ISSUE まちづくり

1 year ago - 2015.07.09

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京都を舞台に、次の1000年を担う企業をつくる。門川大作京都市長、大室悦賀教授に聞く、京都からはじまるソーシャルイノベーション

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対談は京都市役所で行われました

京都といえば、日本文化の粋を現代に伝える、古き良き”伝統の街”。あるいは、「ワールドベストシティ」ランキングで2年連続1位に選ばれるほど、世界に誇る”観光の街”。

そんな千年の都には、もうひとつの顔があります。それは、絶えず革新を続けてきた”イノベーションの街”。

振り返れば、明治時代に、日本初の小学校開校や路面電車開通、当時の大土木事業だった琵琶湖疏水の建設など、いち早く近代化を進めたのも京都でした。島津製作所をはじめ、オムロン、ワコール、京セラなど、世界トップシェアを誇る企業も、京都から誕生しています。

歴史に磨かれた審美眼と、最先端の手法を組み合わせて、新しい産業を創出してきた京都の歴史。それは同時に、時代に先駆けて新たな軸を示すという大きな役割を果たすということでもありました。
 
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SIC構想の実現に向け、企業などの取り組みを下支えする「京都市ソーシャルイノベーション研究所」のロゴ

そんな”イノベーションの街”京都で、これからの日本、いやこれからの世界の未来を占う、ある重要な取り組みが始まろうとしています。それが「京都市ソーシャル・イノベーション・クラスター構想(以下、SIC構想)」です。

京都でいま何が動き出しているのか? そして、どこへ向かっていくのか? 今回はSIC構想のキーパーソンである門川大作京都市長、その中心的な役割を担う「京都市ソーシャルイノベーション研究所」の初代所長を務める大室悦賀・京都産業大学教授にお時間をいただき、具体的な取り組みやその背景にある思いについて伺いました。

お相手は、今年4月に京都へと移住した、YOSH編集長が務めます。

京都で何かが動き出す

YOSH 本日はよろしくお願いします。4月に京都市民になったばかりなのですが、さっそくこのようなお時間をいただき、光栄に思います。

門川さん 最近こうして、たくさんの方が京都に来てくれはって、とても心強く思います。しかも、今日は着物で。似合っていますね。

YOSH ありがとうございます。ただ、京都のしきたりの勝手がわからず、着物姿ひとつでも緊張しています(笑)

門川さん 大丈夫ですよ。よく「三代住まないと、京都人ではない」とかいいますが、真っ赤なうそ。歴史的にも、外から人が入ってつくった街ですから。

大学も多いですし、京都生まれの人ばかりではありません。「京都移住計画」が盛り上がっているようですが、みなさん京都に住んだら、すぐ京都人です。
 
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いつもお着物をお召しの門川大作京都市長

YOSH 市長にそう言っていただけると、少し安心します(笑) 京都精華大学の先生になるということで、こうして僕も呼ばれるように京都に来ましたが、ここ最近、僕の好きなひとたちが京都に集いはじめているなあと、強く実感しているんです。

例えば、京都市ソーシャルイノベーション研究所のクリエイティブディレクターとしてNOSIGNERの太刀川英輔さんが就任し、西陣に京都オフィスを開設しましたよね。

ほかにもアミタ株式会社NPO法人ミラツクなど、greenz.jpにも縁のある人たちが、どんどん京都に拠点を移して、ワクワクするような新たな企みが生まれています。

また、ソーシャルイノベーションの文脈だけでなく、「mina perhonen」や「D&DEPARTMENT KYOTO by 京都造形芸術大学」、「ARTS&SCIENCE」など、ライフスタイルに関わる話題のお店が顔を揃え、さらにこの夏には「PASS THE BATON KYOTO GION」のオープンも控えていて。

もう自分の趣味の部分まで含めて、どの出来事もど真ん中なんです(笑)

大室さん 挙げたらきりがありませんが、今治を拠点とする「IKEUCHI ORGANIC」のような日本有数のソーシャルビジネスの担い手も、昨年、京都で旗艦店を出店しましたね。秋には0から6歳の伝統ブランドaeruのお店「aeru gojo」もオープンしますよ。
 

株式会社和えるの矢島里佳さん。今年の11月には「aeru meguro」に続く直営店「aeru gojo」を京都にオープン予定(写真:greenz.jp過去記事より/撮影:服部希代野)

