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大人の自由が、子どもの自由を保障する。出版もイベントも、保育者自ら楽しむ「りんごの木」青山誠さんに聞く、”個が尊重される社会”のつくりかた

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車座になって座る子どもたち、一体何をしているのでしょう?

答えは、“ミーティング”。4〜5歳の子どもたちが一同に会し、ひとつのテーマについて意見を言ったり、他の子の発言に耳を傾けたり。ここでは、大人も子どもも平等。だれもが自由に言葉を発することが認められている場です。

「小さな子どもたちに、ミーティングなんてできるの?」
「子どもに意見を聞いて、グチャグチャにならない?」

そんな声が聞こえてきそうですが、これを毎日実践しているのが、横浜市都筑区にある「りんごの木子どもクラブ」です。子どもたちの育ちの場、と思いきや、実はここでは大人たちも自由が認められており、子どもと一緒に“文化”を育んでいるのだとか。

大人も子どもも、“我がまま”でいられるプロジェクト「りんごの木」。その想いの向かう先を、保育者の青山誠さんに聞きました。
 
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青山誠(あおやま・まこと)
「りんごの木」保育者。大学時代のボランティアでの子どもとの出会いをきっかけに、芸術学部文芸学科卒業後すぐ、幼稚園に就職。保育園での勤務を経て、2007年(?)より現職。保育の他に執筆、イベント企画など幅広く子どもに関わる事業を展開中。著書に『子どもたちのミーティング〜りんごの木の保育実践から』(柴田愛子との共著/りんごの木)、絵本『あかいボールをさがしています』(文・青山誠、絵・くせさなえ/小学館)など。

子どもと一緒に文化を育むプロジェクト「りんごの木」

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「りんごの木」は、子どもに関するトータルな仕事をする場。個性豊かなスタッフがそれぞれに得意分野を活かして、保育から出版、セミナーやイベントまで、幅広い事業を展開しています。

冒頭で紹介したミーティングを実践しているのが、「りんごの木」の保育部門にあたる「りんごの木子どもクラブ」。横浜市都筑区内の3箇所に拠点を構え、1歳親子〜未就学児約100人が通う認可外保育施設として、子どもたちの育ちを見守っています。
 
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横浜市都筑区内にある園舎は、「見花山教室」(1〜3歳児)、「茅ヶ崎南教室」(4〜5歳児)の2つ。他に、「畑」という屋外フィールドがあります。今回取材した茅ヶ崎南教室は、住宅街の中という立地。子どもたちは園舎を飛び出して、まるでまちが園庭であるかのように自由に思い思いの遊びを楽しんでいました。

「りんごの木子どもクラブ」のコンセプトは、“子どもの心に寄り添う保育”。「子どものことは子どもに聞いてみよう」という発想で、毎日同じ時間に子どもたちを集めてミーティングを開催。子どものありのままを認め、ありのままの声を聞き、それを日々の保育の実践につなげています。

徹底して子どもの声を聞くことにこだわる「りんごの木子どもクラブ」には、大人が内容まで決めた年間行事は一切なし。運動会の種目も遠足の行き先も、4〜5歳児のクラスでは子どもたちのミーティングによって決まり、その意志が反映された形で決行されます。

もちろん、「やらない」という選択肢もあり。子ども一人ひとりの育つ力を信じ、個を尊重することで、「子どもが主役の保育」を実現しているのです。
 
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ミーティングでは、まず全員の名前が呼ばれ、一人ひとりが声を発する事から始めます。

「りんごの木」の最大の特徴は、保育者のみなさんが、保育以外の活動も自由に行っていること。

たとえば、「りんごの木出版部」では、保育の実践をまとめた保育者向けの書籍から、エッセイ、絵本まで、幅広い書籍を販売。保育者によるパフォーマンス集団「アップルジャム」による子供向けCD販売やコンサート、ウェブマガジンによる情報発信も行っています。
 
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「りんごの木」から生まれた書籍。大人向け、子ども向け、テーマも様々。

さらに、リアルな場づくりも「りんごの木」の得意分野。

保育者向けのセミナーや講師派遣はもちろん、最近では、子どもに関心のある方々がジャンルを越えてつながり合うオープンなコミュニティ「りんごの木サタデーナイト」や、都筑区内の複数の子育て関連施設と協働で開催する「こどもみらいフェスティバル」など、様々なイベントも展開中。
 
