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問題は“トイレ”で起きている!? 「虹色ダイバーシティ」村木真紀さんに聞く、LGBTフレンドリーなまちのつくり方

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。こちらの記事は、会員サイト「マイ大阪ガス」内の支援金チャレンジ企画「Social Design+」との連動記事です。

2015年は、国内外で同性婚の話題が大きく取り上げられた一年でした。

国内では、東京・渋谷区と世田谷区が、「同性パートナーシップ証明書、宣誓書」の受付を開始。兵庫県・宝塚市も来年から宣誓書を発行することを発表しました。アメリカでは、ついに連邦最高裁判所が同性婚を憲法上の権利として認め、同性婚は全米で合法化。この判決を受けてホワイトハウスが虹色に染まったのは歴史的な瞬間でした。

この潮流のなか、日本社会における性的マイノリティの人々に対する関心も高まっています。LGBT —― レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー ―― という言葉も身近なものになり、ようやくにして「性的マイノリティが生きやすい社会」について議論できる状況が整いつつあるのです。

性的マイノリティは、どんな社会にも人口の数%いると言われています。日本では5〜7%(LGBT 7.6% 2015 電通総研、男性 4.9% 女性 7.1% 2013 相模ゴム工業)。13〜20人に1人の確率ですが、彼らの「働きやすさ」「社会参加のしやすさ」については、これまでほとんど考えられていませんでした。

性的マイノリティの人たちは、地域や職場においてどんな困難を抱えているのでしょうか? 2013年にgreenz.jpの記事でご紹介した、NPO法人「虹色ダイバーシティ」代表・村木真紀さんに改めてお話を伺いました。
 
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村木真紀(むらき・まき)
特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティ代表。社会保険労務士。1974年茨城県生まれ。京都大学卒業。日系大手製造業、外資系コンサルティング会社等を経て現職。LGBT当事者としての実感とコンサルタントとしての経験を活かして、LGBTと職場に関する調査、講演活動を行っている。大手企業、行政等で講演実績多数。 関西学院大学非常勤講師、大阪市人権施策推進審議会委員。2015年 「Googleインパクトチャレンジ賞」、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016「チェンジメーカー賞」受賞。

活発化する企業・行政のLGBT支援

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村木さんは手帳に各企業が発行している自社ロゴとレインボーを組み合わせたステッカーをコレクション。ALLY(理解者・支援者)が増えていくことが可視化されている。

「虹色ダイバーシティ」は、LGBTなどの性的マイノリティがいきいきと働ける職場づくり、生きやすい社会づくりを目指して、調査・講演・コンサルティング事業などを行っています。2012年に活動を開始し、翌2013年にはNPO法人化。この2年間に起きた、LGBTをめぐる社会状況の変化によって、「虹色ダイバーシティ」の仕事はますます多忙になっています。

男女雇用機会均等法のセクハラ指針が改正され、同性間のセクハラについて明文化された2014年7月以降、講演依頼がぐっと増えました。

昨年はついに100件を超え、今年はさらに増えて、私だけでなくスタッフや他の団体にお願いしてもなお手が足りないほど。企業のLGBTが働きやすい職場づくりに対する関心は確実に高まっているのを感じます。

また、2014年からは調査事業も本格化しています。国際基督教大学ジェンダー研究センター(CGS)とのコラボレーションにより、「LGBTに関する職場環境アンケート」を2年連続で実施。今年は2000名以上から回答を得ました。

企業や行政がLGBT支援に取り組むとき、国内の調査データがあることは非常に重要です。海外のLGBT に関する調査データは多数ありますが、日本の企業や行政の方は「それで、日本ではどうなの?」ということをとても気にされますから。

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2013年には、大阪・淀川区に事務所をオープン。すると間もなく、淀川区から「LGBT支援をしたい」という相談が舞い込みました。

「LGBT支援宣言をしてはどうでしょう?」と提案したら、本当に「淀川区LGBT支援事業」がはじまったんです。私はこれを“淀川区の奇跡”って呼んでいるんですけど(笑)。

今は、このビルの一階で月1〜2回、性的マイノリティの人たちが集う「コミュニティスペース」も開催しています。行政が用意する場という安心から、性的マイノリティ、かつ、身体障がい、精神疾患、生活保護など、いろんな困難を抱えた人が来られます。生きるための支援という意味で、これはまさに行政が取り組むべき仕事だと実感してます。

現在では、淀川区には全国の自治体から視察が来るようになりました。“LGBT視察セット”を作成し、他の自治体の求めに応じた講師派遣まで行うという淀川区。「まちがいなくここはLGBT最先端自治体です」と村木さんは胸を張ります。

しかし、LGBTなど性的マイノリティの人たちの暮らしと人生にある、ありとあらゆる種類の課題解決はまだはじまったばかり。まずはいくつか具体的な事例を見てみましょう。

