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目指すべきは、一歩先の里山との関わり方。地域の資源から新たな価値を生み出す「里山ホテル ときわ路」に聞く、地方だからできるビジネス

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みなさんは、里山にはどんな価値があると思いますか?

山の雑木を薪にすることで燃料を得たり、棚田や畑でお米や野菜を育てることで食べ物が手に入ったり。お金を使わずに、食や燃料といった生きる上で必要なものを手にすること、地域の人とつながることは、お金に換えられない大切な価値ですよね。

では里山で経済的な価値を生み出し、利益を得ることはできるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、茨城県常陸太田(ひたちおおた)市にある「里山ホテル ときわ路」。人気の観光地でもなく、高齢化と過疎化で人口減少が進む土地で、森や田畑といった里山の資源に経済的な価値を見出しながら、宿泊施設を運営しています。

森の中に溶け込むようなキャンプ、薪割りがセットになった宿泊プランといったユニークなサービスの背景には、里山と共存することに価値を見出す社会をつくりたいという思いがありました。

“何もない”里山は、実は資源の宝庫

水戸から車で1時間ほど走り、雑木林に囲まれた道を上がって行くと、小高い丘の上に木造りの看板が現れます。ここが「里山ホテル ときわ路」。茨城の県北地域から里山の魅力を発信するホテルです。

22室の客室とレストラン、お風呂のある建物と、植物に囲まれた中庭とバーベキューエリアからなる宿泊施設です。

まずは、「里山ホテル ときわ路」の中をご紹介しましょう。
 
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中に足を踏み入れると、ペレットストーブで暖められたロビーが広がります。
 
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本棚には自然をテーマにした本や子ども向けの本など、厳選された本が並びます。ペレットストーブの側に置かれているソファで本を読み、くつろぐ宿泊者も。

客室「ほしのおへや」に入るとまず感じるのは、さんさんと降り注ぐ太陽の光。すぐ隣が森という立地を生かして広々とつけられた窓からは、森と空を見渡すことができます。
 
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部屋は270度ビュー。キッズ向けのプレイルーム「おひさまのへや」も付いています。

建物を抜けて中庭へ出ると現れるのは、焚火テラスとビニールハウスを模したBBQエリア。隣には開墾中の自家菜園が広がります。そして、その奥に佇むのは、里山グランピング第一弾としてつくられた「マッシュルームキャンプ」。
 
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キャンプに必要なアイテムは不要。大浴場やレストラン、トイレといった設備は隣接のホテルを自由に利用でき、キャンプ初心者や子連れの家族でも気軽に泊まることができます。

高床式住居から着想したこの建物は、気軽に本格的なキャンピング体験を楽しんでもらいたい、里山の森にある豊かさを感じてもらいたいという想いからつくられました。

向かいには人家も灯りもなく、ただ森が広がる場所で、デッキから森や夜空を眺めたり、朝は澄んだ空気に包まれながら焼くホットサンドやホットコーヒーを朝食にしたりと、森に溶け込んだかのような過ごし方ができます。

中庭の一角にある焚火テラスでは、薪割りをする宿泊者も。「里山ホテル ときわ路」では、地元で出た端材から薪をつくり、BBQや焚き火、焼き物窯の燃料として活用しています。

こうした里山の営みに参画してもらおうと考えた宿泊プランが「薪割りプラン」。宿泊者が割った薪は、「里山ホテル ときわ路」のエネルギー源となり、地域資源の循環の一役を担います。
 
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薪割りにはかなりの労力がかかりそうですが、しっかりと乾いた丸太であれば女性でも綺麗に割ることができるそうです。

また、味噌や塩麹など手づくりの発酵食や地元の食材で料理した食事を提供するレストラン、大浴場やトイレなど、ホテルとしての設備が備わっているところで、気軽に里山と関わることができることも特徴です。

茨城県常陸太田市は、ショッピングセンターといったレジャー施設がほとんどなく、何もないところだと言われたりしますが、見方を変えると木や植物、水といった資源の宝庫なんですよね。発掘できていない魅力がたくさんあると思っています。

と話すのは、取締役の堀田誉さん。その思いの先には、どんな未来を描いているのでしょうか。
 
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堀田誉(ほった・ほまれ)
茨城県行方市育ち。茨城県行方市育ち。成田空港管理会社の職を経て、2013年より「里山ホテル ときわ路」のメンバーに加わり、運営に携わる。茨城県で開かれる「里山資本主義フォーラム」の活動にも携わっている。

目指す未来「里山3.0」とは?

