活動する7名のなかには、SILKで個別相談(コンサルティング支援)を受けている人たちもいました。

「小さな子どもと一緒に、日本にやってくる外国人家族を対象として、コミュニティの中で生活を円滑に立ち上げていく日常生活全般のワンストップサービスを提供したい」というテーマを出していた「京都オリエンテーション」の西恵味さんもそのひとり。

西さんは3人の小さなお子さんの子育て真っ最中のお母さんですが、「SILKに相談することで、やるべきことがどんどん明確になり、子育てと並行して、ワクワクしながら起業準備ができました!」と話してくれました。
 
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テーブル右奥が京都オリエンテーションの西恵味さん

ワークショップに参加する人たちも、それぞれの現場でソーシャル・イノベーションに取り組もうとする意識の高い人ばかり。自分の経験と重ね合わせた、実感のこもる言葉にうなずきあう光景が見られました。

次は、あなたのまちでサミットが開かれるかも?

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ワークショップの後は、話し合った内容を共有しあいました。

いかがでしたか? 京都で起きているソーシャル・イノベーションの胎動は、京都のなかでだけ育まれるものではないということを、ご理解いただけたのではないかと思います。

今、京都が掲げる「ソーシャル・イノベーション」の旗は、京都だけでなく日本全国、そして世界中の“次の1000年”に向かって掲げられています。

よく、京都は「地方都市の代表」だと言われます。地方都市でありながら、発信力があり、人を集める力のあるまち。「一見さんお断り」で知られるように、参入障壁が高いまちでもあります。だからこそ、京都で成功した事例は、全国各地でも成功する可能性が高いのです。

SILKには、京都だけでなく全国の自治体や企業からの相談もあるそう。キックオフから2年目を迎え、「全国のソーシャル・イノベーションのハブ」としての機能は、徐々に回転しはじめています。SILKが加速する京都と日本全国のソーシャル・イノベーションから、地方創生の熱い波が立ち上がってくるのはもうすぐのことかもしれません。

– INFORMATION –

 
京都市ソーシャルイノベーション研究所が行う個別相談
http://social-innovation.kyoto.jp/learning/552
京都オリエンテーション HP
http://kyotori.com
ソーシャルイノベーションサミット2015  報告書
http://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000193973.html
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