自動車教習所に通って車に乗るように、二十歳になったら家をつくろう! 中宏文さんに聞く、「いえづくり教習所」の目的とは

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どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。

二十歳になったら家をつくろう。
自動車教習所に通って車に乗るように
「いえづくり教習所」に通って、家をつくろう。

そんな不思議なキャッチコピーを見たのは、今年の3月ごろでした。ここ数年、モバイルハウスやタイニーハウスという移動式の小さな家を建てる人が増えている一方で、在来工法や2×4工法でセルフビルドをする人(しかも未経験!)が想像以上に増えています。8月に開校する「いえづくり教習所」について、中宏文さんに聞きました。
 
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中宏文(なか・ひろふみ)さん
1967年、高知県生まれ。建築士&耐震診断士。いえづくり教習所代表。「人は自分のクリエイティブを発揮すべきである」という信念のもと、若者から高齢者まで、能力開発の講演やセミナーを行い、2015年に念願だったいえづくりの教習所を開所。また県外のおもしろい人を高知に招待して講演会も主催している。

自動車教習所といえづくり教習所、どっちに行く?

「大人になったら車の免許を取りますよね。それと同じような流れで、家づくりの技術を教習所で覚えられるようにしたいんです。タイニーハウスなら150〜200万円で建てられるんですよ」

そう話すのは、高知県で建築設計事務所を営む一級建築士の中宏文さんです。建築関係者の間では「家というものは、3回建てて、初めて自分にとって必要なことがわかる」と言われているそうです。まず小さな家を建てて基礎を学び、そのあとで大きな家に挑戦するといいのかも?
 
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教習所の実習に使う材木を前に、これからの作業を説明する中さん。ほぞ穴と仕口の練習から始まる

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教習所から徒歩1分で、広々とした海辺に出られる

「いえづくり教習所」は、高知県安芸郡安田町の海沿いにあります。第一期は8月3日から始まり、28日まで約1か月の期間。月曜から金曜まで授業があり、午前は建築知識の学習(座学)で、午後は大工技術の修得(実習)です。この期間で、3.6m×7.2mのロフト付きの家を建てる計画です。

そして毎週土曜日は地元の人たちとバーベキューの交流会があり、日曜はオフです。教習所から海まで約10メートルなので、講師のひとりがSUP(スタンドアップパドルボード)を教えてくれるそうです。このほか「よさこい祭り」をみんなで見に行くプログラムもあるらしく、充実した1か月になりそうです。

「いえづくり教習所」は、初心者の方を対象に家づくりに必要な建築技術と大工技術を身につける実践的なスクールです。

最近はDIYの延長で家を建てる人も増えていますが、自己流のせいか、建築基準法に適合していないケースもあるようです。そういうスモールハウスのムーブメントをつくるのであれば、きちんとした基準で、小さくても快適なものを広めたいと思って、教習所を開くことにしました。

気になる受講料は、税込みで21万6,000円。このほかに、シェアハウスの宿泊費と食費が5万円ほどかかります。もちろん現地までの交通費は自己負担です。また、のこぎりやノミなど、基本的な大工道具を揃える必要があります(2〜3万円)。
 
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建築基準法をはじめとする膨大な関連法案から、スモールハウスに関連する部分を抜き出してある

4月末に募集を始めたところ、北海道から沖縄までの全国から応募があったそうです。定員12名をはるかに超える申し込みがあり、定員を20名に増やしたうえ、最終的には抽選になりました。

第一期生は男性13名、女性7名。「いえづくり教習所」のためにトヨタ自動車を退職した男性、開校に合わせてオーストラリアから帰国する女性、海外放浪中に申し込みした女性、地域おこし協力隊の男性など、個性派揃い。期間中、教習所から歩いて7分ほどのシェアハウスで共同生活をします。

タイニーハウスとの出会い

現在、中さんは自分の「タイニーハウス」を建築中です。部屋の広さは約2畳半。構造は、高知県産材を使った木造軸組工法で、七輪を埋め込んだキッチンに、ポータブルトイレが設置されています。
 