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「子どもが主役の子育て」「もっと自由に外遊び」をコンセプトにした「こどもみらいフェスティバル」。昨年に引き続き2回目となる今年は、6月13日から2週に渡って開催されます。

僕らは子どもとともに日常を過ごしているのだけど、子どもの隣にいて何かを発信したり、子どものドラマを大人に伝えたり、子どもにも伝えたり。“文化”に関わっている感じがしますね。

と、青山さん。保育者である大人も楽しみながら、自由に自分のやりたいことを実践し、子どもと一緒に“文化”を育んでいくこと。それが、「りんごの木」流の保育のかたちです。

大人も子どもも“個”が尊重される場

「りんごの木」が設立されたのは、1982年のこと。保育、造形、歌といったそれぞれに違う専門分野を持つ3人が集い、3人の子どもたちと一緒に活動を開始しました。

場所も人も少しずつ増やしながら、30年以上にわたり、子どもに関わる様々な事業を展開。2015年4月現在は、約100人の子どもと一緒に、19人の大人が活動するプロジェクトへと成長しています。

ただでさえ大変な保育施設の運営。それでも「りんごの木」がひとつの園にとどまらず、多彩な活動を継続してきた背景には、どんな想いがあるのでしょうか。

青山さん 「りんごの木」で一番大事なのは、大人も自由であることです。もともと、保育観は一緒だけどやりたいことはバラバラな3人が集まって始まったのですが、その後も保育の枠に収まらない人が来て、いろんな活動を自主的に展開しています。

ひとつの決まったものを続けていくというよりは、その流れの中で見えてきて思いついたことを、外の人とつながりながらやっていく。だから、「りんごの木」は、園というよりはプロジェクトなんです。

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ランチタイムは、大人も子どもも自由な席を選んで座り、ともに楽しみます。「正しい保育より楽しい保育」が、保育者のモットー。子どもたちに負けないくらいいきいきとした大人たちの笑顔も印象的でした。

セキュリティ重視のために情報も関わる大人も統制され、園内で閉じてしまいがちな現代の保育施設とは真逆の、自由でオープンなプロジェクト。その考え方は、スタッフの働き方にも反映されています。

青山さん スタッフの働き方も、話し合いで「何日働きたい?」から始まり、対話の上で決定します。所属クラスも、「私ここやりたい」とか、みんなでワイワイ話しながら決めていきますし、代表が決めちゃうことなんて、一切なくて。

何にせよ個人ということがすごく尊重されるんです。大人だろうが子どもだろうが、保育者だろうが保護者だろうが、みんな差がなく、人として尊重される。組織とかが大嫌いなので、全員参加ということもなく、やりたい人が個で動く。だからすごーく、風通しがいいですね。

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毎週水曜日は、子どもたちのお楽しみ、有志のお母さんたちがつくるランチの日。保護者会もないので、お母さんたちも、こういった活動に参加する・しないは個人の自由です。

大人も子どもも、“個”が尊重される「りんごの木」。青山さんは、それを表す象徴的なエピソードを聞かせてくれました。

青山さん 「りんごの木」には、金髪の保育者がいるのですが、以前、彼女が通りすがりの人に「保育者らしくない」と言われたことがありました。それに対して代表の柴田は、「金髪にせよ服にせよ、自分で似合うと思ってしているわけだから、それを他人がとやかく言う資格はない」と。

全部そういう考え方です。本当に、自由が保障されている感じがしますよね。

誰もが自分のありのままでいられる場所。やりたいことがある人が、やりたいことを自由に表現できる場所。

そんな自由を確保し続けるため、「りんごの木子どもクラブ」は、敢えて認可外保育施設という形をとって運営を続けています。

青山さん 保育士や幼稚園教諭の資格を持つ人だけではなく、音楽に秀でた人や、絵が得意な人など、スタッフの陣容も多様です。いろんな視点があっていいし、子どもを応援する形はいろいろあります。

保育士の応援の仕方ももちろんあるけど、近所のおじちゃんも、商店街のおばちゃんも、音楽やる人も絵を描く人も、いろんな人がいていい。大人も子どもも、いろんな人がいて当たり前なんです。

