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「やりたいこと」と「やるべきこと」のバランスを地域で学ぶ。
大学1年生から活躍できる「河和田アートキャンプ」って知ってる? (第三回)

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地域デザインのひとつのモデルとして注目を集める、福井県鯖江市の里山を舞台にした「河和田アートキャンプ」。第一回の記事では、アートキャンプが生まれるきっかけとなった福井豪雨の物語を、第二回の記事では2008年から2013年までの歩みをご紹介しました。

今回はグッドデザイン賞を受賞した2014年の作品やプロジェクトについて、河和田アートキャンプの総合プロデューサー、応用芸術研究所を主宰する片木孝治さんにお話を伺います。

16のプロジェクトが展開した2014年のアートキャンプ

2014年のアートキャンプは、「モノ」「コト」「ヒト」「マチ」の4つのカテゴリーで、16のプロジェクトが展開しました。第2回の記事で紹介した、「林業」「農業」「伝統」「産業」「学育」「食育」「健康」という7つの要素を継承しつつ、縦割りでは発信しきれなかった「部分」を強化したとのこと。

全国から集まった学生たちは100人強。それが16のグループに分かれて制作します。基本的にプロジェクトの提案をするのは1回生で、2回生、3回生はディレクターとしてアドバイスをする立場。4回生はアートキャンプ全体を見るという役割分担で進めていきます。

普通と逆ですよね。もちろん4回生が中心になって提案すればクオリティの高いものにはなります。しかし作品づくりが主ではないので、経験のない一年生に核の部分を創ってもらうんです。

というのも、河和田アートキャンプは地域とのコミュニケーションが主体。だから学生通しで教えあい、年長者がそれをサポートし、コミュニケーションの仕方そのものを学びながらすすめていくんです。

作品づくりではなく「恊働の仕方を学ぶ」河和田アートキャンプ。実際どんなふうに制作は進んでいくのでしょうか?

畑のなかに彫刻をつくりたい、という学生がいたとしたら、まず畑を持っている地権者に許可を得なければならない。それは企画した一年生が自ら交渉していくんです。

しかし簡単には創らせてくれない。そうすると地権者に畑を貸してもらうためには、まず自分がやりたいだけではダメなことを学ぶんです。

それを創ることによって地域のひとがどう変るのか、そしてそれを河和田でつくる理由な何か。河和田という地域でつくる意味、背景、影響を、行政や地域のひとといっしょに対話しながら考えていくんです。

河和田の里山文化や伝統の継承、環境保全。あるいは産品の地産地消、地域のひとの安心安全や知育体育にいかに貢献していくか。それを「モノ」「コト」「ヒト」「マチ」の4つの切り口で作品化していく。

「やりたいこと」と「出来ること」そして「求められていること」のバランスを、地域や行政とのコミュニケーションのなかで学んでいくのが、河和田アートキャンプのソーシャルデザインのカタチなのです。

「モノ」のアート

それではさっそく、実際に立ち上がった16のプロジェクトを見ていってみましょう。まずは「モノ」のアートから。

河和田は木地の加工や漆塗りの技術など「モノづくり」の職人が集まる町です。学生たちは「越前漆器」や「越前和紙」、「石田縞」など伝統の技を学び、そこから新しい可能性を見いだし企画をたちあげてました。

地元で出た木工の端材を活用する「はしっこキッチン」、越前和紙と竹を使った簡易テント「どこでも和紙」、越前漆器の漆の技法とマンガを組み合わせた「わんこままんが」、地元に伝わる草木染での「石田縞ライフサイクル」など。

そして地域の地酒をつくる「河和田地酒」など河和田に蓄積された様々な技術を生かしたプロジェクトがたちあがりました。
 
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木工の盛んな河和田ではたくさんの端材が出ます。「はしっこキッチン」は地元で出た端材を地元で活用する仕組みを考えるためにワークショップを開催。端材の使い方の提案や商品化をしました。写真:中西朝美

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実際に越前漆器の塗り職人と蒔絵職人へ弟子入りし、漆器にマンガを描いた「わんこままんが」。順番に蕎麦を食べるとストーリーが見えてくる。写真:中西朝美

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「どこでも和紙」は和紙の可能性を追求したアート作品。休憩所として使える竹と和紙のテントを制作しました。しなやかで通気性に優れた楮紙を使用。写真:大田理子