問題は“トイレ”で起きている

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「LGBTに関する職場環境アンケート2015」より。(c) Nijiiro Diversity, Center for Gender Studies at ICU 2015

「LGBTの抱える課題」と聞くと“性的「嗜好」のハナシ”だと受けとめてしまう人も、残念ながら少なくありません。しかし、実際にはその課題は、驚くほど身近で日常的なものばかりです。

たとえば、「LGBTに関する職場環境アンケート2015」のデータを見ると、トランスジェンダーの27%が排泄障がいをわずらっていることが明らかになりました。理由は「トイレに行くことに大きな困難を感じているから」だと村木さんは考えています。

特にトランス女性(いわゆるMtF、身体的には男性で性自認が女性)の人は、見た目でそれとわかってしまう人も多く、女子トイレに行けば「女装した男性」と拒まれ、かといって男子トイレにも入れずに、トイレをガマンしちゃうんだと思います。

みなさんも想像してみてください。トイレに行きたくてたまらないときに、そこに女子/男子トイレしかないうえに、人がいっぱいいたりしたら……? その状況を毎日何度も味わわなければいけないのは「人としての尊厳にも関わること」と村木さんは強調します。

この苦しみに対して、2015年11月に経済産業省の職員が「女子トイレ使用禁止は差別」として職場改善を国に訴える訴訟を起こしました。「どんなところで問題が起きているのかを認識してもらえるきっかけになれば」と村木さんは期待しています。

「もし、別れたら?」同性カップルが抱える困難

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虹色ダイバーシティのステッカーとライフネット生命のステッカー。いちはやく、死亡保険人受取人を同性パートナーにも拡大したライフネット生命では、社内のLGBT研修にも取り組んでいます。

続いて、同性カップルと婚姻届けを受理された夫婦(以下、夫婦)の違いを例に、社会保障の問題について考えてみましょう。

夫婦にとって財産分与や相続が行われるのは当然のこと。しかし、同性カップルには財産分与もなければ不動産を共同名義で持つこともできません。マンションを実質的には共同で購入しても、別れてしまえば名義人だけのもの……。けんか別れの果てに「無一文で放り出される」というケースも実際にあるそうです。

そんななか、渋谷区・世田谷区の「同性パートナーシップ証明書、宣誓書」受付開始は、LGBTを新たな“マーケット”として見る企業を動かしました。たとえば、いくつかの生命保険会社は、死亡保険金受取人の指定範囲を同性パートナーにも拡大。同性カップルがパートナーに対して、生命保険を遺すという手段を提示しました。

今まで、同性カップルがパートナーに何かを遺すには遺言状を用意するしか方法がありませんでしたから、生命保険というもう一つの手段ができたのは本当にすばらしいことです。

でも、私たちのデータでは、LGBTの34%が「年収200万円以下の貧困層」であることが明らかになっています。彼らは保険の契約をする余裕はないかもしれません。

さまざまな解決策があるなかで、「マーケットとしてのLGBT」の認知は、そのひとつの可能性を生み出しました。一方で、「マーケットとしてのLGBTに商品を用意しながら、従業員のなかにいるLGBTへの支援はしない」「そもそも学校に行けない、働けない、というLGBTの中の困窮者は無視する」という企業が出てくることも危惧されます。

そうならないためには、「当事者が抱える困難にしっかり目を向ける」意識づくりに一歩ずつ取り組むしかありません。活動のなかで、村木さんが切実に感じているのは、LGBTを守る法律があまりにもないこと。法律がないと困るのは、より弱い立場の人です。

企業にできることには限界がありますから、やがては法律が必要になってきます。自治体ができることは、憲法や法律に抵触しない部分までです。そういう意味では、同性をパートナーにしている人たちは、もしもの時の社会保障がない状態に置かれたままなんです。

同性婚の承認、職場や学校での差別禁止などの法整備を進めるには、社会全体がLGBTの置かれた状況をもっと深く理解する必要があります。当事者5〜7%だけでなく、もっと大勢の人が「自分もこの状況を変えたい」と感じなければ、LGBTの人々の困難を解決することはできないのです。

LGBTフレンドリーなまちへ

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どっしり分厚いロサンゼルスの「The Essential Gay & Lesbian Directory」。スーパー、ペットショップ、弁護士事務所など、Gay&Lesbianフレンドリーなありとあらゆる職種が紹介されている。

それでは、もっと身近なところへ目を向けてみましょう。みなさんは、友だちや家族からカミングアウトされたことはありますか?

