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子育ての秘訣は、お母さんを満たすこと! お母さんの「やってみたかった」を叶えて、子どもたちの生きる力を育む「マザーアースアソシエーション」

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後列、ピンクのTシャツを着ているのが「マザーアースアソシエーション」のメンバーたち。メンバーは全員子どもを育てるお母さんです。©マザーアースアソシエーション

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

みなさんは、子どもが育つために何が必要だと思いますか?

グローバル化した社会には「与えられる知識だけではなく自ら考えて行動する力が必要だ」。そんな一般論もよく耳にします。しかし、具体的にどうすれば自信を持って人生を選択し、たくましく生きていく力が身につくのでしょう?

今回ご紹介するのは、大阪府大東市で子育て支援に取り組む「マザーアースアソシエーション」。代表・田中早由里さんは、朗らかに微笑みながら言いました。

子どもを親が褒めてあげなければ、子どもの自尊心って育たないんですよね。自尊心が育たなければ、生きる力も身につかない。生きる力を身につけるためには、まずは母親の精神状態を保つこと。そこができなければ子どもを褒めることすらできないですから。

そう、子育てがうまくいくヒントは、どうやらお母さんを満たしてあげることにあるようです。では、どうやって? 実際に田中さんたちがどのように子育て支援の場をつくっているのか、見てみましょう。
 
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「マザーアースアソシエーション」の代表田中早由里さん。「私も子どもが小さいときは悶々とした日々を過ごしていたので、今子育てする若いお母さんを支援したいという気持ちがあります」。©マザーアースアソシエーション

田中早由里(たなか・さゆり)
1975年福井県生まれ。「マザーアースアソシエーション」代表。キャリア教育コーディネーター、3児の母。日々繰り返さされる子どもたちのいじめ、さまざまな事件、引きこもりなどのニュースに今の母子には「何かが足りない」のでは、と感じた主婦たちが自主的に集まり「マザーアースアソシエーション」を立ち上げる。「こども+生きる力+母」を活動理念とし、メンバーらの育児経験をもとに、親と子の双方を支援する企画を多数開催している。

“お母さん”になる前は、お仕事する“女性”

現代は、孤独の中で育児をするお母さんが少なくありません。核家族化が進行し、仕事の都合などで実家から遠く離れて暮らす人は、子育ての救世主であるおじいちゃん、おばあちゃんなどの家族に頼れません。

また、子どもを保育園に預けて働こうにも、入園には就労証明が必要です。出産を機に仕事をやめて専業主婦になった人は、託児所に子どもを預けて就労の実績をつくらなければ、保育園に入園申請することすらできません。

こうした煩雑さがネックで、保育園をあきらめて家庭での子育てを選ぶ人もいます。しかし、専業主婦の子育ては、日々旦那さんの帰りを待ち、ほんの一瞬も目を離せない子どもを四六時中ずっと見ていなければならないのです。育児は実際に経験してみると、予想以上に体力も神経も使う大仕事です。

3人のお子さんを育てている田中さんも「自分はいわゆる“孤独なマザー”だった」といいます。

母親とて、子どもを産む前は社会人として働いていた人がほとんど。子育てに専念するため外で仕事を持たないお母さんに特に必要なのは、社会的なつながりを持ち自分らしさを発揮する場。そう感じた田中さんたちが2014年に企画したのが、「one coin mom」というイベントでした。
 
posterハンドエステやヘッドマッサージといったプチエステ、キャンドルづくりなどのクラフト、タロット占いや似顔絵、ヨガレッスンなどが500円で受けられる「one coin mom」(画像提供)マザーアースアソシエーション

家にいる時間が長いお母さんは、プチエステからクラフト、タロット占いなど様々な特技を持つ人が実は多いもの。「one coin mom」では、そんなお母さんとプレママ50人がそれぞれブースを開き、参加者はすべて500円で体験できます。

「one coin mom」は、自宅で小さなビジネスをやってみたいという段階の人と、やりはじめた人を支援するのが目的のイベントです。なかなか自宅サロンでの宣伝には限界があるので、こういうところに来てもらってどんどん宣伝してくださいと、口コミで出店者を募りました。

ワンコインというリーズナブルな価格設定が功を奏したか、結果は大成功! 2015年9月の第二回は大東市の市民まつりと同日だったこともあり、会場となった市の生涯学習センターのワンフロアは、何と約600人の来場者で大にぎわいだったそう。
 
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紙を組み合わせて気球の形をしたオリジナルオーナメントをつくるバルーンオーナメントの体験ブース。©マザーアースアソシエーション

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こちらはキッズネイルのコーナー。ブースを開いているお母さん、実に楽しそうな表情をしています。©マザーアースアソシエーション

その後、眠っていたママたちのやる気に火が点いたのか、参加者から「本気でビジネスにしてみたい」という声が上がり、新たに「起業への道『第1回スタートアップセミナー〜好きを仕事にする〜』」も開催。

これは税理士を講師に招き、本気で起業を目指すお母さんたちが、起業するまでの具体的な流れを学ぶことができるセミナーです。

再就職ってブランクがあると難しいものですが、自分で起業するという道もあるんですよね。

起業といっても、すごく大金持ちを目指すのではなく、自分の生きがいが見つかったらいいと思うんですよ。起業セミナーはこれからも定期的に継続していきたいと思っています。

キッザニアは遠いから。職業体験できる場を自分の街でも

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自動車整備士の先生の指導のもと、ボンネットを開けて車の中を見たり、実際にタイヤ交換にチャレンジしました。©マザーアースアソシエーション

お母さんの心を満たす「マザーアースアソシエーション」の取り組みは、子どもを対象としたイベントにも広がっています。そのひとつが、大東市提案公募型委託事業にも採択された、働くことへの興味を育てる「マチの先生プロジェクト」です。

