ISSUE まちづくり

1 year ago - 2015.06.28

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私の子どもたちに、ふるさとを。 東京を拠点に、会津のリトルプレス「oraho」を発行する山本晶子さんに聞く、離れているからできること

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この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。

会津のいいものを伝える「oraho」というリトルプレス。「おらほ」とは、福島県会津の言葉で「わたしの土地」「わたしの住んでいるところ」という意味です。

2010年に創刊し、「離れて暮らしているからこそわかる会津のよさ」という目線で、「凜凜たる会津木綿」や「うるしのくにを訪ねて」といった特集を掲載しています。そんなorahoを立ち上げたのが、東京の出版社に務めている山本晶子さん。東京に住みながら、地元と行き来して、orahoの発行を続けています。

高校時代は「会津から離れたくて、できるだけ遠くにいきたかった」と振り返る彼女が、どうしていま、ふるさとのことを伝えようと思ったのか。そして、離れているからこそ伝えたいことは何なのか。

今回は、北海道・旭川を地元とする私のためにも、東京に住みながらふるさとと関わるためのヒントをうかがいました。
 
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山本晶子(やまもと・しょうこ)
1974年、会津に生まれる。大学進学を機に上京して以来、東京に暮らす。
都内出版社に勤務。2010年にふるさと会津のいいもの・いいひと・いいことを伝える「oraho」を創刊。現在vol.2まで発行されている。同業者の夫、6歳の息子、2歳の娘と4人暮らし。

興味がなかったふるさと

山本さんが会津から上京したのは、大学進学のとき。今でこそふるさとに愛着を感じている山本さんですが、10代の頃は、多くの地方出身者が共通する「田舎に生まれただけで損」という思いを持っていたそう。

自然の中で育ててもらったのは、ありがたいことだと思ってはいるんです。でも、東京は塾や予備校も充実しているし、見たい映画がいつでもやっている。会津では読みたい本を見つけても入荷まで1ヶ月と言われる…あぁーこれだから……と。

最初はなんとも思っていなかった、ふるさと・会津。上京したての頃は、まわりの友達が「会津に行きたい」と言っても、「何もないよ」と答えていたそう。

しかし、東京での暮らしが長くなるにつれ、なんとなくふるさとが気になり出します。

喜多方ラーメンと、会津城と、野口英世だけじゃない。それも間違っていないけど、「それだけって思われたくない」「惜しいな」という気持ちが出てきたんです。

もしかしたら、地方出身の方には「あ、わかる」という気持ちかもしれません。

こんなにいいものがたくさんあるのに、地元の人は気づいていない。こっちに進もうとしているけれど、本当はこっちなんだよな。そんな思いを抱えながらも、「私が口出すことではないし」と、どこか距離をおいていた山本さん。

少しずつ気持ちに変化が生まれてきたのは、子どもが生まれてからでした。
 
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山本さんのふるさと、会津の景色

子どもを連れて会津に帰る機会が増え、ゆっくりと町中を歩けるようになると、「あぁ、ここ好きだったなあ。こんなところあったなあ」と、自然にふるさとのいいところを自分の中に蓄積していくようになります。

地元をどんどん再発見しているうちに、「あんなテーマやこんなテーマで雑誌をつくってみたい」とアイデアが出てきた山本さん。実はこのころ、産休復帰のタイムリミットも迫っていたこともあり、自分プロジェクトを始めていいものか、ずっと悩んでいたそう。

そんなときに最後に背中を押してくれたのが、ご主人の応援であり、「やったほうがいいですよ」「出すならここで創刊記念イベントをやりましょう」という周囲の仲間の言葉でした。

まだ内容も固まっていないタイミングながら、知人のお店で出版記念イベントを開催することが決まり、締め切りができたことで、一気に制作をスタート。執筆も写真も、印刷物をつくることもほとんど初めてながら、知人のデザイナーさんや印刷所のみなさんに支えられ、第一号が完成したのです。
 
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第一号の特集「凜凜たる会津木綿」

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文京区小石川橙灯で行われた創刊イベントの様子。会津の物産も一緒に販売されました。

東京にいるからこそ、伝えられること

いま、「てくり」(岩手県)や「弁当と傘」(兵庫県但馬地方)など、日本各地のリトルプレスが人気を集めていますが、そのほとんどは、地元に住んでいる方が手がけています。

