ISSUE まちづくり

3 months ago - 2016.02.16

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ここじゃない場所、いまじゃない時代とつながる、まちの“どこでもドア”。「鳥の劇場」演出家・中島諒人さんに聞く、地域に必要とされる劇場って?

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訪れたその日、鳥の劇場はまさに改修工事に向けて解体を終えたところでした

みなさんにとって劇場はどんな場所ですか? なかなか敷居が高くて入りづらい場所、あるいはちょっと特別な日におしゃれをしていく場所、そんなイメージでしょうか。

「劇場が広く地域のみなさんに必要だと思ってもらえる場となることが、私たちの目標です」そう宣言するのが、今回ご紹介する鳥取県の「鳥の劇場」です。

かつての町の幼稚園と小学校、その体育館部分を劇場にリノベーションして、2006年に活動をスタート。地域の人に向けた参加型のワークショップの開催、さらに劇場を飛び出して幼稚園で読み聞かせや小学校や中学校で学芸会の作品づくりを指導するなど、演劇作品の上演にとどまらない取り組みを行っています。

今回は、演出家で「鳥の劇場」の芸術監督を務める中島諒人さんに、演劇だからこそ果たせるまちへの役割についてお話を伺いました。
 
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東京から鳥取へ

鳥取県鳥取市の市街地から車で30分程走ったところにある、鹿野町。かつて戦国武将・亀井茲矩のお膝元として栄えた城下町は、商家造りの古い建物やお堀など、400年経った今もその面影を色濃く残しています。

その中心部にぽっかりと現れる赤い屋根の建物、それが「鳥の劇場」です。日本では数少ない劇場を持つ劇団であり、「鳥の劇場」という名前は、劇団と劇場の両方を指しています。

演出家の中島さんが東京で率いていた劇団のメンバーとともに立ち上げ、現在では17名の劇団員全員がフルタイムのスタッフとして、鹿野町やその周辺で生活しています。旗揚げ後に加わったメンバーの出身地も鳥取のみならず、東京、大阪、最近ではアメリカからも!

気になるプログラムは、『おおかみと七ひきのこやぎ』や『クルミわり人形とねずみの王さま』など、大人も子ども一緒に楽しめる名作から、『古事記』やチェーホフなどの古典作品、さらにはつかこうへいの戯曲まで幅広く展開。

その作品としての完成度の高さ、そして深いテーマ性は評判を呼び、他県から足を運ぶファンもいます。
 
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鳥の劇場外観、赤い屋根の部分がかつての体育館です

代表を務める中島諒人さんが演劇に出会ったのは大学生のとき。1980年代の日本経済が華々しく、若者カルチャーとして演劇が盛り上がっていた頃だといいます。

2000年頃までは東京の劇団で演出家として活躍し、2003年に利賀村(富山県南砺市)の演出家コンクールで最優秀演出家賞を受賞。それをきっかけに、静岡県舞台芸術センターの一員となったことが中島さんの演劇人生を大きく変えたそう。

静岡県舞台芸術センターは、日本で初めて専用劇場や稽古場を拠点として持つ公立の舞台センターだったんです。だから自然と、地域と演劇がどう関わるかとか、日本の中での文化政策がどうだったらいいのかなとか考えるようになって。

改めて自分でも場所を持って、これまで東京でしていた若者向けの演劇とはまた違う、地域の中での演劇のあり方を追求してみたいと思うようになりました。

そこで中島さんが拠点として選んだのが鳥取県でした。それはご自身の故郷だからというだけではない、こんな理由がありました。

鳥取県は人口最少県なんです。でもそういう、人が少なくて経済活動の小さな場所でこそ、演劇の社会的な意味というものを示しやすいかもしれないと思いました。

地域との関わり方

こうして鳥取での活動を模索しはじめた2006年、行政からの紹介で鹿野町の廃校になった小学校と幼稚園と出会います。

もともと、鹿野町は、いんしゅう鹿野まちづくり協議会などによるまちづくりの活動が積極的に行われ、20年以上続く町民ミュージカルもあるなど、「外からの人を受け入れることに関しては寛容だった」と振り返る中島さん。

初めは幼稚園の部分だけを無償で借りていましたが、次第に地域の方の演劇に対する理解も広がり、小学校の体育館も利用できるようになります。

一番はじめは、そんなに歓迎されてなかったんじゃないかと思うんですよね。どうしても演劇ってわけのわからない感じがあるから。

実際、「芝居を観ても正直よくわからなかった」という意見を聞くことも多かったです。それでも、10人前後の劇団の人間が毎日ここに来て、一生懸命何かやっている。そういう日常の姿に共感してくれて、少しずつ受け入れてくれた感じですね。

あとは人手がいるっていうときに、うちだとパッと10人ぐらいの人間が動けるっていうのがあって。それから地区対抗の運動会に参加したりね。そうやって地域の人ともだんだん仲良くなっていきました。