私たちが目指すのは、「里山3.0」という里山との新しい関わり方です。

「里山1.0」は里山で自給自足の生活をしていた昔の里山との関わり方。「里山2.0」は里山の保護や保全活動など、経済活動とは一線を画してあえて里山を手入れする関わり方。そして「里山3.0」とは、もう一歩先を目指そうというものです。

里山の資源に最先端のアイデアや技術を融合して、現代の暮らしの利便性を確保しつつ、本来の生活の在るべき姿を取り戻せる、里山と共に生きる社会を楽しみながらつくっていきたいんです。

と堀田さんは話します。「里山ホテル ときわ路」では、マッシュルームキャンプ、里山BBQや自家菜園といった施設を展開しながら、森のフレームデコレーションづくりや星空トーク、アレンジ味噌づくりなど、様々なアクティビティを取り入れています。

例えば、山に生えている草を刈っておしまい、にはしたくないんです。

昔は刈った草や芝を燃料として意義あるものとして活用していたように、私たちは里山の資源に経済的な価値を見出しながら、里山と共存できるような宿泊施設を運営していきたい。来てもらう方には、私たちが仕掛ける里山での経済活動を楽しんでいってもらいたいと思っています。

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里山の秋を持ち帰る「森のフレームデコレーションづくり”Forest in the Frame”」。木の実や苔、葉っぱ、を木の枠に飾っていきます。「これは何の実?」と参加した子どもたちも興味津々だそうです。

先述の「薪割りプラン」で割った薪はホテル内のエネルギー源です。地域から譲り受けた端材からエネルギーをつくり出す過程を体験できる意義のあるプランですが、気軽に楽しんでもらうことを大切にしています。それは何か価値を提供しようとした時に、押し付けるのでは伝わらないと思うからです。

例えば、林の中で遊んでみたいけど、どうしていいか分からない、というお客さまには、「森のフレームデコレーションづくり」といったアクティビティを提案し、里山に触れてもらいたいと思っています。

「里山ホテル ときわ路」では、本来は地元で廃棄処分されていた端材や森に落ちている資源に経済的な価値を見出し、プランを提供しています。その一方、滞在者にとってのメリットは、エネルギーをつくるといった里山での暮らしの一部に参画できたり、自然とのつながりを見つけ出すきっかけになること。そしてもう一つ、大きな特徴があります。

「薪割りプラン」は、おじいちゃん・おばあちゃん、親、子どもの三世代で来ていただくこともあります。経験豊富なおじいちゃんが見本となって、親も子どもも薪割りを楽しみつつ、三世代で交流ができる。

家族や親しい人のことをお互いより深く理解できるといった、お金に換えられない価値も実感してほしいと思います。

地域との共生関係を築くことが、自分たちの利益になる

そうは言っても、常陸太田市は人気ある観光地でもなく、高齢化と過疎化の進む典型的な地方都市。集客することの難しさを感じているのだとか。

里山の魅力をお客さまに価値あるものとしてどう伝えていくかは、ずっと抱えているテーマです。ここは有名な観光地ではないため、ホテルの魅力だけではなく、地域の魅力も同時に見つけ発信していかなければいけない。でも、里山に暮らす価値はあると思うんです。

私の育った茨城県行方市も、道に信号すらなくて、田んぼや畑に囲まれていたところ。小学校まで4kmの道のりを、小川や田んぼで寄り道をしながら2〜3時間かけて歩いて通っていたのですが、団地で暮らす友だちより恵まれていると思っていたほどです。