YOSH とても楽しみですよね。偶然か、必然か、「これはきっと、何か見えない力が働いているに違いない!」と思っていたときに、大室さんからSIC構想のお話を聞いて。何かピンとくるものがあったんです。

大室さん もちろん、すべての動きに直接的に関与しているわけではないですが、一般社団法人オープン・ガーデンの桜井肖典さんと進めている「RELEASE;  © 」や、株式会社ウエダ本社の岡村充泰さんが仕掛けている「京都流議定書」。「公益財団法人信頼資本財団」の様々な取り組みなど、ここ数年だけでも、多くの対話や連携の機会がありました。

それらのひとつひとつが、いまSIC構想という形で、実を結びつつあるのかなと思います。まあ、兼松さんまで引っ越してくるのは、予想外でしたが(笑)
 
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京都市ソーシャルイノベーション研究所の初代所長を務める大室先生

京都から、新しい軸をつくる

YOSH 門川市長と大室さんとの最初の出会いは?

門川さん 大室先生とは6年前くらいにお会いして、それ以来ですね。もともと第一期の市長選挙のマニフェストに、「京都をソーシャルビジネスの聖地にしたい」と書こうとしていたくらい、このテーマには思い入れがあったのですが、結局はそれをやめたんです。

本当のソーシャルイノベーションというのは、政治家や行政が主導するものではなく、市民参加で起こすもの。宣言よりもまずは熟度が大事ということで、大室先生たちとシンポジウムを立ち上げて。

YOSH そこではどんなことが話されたんですか?

門川さん ひとことでいうと、新しい軸をつくる、ということですね。よく「失われた20年」といますが、抜けられない不況はありません。大切なのは、抜けたときに、どういうまちを、暮らしをイメージするかです。

今までの大量生産・大量消費ではなく、自然と共生する。そういう日本ならではの美学、哲学が大事になっていく。

YOSH そのヒントが、京都にはあふれていると。

門川さん そうです。例えば、ほんまもんをちゃんと見分ける「めきき」。職人さんやものづくりのまちとしての「たくみ」。何かをとことん追求する「きわめ」。

ほかにも、新しもの好きとしての「こころみ」。ホスピタリティや心をケアする「もてなし」。そして、最初から最後まで、ものを大事にして、無用な贅沢を控える「しまつ」。普段ケチな分、祭りとなると盛大ですが(笑)

こういう、京都の、日本人の生き方を大事にしたとき、きっと未来がひらける。

YOSH まさに、いま求められているキーワードばかりですね。
 
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京都市基本構想

門川さん 実は、これらの6つのコンセプトは、1999年に策定された「京都市基本構想」に示されているんです。

哲学者の鷲田清一先生を中心に提言をまとめ、行政のあり方の基本となる第一章に「京都市民の生き方」として、京都人の「得意わざ」をしっかりと描いた。それが景観条例など、現実の法整備まで行き届いています。

大室さん 最初に基本構想を見たときは、僕も驚きましたね。そこでは、例えば、こんな未来が描かれているんです。

・社会や様々な世代間に信頼が再構築された未来
・過度の競争や効率性を回避し、調和した社会が構築された未来
・画一的な価値観やそれに伴う東京一極集中などの社会経済情勢から脱却した未来
・互いの技術にも企業文化にも厚い信頼を置き、相互にきめ細かく支え合う産業連関都市が再生された未来

こういう屋台骨となるような哲学がなかったら、SIC構想もとりまとめられなかったと思います。

門川さん 国が規制緩和をして、経済の活性化をしようというときに、京都ではむしろ規制を強化した。そうして、「ちいさな東京」にならなかったことで、巡り巡って都市格が向上し、市民生活も豊かになってきた。

私が尊敬している梅原猛先生も、「100年の真理は東京で学ぶ。1000年の真理は京都で学ぶ」と仰っていました。今は1000年を展望し、100年を見つめて、10年を考えることが大事なのではないでしょうか。

YOSH 「七代先まで考える」という、ネイティブアメリカンの掟と通じるものがありますね。

門川さん 本来、日本人にとっての時間軸はそういうものだったんです。いまは東京に一極集中してしまって渦のようになっている。それを変えていかないと、日本が危うくなる。その新しい軸をつくり、発信していくのが、京都の役割だと思うんです。

ビジネスの原点を探るきっかけに

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YOSH編集長の着物は秋田の実家から取り寄せました

YOSH 具体的には、「ソーシャルビジネス企業認定制度の創設」「社会的企業をトータルで育成する経営支援」「キュレーターの育成」など、6つの取り組みがあるようですね。