「LGBTに関する職場環境アンケート2015」によると、カミングアウトの範囲は、友だち(84%)、家族(47%)、職場(34%)、その他、地域など(16%)。村木さんは、「職場に関するアンケートなので、私の感覚では、現実より少し高いと思う」と言います。

とりわけ、地域でのカミングアウトは非常に難しい。つまり、LGBTの人たちは、まちづくりや自治会に参加できていないケースが多いと思います。

カミングアウトの壁があると、周りとのつながりが薄くなりがちです。困ったことがあっても、行政を頼ったり、近所の人に助けを求めることもできないかもしれません。さらには、LGBTの人たちは、生まれ育ったまちを離れて、知人のいない都会に出てしまうケースが多い。周りとつながれないまま生きるのはとても危ういことです。

そんななか、同性カップルの結婚式は増えているそう。「法律がないなかで、結婚式がこんなに増えるのは日本特有の現象だと思う」と村木さんは言います。大人カップルのためのウェディング情報誌「ゼクシィPremier」では、毎号1組の同性カップルを紹介しています。

LGBTの人たちにとって、結婚式は周りから祝福と承認をされるというセレモニー。両親にも出席してもらい、友だちに祝福してもらう。

そんなことは今までの人生になかったことだから。出席する人たちも「二人が一緒にいるのは幸せなんだな」とわかるし、いい可視化になっているんじゃないかなと思います。

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2015年3月、「虹色ダイバーシティ」は「Googleインパクトチャレンジ」でファイナリストに選ばれ「Googleインパクトチャレンジ賞」を受賞。2500万円の助成金とETIC.によるメンタリングを獲得しました。

そのひとつが、LGBTに関する大人向けの教育機会を無償で提供し、LGBTフレンドリーな企業や店舗を増やし、さらにその情報を地図上に表示する「LGBT教育 & LGBT フレンドリー・マップ&情報配信アプリ」。

さまざまなテクノロジーの活用を通じ、社会問題を解決する非営利団体を支援するプログラム「Googleインパクトチャレンジ」で提案し、みごと「Googleインパクトチャレンジ賞」を受賞し、来年春のリリースに向けて現在開発を進めています。

この地図アプリは、村木さんにとって「LGBTの人たちが生きやすいまち」の下絵のようなものです。

飲食店、ファッション、ペットショップ、弁護士事務所……。たとえば、その地図アプリに載っている美容室に行くと「気合入ってますね、デートですか?」「はい、彼女とご飯なんですよ」「いいですねえ」という会話が自然にできる。いいですよね、そうだったらいいなあ!

トランスジェンダーの人たちも気兼ねなく入れる「ジェンダー・ニュートラル・バスルーム(トイレ)」の情報も載せたいですね。「ジェンダー・ニュートラル・バスルーム」は、別に新しく作る必要はなくて、既存のトイレに「誰でも入れます」というサインをつければいいだけですから、すぐにできます。

 

「数%の視点」が世界を変えるヒントになる

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海外の表示の一例(http://www.refugerestrooms.org/より引用)

今、ネットで「レズビアン」「ゲイ」などのキーワードで検索をすると、結果に表示されるのはポルノ情報ばかり。当事者が抱える困難を解決するための情報に辿り着くのは至難の技です。「虹色ダイバーシティ」が作ろうとしている地図アプリには、「虹ナビ・ボタン(仮)」をつけて、地域の自助グループや電話相談に直接つながるようにすることを検討中です。

「男」「女」だと、半分ずついると思うからついつい平均値で考えてしまいますが、LGBTの場合は「女性のなかにも、男性のなかにも、いろいろな人がいるね」と個人に焦点が当たる。「LGBTは日本の人口の5〜7%」という比率も絶妙だと思っています。

障がい者は人口の6%ですが、その視点で見た時に「バリアフリー」という言葉が出てきました。LGBTの視点でも、きっとまた新しいものが見えるんじゃないかな。

LGBTに関して、社会が問われているのは「どこまでその人の心の中の“自認”を尊重できるのか」ということかもしれないですね。一人ひとりの人と向き合い、信頼する力を持てるのかどうか……。すべての同性愛者が行政の証明書を持ち歩いたり、トランスジェンダーが性同一性障害の診断書を持ち歩いたりしているわけではないのですから。

「LGBTフレンドリーなまちは、きっとすべての人に開かれたまちになります」と村木さん。まちづくり、職場づくり、あるいは周囲の人との関係づくりにおいて、「数%の視点」は誰にとっても居心地のよい場所を生み出すヒントになりそうです。

– INFORMATION –

Social Design+で虹色ダイバーシティを応援しよう
虹色ダイバーシティでは、LGBTの若い人たちが人前で自分の気持ちをちゃんと伝えられるように、またLGBT研修をもっと広く開催することができるように、LGBT講師養成講座、スキルアップ研修を企画しています。その教科書づくりのために、現在、「マイ大阪ガス」の「ソーシャルデザイン+」にチャレンジしています。ぜひ応援してください!
https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/social/social11.html