その時の経験があったからこそ、里山の楽しみ方にはもっと提案の仕方があると思っているんです。

小さい頃の原体験は、思いを実現するための原点になりました。そして、地域にある資源を活かし、地方でしかできない事業を行うことで、「里山ホテル ときわ路」は茨城の県北地域に活気を取り戻そうとしています。
 
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里山の恵みと地域の方々に感謝するイベント「里山にいなめ祭」では、名産の常陸秋そばを使った「日本一長いそば打ち」や地元の方の出店による野菜や木工品などの販売も。

大切にしていることは、地域に利益が還元され、循環する形で自分たちも利益を上げるということです。自分たちの利益の最大化だけを考えるのではなくて、地域と共生関係を築くことで、自分たちにも利益が回ってきます。それは自然の営みと同様の循環の形でもあります。

「里山資本主義」の実践や、「里山3.0」という私たちの目指す未来は、地域との恊働があってこそ、つくることができると思っています。地域で活動する方々に出店してもらって「にいなめ祭」や「サニサン祭り」を開催しているのも、地域の魅力を里山ホテルという装置を使って発信していきたいから。

地域の方々を巻き込みながら、地方の良さを伝えていきたいです。

地域の価値に気づき、地域に根ざした活動をする。それが「里山ホテル ときわ路」流の利益の上げ方なのです。

里山の暮らしをのぞきに行けるような拠点に

「里山ホテル ときわ路」は、かつて国民年金健康保養センターだった施設。「里山ホテル」として新しく運営を始めた2013年、堀田さんは「里山ホテル ときわ路」のメンバーに加わります。

異業種の企業で、12年間働いていた会社から転職を決意したきっかけは、2011年に起こった東日本大震災。堀田さんの地元茨城県も大きな被害を受けます。
 
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茨城県の北部が、被災後から特に元気がなくなっていくのを感じて、自分の力を使って地域に貢献したいという思いがありました。

それと、先述のように、里山で暮らす豊かさを伝えたいという思いも持っていました。そんな時に出会ったのが「里山ホテル ときわ路」。県北の豊かな里山の魅力を伝え、ビジネスとして成り立たせたいと思ったんです。

異分野でキャリアを積んできた堀田さん。地元のために尽力したいという思いは、「場」をつくることにもつながっています。

従業員にとっても地域にとっても、プラスになるような場所になることを大切にしています。従業員がここで働けることを誇りに思えるような環境をつくっていけるか、をいつも意識しています。また、会社を活性化することで、雇用を生み出し、地域に貢献していきたいです。

最後に、これからの「里山ホテル ときわ路」の展開について、お聞きしました。

里山の視点を生かしたテーマパークのような場所にしたいですね。地域で活躍する人たちがつながる地域コミュニティの場としての機能を担い、域外から訪れてくれた人との接点も持てるといいなと。

ここを訪れる人が、気軽に県北の里山の暮らしをのぞきに行けるような、旅行の楽しみ方を届けていきたいです。

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薪に使う丸太は、近くの山で切り出されて要らなくなったものをもらっています。地元の方に協力してもらいながら、ホテルのメンバーが運び出しをするのだとか。

例えば旅先で出会った、地元の職人さんがつくった器。使い込む中で、その先に人がいると思うから、土地へのつながりって感じるものだと思います。宿泊業にとどまらない展開を見据える「里山ホテル ときわ路」が、これからどんな変化を生み出してくれるか楽しみです。

里山は本来、人と自然がともに生きる価値があったから、受け継がれ、続いてきたのだと思います。

都市化や、高齢化と過疎化で、放棄されつつある地方の里山は、実は資源の宝庫。里山を訪れてみることは、日本の地方との未来をつくっていく一歩でもあります。

自然の恵みに自分が生かされている世界を、知ることから始めてみませんか?