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ストレートでも「自分は何者なのか」を考えさせられる。LGBTが結婚の権利を勝ち取るまでを描いたドキュメンタリー映画『ジェンダー・マリアージュ』

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渋谷区や世田谷区でパートナーシップ証明書の発行が始まった昨年、「同性婚」というトピックが大きく注目を集めました。

日本では、ようやくいくつかの自治体が「証明書」によってLGBTに「結婚のようなものをする権利」を認めはじめたわけですが、同じく昨年、アメリカでは、同性婚を人権として認める連邦最高裁の判決が出ました。つまり、アメリカでは誰でも同性と結婚する権利があると法的に認められたのです。

今回ご紹介する映画『ジェンダー・マリアージュ 全米を揺るがした同性婚裁判』は、その裁判を5年以上にわたって戦った原告側を追ったドキュメンタリーです。

全米注目の裁判

ことの発端は2008年、それまで同性婚が認められていたカリフォルニア州で、結婚を男女間に限定する州憲法の「提案8号」が通過したことでした。これによって同性カップルは結婚する権利を奪われてしまったのです。

これに対して、この「提案8号」が人権侵害であるとして二組のカップルが訴え出ます。と言うよりは、この「提案8号」に異議を唱えるNPOが、この提案の無効を訴えるために原告になってくれるカップルを探しだして裁判を起こしたのです。

それだけでも話題になりますが、この裁判をさらに有名にしたのが、この原告の弁護士になった2人でした。それは、かつてジョージ・W・ブッシュとアル・ゴアが大統領選挙の再集計をめぐって争った裁判で、それぞれの代理人となっていた2人の大物弁護士だったことです。

特にブッシュ氏側の訴訟代理人だったテッド・オルソンは、もちろん共和党員で当然同性婚には反対だと世間には考えられていましたが、「結婚の権利」はだれにでも認められるべきものだという考えのもと、かつて敵対したデビット・ボイスと協力して戦うことになったのです。

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オルソン氏とボイス氏

ここにまず、この映画が発する重要なメッセージの一つがあります。それは、同性婚の問題を政治の世界から、人々の手ヘと取り戻すことです。

同性婚は伝統的な家族像と対立するものとして、政治的な道具として使われてきました。政治的な論点として扱われることで、概念が独り歩きして、当事者が置き去りにされてきたのです。そのことを端的に示すエピソードが映画の中にありました。

同性婚に反対の立場から賛成の立場に「転向」する人が出て来るのですが、その人はその「転向」の理由を「信念がじゃまになって、他人が見えなくなることがある」からだといいます。彼は「結婚は男女間のものであるべき」という「信念」に固執したがために、その向こうにいる苦しんでいる人々が見えなくなってしまっていたことに気づいたのです。

つまり、「同性婚」という概念についての議論から反対という「信念」を持っていたけれど、それによって苦しむ人たちがいることに気づいて、その信念に疑問を持つようになったということなのです。これは結婚という「制度」ではなく、結婚をする「人間」に目を向けて同性婚に賛成をするテッド・オルソンの姿勢に共通するものです。

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Who I am(自分は誰か?)

この概念・信念・制度といった抽象的なものよりも「人間」という考え方は、この作品全体を通じて貫かれている姿勢でもあります。

結婚の制度について論じるよりは、原告の二組のカップルの人間性を描き、裁判に参加する様々な人たちの言動や表情を描くことが映画の中心になっているのです。そのため、裁判の映画でありながら、裁判のシーンはほとんどなく、ある種の「人間ドラマ」としてつくられているのです。

そして、そのようにして人間を描いた結果、LGBTかストレートかという区別もだんだん意味がなくなってきます。と書くと、なんだか唐突ですが、LGBTやストレートというのもある種の概念であり、それがそのままその人を表していることにはならないことに気付かされるということです。そしてそれは、より本質的な部分で「自分が誰なのか」を問うことにつながります。

そんなことを私が思ったのは、原告の1人がいった「自分が何なのかわからないで生きるより、今の差別があったとしても自分が誰か(Who I am)わかって生きるほうがいい」という意味の発言からでした。

これは、自分が同性愛者であると認識する前、周りと違うことはわかるけれど、それがなんなのかわからず、自分が何者なのかわからずにいたけれど、愛し合える相手を見つけて、自分が何者なのかわかったということだと思います。

そう考えると、同性婚を選択することは彼らが「自分が自分である」ことを確認し、互いにそれを意思表示することと意味づけることができるのではないでしょうか。

つまり、この映画が描くのは「自分が誰か」を規定する選択肢を勝ち取る戦いなのです。そしてそれは彼ら自身のための戦いであり、同時にまだ自分が何者かわかっていない同じ境遇にある人たち、例えば思春期の同性愛の人たちに、自分が誰かを認識する機会を与えるための戦いでもあったのです。

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原告の2組(クリス、サンディ、ポール、ジェフ)

ストレートとして生きていく中では、なかなか「自分が誰か」を認識するためにこのような大きな困難に直面することはありません。しかし、「自分が自分である」ためにあってほしい選択肢が存在せず「生きづらさ」を感じるという経験をしている人は多いのではないかと思います。

この映画が感動的なのは、困難を乗り越えて「自分らしさ」を獲得するという経験が誰にとっても祝福に値するものだからなのではないでしょうか。

「同性愛者の結婚」という問題は、マジョリティである異性愛者にとっては基本的には「他人ごと」です。しかし、問題を掘り下げていくと、そこには人として生きていく中で誰しもがぶつかる問題が横たわっているのです。

漠然と「同性婚」と言われると反対の意見を持ったり、疑問を抱く人もいるかもしれません、そんな人にこそこの映画を見て、その問題の本質について考えてほしいと思います。もちろん、LGBTの当事者の人も、LGBTを応援する人にもぜひ見てほしいですし、どのようなことを考えたのか聞いてみたいと思う作品です。

劇場での公開は1週間限定ということなので、気になった方は、ぜひとも自主上映会に行くなり、開くなりしてほしいと思います。

– INFORMATION –


ジェンダー・マリアージュ 全米を揺るがした同性婚裁判
2013年/アメリカ/112分
監督:ベン・コトナー、ライアン・ホワイト
音楽:ブレイク・ニーリー

【受賞歴】
アカデミー賞2015 ショートリスト15
サンダンス映画祭2014 USドキュメンタリー部門 監督賞
上映スケジュール http://unitedpeople.jp/against8/
市民上映会情報 https://www.cinemo.info/jisyu.html?ck=41

 

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