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国を超えて雇用をつくり、サバンナを緑に変える。オーガニックスキンケア用品をつくる「CTC-LANKA」代表・秋山恵利さんに聞く、海外での仕事のつくりかた

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みなさんは、食品を購入する時、裏のラベルに記載されている添加物の内容を見ていますか?

最近は、オーガニック、マクロビオティックやローフードなど、食にこだわりを持つ人たちが増えていますが、毎日使うスキンケア用品には、合成の添加物が多く含まれているものも。

今回ご紹介するのは、スリランカの現地雇用者ひとりひとりと直接契約を結ぶ「インパーシャルトレード」で雇用者の権利を保障し、現地の自社農園、自社工場で、オーガニックセサミオイルをつくっている「CTC-LANKA(シーティーシーランカ)」。

インパーシャルトレードが現地経営者や生産者組合などの組織と契約するフェアトレードと異なるのは、現地法人を立ち上げ、栽培から商品の生産工程に至るまで現地雇用者の一人ひとりと直接契約するところ。そのため、生産にかかわるすべての雇用者の権利が保証され、日本のCTC-LANKA社員と同じ賃金(換算すると、現地の平均年収の約5倍の賃金)が支払われているのです。

スリランカで、オーガニックセサミオイルづくりに力を注いできた「CTC-LANKA」代表の秋山恵利さんに、その取り組みに込めた思いを聞きました。

スリランカでなければ、セサミオイルはつくらなかった

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インドの下にある小さな島・スリランカ。山岳地帯からサバンナ地帯、平地まで変化にとんでいる国。セサミオイルの原材料のすべてをスリランカの自社農園でつくっています

福岡県久留米市に本社を置く「CTC-LANKA」は、セサミオイルを中心にオーガニックスキンケアを提案するブランド。

セサミオイルの原材料は、スリランカのサバンナという過酷な状況下で育つ、ほとんど原生に近い種のゴマ。中国や日本産のゴマは、非加熱で搾ると3日で腐ってしまうのに比べ、一切の工程を非加熱にしても腐らないのだそう。
 
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サバンナの強力な紫外線と高温から、懸命に自分を守ろうとするゴマ自体が、抗酸化物質を大量に蓄えパワフルなものに。クレンジング・保湿・保護の三役をこなす万能オイルは、細胞本来の自活力を蘇らせ、肌を再生してくれます(3,888円(税込))

その原生に近い種のゴマでつくられたセサミオイルには、ふたつの特徴があります。ひとつ目は、最高レベルの抗酸化物質ゴマグリナンをそのまま豊富に含んでいること。ふたつ目は、15℃以下の低温圧搾という特殊な製法によって、ビタミン、ミネラル、酵素、必須脂肪酸、必須アミノ酸などが生きたままであるということ。

スリランカのゴマと出会わなければ、「CTC-LANKA」のセサミオイルは生まれませんでした。先進国の安定的な供給のために品種改良が進んでいますが、スリランカはオーガニックの知識や認知度が高い国で、品種改良もなくトレーサビリティが確かなんです。

日本でも育成、栽培できればと、スリランカのゴマを大分県に持ってきて試みましたが、実がつきませんでした。原生に近いゴマは、温帯で栽培できるものではありませんでした。

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赤ちゃんに使ってほしいという、セサミオイルにココナッツオイルやクレイ配合の天然素材100%石鹸(3,240円(税込))人と自然に悪影響がある成分は一切含まず、使用することで大地の栄養にもなるほど

人生観を180度変えた、アーユルヴェーダとの出会い

個人事業で化粧品の研究開発をしていた秋山さんは、9年前に「CTC-LANKA」を立ち上げます。オーガニックセサミオイルを開発するきっかけは、秋山さんの実体験にあります。

秋山さんは、10代の頃から原因不明の湿疹に悩まされていました。湿疹は顔から首、背中まで広がり、膿が出ていた状態だったそう。自信が持てず、いつも俯いていた思春期を送ります。

市販の薬が合わず、悪化してしまうこともありました。乾燥している肌に、医師から、肌に塗る油は石油系のものしかないと聞いたんです。それは何かおかしいなと思って。

社会人として働き始めると、仕事にストレスを感じ、皮膚の状態はさらに悪くなってしまったそう。

これは化学物質アレルギーかもしれないと気づいたんです。自分の身体ですから、自分で何とかしたい。何か良い方法が他にあるはずと必死で探して、インドの予防医学であるアーユルヴェーダを学びたいと思いたちました。

アーユルヴェーダでは、ひとりひとり脈診をするほか、食事や睡眠など生活習慣が指導されます。生活の知恵、生命科学、哲学を含めて約5,000年もの歴史があり、病気の治療や予防医学として、科学的にも体系化されています。

