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LGBTの子どもたちに「あなたはあなたでいい」と伝えたい。「ReBit」藥師実芳さんに聞く、違いを受け入れる社会のつくり方


ReBitのメンバーは大学生が中心。LGBTの当事者もいれば、そうでない人もいます。

渋谷区で、同性カップルに対し「結婚に相当する関係」にある証明書を発行する動きがあり、同性カップルの話題がニュースなどでも頻繁に報道されています。

ただ、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)などのセクシュアルマイノリティは、大人だけでなく、子どもからお年寄りまでさまざまな方がいて、まだまだたくさんの問題があります。

たとえば、LGBTの子どもたちは、自身のセクシュアリティに対して疑問やとまどいを感じながらも、それを誰に言うこともできず、生きづらさを感じている子が少なくありません。

今回は、セクシュアルマイノリティの子どもの問題に取り組むNPO法人「ReBit」の代表理事である藥師実芳(やくし・みか)さんに、その活動とセクシュアルマイノリティの子どもたちの現状についてお話をうかがいました。
 

ReBit代表理事の藥師実芳さん。彼もLGBTの当事者。

ありのままでいられないLGBTの子どもたちの現状

ReBitは、「LGBTの子どももありのままの自分で大人になれる社会」をめざしています。特にLGBTの子どもに関する活動に取り組むのは、厳しい環境におかれているからです。

LGBTは人口の5.2%といわれています。40人クラスであれば、約2人はLGBTということになりますね。

でも、学校現場では、9割以上の生徒がLGBTについて習っていない、先生の9割以上がLGBTのことを知らない、LGBTの約7割が学校でいじめを受けた経験があり、そのうちの12%は学校の先生からだったなどといった、たくさんの問題点があることが調査でわかっているんです。

さらに深刻なことに、自分のセクシュアリティを自覚していくといわれる、小学校高学年から高校生の思春期の間には希死念慮が一番高まり、性同一性障害の子どもの約3人に2人が自殺を考えるという調査結果もあります。
 

LGBT成人式のフライヤー。6色のレインボーは多様なセクシュアリティを象徴するLGBTのシンボル。

現在、ReBitが取り組んでいる活動は、大きく分けて3つ。(1)LGBT教育と(2)LGBT成人式、そして(3)LGBT就活です。

LGBT教育では、行政・自治体や学校現場に行って、年間80回ほど出張授業・講演をおこなっています。子どもたちの置かれている現状を変えるには、子どもを支援できる大人が増えることや制度の変更が必要と考えているため、教職員・自治体職員を対象にした研修も実施。

LGBT成人式は、全国9つの自治体で開催されている、年齢もセクシュアリティも不問の成人式型イベントです。ありのままの自分を自身で肯定して、周りからも祝福されてほしい、そんな願いから2011年度に始まったイベントは、これまで計27回開催されてきました。

さらに、10-20代のLGBTの就活支援もおこなっています。調査によると、LGBの約4割、トランスジェンダーの約7割が、求職時にセクシュアリティに由来した困難があるといいます。

実際のLGBTの就活生の声からも、面接の場でセクハラに遭うことや、企業の無理解を感じる場面があることがうかがえます。そこでReBitでは、学生への支援はもちろん、企業や自立就労支援機関での研修も実施しています。今年の4月には、LGBT向けの就活サイト「LGBT就活」をオープンしました。

「あなたはあなたでいい」と伝えたい

ReBitが出張授業を始めたのは、2010年8月。当初はどの学校からも断られたそうです。

まだLGBTという言葉も今ほどは知られていないうえに、「LGBTの子どもはいない」「そんな性的な話はしなくていい」といった声がほとんどでした。そんな声に対し、藥師さんたちはLGBT教育の必要性を発信してきました。

LGBTに理解のある人であっても、「小さな子どもがLGBTについて理解できるのか」という懸念を抱く人はいるかもしれません。けれども、それは単なる思い込みのようです。

僕らは、小学校1年生に対しても授業をさせていただきます。伝えたいことは、『人は皆違うし、自分らしさは大事だよね』ということ。

LGBTであることで周囲と違うと感じ、自分らしさってなんだろうと考えたことのある僕らだからこそ、言えることがあるんじゃないかと思って授業をしています。

LGBTがレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字であるといった知識を伝えたい訳ではない、そう藥師さんは言います。

言葉の意味ではなく、多様性を知ることや、自分らしさが大事であるという体験は、小学校1年生の子どもに対してでも十分に伝わると実感しているからです。

授業のあと、「手とか足がない人がいるように、男の子が好きな男の子がいるし、それでいいと思った」「男らしさ女らしさより自分らしさが大事だと思った」などと、小学校低学年の子どもが感想を口にしたこともあったといいます。
 

出張授業の講師は、当事者である大学生たちが務めます。

子どもの発達度に合わせた伝え方を考える中で、ReBitでは、子どものために教える手段のひとつとして、LGBTに関する絵本をつくるためのワークショップを実施しました。

日本にも、『タンタンタンゴはパパふたり』『たまごちゃん、たびにでる』『いろいろかぞく』などといったLGBTを題材にした絵本は既に出版されています。

けれどもそれらはすべて海外のものを翻訳したものです。海外では、LGBTに関する絵本だけで書店にコーナーがつくれるくらいたくさん出版されているのです。

日本でも、幼少期からLGBTについて伝えるための絵本はあるべきだと思っています。それで、絵本をつくろうというプロジェクトのひとつめとして、絵本作家を招いての絵本講座をおこなったんですね。

当事者もそうでない人も、さまざまな人が参加する中、それぞれが思う絵本が出来上がりました。中には、当事者の方が自身の経験を反映させたものや、いろいろな色を多様性に見立てたものがありました。

