ISSUE☆グリーンズ企画 今月のgreenz people

5 months ago - 2016.03.11

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庭がなくても、子どもからお年寄りまで始められる家庭菜園。”さかなで野菜を育てる”アクアポニックスを広める「おうち菜園」

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おうち菜園代表取締役の濱田健吾さん(右)と同社広報の江里祥和さん

「今月のgreenz people」は、様々な分野で活動に取り組むgreenz people(グリーンズ会員)を取材する連載企画です。会員の方々は「これから、ぼくたち・わたしたちもマイ・プロジェクトを本格化させていこう!」と試行錯誤されている方ばかり。この企画から、会員のみなさんと、読者のみなさんの新しいご縁が生まれれば嬉しいです!

みなさんの暮らしの身近に植物はありますか? たとえば部屋の中に、すくすくと育つ緑の植物があると、目も心も癒やされますよね。その植物が食べられる野菜やハーブだったら、ちょっとつまんで料理に添えることもできます。

そんな彩り豊かな暮らしのために、家庭での食材づくりを積極的に提案しているのが、今回ご紹介する「おうち菜園」です。この会社は、魚と野菜が同時に育てられる一石二鳥の「アクアポニックス」という農法の日本での普及に、特に力を入れています。

そんな「おうち菜園」を立ち上げたのが、濱田健吾(はまだ・けんご)さん江里祥和(えり・よしかず)さんのおふたり。江里さんは、実は「greenz people」会員。しかも過去には、「greenz global」のライターインターンをつとめ、現在はgreenz.jpジュニアライターとしての横顔も。

今回は、植物もグリーンズとのご縁も、ぐんぐん育てる超グリーンな濱田さんと江里さんのマイプロジェクトを詳しくご紹介します。

魚のおかげで肥料不要&野菜のおかげで水替え不要

「おうち菜園」は、濱田さんと江里さんが2014年に立ち上げた会社です。「″生産者=わたし“を増やしたい」というビジョンを掲げ、オーガニック園芸専門のオンラインストアの運営、メディアの発行、ワークショップやスクールの開催など、たったふたりとは思えない幅広い活動を展開しています。

そんな多様な活動を展開中の「おうち菜園」。おふたりが拠点としているシェアオフィスにお邪魔すると、窓ぎわに、野菜が植えられた不思議な水槽がありました。
 
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魚を育てながら野菜も収穫できる「AquaSprouts(アクアスプラウト)~さかな畑~」の設置例。「おうち菜園」が、米国のベンチャー業企業と共同開発したアクアポニックスの家庭用キットです。

江里さん これが、アクアポニックスです。魚を飼っている水槽の水で、野菜を水耕栽培して、その排水を水槽に戻すんです。これだと、野菜の水やりや肥料、そして水槽の水替えも必要ありません。

なんと! いったいどういう仕組みなんでしょう?

江里さん 水中ポンプで、水槽の水を野菜側に吸い上げています。魚の排泄物に含まれるアンモニアを、培地にいる微生物が、硝酸塩(しょうさんえん)という、植物の栄養になる物質へと分解してくれます。

アンモニアは魚を飼う水には無いほうがいい物質。それが栄養として植物に吸収されることで、浄化された水が水槽に戻ります。魚に餌をやり、蒸発した分の水をたまに足すだけで、良い状態を保てるんです。

濱田さん 水産養殖(アクアカルチャー)と水耕栽培(ハイドロポニックス)を合わせたアクアポニックスという用語は1970年代にできましたが、農法自体はずっと古くて、アステカ文明からあったとも言われています。

東南アジアでも、科学的な裏付けがされる前から、魚のいる池の水を隣の畑にまいていました。経験的に「よく育つ」と知っていたんでしょうね。

実際に世界各地で、例えば、食用のティラピア(白身魚)の飼育施設を兼ねた植物工場などが稼働中とのこと。海外のアクアポニックス事例は、以前にgreenz.jpでも紹介したことがありました。
 
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©Green Sky Growers 商業用アクアポニックスの海外事例。屋上に設置されています。