いろんな人がいるのが、実在の社会。そんな当たり前の、でもいつの間にか奪われてしまった環境が、「りんごの木子どもクラブ」の子どもたちには保障されているのです。

確たる土台のもとに初めて成り立つ、本当の「自由」。

一貫して個人の自由が尊重される「りんごの木」。保育においても、子どもたちへの接し方に関するルールはひとつもないのだとか。

でも自由であることは、ある意味、厳しさを伴うことでもあると、青山さんは言います。

青山さん 「りんごの木だからこうする」というルールはなく、大人も子どもも、徹底して個を問われます。ルールがあったほうが、楽なこともありますよね。

でも、りんごの木では、どんな場面でも「あなただったらどう思う?」と聞かれて、気持ちがないときは、「じゃあもうちょっと考えてみて」なんて言われちゃう。だから、実は厳しい場面もあると思います。

例えば、保育のやり方についてスタッフの間で意見が分かれたときは、まず大人同士で対話をします。

それでも結論が出ない時は、ミーティングで「あなたはどう思う?」と子どもに問いかけることもあるのだとか。

青山さん 子どもたちも、絶対にうやむやにはしません。もちろん、「わからない」や「答えたくない」は、ひとつの意思として尊重しますし、無理矢理答えさせるようなことはしません。

でも、「みんなと同じで良い」となってしまわないように、「みんなと違ってもいいから、どう思う?」と聞きます。多数決も絶対にしない。

そうやってひとりひとりの声に耳を傾けることで、子どもたちは、「自分の個を出す」ということと、「自分と違う個が隣にいる」ということを同時に受け取ることができる。多数決で決めずに、ひとりでも根拠を話すことで、そのひとりに心を動かされる人がいたり。面白いですね。

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「多数決はしない。ひとりでも、がんばればいい。」

ケンカのことから遠足の行き先まで、様々なテーマで日々繰り返されるミーティング。青山さんは、運動会のリレーのやり方についてのミーティングのときのエピソードを聞かせてくれました。

青山さん “Aちゃん”という、自閉症と診断されていた子がいました。Aちゃんは、一周をみんなと同じように「勝ちたい」という気持ちで走れない。走りたくもない。

最初はみんな、「なんで俺は勝ちたいのに、Aちゃんは座っちゃうんだよ」ってケンカになったりするんですね。でもそのうち、いろんな気持ちの子がいるって気付いてくるんです。

「勝ちたい」という気持ちもすごく大事。でも、そんな気持ちになれないAちゃんの気持ちもすごく大事。「じゃあ、どうすればAちゃんが気持ちよく走れるか?」って、いろいろと実際に試してみて、結局、仲のいい子が両方で手をつないで走ってあげるといい、ということになって。

“自閉症”という診断名ではなく、“Aちゃん”という人として対等に見て、言葉にならないAちゃんの個性を読み取る力を持っている子どもたち。

ミーティングでも、「Aちゃんはこういう気持ちだと思う」「ここまで走れないと思う」と、子どもたちが自分の考えを表現して、対話を繰り返したのだとか。そして本番でAちゃんのチームが負けてしまったあとにも、ひとつのドラマが。

青山さん 一番仲の良かったRくんが、「ゆるせない、Aちゃんもっと走れるはずだ」って。それで次の日に、もう一度リレーをやったんです。

結果としてはまた負けてしまったのですが、Rくんは、「今日はAちゃん本気で走ったから、これでいい」と。仲がいいからこそ、がんばってほしい、という気持ちが出てきたんですね。

「話し合いたいというよりは、ひとりひとりの声に耳を澄ます、ということがミーティングの目的」と、青山さんは言います。

みんながちゃんと聞き合い、自分が出したい時もちゃんと聞いてもらえる環境をつくること。大人の声が絶対的に強い社会の中で、「りんごの木」では、子どもたちの声から現場をつくることにチャレンジし続けているのです。
 
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「みんなに見せたいものがある人」が名乗り出て、自慢のものを見せて周ります。どんなものでも、その子にとっては宝物です。

でもこのミーティングにもやはり厳しさがあり、「りんごの木」の書籍などを参考にして他の保育施設で行ったいくつかの事例でも、なかなかうまくいっていないのだとか。

「りんごの木子どもクラブ」と他の施設との違い、それはその前提となる“土台”にあると、青山さんは言います。

青山さん 「りんごの木子どもクラブ」には、2〜3歳の「小さい組」があります。そこで、ありのまま、“我がまま”を受け止められてきた。そういう、安心して自分が出せる大人との関係性があって、初めてミーティングが成り立ちます。

それがないと前提が「先生」と「子ども」になっちゃうんですよね。対等じゃないから、大人が答えを持っている“ウソの質問”をしてしまったり。そういう力関係が存在する場では、なかなかうまくいかないんです。

