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人間も野菜も、“ごちゃまぜ”な暮らしがいい。有機野菜を通じたコミュニティづくりに取り組む「Go Organics Japan」田中美穂さんインタビュー

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生産者と消費者と、多様な生物が暮らす土壌で育つ有機野菜を囲んで

特集「マイプロSHOWCASE福岡編」は、「“20年後の天神”を一緒につくろう!」をテーマに、福岡を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、西鉄天神委員会との共同企画です。

「私たちの身体は食べたものでできている」といわれますが、みなさんはどうやって自分が食べるものを選んでいますか?

「オーガニックなものを選んでいる」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。私は有機野菜しか食べないというほどではありませんが、たまたま見かければ買うことが多いです。そして「もっと気軽にどこでも有機野菜を選べたらいいのに」とか「有機野菜をつくる人がこれからもつくり続けてくれたらいいな」と思っています。

今回ご紹介する「Go Organics Japan(ゴーオーガニクスジャパン)」代表の田中美穂さんは、消費者が有機野菜に持続的にアクセスしやすくなるよう、福岡を拠点に有機生産物に関する流通販売とサポートや、有機生産者と消費者をつなぐコミュニティづくりなどに取り組んでいます。

もともとはIT企業で働き、今も農家を応援しながらITの仕事もかけもつ田中さん。有機野菜を選びやすく、そして選び続けていけるようにするためには、“ごちゃまぜなサイクル”が大事だといいます。“ごちゃまぜ”をキーワードにした活動について、お話を伺いました。
 
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田中美穂(たなか・みほ)
「Go Organics Japan」代表。日系企業5年、外資系企業17年の計22年に渡りIT関連の仕事に従事。そのうち、約12年は外資系企業の日本法人運営に携わり女性管理職として活躍。4年ほど東京と福岡を行き来した後、2015年5月より福岡県糸島市を本拠地として「Go Organics Japan」をスタート。有機農家の支援やコミュニティ構築を通じて九州とアジアをつなげる活動を行う。同時に、クラウドを中心としたITシステムトレーニングを行う「ON YOUR SIDE(オンユアサイド)」の代表も務める。現在、香港に「Go Organics」のグローバル・シェアオフィスを作る計画も進行中。

有機農家と消費者をつなぐグローバルネットワーク

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タイ、日本、香港をつなぐ「Go Organics」のホームページ

田中さんが所属する「Go Organics」はタイを本拠地とし、バンコク、香港、日本の3拠点で、アジアにおける小規模農家の生産者と消費者をつなぎ、サスティナブル(持続可能)な農業を実現するための活動を行っています。

「Go Organics」を創業したのは田中さんの友人、Spencer Leung(以下、スペンサーさん)。スペンサーさんは、タイの首都バンコクの北部に位置する都市チェンマイの小規模な有機農家とつながりを持ち、その作物をバンコクのマーケットで販売するなど、持続可能な有機農業を広めるための事業に取り組んでいます。
 
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「Go Organics」創設者のスペンサーさん。香港出身

スペンサーさんも田中さんと同じく元はIT業界の人。世界を飛び回るセールス担当でした。ところが仕事でアジアを回るうちに、貧困や環境の問題を身近に感じます。そして「持続可能な生活と平和を創る」ために2014年に「Go Organics」を立ち上げました。現在はタイ国内でのオーガニック・コミュニティづくりだけでなく、インドやスリランカなど海外の有機農家とのネットワークを広げる活動も行っています。

「Go Organics Japan」の立ち上げ

スペンサーさんから「Go Organics」立ち上げの話を聞いた田中さんは「私もやりたい!」と動き出します。外資IT企業にてアジアパシフィックの各地を訪れた田中さんも、スペンサーさんと同じ問題意識を感じていたのです。また激務な日々を送る中で、歳を重ねるにつれ、健康に気を使い、自分が食べるものも意識するようになっていました。

当時、田中さんは東京と福岡・糸島市を行き来する生活を送っていました。東日本大震災の後、田中さんは大量消費社会に疑問を持ち、安心・安全な食や人とのつながりの大切さに改めて気がつきます。そして、より自然と調和したライフスタイルへとシフトしていきたいと思っていたところだったのです。

本格的に糸島に拠点を定め、2015年に「Go Organics Japan」を立ち上げます。過去に訪れて気に入っていた糸島半島は、福岡市内から車で1時間圏内。理想的な自然環境のもと、有機農業が盛んでアジアにも近いという特徴があり、「Go Organics」の日本拠点としても適した場所でした。