でも、あくまで農法なので、一般の人にはほとんど知られていませんでした。情勢が変わったのはここ2〜3年だと、濱田さんは言います。

濱田さん これまで商業用では農業用途しかなかったアクアポニックスを、ベンチャー企業がライフスタイル分野に持ってきたんですね。それで、最近は企業の参入が相次いでいます。

米国や英国や南アフリカでは、都市のレストランやスーパーマーケットの屋上、オーガニックフードコートなどにアクアポニックスが導入されて、家庭用のキットも数社から発売されています。

面倒な水槽の掃除や水替えから解放され、新鮮な野菜まで収穫できるアクアポニックスは、アクアリウム愛好家にとっても魅力的。最近では、日本メーカーの関心も集まりつつあります。

とはいえ、理屈はわかっても、なかなか上手に栽培するのは難しいのでは……? おふたりは、うまく循環させるポイントをこのように話してくれました。

濱田さん アクアポニックスは、全く難しくないですよ。一般の家庭菜園と変わりません。

江里さん ポイントは、植物を絶やさないこと。栄養を吸収してくれる植物が常にいることで循環が安定するからです。一気に刈り取る野菜を育てる場合は、少しずつ収穫できるハーブ、パセリやネギ等と組み合わせます。

飼う魚は淡水魚であればよくて、特におすすめしたいのは、水質変化や冬の低水温に強い金魚です。ヒーターが必要な熱帯魚でも、水温が26-27℃程度ならアクアポニックスで飼えます。

なるほど。かなり自由度が高いので、今まで育ててきた植物や魚を組み合わせて始めることもできるかもしれませんね。

江里さん でも、庭の土は入れないでくださいね。腐敗を招いたりして、水質に影響を与えてしまいます。

その代わりに、世界的にアクアポニックスによく使われているのが、この「ハイドロボール」です。軽石のような素材で多孔質なので、バクテリアがたくさんすみつきます。

そういって見せてくれたボールは、抵抗なく食卓に置けるほど清潔感がありました。ちなみに、バクテリアが好む温度は23-30℃なので、冬には活動が落ちます。でも死んでしまうわけではないので、室内に置いたアクアポニックスは一年じゅう楽しめるそうです。
 
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ハイドロボール(左)と、それを敷き詰めたミニ菜園。

アクアポニックスを日本にもっと広めたい!

ところで、幅広く活動を展開しているおうち菜園は、なぜ、アクアポニックスの普及に力を入れているのでしょうか。

濱田さん アクアポニックスのメンテナンスは単純作業の繰り返しだから、栽培や収穫の手順をマニュアル化しやすいんです。だから、高齢者も障がい者も子どもも、簡単に「生産者」になれます。

お子さんのそばにいる方は、食育にいいと言ってくださいます。都会暮らしの家の中では、なかなか食べ物を育てる機会がないけれど、アクアポニックスなら、魚を飼いながら、生き物の営みが私たちの食べ物をはぐくむことを学び、それを実際に食べることができる。

それから、お年寄りのそばにいる方も喜んでくださって。園芸介護という言葉もあり、緑に触れることで血圧が安定するらしいんです。魚に餌をあげるのも、毎日の楽しみになりますし、卓上に置けるので、車椅子に乗ったまま手入れできますから。

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濱田さん

菜園の排水を魚のいる水槽に戻すということは、当然、無農薬栽培が求められます。魚が健やかなら、その水で育った野菜を食べる人間も健やか。健康を目と心で実感できるのも、アクアポニックスの魅力と言えそうです。

濱田さん でも、まだ日本では認知度が低く、情報発信も教育も実践も足りていません。だから、「おうち菜園」では、アクアポニックス専用のビジネス向け情報サイトを有料で提供したり、一般向けウェブマガジンを無料配信したり、メディア発行も手掛けています。

そして家庭用キット「AquaSprouts~さかな畑~」を、初心者向けに開発しました。あると便利な周辺グッズも、別売りの「スターターセット」にまとめて販売しています。植物や魚も、育てるコツと併せて、ネットで入手できるようにしているんです。