門川さん 企業認定制度でいうと、京都市では、これまでもさまざまな取り組みを実施してきました。ベンチャー向きには全国初の取組として、「ベンチャー企業目利き委員会」を立ち上げ、既に110社を認定しています。また、伝統のある企業の第二創業を支援する「オスカー認定制度」というものもあります。

認定されたことで一定の信用を得ることができれば、融資を受けやすくなったり、販路を開拓しやすくなったりするでしょう。ほかにも、さまざまなサポートを検討しているところです。

YOSH どういう基準で認定されるのでしょうか?

大室さん とてもシンプルで、市民の豊かさを定義している基本構想を実現するビジネスであるかどうか。それだけです。経済的な指標だけでなく、哲学のようなものを基準にするビジネスの認定制度は、日本にはあまり例がないかもしれません。

社会課題というのは、効率性を追えば追うほど犠牲になってきたことが顕在化しただけなんですよね。その直接的な解決も大切ですが、それはどうしてもハードルが高くなってしまう。

例えば、待機児童が増えているとして、どんどん保育所をつくっても間に合わない。子どもの問題の隣に高齢者もいて、別の課題を生み出すかもしれない。根本的に解決するためには、待機児童が生まれないような仕組みを、新しいビジネスとしてつくらないといけない。

YOSH 「そもそも社会課題を生まないビジネスとは何か?」を考えるというわけですね。

大室さん はい。そこにイノベーションの種があるんです。もちろん、成功だけでなく失敗もあると思いますが、それさえも共有したい。ソーシャルビジネスを実験する場所、プロトタイプの場所として、京都を使ってもらえると嬉しいですね。

京都から生まれたオムロンの創業者の方も、「企業は社会の公器」と仰っています。また、同じくワコールの理念も「あらゆる女性を美しく」ということで、そこには自然と高齢の女性も含まれる。

そうやって大企業は少しずつ変わってきていますが、いま一番変化が必要なのは、京都にもたくさん存在する中小企業です。そういう方々を巻き込んで、「ビジネスの原点とは何か」ということを、対話していきたいですね。

ヒントは酒づくりにあった

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たっぷり2時間の対談収録となりました

YOSH いま「地方創生」というキーワードが盛り上がっていますが、SIC構想ではどんなビジョンを描いていますか?

門川さん 地方創生といっても、自分のところだけが元気になるというのはよくない。

目の肥えたお客さんが多い土地だからこそ、地方のよいものを京都で紹介すれば、ビジネスチャンスも広がるでしょう。京都の大学で学んだ学生は、ふるさとに戻って活躍してくれる。そんな大学の役割でもいいかもしれない。

地方と地方をつなぐ。あるいは世界をつなぐ。京都ならではの地方創生のあり方を模索したいですね。

YOSH 大室さんはいかがですか?

大室さん 本当に地域が変わるには、市民の生き方そのものが変わらないといけないと思うんです。行政にも限界がありますから。

そして、その一番シンプルなアウトプットは、働くこと。だからこそソーシャルビジネスのように、社会とつながる仕事のつくり方を変えていきたいと思っています。

門川さん 大室先生が教えてはる京都産業大学の”産業”って、「むすびわざ」とも読めますよね。それは何かというと、「新たな価値を生み出す」ということ。その最先端が、いままさにソーシャルイノベーションなのでしょうね。

YOSH 100年前の近代化のように、21世紀の「こころみ」としてのソーシャルイノベーション。

大室さん ただ、実際に京都が面白くなってきたように感じる最大の要因は、行政の人たちの意識の変化だと思います。京都市の職員が市民との対話の場に参加し、自分ごととして京都の未来を描き始めた。

そして、黒子の動きとして、魅力的な人たちを誘致するときなど、かなり丁寧に段取りをしてくれている。そういう小さな成功事例が増えてきたことで、「京都で何かできるかもしれない」と思ってもらえるようになってきたのではないでしょうか。

YOSH どうして、そんな幸せな状況が生まれたのでしょう?

