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スタンプラリー? どんぐり帽子? 石川善樹さんに聞く「どんぐり事業のこれからのためのヒント」

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特集「MORE DONGURI!MORE GREEN!」は、“環境に良い商品”の目印となる「どんぐりマーク」と「どんぐりポイント」を通じて、未来にきれいな地球を残そうと活動する人たちを紹介する、「どんぐり事業事務局」との共同企画です。

これまで、この特集「MORE DONGURI!MORE GREEN!」では、さまざまな団体の活動を紹介してきました。

しかし、たとえば「ベルマーク」のように、まだだれもが知っているというわけではありませんし、どんぐりポイントを集める「どんぐりコミュニティ」も日本全国にまんべんなくあるわけではありません。

今後、「どんぐりマーク」や「どんぐりポイント」を、より多くの人に知ってもらい、「どんぐりコミュニティ」が津々浦々にできるようになるためにはどうしたらよいのでしょう。行動科学の視点からそのヒントを探るべく、お話を伺ったのがCampus for H石川善樹さんです。

石川さんは、これまでに株式会社キャンサースキャンで、行動科学に基づく手法を使ってがん検診の受診率アップに貢献。都内の自治体の受診率を3割アップさせた実績があります。
 
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石川善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者・医学博士。1981年、広島生まれ。東京大学医学部を経て、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。現在は株式会社キャンサースキャンおよび株式会社Campus for Hにてイノベーションディレクターを務め、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。NHK「NEWS WEB」第3期金曜日ネットナビケーター。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。

はじめる・続ける・習慣化する

人間の行動を科学的に研究し、法則性を明らかにしようとする学問が行動科学です。石川さんによると、行動科学では「人間の行動には“はじめる”・“続ける”・“習慣化する”という3つの段階がある」と考えるそうです。そして、それぞれの段階で、人間が行動する動機は異なるのだといいます。

人間が行動をはじめる理由は“希望”か“恐怖”です。

一方、続ける理由は“楽しさ”。そして、習慣化の段階に至るころには、もはや楽しさすらもなくなり、“無意識”に行動をするようになります。

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これは、ダイエットを例にして考えてみると、わかりやすいかもしれません。

人がダイエットを始めるときの動機は、たとえば「やせたら美しくなってモテるかも!」という希望や、「このままでは病気になってしまうのでは……」という恐怖です。

希望や恐怖に動かされて、ダイエットのためにジムに通うとしましょう。やがて、ジムで友達ができて、ジムに通うこと自体が楽しくなるかもしれません。あるいは、運動そのものに楽しさを感じるようになることもあるでしょう。

そうしているうちに、ジムに通うことが日課になり、習慣になっていく、といった具合です。

「クール・ビズ」が成功したのはなぜか

このような行動科学の視点から、環境のための取り組みを“はじめる”ことについて考えるなら、「だれもが感じている不快を取り除く」というところからスタートするのがよい、と石川さんは言います。

これまでに、不快を取り除くという点から成功した環境施策のひとつが「クール・ビズ」です。ご存知の通り、6月から9月までの間は「ノーネクタイ・ノージャケット」で、28℃の室温に対応できる服装で仕事をしようというもので、2005年から環境省主導で導入され、今や、すっかり定着しました。
 
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「クール・ビズ」が成功したのは、誰もが不快に思っていたことを取り除くものだったからです。これまで、日本のビジネスパーソンのほとんどが、夏にネクタイをしてジャケットを着るということに対して、不快だと感じていました。それを「クール・ビズ」は、エコというアプローチから解決したのです。

また、世界各地で行われている運動として、月曜日には環境負荷の高い肉を食べるのをやめようという「ミートフリーマンデー(肉なし月曜日)」があります。これは休み明けの月曜日は身体も重いから、身体にもよいものを食べて元気になろうというもの。環境負荷の高い肉を食べるのをやめて、野菜中心の食事をしようという運動で、「身体が重い」という“不快なこと”からスタートしています。

2009年にイギリスではじまったこの運動ですが、同時期にドイツやベルギーでも同様の主旨の「ベジタリアン・サーズデー(菜食の木曜日)」という、キャンペーンが起こりました。また、アメリカでは「ミートレスマンデー(肉なし月曜日)」が行われていました。名前は少しずつ違うものの、同じような運動が、多くの国に広がっています。

続けるために必要な“楽しさ”

希望や恐怖から行動を起こす私たちですが、「“続ける”という次の段階に入るには“楽しさ”が必要」と石川さんは続けます。

そのときに問題になるのが、「安い」や「ポイントがつく」といった報酬などの外的な要因によって動機づけする“外的モチベーション”。そして、「環境にやさしい」や「身体によい」といった、その行為自体のやりがいを感じ自分の内面からやる気が生まれてくる“内的モチベーション”です。