DIY(Do It Yourself)で始めたい方もいるので、アクアポニックス用の資材も販売しています。また、アクアポニックスを基礎から学びたい方向けに、昨年2月には、「実践マニュアルブック」を発行しました。

アクアポニックス専用のマニュアル本があれば、かなり心強いでしょう。

江里さん でも、いざ始めれば、迷うこともあると思います。だから、1月に「アクアポニックス同好会」というFacebookグループを開設しました。

これから始める人も含め、アクアポニックスを実践する人たちが、困りごとを相談したり、アイデアを持ち寄ったり、意見交換ができるコミュニティです。

濱田さん さらに学びの場として、昨年10月には日本初のアクアポニックスのスクールも開校しました。卒業生はみんな、実践者になってくれるので、着々と日本にもアクアポニックスが増えつつあります。それが本当にうれしいですね。

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10人までの少人数制で行うスクールには「基礎コース」と「ビジネスコース」があります。座学の後はアクアポニックスのキット製作や農場見学も行います。

さまざまな工夫で、国内での普及を推進している濱田さんと江里さん。保育園や学校をボランティアで訪れ、子どもたちにアクアポニックスを教えることもあるそうです。
 
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横浜市の保育園でアクアポニックスを教える濱田さん

砂漠での出会いが人生を変えた

そんな、アクアポニックスの普及に力を入れているおふたり。

母親の山形県の実家が魚屋で、やがて農業にも興味を持つようになった江里さんが、アクアポニックスと出会ったのは、意外な場所でした。

江里さん 4年ほど前、いろいろな農地を見たくて海外に出ました。イスラエルで農業を勉強した後、隣国ヨルダンの農業イベントに誘われて参加してみたら、それが、新しくできたアクアポニックス農場のお披露目イベントだったんです。砂漠を15分ぐらい歩いたところにあるビニールハウスで、初めて「アクアポニックス」を知りました。

砂漠の真ん中に巨大な水槽!? 想像するとギョッとしますが、最小限の水で管理できる農業と漁業を兼ねたアクアポニックスは、もともと水不足の地域で盛んなのだとか。

事実、国連も、紛争地帯や最貧国でアクアポニックスの現地指導を始めているそうです。それを知れば、砂漠との組み合わせも不思議ではありません。
 
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タイ、イスラエル、フランスなどの農業現場を1年かけて巡り歩いた江里さん

アクアポニックスの巧妙なシステムに魅せられた江里さんは、帰国早々、自宅で実践を繰り返したのだそう。装置を自作したり、家庭用キットを米国から取り寄せたり。その試行錯誤の記録を自身のブログで発信していました。

ちょうどそのころ、濱田さんは、人生の岐路に立っていました。某企業の海外新規事業を立ち上げる部署で活躍した後、34歳で外資系企業に転職。しかし、間もなく会社を辞めてしまいます。

濱田さん 都市で忙しく働くうちに、大きな心境の変化を迎えました。そもそも僕の原体験は、生まれ育った宮崎県の山や川や田んぼにあるんです。どんな橋の下も思わずのぞいてしまうほどの魚好きで、釣りはライフワークです。

それで、転職直後に自分の価値観を見直し、農業の学校に1年間通いました。アクアポニックスは、今後を模索している時期にインターネットで知ったんです。

それからDIYで装置を作ったり、キットを個人輸入したりして自宅で始めたんですが、江里のブログを見つけた時は驚きましたね。「全く同じことをやってる!!」って(笑)

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©Back To The Roots 偶然2人とも使っていた米国の家庭用アクアポニックス商品。こういった先行商品を試して改善を重ねたことが、「AquaSprouts~さかな畑~」の開発につながりました。

