難民の人びとだって、かけがえのない可能性を持っている! 「Banksy」が、フランスの難民キャンプでスティーブ・ジョブズを描いた理由って?

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まずは上の写真をご覧ください。ヒゲの生えた顔に、丸眼鏡、そして黒いタートルネック…と来たら、そう、みなさんおなじみ、アップル創業者のスティーブ・ジョブズです! でも手にはアップルのコンピューター、そして肩には袋を担いで、なんだか様子がおかしくありませんか?

実はこれ、イギリスのストリートアーティスト、「Banksy(以下、バンクシー)」が発表した新作なのです。発表された場所はフランス北部のカレーにある”jungle”と呼ばれる難民キャンプ。このキャンプにはシリア、アフガニスタン、エリトリアから、ドーバー海峡を渡ってイギリスを目指す6,000人もの難民が押し寄せています。

しかし、イギリス側は移民の受け入れを拒否し、フランス側も彼らを邪魔者扱いするなど、滞在環境は劣悪。フェンスを乗り越えようとする難民らと警察のにらみ合いはもはや日常の光景となるなど、緊迫した状況が続いています。

そんな場所にバンクシーが描いたのが、冒頭にご紹介したスティーブ・ジョブズのポートレイトでした。とはいえ、なぜジョブズなのでしょう? ウェブサイトには「シリア移民の息子」の文字。実はジョブズの父親は第二次世界大戦の後シリアからアメリカへやってきた移民なのです!
 
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いつもは作品についてほとんど語ることがないバンクシーですが、今回の作品についてはこんなメッセージを寄せています。

私たちは移民が国の資源を枯渇させると信じがちです。でもジョブズはシリア移民の息子でした。アップルは世界で一番利益を出している会社で、70万ドルもの税金を納めていますが、この会社が存在するのも、ひとえに一人の移民青年の受け入れを許可したからなのです。

バンクシーはこれまでも政治を風刺するような作品をたくさん発表してきました。今回、スティーブ・ジョブズのポートレイト以外にも3作品を同時に公開している他、2015年の夏にはイギリスで発表したテーマパーク型のアートプロジェクト「Dismaland」に使用した資材を”jungle”でシェルターを建設するために転用するなど、難民を支援する姿勢を示しています。
 
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今回、ジョブズのポートレイトとともに発表された作品のひとつ。オレンジ色の文字で“たぶんこの状況はすぐに落ち着くでしょう”とのメッセージ

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こちらも今回、ジョブズのポートレイトとともに発表されたもの。少年が臨むのはイギリスの方角。しかし望遠鏡の上のハゲタカがいまにも襲わんとしているようにも…

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同じく、ジョブズのポートレイトとともに発表されたもの。フランスの画家テオドール・ジェリコーによる「メデューズ号の筏」のパロディー。民衆が手を伸ばす先の船が通りすぎてしまう。まさに現在のキャンプの状況を示唆しているかのよう

今回のスティーブ・ジョブズを扱った作品に対して、「問題点を突いて、現状を明らかにした」と注目が集まる一方で、「発明家や科学者だけを利益をもたらす人的資源としてみなしているのではないか」つまり「そうではない一般市民にも生きる権利があることが無視されているのではないか」という批判的な声も聞かれるといいます。

しかしバンクシーは、誰もが知っている成功者ジョブズの姿を象徴的に用いることで、“難民”と呼ばれるそこにいる一人一人は、かけがえのない、可能性を持った個人だ、ということに目を向けさせてくれているのではないでしょうか。
 
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さて、難民は国の資源を枯渇させるのでしょうか。

難民問題と呼ばれる問題の、その本当の“問題”とは何なのか、みなさんもこれを機に、考えてみませんか。

[via The New York Times,artnet,Market Watch,Banksy]