この切り分けでいうと、どんぐりポイントは外的モチベーションにあたりますが、それは“はじめる”という段階では有効でも、“続ける”というステージではあまり有効ではないのだそう。むしろ、事業そのものの意義への共感といった方が重要なのです。

とはいえ、消費者にどんぐり事業に対する内的モチベーションを高めてもらうにも、まずは知ってもらったり、手にとってもらわなくてはいけません。

例えば、上場企業の会長や社長に、どんぐり帽子をかぶってもらって、新聞広告に登場してもらうくらいのことができると、反響は大きいでしょうね。ビジュアル面でのインパクトはもちろん、トップが意志を持って事業を進めていくことで、拡大のスピードがアップするはずです。

また、トップダウンと同時にボトムアップも大切だという石川さん。そこでキーとなるのが小売店です。

小売店では、バレンタインデーやホワイトデー、ハロウィンにクリスマスといったように、一年中季節に応じたキャンペーンを行っています。そのすき間に、エコのキャンペーンも入り込む余地があると分析しています。
 
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瀬戸内キャンペーンの店内

消費者は露出が多ければ多いほど、その商品を手に取ります。しかも、それが安ければなおさらです。どんぐりマークのついた商品を売ろうと思ったら、企業が小売店に協賛金を出し、それで商品の価格を安くして、大量に陳列してもらうという方法が考えられます。

どんぐり事業のキャンペーンによって、どれだけ売り上げがあがるのかといったデータをきちんと用意しておけば、小売店側も導入の判断がしやすくなります。

さらに、「どんぐりマーク商品をさがせ!」といったスタンプラリーのように、インストアキャンペーンを展開するためのしかけを作っておくと、小売店もどんぐり事業のキャンペーンの導入を積極的に考えるようになるのではと石川さんは言います。
 
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店頭ポスター

人間の脳はポイントがもらえるかどうかわからないという、宝くじのような確率変動を面白いと感じるようにできています。逆に言うと、「必ずもらえる」ことに面白さを感じないのです。

また、即時性も大切です。すぐに結果が返ってくるというのは、人を動かす大きなきっかけになります。

また、そうした取り組みを行う上では、買う側だけでなく売る側である店員のモチベーションづくりも必要なのだそう。

キャンペーンのときは、どんぐりの帽子を作って店員さんにかぶってもらってもいいかもしれません。最初は恥ずかしそうにするかもしれませんが、やってみたら意外と楽しいと感じてもらえれば、店員さんたちにもスイッチが入ります。

店員さんは売るための知識を持ったプロフェッショナルなのですから、店員さんに「この商品を売りたい」という気持ちが生まれれば、それは売れるんです。

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どんぐりポイント商品

“いいこと”と“現実的なこと”の間で

どんぐりマークの認知度が高まったとして、買い物という日々の暮らしのなかでどんぐりマークのついた商品を選んでもらうためには、さらに工夫が必要だと石川さんは続けます。
 
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過去に、日本の消費者が環境によい商品をこぞって買ったことがありました。それは2009年から2011年にかけて行われた「家電エコポイント」です。

この制度を利用した人の動機の大半は何だったのかというと、その商品が「環境によいから」ではなく、「安かったから」です。

この事業の目的は、地球温暖化防止のためだけでなく、リーマンショック後の景気対策でもありました。この制度を利用して買い物をしたという人もいるかもしれません。

多くの消費者にとって環境によい商品を買うことが最優先だったわけではなく、「値段の安い商品が、結果的に環境にもよいものだった」というのです。

エコに興味がない人にとって、「環境への負荷が少ない」ということは、まったくベネフィットになりません。「環境によいけれど、値段が高い」という商品ではコンフリクトが生まれてしまうのです。

とはいえ、エコに興味がない人へのアプローチがどんぐり事業をより広げていくためには何より大切なのも事実。では、どうすればよいのでしょうか。そこで石川さんは、「エコに興味がない人を、「エコ以外のことに困っている人」と見なすと、糸口が見つかる」と言います。
 
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たとえば、オフィスの健康づくりでいうと、「健康のために」といっても、なかなか響きません。なぜなら、みんな自分は健康だと思っているからです。

でも「肩こりはありませんか?」と聞いてみると、「実はひどくて……」と答える人も多いんですよね。そこで「姿勢を整えれば、1週間で肩こりはよくなりますよ」と伝えると、興味を持ってくれます。

エコに興味のない人を巻き込もうとするなら、一度エコから大きく離れてみる。「エコ以外のことに困っている人たち」という視点から考えることで、さまざまなアイデアが生まれてきそうです。そして、その先に環境に興味を持ってもらえるといいですね。

エコに興味のない人を巻き込むとしたら、自分ならどうするか。そんな視点から生まれたアイデアが、これからのどんぐりマーク普及のカギとなりそうです。

(撮影::服部希代野)

[sponsored by どんぐり事業事務局]