濱田さんがブログを読んでみると、使っているキットも同じなら、失敗した内容まで一緒。当時2人とも、コケが大繁殖して困っていたのです。

コケが増えると酸素が減り、最悪の場合は魚が死んでしまうのだとか。そう聞くと心配になりますが、この時の失敗の原因はシステムの構造にあったそうです。

濱田さん さっきも話しましたが、アクアポニックスは、全く難しくありません。循環がうまくいっていれば、水中に余分な養分が残らず、コケも生えにくくなります。

アクアポニックスの鍵は、魚と植物と微生物の共生です。時間が経てば、この3者が自然とバランスを取り合って安定します。人の手を加え過ぎず、辛抱強く待つのがコツなんです。

同じ境遇にシンパシーを感じた濱田さん、すぐに江里さんに連絡を取り、直接会うことにしました。

それから1年も経たない2014年に、2人が「アクアポニックスを日本に広めよう!」と決意して起業したのが、「おうち菜園」だったというわけです。
 
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「アクアポニックス~さかな畑」の公式ロゴ。アクアポニックスという用語は少し覚えにくいので、「さかな畑」という愛称をつくって添えたそうです。

自分で食材を育てる人が増えれば、未来はきっと明るい

最後に、おふたりに今後「おうち菜園」での活動を通して実現したいことを聞きました。

江里さん 僕は海外に出て、自分で食べ物を育てる大切さをすごく感じました。アクアポニックスをやれば、「魚のおかげで、このレタスが育っている」といった背景も含めて、自分でつくった野菜を味わえます。ちょっとでも、そういう野菜が食卓に並ぶだけで、食への向かい方って変わってくると思うんです。そういう体験を、いろいろな人にしてほしいですね。

濱田さん もともと日本には、金魚を飼う文化があります。学校や待合室や家庭、いろいろなところに魚がいますよね。そのすべてに菜園が付いて、野菜も一緒に育てられたら楽しいはず。子どもの表情も輝きます。

自然を身近に感じることで、人の行動って変わると思うんです。その人にとっても、地球にとってもポジティブな方向に。僕は、子どもたちのために、良い未来を残したい。その一心で、アクアポニックスの普及に取り組んでいます。

インタビュー中、「排泄物の中にも、微生物や植物には使えるものがある」という表現を「いや、むしろ無駄なく使い尽くすのが、自然の摂理なんです」と言い直した濱田さん。卓上アクアポニックスを、「地球に感謝するきっかけ」を与えてくれる装置と位置づけています。

たしかに、動物の排泄物が微生物のはたらきで分解されて植物を育み、それがまた動物を育むのは、自然界では当たり前。都市に暮らす人間だけが、いつのまにか、おおいなる地球の循環から、はみ出してしまったのかもしれません。「おうち菜園」の一押しアイテムは、小さいのに、とんでもなく壮大なストーリーを背負っていたんですね。

現在「おうち菜園」では、家庭用キット「AquaSprouts~さかな畑~」を100人の自宅に届けるクラウドファンディングに挑戦中。一部商品を除き、商品は翌営業日に発送するとのこと。また、2016年4月から開講する「アクアポニックスの学校」の受講生も募集しています。

みなさんもぜひこの機会に、「生産者=わたし」を実現するべく、アクアポニックスの世界への一歩を踏み出してみませんか?

– INFORMATION –

 
魚で野菜を育てる!?アクアポニックス(さかな畑)を100人の自宅へ届けたい!
今回クラウドファンディングで利用している「ENJINE」では、チケットを購入すると、一部を除き商品(リターン)は翌営業日に発送します! ぜひみなさんのご支援をお待ちしております!
https://en-jine.com/projects/aquaponics

おうち菜園の江里さんも会員! 全国で様々な活動に取り組む人が集まるgreenz people(グリーンズ会員)の詳細はコチラ
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瀬戸内千代

瀬戸内千代

greenz シニアライター 東京生まれ。両親の故郷で瀬戸内海に親しみ海洋動物生態学者を志すも理系文系の橋渡しに興味が移り出版業界へ。2007年からフリーランスの環境ライターとして書籍・雑誌、ウェブに執筆している。プロフィール画像は伊豆下田でスケッチしたムラサキクルマナマコ。

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