「Go Organics」ネットワークの活動には、ローカルとグローバル、2つの側面があります。まずはローカルで地産地消・地域創生・地域課題解決に取り組み、国内消費拡大へ。そしてその活動をグローバルへ共有し、各国間での流通販売やサポートを通して“アジア全体での農業活性化”を推進するアプローチを目指しています。

昨年からローカル面での取り組みを始めたばかりの「Go Organics Japan」。具体的にどんな活動をしているのでしょう。

生産地と都市で、有機農家と消費者を“ごちゃまぜ”に

田中さんがまず始めたのが有機農業の勉強です。有機農家を訪ねて農作業を手伝ったり、農業勉強会に出席したりして、有機農業理解を深めていきました。そしてイベントに参加するだけでなく、糸島で自ら主催も行うようになっていきます。

例えば、糸島でタイのオーガニック事情を紹介するランチ会を開催。参加者みんなで食事を楽しんだ後、「Go Organics」の取り組みを知ってもらおうと、活動紹介を行う中でスカイプをつないで、スペンサーさんと意見交換する場を設けました。

また、あるときは種について学ぶイベントを開催。講師は東京から招いた「一般社団法人シードマイスター協会」の理事、石井吉彦さん。協会では九州初開催のセミナーイベントとなり、農業従事者や農業に関心を持つ参加者が集いました。
 
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糸島「RIZE UP KEYA」にて、タイのオーガニック事情を紹介するランチ会

勉強会に加え、参加者が農家さんの畑を訪ね、交流できる機会もつくりました。糸島の「吉村ファーム」では蕎麦の収穫イベント、小郡の「あおぞら農園」ではじゃがいもの種植えを行い、汗をかいた後は青空の下、みんなで食事会。無農薬で育てた野菜を、その場で味わう気分は格別です。
 
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糸島の「吉村ファーム」で行った蕎麦の収穫イベント。作業後は生産者も消費者も一緒に畑でランチ

田中さんはこうしたイベントの開催を通して様々な農家とつながっていきます。地元により深く融けこむきっかけにもなりました。そして何軒もの有機農家と深く関わる中で、作物をつくるだけでなく、独自の販売開拓までも農家自らが行っている状況を目の当たりにしました。出荷や販売対応にも追われ、寝る時間も削りながら働く姿について、田中さんは次のように話します。

農家さんは何年たっても常に新しいことにチャレンジしています。自然と向きあい、人とも向きあい、販売のためネットにも向き合う、マルチスーパースターだと思うんですよ。

私を含め、みんなの健康のためには安心・安全な食をつくってくれる農家の助けが必要不可欠です。

消費者がオーガニックな食べものを求め、生産者がそれに応える。そしてその生産者が持続できるよう、消費者が消費という形で支える。そうしてお互いに助け合うシンプルな“サイクル”をつくっていけたら。だからこそ、「Go Organics Japan」で農家さんの負担を減らせるようなサポートが必要だと感じているんです。

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天神で開催したトークイベント。テーマは『福岡をアジアのオーガニックシティにしよう!』

さらに“有機農家と都市で暮らす消費者をつなぐ”という役割においても、活動の場を天神などのまちに移し、積極的にアプローチを行っています。
 
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保育園で開催した米粉を学ぶイベント。子どもたちの食育にもつながる取り組み

天神で開催したトークイベントでは糸島の有機農家「卯農園」の野菜を使った料理の提供や野菜を販売して意見交換を行ったり、あるときはフードコーディネーターの方を東京から招き、米粉を学ぶイベントを保育園で開催。お米の消費方法を広げていくことが、無農薬米を栽培する米農家を応援していくことにつながるという思いからです。

都市部でのイベントでは、オーガニックなものを食べたい参加者に向けて、様々なアプローチを行うことで「サポーターになって有機農家さんを応援しよう!」と呼びかけています。

そうすると、中には、農作業を手伝いたいという人や、販売を手伝いたいという人まで出てきて、それぞれできることや得意なことで“サイクル”に入り込んでいく流れが生まれるんです。一方的につくって売る、消費するというだけではない、こうした“ごちゃまぜなつながり”を生み出すことが私たち「Go Organics」の役目だと感じています。

得意なITも活動にまぜあわせて

田中さん自身も、農作業を手伝ったりイベントを企画運営したりするだけでなく、得意なIT分野での経験を活かそうと取り組んでいます。

農家の働き方がわかってくるうちに「IT活用が進んでいないのはもったいない」と感じたため、例えば受発注のためのクラウドサービスなどのオススメのツールを農家へ伝えたり、トレーニングを通じた普及活動をしているのです。

