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田舎暮らしは理想を叶えてくれない!? 田舎に移住して、新しいライフスタイルを実践する安達鷹矢さんに聞く、 田舎暮らしの本音とは

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いつもお世話になっているという地域の方との写真

この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。

皆さんは、田舎暮らしに憧れたことはありませんか?

都会の喧噪から離れ、大自然の中でゆったりとした時間の流れに身を任せ、誰に邪魔されることなく、自分のやりたいことを思う存分楽しむ…

妄想は広がりますが、実際は、地域の人から理解されず受け入れてもらえなかったり、孤立してしまったり、楽しいことばかりではない現実が待っているものです。

大阪府生まれの安達鷹矢さんもまた、大阪から兵庫県篠山市の田舎に移住したひとり。都会から田舎に移住し、4年経った今だから言える、田舎暮らしの現実をお聞きしました。
 
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安達鷹矢(あだち・たかや)
大阪府高槻市生まれ。大手EC企業退職後、2011年に篠山市へ移住。
現在は地域のEC事業のコンサルタントや販売代行、日本酒BARの店主、オリジナル家紋のDesignなど、枠に囚われず自身がやりたいと思った仕事をパラレルに展開中。地域の事業者の方達と連携して、神社でビアガーデンや古民家ヨガなど地域と都市部を結ぶ活動も数多く手がけている。若手社会人・大学生・高校生向けに、田舎で固定費を落として好きなことを仕事にする、自由な田舎暮らしスタイルについての講演も多数実績がある。

篠山市ってどんなところ?

現在、安達さんが住んでいるのは、篠山市で2番目に伝統的建造物保存地区に登録された福住地区というところ。宿場町と農村集落の2つの歴史的景観が1つの街道に沿って連続する、全国的にも珍しい貴重な町並みが形成されています。

また、兵庫・大阪・京都の隣接する県境のそばという立地や、各地の市街地まで約1時間という便利さもあって、2011年ごろから移住者が増加。Iターンをして、古民家を改装したイタリアンレストランをはじめたり、アーティストが工房を構えたりと、賑わいを見せています。
 
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篠山市福住、川原、安口、西野乃の各一部(25.2ha)が国重要伝統的建造物群保存地区として、平成24年12月、国から選定を受けました。

篠山に引っ越すまでは、大手EC企業に所属していた安達さん。「地方に眠る素敵な商品をもっと世に出したい」という思いで働いていましたが、2年目を迎えたとき「自分の志に沿った仕事をするには時間がかかる」と感じて、退職することにしました。

転機となったのは、大学時代にお世話になったある経営者の方に、篠山市にある集落丸山という宿泊施設に連れていってもらったときのこと。古くて懐かしいのに大企業の取り組みよりも新しく、未来に向けた活動だと思った安達さんは、古民家再生を行う社団法人への就職を決意し、篠山市に移住したのです。

社団法人での契約満了後は、NPOでの地域観光PRの仕事を経て独立。丹波・篠山地域のメーカーや、小売り店のネット販売についてアドバイスを行うEC事業のコンサルティングや、ウェブサイトの運営を請け負うほか、ネットショップの販売代行など、念願だった地域の素晴らしい商品を世に出す仕事を行っています。

また、住民がそれぞれのスキルを生かして助け合い、地域と繋がりながら暮らすギルドハウスの運営や、カリキュラムもテストもない新しい教育の形であるサドベリースクールの開校を目指して活動を始めるなど、都会に比べて閉鎖的とも言われる田舎にあって、真新しい取り組みを次々と仕掛けています。

自宅の隣に日本酒BARをオープン!


安達さんがオープンした「日本酒BAR初音」のオフィシャル動画

そんな安達さんが、2年前、自宅の隣にオープンしたのが「日本酒BAR初音」です。安達さんを訪ねて、多くの旅人が訪れるなど、注目を集めている初音。しかし、そこに至るには、地域の方々とのさまざまなドラマや葛藤があったようです。

最初の戸惑いは、お店を開くときの地元の方からのアドバイス。いまの自宅を紹介するだけでなく、家主さんとの交渉まで手伝ってくれるなど、とてもお世話になった地域の方が、このときも協力をしてくれたのですが…

「こうしないと地域の人は絶対お店に来ない」と、たくさんアドバイスをいただいたんやけど、自分の理想とは違うと感じて。話し合いは真剣に心配してくれてた分結構疲れたなあ(笑) 3日に1回くらい、3〜4時間「こんな店はあかん!」「いやいや違います!」っていう話を何回もするんよ。

例えば、別の方にも、地域の場所を借りてやっている以上は、地域のために店をしないとあかんって話をしてもらって。僕は地域のお客さんを喜ばせる事だけが地域のためだとは思ってなかったから、半分キレかけて「ほなもう店辞めますわ!」って言ったりとかもあったなあ(笑)

安達さんにとって、日本酒BARのターゲット層は、田舎に癒しを求めて来る都会の若者たち。だから、お店を毎日開ける必要はなく、予約が入ったときのみ営業をされています。

しかし、地域の人にとっては、近所にぶらっと呑みに行けるお店ができたと思っていたのに、毎日開店しておらず、しかも予約制。「それでは儲からない」、あるいは「地域のためにならない!」と、安達さんにアドバイスをしに来たのです。

日頃は、地域の用事をしている事で「地域のためにありがとう」って喜んでもらえるのに、店をやり始めた途端「地域のために店を開けないといけない」と責められるのはおかしいよなあと。

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日本酒BAR初音。初音という名前は、元々この地域にあったお店の名前です。