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今では地域との連携プロジェクトも増え、例えば毎年9月に開催される「鳥の演劇祭」中には、まちづくり協議会が「週末だけのまちのみせ」を実施。

これは町内の空き家を活用してお店を開くもので、この活動によって、地域の人、演劇を目当てとして来る人、また「まちのみせ」目当てに来る人、それぞれの交流が生まれ、町が一体となって賑わうようになりました。

本質に響くものへの挑戦

このように地域の賑わいづくりにも取り組みながら、地方で演劇をすることの魅力について、中島さんはこう話します。

一番の目的は、一部の人ではなく幅広い世代の人に、舞台の魅力を知ってもらいたい、ということなんです。

いま生き残っているあらゆる表現というものは、人間の魂の深いところに訴える何かがあります。地域で活動をすると、そういった演劇表現の根源的な力強さについて検証や実験ができるんです。それが地方で芸術活動をやることの喜びだと思っています。

例えば、東京ではなく鳥取で上演をするからこそ、ただ目新しい表現を求めるのではない、人間の本質に迫るような作品づくりができるようになったと話す中島さん。実際、鳥の劇場に足を運ぶお客さんの8割が地元・鳥取の方なのだそう。

劇場っていうのは、本来、半径何十キロの地域の人たちと関わっていくものだと考えるようになって。地域ごとの歴史や課題や人の個性、そういったものの中で育んでいく。そういう風に日本の中でもいろんな特色のある劇場ができていったら面白いと思いますね。

気持ちがアーカイブされる場所

現在、日本各地でアートを活用したまちづくりが広がっていますが、その多くが美術を中心としたもので、演劇を用いた例はあまりありません。そうした状況の中で、中島さんが考える、「劇場という場だからこそできること」というのはどんなことでしょう。

今は映像でなんでもできる時代だけれど、演劇っていうのは聞こえる音や見えるものを起点にしながら、見えないものを想像させることができます。そうして空間を共有することで得られるワクワク感や、同じ時代を生きているという連帯感は大きいですよね。

ときどきしみじみと感じることがあるんですよ、今この劇場にいるお客さんたちと同じ時代を生きている、同じ船に乗っているんだなって。

それから、すごく嬉しかった、悲しかった、悔しかった、そんな人の気持ちにも出会うことができるかもしれない、とかね。

ギリシャ悲劇といえば二千数百年前になるけど、紐解けばそこに当時の人の気持ちが現れてくる。そんな気持ちがアーカイブされる場所としての劇場の役割があるんじゃないかと思っているんです。

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お客さんでいっぱいの客席 写真提供:鳥の劇場

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「兵士の物語」上演中の様子 写真提供:鳥の劇場

地域のどこでもドアへ

ちょうど戦後70年にあたる2015年の演劇祭では、「戦争」をテーマにした作品を多く上演。「いまはどういう時代かという認識、それに呼応した作品を届けたい」と中島さんは続けます。

私たちはうっかりすると、今自分が生きている時代や場所の価値観が、ゆるがない唯一のものだと思ってしまうんですよね。自分と違う場所、違う時代に生きている人も同じ常識を持っているのではないかと、ついついそんな風に感じてしまう。でもそうやって偏ってしまうと、社会を健康に保つことが難しくなると思うんです。

それを見直して、違う視点から私たちの日常を捉えるためには、ここじゃない場所、今じゃない時間とつながることがすごく大事で。そういう“どこでもドア”として、私たちの劇場が、地域に開かれた場として存在する意味があるのだと思っています。

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5年、10年先を見通して、「劇場が町の中に、みなから愛される存在としてあり、それが町の人や風景と共鳴しつつ、寛容で創造的なコミュニティの中核となることを目指したい」と話す中島さん。それは、何かモデルがあるわけではないからこそ、手探りで挑戦し、試行錯誤しながら進めるものである、とも。

劇場本体は来春に向けて改修工事中ですが、10年目を迎え新しくなる鳥の劇場が、演劇の魅力と地域の新しい未来を発見していく旅はまだまだ続きそうです。

みなさんも忘れていた気持ちや、あるいは新しい体験に出会いに、近くの劇場に足を運んでみませんか。

鳥の劇場にいってみよう!
鳥の劇場ウェブサイト

writer ライターリスト

Naoko Takahashi

Naoko Takahashi

greenzライター 大学卒業後、商社事務を経て、アートマネジメントを学ぶためイギリスの大学院へ留学。大学院留学中の2015年6月よりライターインターンとしてgreenzへ参加。帰国後は、ライターや翻訳業と並行して、アートプロジェクトやコミュニティスペースの運営に携わる。アート、まちづくり、エネルギー、食、などに興味のアンテナを広げています。

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