それまで西洋医学の薬に頼り切っていたのですが、アーユルヴェーダの哲学や世界観に触れて、地球環境の大切さ、日々の規則正しい食事や睡眠、絶滅が危惧される虫やカビ、菌の大切さなどもわかって、考え方というか、生き方が180度変わったんです。

そして秋山さんは、アーユルヴェーダの植物開発・研究に興味を持ち、スリランカへ旅立つことに。現地では、知識ではなく現実の自分と向き合います。

当時の自分は、幸福感が少なかったのですが、スリランカの人たちはぼろぼろの服を着ていても、歯がなくても、みんな幸福感があるんです。美しい海、山、空気がある。たとえお金がなくても、それだけで幸せそうに生きている。日本人はお金がいくらあってもお金を追い続けて、幸せそうには見えませんよね。

スリランカへの旅で、幸せだと思えなかった過去の自分を受け入れました。そして、これからは収入を得るためだけでなく、自分の幸福感を優先して働くと心に決めます。経験と知識を生かせる仕事を探し、当時はあまり重要視されていなかったオイルに注目しました。
 
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アーユルヴェーダでは、セサミオイルにハーブを滲出したものが使われます。スリランカへは、ハーブの知識があったため缶メーカーのハーブを飲料にするプロジェクトに同行したのが最初の訪問でした

自然に良いものが人にも良いもの。自然のサイクルを壊さないオイルづくり

人生が変わり始めた秋山さんに、「肌にも土と同じように微生物がいるから、うまく育てて代謝を良くするように」と、アドバイスをしてくれた皮膚科の先生がいました。

人間も自然の一部であると理解した秋山さんは、肌に住む微生物と向き合い、微生物を育てるスキンケアブランドをつくりたいと思うようになります。

合成洗剤やシャンプーをなにげなく流すと、そこに住み土を豊かに再生している微生物が一気に死んでしまう。微生物がいなくなると、長い年月をかけてつくり上げた自然のサイクルが、簡単に壊れてしまうんです。自分の肌も自然と同じ。肌に住んでいる微生物が死んでしまっていたことに気づきました。

低温でオイルつくる、昔ながらの臼搾りという製法が良かったものの、セサミオイルは近代化の影響で機械で搾り高温処理されていました。高温処理では、酵素の効果が半減してしまいます。

昔ながらの製法でつくっている工場を探しまわりました。なぜかパイナップル工場へ案内されたり、今日は雨で気の流れが悪いから駄目だと言われたりと、さんざん苦労して空振りに終わることも。これが最後と心に決めて訪れた3度目の訪問で、ようやく木臼でオイルづくりをしている農家に巡り合うことができました。

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ものづくりが好きだという秋山さんは、電気配線、ガス・水道管の溶接の免許を持つ技術者でもあるという一面も

自身の経験と気づきから「自然に良いものが人にも良いもの」と確信した秋山さん。セサミオイルが科学的にも信頼できるものなのか、日本に持ち帰り医療現場でも試します。

糖尿病で透析を受けている人は、テープに皮膚が付いてはがれてしまうほど乾燥し、痒みもひどいそう。その患者さん20人にオーガニックセサミオイルを試してもらうと、18人に効果がありました。つまり、少ないサンプル数ではあっても、乾燥肌による痒みに90%の効果があったということ。

温度にこだわったオイルづくりに効果があることが立証され、秋山さんはますますオイルづくりに励むように。木臼を使うスリランカでのオイルづくりは、15℃の低温で処理できる石臼の製法を研究・開発し「低温圧搾生搾り」の保証がつけられました。
 
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スリランカを何度も往復し、石臼の角度や重さまで徹底的に研究を重ねました。高温にならないようにゴマを注意深く細かくすりおろします

諦めずに続けること。地道な活動が結果につながる

秋山さんは、「誰がつくったのか分からないゴマを使いたくない」「もっと安心できるオーガニック製品にしたい」と、世界基準のオーガニック認定機関CUのJAS認定を取ることを決意していました。世界基準では、10年以上無農薬の農地であることと、生産、収穫、輸送まで化学肥料や遺伝子組み換えの混入がないなど、客観的な証明の提出が義務づけられています。

まず、100年以上手をつけていない農地と、他の農地から農薬の影響がまったくない東京ドーム何倍もの敷地の確保が必要でしたが、ほどなくして、スリランカ政府から土地を貸してもらえることに。その栽培地は、ジャングルから行き来がある、ハーブしか自生しないサバンナでした。