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都会の若者が安達さんと話すために集まります。

安達さんが大切にしたいのは、お金にとらわれない生き方。しかし、地元に住む方のほとんどは、バブルの時代に一生懸命働いてお金を稼いできた人たちでした。

今の時代、お金をたくさん稼げば幸せになれるとは限らない。時代が変わると新しい価値観も生まれてくる。しかし、それは地元の人たちにとって、今まで生きてきた概念を覆すことでもある。安達さんは、そんなジレンマにぶつかったのです。

まあ、全然分かってくれへん(笑)だから分かってくれそうな何人かにだけ話すかな。バブルがはじけきった日本に生まれた僕らの世代は、「かっこよく衰退する」未来もスマートでいいでしょって。

地域の課題解決はこの先日本全体が抱える課題解決の一歩目。そしてそれはさらに未来に先進国が抱える課題の解決手法として注目される。いろんな未来があると思うけど、地域に未来のあるかっこいい仕事がないと、若者は帰ってこないでしょうって。

地域に受け入れてもらうには…?

とはいえ、安達さんが地域の人達と距離をとろうとしているわけではありません。むしろ、草刈りや溝掃除など、地域の雑事にはできる限り参加しています。「そういうところを、見てくれる人は見てくれている」と安達さんは強調します。

また、地域に受け入れられるといっても、村全員に受け入れられることは難しいのだろう。考えが少しでも近い人を何人か見つけ、その人たちに自分の想いを伝えていくことが大事だと話します。

「僕はこうしたいんです」っていうのを、飲みながら深く語れる人を3人ぐらいつくる。そうしたら、その人が周りの人に「あの子はこう考えてるんやで」と勝手に話してくれるから。その話してくれるキーマンにちゃんと聞いてもらったりするのが最初は大変かな。

それができれば、その人たちは味方になってくれるし、もし、いわれのない変な噂が立ったとしても、しっかりと止めてくれる。

安達さんにとっては、自宅のお隣のおばあちゃんや地域の自治会長さん、Uターン組の人たちがそういう存在であり、「友達のように仲良くしてくれるからこそ、この地で活動ができている」と、深く感謝をしているようです。
 
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地域の祭り参加されたときの様子。よそ者だからといって参加しないのではなく、準備から片付けまで参加します。

そうこうして、篠山で迎えた5年目。やっと最近になって、「地域の人に理解されてきたかもしれない」と安達さんは言います。

さっき言った、何度も何度も家に来て話をしてくれた人が最近、こう言ってくれていたそうなんです。

「あいつはちょっと見てる先、目指しているものがどうやら俺らとは違うみたいだから、見守ってやってくれ」って。

安達さんに口酸っぱくアドバイスをしていた人が、安達さんがいないときに安達さんをフォローしてくれていたのです。

とても嬉しかったし、なんかちょっとやってきた事が形になってきたかなあと感じたなあ。穏便にやるのが一番いいけどさ、自分の志を曲げてまで穏便にやるつもりはないかな。それは本末転倒やと思うから。田舎でやっていくのは、もしかしたら精神力がいるかも。

何度でも同じ内容を繰り返し説明する。そこには精神力はもちろん、揺るぎない信念がないと伝わらないのでしょう。

こういう地域の人との付き合い方を、しがらみのように感じる人もいるかもしれません。しかし、地域の人から必要とされたり、自分の畑で作った作物をお裾分けしあったりすることは、安達さんにとって、新しい生き方やライフスタイルを充実させてくれていると話します。

朝起きてさ、「おはよう」と言える人の数が多いことって幸せやと思うねん。桜が咲いて夏祭りがあって、収穫をして寒くなっていく、四季の移り変わりを感じることも幸せやなあ。

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祭りの最後には、地域の人に混ざって、胡弓と鼓の演奏をされました。地域の方からのお誘いは基本的には断らないそう。それが地域との距離を縮めているのかもしれません。

田舎暮らしに必要なこととは

多くのメディアで、田舎暮らしの記事を目にする昨今。ポジティブな面をピックアップするものも多く、理想を持って田舎に移住したい、という人がほとんどかもしれません。

しかし、安達さんのお話を聞いていると、現実には理想と違う場面の方が圧倒的に多いことがわかります。だからこそ、田舎暮らしで大切なことは、「自分の中に理想を持ち、それに地域を近づけていく」ということ。

どの地域に行っても合わへん人もいると思うし、合わへんしきたりもあるやろし。お金も、もしかしたらたくさん払わなあかんかもしれへん。

村との折り合いをつけて、自分の理想を理解してもらったりとか、自分の理想を少しづつ認めてもらったりとか、応援してもらえるように努力して続けていくこと以外に、理想を形にする方法はないかなあ、って思う。

それは都会で仕事をしていても同じこと。外的な要因を動かそうと思うより、努力して自分の理想に近づけていく方が大事だと、安達さんは強調します。

地域活動とか村おこしってひと口に言ってもさ、自分の理想の形があるのは、自分の勝手やんか。それを村に要求したって無理やからさ、それに足りないものを自分で洗い出して、つくっていくものやと思う。

旗を立ちあげると、それに共感したり手伝ってくれる人が出てきたりして、まずその人たちから手伝ってくれて、そこに結果が生まれたときにまた誰かが参入してきて。そうやっていったら結局村全体がこれで良かったよねっていう空気感になっていくんじゃないかな。

自分のやりたいことやからこそ、それぐらいまでやっていきたいと今は思ってるなあ。

この記事を読んでいる方の中には、まさに移住を考えているという方もいるかもしれません。そんな方はぜひ、自分の志や信念を見つめ直してみませんか。

もし、まだ見つかっていないという方は、福住まで遊びに行ってみるのも手かもしれません。きっと安達さんや地域の方々が、暖かく迎えてくれるはずです。

(Text: たちばなりえこ)