「ヒト」のアート

続いて「ヒト」のアートでは、河和田の人の知識、智恵、感性、思いを生かしたつながりのカタチを提案するアートを企画しました。

専用の便せんを制作し、河和田のひとに手紙を書いていただき、それを学生が届ける「ハートアート」、子どもたちの五感のワークショップ「ぐんぐん発見大作戦」、古着を修繕してふたたび使えるようにする「あ!もったいないアート」。

あるいは、地域のガレージをアトリエとして利用する「まちなかアトリエ」など、地域のひととひとのつながりをより深くなることを目指しました。
 
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「ハートアート」学生たちが河和田のひとたちの郵便屋さんになる。専用の便せんで、写真;中西朝美

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古着を修繕して、より長く使い続けられることを目指した「あ!もったいないアート」。写真:中西朝美

「コト」のアート

アートは必ずしもカタチに残るものばかりではありません。思い出や記憶、印象、感情、感動など、カタチとして残らない領域の創作活動や「コト」のアートと呼びます。

田んぼの中で学生たちが暗黒舞踏を踊る「田んぼダンス」や御神輿に火をつけてかつぐ「ファイアーみこし」などのパフォーマンスアート。

地域の食材をわけていただき、それを具材におにぎりをつくって提供する「おにぎりパーラー」河和田の食材を用いたパンを焼き、自転車で町に届ける「河和田パン屋さん」などがおこなわれました。
 
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「たんぼダンス」。たんぼのなかで暗黒舞踏。”生々流転”全てのものは絶えず生まれては変化し、移り変わっていくこと。を暗黒舞踏で表現します。生と死のサイクルを学生たちが全身で表現します。写真;中西朝美

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「ファイアーみこし」。写真:大田理子

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「河和田パン屋さん」。町の人たちの「おいしい」を聞くため、河和田の食材を用いたパンを焼き、自転車で町に届けます。写真:中西朝美

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「おにぎりパーラー」。河和田アートキャンプをあまりご存知でない地域の方々と広く、少しでも深く関わるため、そのきっかけとしてラジオ体操後に一緒に朝ご飯をつくって食べます。写真:中西朝美

「マチ」のアート

河和田の古民家の街並み、自然環境など、地域の風景を舞台にした創作活動が「マチ」のアートです。

河和田の町の風景を切り取る「みはらし小窓」、森の魅力を再発見させる「森に服を着せる」、子どもたちと町中に秘密基地をつくり、河和田だけの遊び方を見つける「僕らのひみつきち」、そして河和田の文化を知ってもらうフリーペーパー「カワカル」などを発行しています。
 
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「みはらし小窓」河和田の風景を借景に漫画のストーリーが展開

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森の木々に服を着せることで普段と違う森を演出する「森に服を着せる」。河和田の美しい森をもっと多くの人に見てもらいたい、知ってもらいたいという思いから始まりました。

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河和田+カルチャーを伝えるフリーペーパー「カワカル」。写真:中西朝美

交流から生まれる地域デザイン

河和田アートキャンプが、有名な芸術家やデザイナーが参加しているわけではないのにもかかわらず、デザインの分野で日本で最も権威のあるグッドデザイン賞を受賞したのは、こういった学生たちの企画ひとつひとつが「地域」との交流から生まれた「地域デザイン」であることが大きいわけです。

河和田アートキャンプが一過性のイベントではなく、10年におよぶそのつながりのなかで、参加した学生が卒業後、河和田に移住したり、地域で起業するケースも増えてきました。これは日本の地域の希望のひとつではないでしょうか。

いま河和田では今年2015年のアートキャンプの準備が着々とすすんでいます。次回は今年の河和田アートキャンプの様子をおとどけします。
 
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河和田アートキャンプ2014のメンバー。毎年100人もの学生が古民家、一つ屋根の下で共同生活しながらアート製作に取り組む。

写真の表記のないものは河和田アートキャンプのBlogより転載。

– INFORMATION –

 
「河和田アートキャンプ」参加希望があれば、今からでもgreenz.jpの読者の学生に限り、参加の相談に応じます!
応用芸術研究所http://aai-b.jp

「河和田アートキャンプ」2015発表会
9月19日、20日 福井県鯖江市河和田町内 にて
「co-minka」〒916-1222 福井県鯖江市河和田町15-4
http://www.aai-b.jp/ac/