絵本づくりの難しさを実感しつつも、さまざまな人のストーリーを見せてもらったのはすごく有意義だったそうです。ReBitでは、これから絵本制作に関わる方たちとともに、2015年度中に絵本を完成させたいと考えています。
 

絵本に関して、ラジオの取材を受けました。藥師さんの隣が絵本の筆者。

LGBTについての適切な教材が不足している現状では、LGBTについて教えたいと思っている教職員や、伝えたいと思っている保護者も、誤解を与えてはいけないと思うあまり、二の足を踏んでいる人もいることは容易に想像がつきます。けれども、藥師さんは言います。

一番の誤解は、LGBTの子どもをいないものとして伝えてしまっている現状だと思います。

伝えるべきことは、「男の子と女の子だけじゃなくてもいい」「男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしくしなくてもいい」「好きになるのが異性でなくてもいい」「人を好きにならなくてもいい(※アセクシュアルと呼ばれる、特定の人への恋愛感情を持たないセクシュアリティの人もいます)」といった、極めてシンプルなことだといいます。

そういったことが学級新聞の片隅に書いてあるだけでも、当事者の子どもにとっては大きな意味があります。藥師さんが出会ったある大学生は、子どもの頃、LGBTのことが書いてあった学級新聞を未だにずっと大切に持っていたそうです。

藥師さんがLGBTの子どもたちに伝えてほしいと願うのは、「LGBTの人は一定割合いることと、あなたはあなたのままでいいということ」だけ。そして、「困ったときは言ってほしい」と伝えたいと言います。
 

過去にgreenz.jpでも紹介したLBGT成人式の様子

理解がLGBTの子どもを救う

LGBTに関する理解が徐々に進んでいるとはいえ、LGBTの子どもたちが学校生活で困難を強いられることはまだまだあります。たとえば“トイレ”や“制服”。

「制服がつらかったから学校に行けなかった」「トイレが使えなかったから膀胱炎になった」「体がどうなっているんだと服を脱がされるようないじめを受けた」「男子同士で仲良くしていたら“ホモか”と先生に言われた」など、枚挙にいとまがないようです。

そんなつらい、切ない状況に、今も苦しんでいる子どもたちがたくさんいます。わたしたちに、何かできることはあるのでしょうか。

やっていただきたいことはふたつあります。ひとつめに正しい情報を伝えてほしい、もしくは正しい情報へアクセスする方法を伝えてほしい。そして、相談できる大人であってほしいと思うんです。

学校などでは、LGBTの子どもへの対応について講演を求められることも多いといいます。トイレや宿泊行事などでの対応です。そういったとき、当事者の子どもたちは一人ひとり違うということを忘れてはいけないと藥師さんは強調します。

たとえば、女性として生まれたけれど、男性としての性自認を持つトランスジェンダーの子どもが、女子の制服を嫌がって先生に相談に来たとしても、ジャージ登校を許可してほしいのか、女子にスラックスの制服を導入してほしいのか、男子の制服を着たいのか。

それとも先生に気持ちを聴いて欲しいのか、望む対応は生徒によって異なってきます。

そのときにとるべき対応は一概には言えないですよね。一番大切なのは、先生に相談できるということだと思います。そのときに先生が“そうなんだ”と言って傾聴してくれることです。その上で学校生活を過ごしやすくするための対応を一緒に考えていってほしい。

すべての学校にジェンダーフリートイレをつくったり、女子全員にスラックスの制服を導入したりといったことが必ずしも必要ではないのです。ただ、LGBTの苦しんでいる子どもが声を出せるような環境が求められているのです。

「周りの人がLGBTへの理解があれば、LGBTの子どもたちも安心して学校生活を送ることはきっとできる」と、自身もFtM(女性から男性へ)のトランスジェンダーである藥師さんは言います。

例えば、困りやすいトイレにおいては、男女のものしかなくても自分が入りたい性別のトイレに入ったり、教職員トイレや誰でもトイレがあれば、使用してよいことにすることで安心してトイレに行ける。

宿泊行事の男女で分かれている部屋でも、本人の希望に合わせた性別の部屋に宿泊したり、必要に応じて個別の部屋での宿泊にすればLGBTの子どもも参加しやすいですよね。

お風呂は個室シャワーが使える施設であれば望ましいし、なければ時間をずらしてひとりで使用できるようにするなどの対応ができます。

理解さえあれば、今のままの学校でほかの子どもたちと一緒に、ありのままの自分で学校生活が送れるのです。だからこそ、周囲がLGBTについて理解することが大切です。ReBitがLGBT教育に力を入れる理由がここにあります。

LGBTに関する問題について、熱く語ってきた藥師さんですが、最後に意外とも思うことを口にしました。

LGBTはあくまで切り口だと思っています。LGBTだけでなく、誰もが一人ひとり違うわけじゃないですか。

LGBTを切り口に、互いの違いを受け入れあえる社会をつくりたいと思っています。違うことって素敵だよねとか、違うことを理解し合えるって素敵だよねって、そう言えたら、多くの人が楽になるのではと思っています。

LGBTの話題が頻繁に取り上げられるようになり、自分とは異なる、距離のある問題だけれども、理解すべきものと考えている人も多いかもしれません。

けれども、違いを受け入れ合う社会、多様性を認め合う社会への第一歩と考えれば、無関係な人など誰ひとりいません。そんな当事者意識を持って、LGBTについて関心を持ってみるのはいかがでしょうか。

理解が広まって、LGBTの子どもたちがありのままで自分らしく生きていける社会が少しでも早く来るように、ReBitの活動は続いていきます。