「ありのままでいい」という、子どもたちの心の土台。それは、子どもを未熟で未完成な存在としてみるのではなく、ひとりの「人」として尊重する、大人たちの姿勢からつくられていくものです。

「子どもを信じている」という青山さんの言葉から感じられるのは、「りんごの木」の大人たちの根底に流れる、強くて太い心の軸。自由というものは、確たる土台があってこそ成立するものであることを、ひしひしと感じます。

大人が自由であれば、子どもも自由になれる

「りんごの木」のメンバーとなって8年という青山さんも、保育の現場を担当するとともに、得意とする文章力を活かし、これまでに書籍を4冊(共著を含む)出版。「りんごの木」の想いを社会に発信するため、セミナーや講演も各地で開催してきました。

そして今、青山さんは「りんごの木」に存在する“大人の自由“を、広く文化として育もうとしています。3年前より、青山さんが始めたのが「りんごの木サタデーナイト」。土曜の夜、りんごの木の園舎で開催される、子どもに関心のある大人たちのためのオープンなイベントです。
 
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料理と飲み物を片手に、同じ想いを持つ人々がつながりあう「りんごの木サタデーナイト」。多彩なゲストを迎え、70名もの参加者を集めた会もありました。青山さんは、green drinksも場作りの参考にされたのだとか。

「保育の専門性を高める会ではなく、いろんなジャンルの人が「子ども」というテーマで集まって、つながりあう場」と青山さんが言うとおり、参加者は、お父さんやお母さん、会社員、学生、アーティストなど、様々。

テーマもゲストに合わせ、「テレビと子どもの最前線」、「多様な学び・いろんな学校」、「おやすみライブ」など幅広く、2ヶ月に1度のペースで回を重ねてきました。

会場は園舎でありながら、アルコールもOK。子どもに関心のある大人たちが自由に楽しみながらつながりあい、ジャンルを越えたコミュニティが育まれています。

青山さん 「子どもを自由にしましょう!」と声高に叫んでも、大人が変わらなければ何も変わらないと思います。

大人たちが我慢していると、子どもにもきびしくなっちゃったり。まずは大人が楽しんで、自由で心安らかでいられる社会をつくること。すると気付いたらその隣で、子どもの自由が保障されるのだと思います。

だからやっぱり、大人かな。僕は大人を巻き込んで、大人と楽しみたいと思います。子どもはちゃんと、自分で自分を見つけて育つ力を持っていると思うので。

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子どもの育つ力を信じて、大人たち自ら楽しむ「りんごの木サタデーナイト」。青山さん自身も、この場を存分に楽しんでいます。

来る5月16日に開催される「第15回りんごの木サタデーナイト」では、青山さんの新たなマイプロジェクトが発表される予定。

プロジェクトをともに立ち上げるという「まちの保育園」の松本理寿輝さん等をゲストに迎え、2部にわたってトークセッションが展開されます。

園を越えて新たな冒険を始めるという青山さんのマイプロジェクトが、これからどのような大人の文化を育んでいくのか、今後の展開が楽しみです。

伸びていくタンポポの大地であるために

青山さんは最後に、新卒で就職した幼稚園の子どもたちと眺めた景色の中で感じた、大切にしている保育観を聞かせてくれました。

青山さん 子どもたちと川べりに散歩に出かけたら、タンポポが一面に咲いていて。子どもたちも寝転んで、僕も寝転んで、そうすると、タンポポが上にあるんですよ。

なんだかタンポポが伸びていくのをすごく感じて、おひさまがタンポポを照らしているんじゃなくて、タンポポがおひさまを照らしているように見えて。

保育って逆だな、と思ったんです。先生に理想があって花を育てるんじゃなくて、タンポポたちは自分でうわーって伸びていくので、自分は大地のほうになればいいのかな、って。

教え導くのではなく、その子が「自分で育った」と思えるバックボーン。忘れられてもいいので、僕はそういう存在でありたいな、と思いました。それが今もずっと続いている気がします。

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自ら伸びていく子どもたち。その土台として、大地として、その伸びやかな成長のカギを握るのは、紛れも無く、私たち大人の存在です。

私たちは、子どもたちの育つ力を、どこまで信じられるのでしょうか。

そして、その育つ力を根底で支える、あたたかくて揺るぎない大地となるには?

タンポポの綿毛が舞う季節、あなたも一緒に、子どもたちの未来を思い描いてみませんか?