大きな切り株がいくつもあったので、日本からトラクターを運んで耕しました。ゴマの栽培も大変で、スリランカでは手でパーッと撒いていたんです。日本の指導員を連れて行って10cm間隔で撒く方法を指導しましたが、最初は実がなりませんでした。たくさんの苦労がありましたが、地道に続けて、ようやく自社農園が完成しました。

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高さ1mほどのゴマの木。一つの木に黒ゴマと白ゴマが同時に実をつけるため、匂いが強い黒ゴマと白ゴマをひとつひとつ手分けしなくてはならないとか。ゴマは、たくさんの花を咲かせています

現在、発展しつつあるスリランカですが、まだ貧困層が存在する開発途上国です。世界基準のオーガニック認証の取得と継続のため、資金や客観的な証明の提出など困難なことばかり。それでも、認証が取得できた理由はどこにあったのでしょうか。

スリランカは、国民の7割が仏教徒です。よくお寺を訪れてはお坊さんに話を伺ったり、環境の大切さなどを訴えていました。そうしているうちに、お坊さんを通じて面識のある大臣たちに資金を後押ししていただいて、資金面ではあまり苦労を感じませんでした。人々の出会いに恵まれて、感謝の気持ちでいっぱいです。

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高温のサバンナで収穫したゴマは、今度は平均気温15℃という気候の工場へ送られ、オイルにして石鹸などへ加工されます

インパーシャルトレードについて、秋山さんは「オイルづくりで、現地の人の採用を決めたのは、人件費を安くするためではない」と言います。2009年に内戦が終わった後も貧しい人が多いスリランカの貨幣価値は、日本の10分の1程度。主な産業は観光産業くらいで、働きたくても仕事がない人たちが多く、そうした困っている人の手助けになる仕組みだと思っているそう。

過去の経験は自分を強くしてくれましたが、弱い人たちのことを思うようにもしてくれました。それでも初めは、日本と同じように分刻みで働いて、商品の流通に支障が出た時には苛立ちがありました。日本人は時間に縛られ、機械的に生きているのかもしれません。文化や価値観に応じた働き方があることを知りました。

幸福感があれば、人生は広がっていく

今、「人の健康な心と体」のために働くことで幸福感が得られている、という秋山さん。これまでの経験をもとに、新しい仕事へ広がっています。

そのひとつは、久留米市の事務所の隣にある、お米農家さんの工場で、無農薬のお米に虫がわくのを見て思いついた、災害備蓄用の米缶のアイデアです。
 
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新商品の備蓄用米缶は、災害時に見つけやすいレスキューオレンジにしました

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微生物で分解させたオーガニックのココナッツウォーターとココナッツオイル、無酸素充填米は3種類。新陳代謝が向上して太りにくい体質に変わるなど、ダイエット効果があるといわれるスパイスライスは、ハラール認証商品

スキンケアについて、特に子どもには、安易に日焼け止めクリームを塗らない方がいいんです。微生物が少なくなってしまいますから。それよりも、オイルを塗った方がいい。日に焼けると言われますが、すぐに白くなります。あと、バナナなど酵素をたくさん含んでいる食品を摂るといいですね。

笑顔で話す今の秋山さんは、生き生きして幸せそうです。事務所には、皮膚の悩みを持つ人たちが訪ねてくることも多いそう。

土は微生物が豊かにしています。土と同じように皮膚の毛穴にも微生物が住んでいて、例えると家族のようなもの。微生物という家族が広がって、豊かな社会をつくり身体全体が良くなっていくのは、微生物の世界も人間の世界も同じなんです。

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現地スタッフとも協力して開発したスパイスライスを確認しながら打ち合わせ

秋山さんの考え方には、目に見えない微生物から、すべての生き物と人々、自分自身、自然のつながりに対する理解と思いやりがあります。互いに影響しあいながら完全に調和した世界になる過程で、土や川や空気を汚してマイナスにして死にたくはない、秋山さんはそう話していました。

環境や人権などの社会課題は、解決するのは難しいと思うこともあるかもしれません。インパーシャルトレードは、ひとつの課題解決の糸口になりそうですが、解決の場が日本ではなく海外になることもあるでしょう。

文化や考え方の違いを理解すること、思いを伝える意思を持つこと、ものを選んで買うこと。その行動の積み重ねで、海外でも未来を変えていくことができるのです。

自分の心と身体、これからを生きていく人たちの心と身体も、国ではなく地球という単位でみんなつながっています。地球規模で環境を考えて、食物はもちろん、スキンケアにおいても、合成添加物や化学物質をなるべく使わない暮らしをどうつくることができるのか、みなさんも考えてみませんか?