門川さん それは市長が頼りないさかい(笑)

カリスマ性のあるリーダーよりも、70点くらいでいいんです。足りない30点を本人も認識しているのなら、そこを批判するよりは「どうしようか」と動く。

選挙で選ばれた人間に「全部やれ」というのは民主主義ではないんですよ。僕の仕事は、みんなのモチベーションを高めて、できることを掛け算していくことなんです。

大室さん SIC構想の肝となるのも、一人ひとりのモチベーションだと思っています。これがイメージ図なのですが、お酒をつくるための桶がモチーフなんですね。これは、江戸時代から続く千葉県の酒蔵・寺田本家から着想を得ています。
 
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多様な主体を生み、育て、誘致する「桶」のようなイメージ。桶の「立て板」部分は「社会的企業をトータルで育成する経営支援」を、桶の”たが”の部分は「複合的に連携する支援策」を表す。


寺田本家・24代目の寺田優さん(写真:greenz.jpの過去記事より

YOSH 寺田本家といえば、蔵付きの菌の力を借りて発酵させる、昔ながらのつくり方で日本酒をつくる酒蔵として有名ですね。以前、記事にさせていただきましたが、「酒づくりとまちづくりは似ている」というメッセージはとても印象的でした。

微生物は自分たちが大好きで、気持ちよく楽しく生きている。人間もそれを見習って生きてみればいいんじゃないか。ひとりひとりが発酵できる環境をつくることができれば、その影響は広がっていくと。

大室さん まさにそういうことです。社会課題解決の鍵を握る、市内や市外のさまざまな組織や個人が集まると、何故か発酵してしまって、どんどん物事が動き出す。そんな誰にとってもプラスにしか働かないような場を整えたいと思っています。

門川さん 京都に来たら、やたら成長する。足を引っ張り合うよりも、いいところを伸ばしあう。そういう街がいいね。

大室さん そうやって、京都を舞台に1000年の真理を学びながら、次の1000年を担う企業をつくっていく。それがこれからはじまるSIC構想です。

YOSH 1000年のときを経て、子孫たちで同窓会ができたら最高ですね。何より京都市民として、とてもワクワクしました。今日はありがとうございました!

(対談ここまで)

 
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最後はみんなで記念撮影を

というわけで、門川市長、大室先生との対談いかがでしたでしょうか。

ここ最近、地方創生をはじめとするソーシャルイノベーションの取り組みが、日本各地で盛り上がりをみせています。その方法論が少しずつ共有されるようになってきたからこそ、1000年の都・京都で育まれていくSIC構想は、根底にある哲学にいのちを吹き込む試みなのかもしれません。

今後の詳細については、7月24日(金)に開催される「京都流議定書2015」のトークセッションで発表されるとのこと。「そろそろ何だか京都に呼ばれそう」という感じがしたら、これを機に足を運んでみませんか?

あなたの背中を押してくれそうな、ささやかなご縁が、きっと京都で待っています。

(撮影:吉田亮人

– INFORMATION –

 
関連イベント:京都流議定書2015(1日目)
日時:7月24日(金)
場所:ハイアット・リージェンシー京都およびKYOCA    

15:00〜16:00(ハイアット・リージェンシー京都/無料)
「京都市ソーシャル・イノベーション・クラスター構想が”紡ぐ”未来」
門川大作(京都市長)  
太刀川英輔(NOSIGNER代表/京都市ソーシャルイノベーション研究所 クリエイティブディレクター)
大室悦賀(京都産業大学経営学部 教授/京都市ソーシャルイノベーション研究所 所長)

16:15〜17:45(ハイアット・リージェンシー京都/無料)
「次の1000年をつくる企業とは」  
畑 元章(株式会社松栄堂 経営計画室室長)
水野泰平(有限会社シサム工房 代表取締役)
大東利幸(大東寝具工業株式会社 代表取締役)

19:00〜21:00(KYOCA/参加費3000円)
「京都市ソーシャルイノベーターズ meet up in KYOCA」|交流会

[sponsored by 京都市]

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writer ライターリスト

YOSH

YOSH

greenz シニアエディター/NPO法人グリーンズ理事 1979年生まれの勉強家 兼 お父さん。2004年よりウェブデザイナーとしてNPO支援に関わりながら、「デザインは世界を変えられる?」をテーマに世界中のデザイナーへのインタビューを連載。 CSRコンサルティング企業に転職後、2006年クリエイティブディレクターとして独立し、ウェブマガジン「greenz.jp」の立ち上げに関わる。2010年より編集長。秋田市出身、京都市在住。一児の父。 2016年より京都精華大学人文学部の特任講師として、「ソーシャルデザイン・プログラム(社会創造演習)」を担当予定。

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