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タイニーハウスのシンプルなキッチン

2014年10月から12月にかけて、山梨県の山中湖で開催された「タイニーハウスワークショップ」に参加して、つくり方を学んできました。

東日本大震災のときに水道管や電線が切断されても、工夫すればある程度快適な暮らしができるのではないかと考えてたところ、タイヤ付きのシャーシの上に家を建てるタイニーハウスのことを知って、ワークショップに申し込みました。週末だけでも、こういう家で過ごしていれば、いざという避難生活でも困らないのではないかと思っています。

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山中湖で開かれた日本初の「タイニーハウスワークショップ」の様子

災害時にも使えるというコンセプトで、高齢者でも扱えるように、給排水の設備はポリタンクを使ったシンプルなもの。トイレはカセット式で簡単に汚物を捨てることができます。屋根のソーラーパネルで電気を自給し、照明や換気扇、ノートパソコン等を使えるようになっています。

高知県は震災や津波のリスクが高い土地なので、高台にタイニーハウスを複数つくっておくと安心です。避難所になるような体育館の敷地にタイニーハウスを並べれば、個室でプライバシーも確保できます。今つくっているタイニーハウスは、震度7、風速38メートルまで耐えられます。シャーシを含めた材料費は全部で150万円です。

災害時に建てられる仮設住宅のほとんどがプレハブです。仮設住宅の価格は災害救助法に基づいて1戸あたり238万7,000円と決められていますが、こういうタイニーハウスにすれば、復興したあとでも利用できていいのではないでしょうか?

家は自分でつくれる

僕自身、建築の学校を出てから設計の仕事をやってきました。30代になるころに仕事を辞めて高知へUターンして、雇用・能力開発機構の住宅リフォーム課というところで大工技術を学んだんですね。ところが、そこを出ても実際には仕事があまりなく、実益に結びつく職業訓練校のようなものがあったらいいなと思い始めました。

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山中湖のタイニーハウスワークショップで、小屋づくりの楽しさを知る

ちょうどその時期に、海外でセルフビルドしている人を知ったり、スモールハウスやモバイルハウスなどをテーマにしたWebマガジン「未来住まい方会議 by YADOKARI」を読むようになったそうです。

住宅政策提案・検討委員会によると、首都圏と関西圏に住む未婚で年収200万円以下の若者の8割は、親の実家に住んでいるそうです。

かといって、3000万円の家を若者が建てるのは厳しいでしょう。一方、田舎には安い土地がたくさんあります。150〜200万円くらいのタイニーハウスなら、若者でも“マイホーム”が持てそうですよね?

かっこいい車に乗ることは、少しがんばれば実現しそうですが、素敵な家に住むという暮らしのイメージは、夢物語に近いものがあります。それはやはり、家はハウスメーカーから買うものであり、車と比べて10倍以上も高価な買い物になっていることも、手が届かない理由のひとつでしょう。
 
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藤野電力のワークショップで独立型ソーラー発電を学び、小屋づくりにも活かす予定

タイニーハウスワークショップを知ったのは、greenz.jpでした。グリーンズの、“ほしい未来”をつくるためのヒントを発信するということや、“共感”を生むアイデアが人を前向きにし、それが社会を動かす力になるというコンセプトに感激しました。

そこで、自分の知識を役立てられる「いえづくり教習所」の計画を周囲に話したら、みんながおもしろがってくれたんです。実際にやってみると簡単ではないと思いますが、できないことはありません。自己流ではなく、しっかり習えるところを目指します。

自立する人を増やすために

新建材を多用した今の日本の住宅は、30年経つと資産価値がゼロになってしまうそうです。そう考えると、3000万円の家を建てて、30〜40年ローンで払い続ける人生に疑問を感じてきます。