近くにいれば、頻繁に会って世間話をしながら、少しずつ心を開いていくことができますが、山本さんのように、地元と東京を行き来しながらの制作進行には、苦労もたくさんあったそう。

本題に入るまでに時間がかかったり、自分ではそう思っていなくても「冷たい」と受け止められたり…「これだから東京の人は」と何度も言われたこともありました。
 
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第二号の特集「うるしのくにを訪ねて」

その一方で、山本さんのような存在を面白がってくれる人もいました。どの地域でも、地元ならではの人間関係があり、「これは聞いてはいけない」とか「こちらを立てたらあちらも」といった、見えないルールがあるもの。

でも、山本さんはそこに住んでいないからこそ、知らないふりや気がつかないふりをすることができます。「いい意味での不公平な視点」で紹介するものを選ぶことができる。地元から離れていること、それが何よりの強みだったのです。

視点はあくまで私のもの、そう決めたんです。誰かの意見に流されるようなら、私でなくていい。自費出版だし、そこはわがまま通しちゃってもいいかな、って。

地元なんだけど、住んではいない。だからこそ冷静に、価値があるかないか、県外の方がお金を落としてくれるくらい魅力的なものか、かなりシビアに見ていると思います。

会津は東京からも近く、大型バスで日帰り旅行もでき、1泊2日で東山温泉に宿泊もできます。とはいえ、それではツアー会社が決めたところをまわるだけで、いつもお金が落ちるところが同じになってしまう。これでは、一部の人にしかプラスになりません。

その状況を変えていくために、山本さんは、「リピーターが増えそうなもの」を敢えてセレクトしています。

1回だけ来てくれる人が1万人より、10回来てくれる人が1000人いてくれたほうがうれしい。人がわーっとくる一過性の話題ではなく、残ってほしいものや消えてほしくないものを紹介したいんです。それで町を好きになってもらって、通ってくれる人が増えることが大切だと思っています。

それらの魅力的な情報は、もしかしたら地元にいればいるほど、見過ごしてしまうことかもしれません。だからこそ、「外に出たことがある人の目線が役立つ」と山本さんは続けます。

ある意味、都会的な目線が、ふるさとの魅力を再発見する鍵だと思っています。私も上京したばかりのときは、「東京の人はクールだなぁ」「あっさりしてるなぁ」と思っていました。でもそれは、いい意味で物事を冷静に、客観的に見ていたんですよね。

将来の子どものために、ふるさとを残したい

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oraho創刊号で「ただいま、おかえり。」という記事で紹介した鶴乃江酒造の林恵子さんと娘のゆりさん

優しさと厳しさの中に潜む、山本さんの強い会津への思い。その背景には「自分の子どもたちに、“帰る場所”を残したい」という願いもあるようです。

このままだと、私のこどもたちは東京生まれ東京育ちになります。そんな都会っ子でも、いなかを持つことができたらいいなって。だから会津がなくなると、困るんです。

ふるさとから離れ、東京で暮らす私たちが、将来、子どもたちのために何を残せるのか。山本さんのように、ふるさとの魅力を伝え、守って行くことは、東京にいながらできること、すべきことだと、強く思わせてくれる言葉でした。
 
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会津ブランドものづくりフェアに参加した際のディスプレイ。本郷焼きの器と、山本さんがデザイナーと生産者を結びつけ、新しい商品が生まれているyammaの会津木綿のコースターとランチョンマット

「oraho」を発行したことで出会った人たちとイベントを企画したり、ご自身の好きなデザイナーさんに会津木綿の商品をデザインしてもらったり、思いをどんどん形にしていっている山本さん。

依頼があれば、都内の雑貨店や全国誌で東北や民芸、会津がテーマでとりあげられる際、会津のもののコーディネート、紹介することもされています。本はもちろん、形にこだわらず、山本さんの視点で選ばれる会津のいいもの、景色や暮らし方を楽しみにしている人がどんどん増えています。

地元ですごす時間は多くなくとも、東京に住む福島出身の方から温かいメッセージが届いたり、そうした人と、また会うようになったりするうちに、会津との距離はどんどん近くなっている様子。

山本さんのようなふるさととの関わり方は、きっと私たちにもできるはず。あなたならふるさとの何を選び、何を残して行きたいですか?

(Text: 藪谷春菜)

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