大工、美容師、消防士、書道家、助産師など、さまざまな職種の大人を”先生”として募り、小学生を対象に職業体験をしてもらうこの取り組み。イベント当日は12人の市民が講師となり、子どもたちは体験したい職業を自分で決めて、自分で時間割を組みながら希望の職業を体験することができました。

子どもの職業体験のきっかけのほかに、もうひとつ目的がありました。それは、なるべく人生経験が豊富なシニア層に、先生になってもらうこと。

子どもは母親や家族だけではなく、地域で育てることが大事ですよね。でも、若い子育て世代とシニア層ってなかなか接点が持てないので、こうした世代間交流を図りたいなと思いました。

ちなみに、開催前から市の広報誌に掲載されたこともあってか、申込日の深夜0時になったとたん電話が殺到し、なんと問合せだけでも1,000件以上も! 「こんな企画を待っていた」というお母さんからのメッセージもたくさん寄せられました。

こうして「マチの先生プロジェクト」も大成功となり、2015年にはさらにバージョンアップ。今度は、子どもたちがエコとビジネスとデザインを学べる「キッズマーケット」へと発展します。

不要になったおもちゃや洋服などをフリマ形式で出店する「キッズマーケット」は、最近じわじわ浸透を見せつつありますが、田中さんたちはそこに“学び”の要素を加えました。それは、マーケットに出店する子どもたちが、エコとビジネスとデザインに関する事前授業を受けるというもの。

現代の子どもたちは、生まれた時から選択に困るくらいたくさんのものに囲まれています。こうした時代に本当に自分に必要なものは何かを知り、ものをうまく活用することを知ってほしいと思うのです。

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デザイナー平愛子さんによるデザインの授業。子どもたちは青とオレンジという反対色を使うことで目立たせる効果があることを学びました。©マザーアースアソシエーション

講師は各分野で活躍するプロフェッショナルが担当しました。エコの分野では環境経済学の専門家であり大阪産業大学大学院の花田眞理子教授を、ビジネスの分野では税理士の阿乗栄美先生を、デザインでは大手スポーツメーカーなどの広告を手がけてきた平愛子さんを招きました。

授業では、デザインによる付加価値やものを売るための仕組みを学んだり、ペットボトルをリサイクルした鉛筆立てをつくるワークショップを行ったり。こうして迎えたマーケット当日、会場の公園には2、3人でひとチームをつくった58組の子どもたちのブースが並びました。

同じ会場内でママたちによるフリーマーケットも30店舗開催され、当日はおよそ1,500人弱の来場者があったそう。
 
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スーパーによくあるガチャポンの丸いプラスチックケースを捨てずにとっておいて、ダンボールでお手製のガチャポンをつくった参加者。©マザーアースアソシエーション

マーケットの出品の条件は「エコであること」。“リユース”という観点から、自分たちの要らなくなったおもちゃを持ってくる子もいれば、ペットボトルキャップを再利用したキーホルダーなどを販売する子もあり。

また、擬似通貨ではなく本物の通貨を使ったのもポイントです。子どもたちは自ら自分の商品に価格を設定し、最後の売り上げ計算まで行いました。

チームを組むと、いろんな役割が出てきます。こうした“協働”もねらいのひとつ。売るまでには様々な役割があって、その中で自分の得意分野を見つけてもらえたらいいなと思いました。

イベントが終わって、出店したお子さんのお母さんから「うちの子目覚めんたんです!」と感想を寄せていただいて。「何に目覚めたんですか?」と聞いたら「計算に」と。普段できない体験からいろんな能力を見つける発見の場であればいいなと思います。

褒めることで生きる力を育む

田中さんたちはこれ以外にも、映画『生まれる』の自主上映会に、100人の子どもたちがリトミックを楽しむ「I♡DAITO企画」や、異文化を体験する「GLOBAL KIDS PROJECT」など、親子が楽しめるさまざまなイベントを企画しています。

プライベートでも年の離れた3人のお子さんを育てる田中さんが企画するイベントは、どれもつい参加したくなるような楽しいものばかり。

私たちは教育者じゃない。あくまでも母親の観点で良いと思うことをやっているので、これが正解なのかはわからないんですよ。

と謙虚な言葉をいただきましたが、それでもイベントを続けたいと思うのは、子どもたちと接する中でどの年頃にも「選ぶ力がない」「何をしたいのかわからない」といった、生きる力不足を感じるからだといいます。

これは持論ですが、子どもって何もわからない状態で生まれて、一番最初にお世話してくれるお母さんに絶大な信頼を置くんですよね。だからお母さんに認められてやっと心が安定して、自己肯定感を持つことができる。そしてそれが生きる力につながっていくと思うのです。

とはいえ母親も人間ですから、いつでも完璧に心に余裕を持って育児ができるとは限らない。でも、私たちのイベントを通して、ちょっとでも社会から認められるきっかけになったらいいなと思って続けています。

この記事を書く自分自身も一児を育てる母親ですが、母親はとかく自分を後回しにしがち。でもまずはお母さんが褒められる場がないと、子どもを褒めてやる心の余裕が生まれにくいものです。そう話すと田中さんが嬉しそうに教えてくれました。

「one coin mom」に参加したママたちの子どもは必ずお母さんのことを褒めるんですよ。「うちのママ見て! すごいね」って。働いている姿を見せることで、お母さんから与えられるだけじゃなく、きちんと尊敬する関係も築けるんです。

いままで当たり前だった母と子の信頼関係をもう一度結び直すこと、そして、母親の心を満たしてあげること。生き抜くのに必要なサバイバル力の種は、どうやらこうした身近なところにありそうです。

気になったあなた、ぜひ一度「マザーアースアソシエーション」のホームページを覗いてみてくださいね。