一般常識みたいなものに囚われて、そこから外れるとバッシングされる傾向がありましたが、今はレールから外れた人たちのほうが成功していたり、楽しい暮らしをしているように感じます。家づくりも同じような流れがあり、大手メーカーの家を多額のローンを組んで買っていたのが、自分が本当にいいと思ったつくり方で自由に家を建てる人が増えてきたと思います。

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「いえづくり教習所」で建てるスモールハウスの模型

たしかに、従来の建築方法だけではなく、ストローベイルハウス(藁のブロック)、アースバックハウス(土嚢)、コブハウス(土と藁)、ツリーハウス(木の上)など、独創的な建物も増えています。モバイルハウスを提唱した建築家の坂口恭平さんは、6畳サイズならホームセンターで購入する材料で3万円で建てられると言っています。

ただし、小さい家に住んで節約しようという発想ではありません。これまで当たり前のように家にかけていたお金や時間を減らすことで、その分をクリエイティブな活動に向けられることが大事なんです。

中さんは、「いえづくり教習所」が全国に増えてほしいと言います。各地で教習所を開けるように、今回のプログラムを販売する計画もあるそうです。
 
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1か月の工期に間に合わせるために、母屋の基礎は先に準備されていたが、テラスの基礎づくりで基本を学ぶ

今回の教習所を成功させてからの話ですが、このノウハウをカリキュラム化して、「いえづくり教習所」を全国に広めたいと思っています。この冬には、教習所を開きたい人向けの合宿も計画中です。

きちんと教えてくれる人がいれば、建築士の資格がなくてもOKです。誰でも真似できるような形にして、教える人を増やしたい。そうすることで仕事をつくったり、自分の家をつくれる人が増えたらいいなと思っています。

二十歳になったら……というコンセプトですが、中さんは、年齢層には関係なく「自立している人」を増やしたいと考えています。家づくりに対する思い込みから離れて経済的に自立し、与えられた価値観だけではなく、自分自身でつくる価値観を大事にする。そのためには、自分で考えて自分の道を歩いていく人を増やすことが必要なのかもしれません。
 

「いえづくり教習所」の最終的な目的は、自立する人を増やすことです。そうしたら、自分自身がもっともっと能力を持っていることに気づくはずです。自分で考えて生きる人が増えたら、やがて社会もよくなるのではないでしょうか。そんな人を少しでも増やしたいと考えています。

教習所を卒業すると、高知に移住して大工として働く道も開かれています。見習い期間中は日当5,000円ですが、卒業時の「実技考査」(二級大工技能士と同程度の技術があるかどうか)に合格すれば、日当1万5,000円で働くことができます。高知県では耐震リフォームの仕事がたくさんあるらしく、移住の第一歩としても、「いえづくり教習所」の果たす役割は大きいようです。
 
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中さんが製作中のタイニーハウスを見学に来る人たちも多く、関心の高さが伺える

タイニーハウスやモバイルハウスなど、セルフビルドで自分の家をつくる人たちが増えています。今までは先駆者に学びながら自己流で取り組んできた人が多かったと思いますが、ついに「いえづくり教習所」で法律から技術まで教えてもらえる時代になりました。今後、全国各地に「いえづくり教習所」が増えていくかもしれません。みなさんも、そんな教習所が近所にできたら、通ったみたくなりませんか?

(Text: 新井由己)

新井由己(あらい・よしみ)
1965年、神奈川県生まれ。フォトグラファー&ライター。自分が知りたいことではなく、相手が話したいことを引き出す聞書人(キキガキスト)でもあり、同じものを広範囲に食べ歩き、 その違いから地域の文化を考察する比較食文化研究家でもある。1996年から日本の「おでん」を研究し、同じころから地域限定の「ハンバーガー」を食べ歩く。近著に『畑から宇宙が見える 川口由一と自然農の世界』(宝島社新書)、『THE BURGER MAP TOKYO 東京・神奈川・埼玉・千葉』(監修・執筆/松原好秀 撮影/新井由己 幹書房)などがある。
http://www.yu-min.jp