また田中さんはITの仕事についても農業の仕事と「目指すところは同じ」だといいます。

昨日は福岡の農家さんで大根を掘り干し作業を。そして今日は大阪にてITの仕事で打ち合わせ。住む場所や時間にとらわれず、農業とITの両方に携われる幸せを感じています。

生涯を通じて携わりたいのは農業。これまでの経験と知識をもとに人様のお役にたてるのはIT。2つをあわせてみたら、いろんな方との出会いや自分の引き出しも広がりました。ゆくゆくは1つに混ざっていくんじゃないかなと思います。

田中さんはいま、「ON YOUR SIDE 」にて東京や海外からのITトレーニング業務や翻訳業務を受けながら、「Go Organics Japan」の活動を平行して行っています。今後はもっと“ITが得意で農家を応援したい人”ともつながって、そうした人がサポーターとして農家と関わっていけるようにしていきたいとも考えています。

“ごちゃまぜ”サイクルをグローバルへ

これからは「Go Organics」海外拠点とも協力して、グローバルな活動も広げていく予定です。海外からのインバウンド観光客が増える福岡を窓口に、海外の人も生産者とつながるきっかけをつくっていきたいといいます。

例えば、加工した有機野菜をお土産に持ち帰れるようにしたり、その産地を訪ねることができる農園ツアーを開催したり。日本の有機農家と海外をネットワーク化して、モノや人の流れをつくりだしていきたいと田中さん。

その第一弾として、大分県の有機農家と開発した干し野菜の商品も完成しました。福岡在住のデザイナーと協力してつくった商品パッケージには、ジャパン・クオリティをグローバルに伝えたいという想いを込めました。まずは香港での販売に向けて動き始めています。
 
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大分県の有機農家「かじわら農園」と「Go Organics Japan」が商品化した干し野菜。国内向けにはオンライン販売も準備中

いろんな人が心地よく融けこむまちへ

こうした活動から見えてくるのは、消費者と生産者、都市の人と郊外の人、農業とIT業など、いろいろなものをつないでいる田中さんの姿。つなぎ役として、日々各地の畑を訪ねたり、東京や海外にも出向き、精力的に動き回っています。

そんな田中さんはどんなまちや暮らしを理想として思い描いているのでしょうか?
 
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畑を訪ね、有機農家さんの話に耳を傾ける田中さん

素敵だなと思ったのは、タイで訪れたオーガニックマーケットです。タイでチーズをつくって売っているフランス人がいたり、人種もふつうにごちゃまぜなんですよ。そしてつくり手と食べ手の距離感もとても近いんです。

こんなふうにオーガニックというライフスタイルを軸にして、いろんな人が集まって共生しているのって心地いいなと思ったんです。日本だとオーガニックという選択肢にまだまだアクセスしにくい現状に対して、日常的な選択肢として暮らしに融けこんでいるのも魅力的でした。

またオーガニックというライフスタイルを軸に、福岡在住の外国籍の人もまちにもっと融けこめるようにしていきたいとも考えています。

例えば「アジアフェア」といった単発のイベントだけではなく、日常のマーケットでもふつうに出会える“ごちゃまぜ”な場を増やしていきたいんです。

ITやデザインの人が”気の合う農家さん”と知り合えて、食べたいものとスキルを交換し合える場や仕組みづくりだったり。オーガニックな食べものを選ぶということをきっかけに、多様な人が融けあえるまちにしていけたら素敵だなって。

その点で、アジアの玄関口といわれ、都市と田舎が近い福岡は、いろんな意味でアクセスがしやすくポテンシャルを感じるという田中さん。福岡を全世界に向けたオーガニックの情報発信基地にしていきたいとも話します。

ヘレン・ケラーのことばで、「Alone we can do so little; together we can do so much.(一人でできることは本当にわずかだけれど、みんなでおこなうと非常に多くのことができる。)」というものがあります。

ローカルにもグローバルにもたくさんの課題があって一足跳びにはいきませんが、一歩一歩進んでいきます。

改めて自分の生き方を見いだし、できることや得意なことから動きはじめた田中さん。その情熱のもと、いろいろな人を“ごちゃまぜ”につなぎながら、持続的な有機農業を応援する“サイクル”はこれからますます広がっていきそうです。

「自分が食べたいもの」を選び続けていくために。みなさんも、自分ができそうなことから始めてみませんか?