ISSUE ものづくり

1 year ago - 2015.05.13

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カリフォルニアの小さな陶器工房「Atelier Dion(アトリエディオン)」に学ぶ、地域コミュニティとスモールビジネスのありかた

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目で見て、鼻で匂いを嗅いで、耳で調理の音やその場の音楽を楽しんで…。私たちは食事を味わうとき、舌以外の感覚器官も総動員しています。

そして、“手でも味わっている”ということを私に教えてくれたのは、サンフランシスコ郊外の陶器工房「Atelier Dion(アトリエディオン)」のリエさんとジェイさんでした。

彼らがつくるのは、食べものの存在を際立たせるシンプルなデザイン、やさしい色合い、あたたかな温もりを持った器。手にするとやわらかく伝わる熱と手触り、心地よい重さが、食べるという体験をより豊かなものにしてくれるのです。

食べものと人をやさしくつなぐ彼らの作品は、コーヒー文化の新しい波“サードウェーブ”の旗手「Four Barrel Coffee」を始め、地域のさまざまなレストランやカフェで利用され、人気を得てきました。

さらに昨年は西海岸の手工芸品が集う「West Coast Craft」に出展しベストブース賞を獲得するなど、彼らへの注目は増すばかりです。

そんな「Atelier Dion」のスタイルは、レストランオーナーなどのクライアントと“友人”になり、「一緒に楽しいことをしたい」という気持ちで作品づくりに取り組むというもの。

夫婦ふたりで営まれる小さなアトリエが、地域の“友人”たちとの関係の中でどのように大きく成長していったのか。お話をうかがってみました。

はじまりは小さなガレージから

「Atelier Dion」があるのはサンフランシスコ対岸の街、オークランド。倉庫や小さな工場が立ち並ぶエリアの一角で、ジェイさんとリエさんは作品づくりに汗を流しています。
 
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完成前のドリップコーン。人気カフェ「Bicycle Coffee」のために知人がデザインしたものを、「Atelier Dion」が制作。

ジェイさんとリエさんが「Atelier Dion」を立ち上げたのは2011年、ふたりが「California College of Art(以下、CCA)」の大学院を卒業した翌年のことでした。

ジェイさん 不況の影響で就職先が見つからなかった僕らは、レストランでアルバイトをしながら、Creative growthというアートセンターの講師をしたり、CCAの教授から紹介される陶磁器制作の仕事をしたりしていました。とにかく、なんとか陶磁器に関わり続けるために必死でした。

リエさん 大学院の卒業後の陶磁器制作は、自宅のガレージでしていました。しかし窯は高額のため自分たちで持つことができず、大学院のものを使わせてもらったり、知人が持っている窯を使わせてもらったりしていました。

そんなふたりの歩みを支えたもの、それは、人から人へつながる輪でした。

ジェイさん 僕たちが「Atelier Dion」として初めて受けた仕事は、Mariah Nielson(マライア・ネルソン)というアートキュレーターからの依頼でした。

彼女を紹介してくれたのはCCAの教授です。そして僕たちの作品を見た彼女は、彼女自身のネットワークから、僕たちに興味を持ってくれそうな人々を紹介してくれました。

あるときはクライアントから、あるときはアルバイト先のレストランの関係者から。つながりがつながりを生むことで、制作の依頼は少しずつ増えていきました。
 
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左:The Work Shop Residenceで販売中のカップ&ソーサー、右:Mariah Nielsonの依頼でつくったカップ。どちらもfabrication(既にデザインがあるものの製造)の作品

やがてふたりは、より広いスペースを求めて自宅のガレージから現在のアトリエに移ることを決めます。念願だった窯も、ハネムーンに行くのを我慢してなんとか購入。「このアトリエが、わたしたちにとってのハネムーン」とリエさんは笑います。

そして、ひとつ、またひとつと依頼を受ける中で、次第に「自分たちでビジネスをできるのかもしれない」という想いを深めていきました。

リエさん 私たちが「Atelier Dion」を始めるにあたって、明確なビジョンやビジネスプランなんてありませんでした。いろいろなことが少しずつ、そして自然につながっていったんです。

クリエイターフレンドリーなベイエリアのカルチャー

「ベイエリア(※)にいるからこそ、私たちのビジネスはうまくいったのかもしれません」。「Atelier Dion」のこれまでを、ふたりはそう振り返ります。(※ベイエリアとは、サンフランシスコを中心としたエリア一帯の名称。シリコンバレーや、ワイナリーで有名なナパバレーなども含まれる。)
 
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リエさん ベイエリアには、飲食店と農場などの生産者が助け合ってきた歴史があります。ローカルの食べものを使うのはすでにスタンダードになり、食器や家具などもローカルのものを使うという次のステップに踏み出しつつあります。

ふたりによると、ベイエリアのレストランやカフェのオーナーの間では、自身の店で地元のインテリアデザイナーやアーティストを積極的に起用する雰囲気が高まっているそうです。

地域のお店が、地域でつくられた器を使う意味。ジェイさんはそれを、“ローカル体験の完成”だと捉えています。

ジェイさん 食器やカップは、カスタマーと料理との重要なコネクティングポイントです。

もし地域の素晴らしい料理やコーヒーを、その地域でつくられた器で楽しめるなら、そのレストランでの体験は“そこでしか味わえないもの”として、より完全なものになるでしょう。

また、ベイエリアにはカフェやレストランのゆるやかなコミュニティがあり、そこでは飲食店のオーナーやスタッフに加えてアーティストや職人などさまざまな人がお互いに助け合っていると言います。

地元のアーティストや職人に活躍の機会が与えられる環境、業種を越えて支え合うコミュニティ。「Atelier Dion」を育んだもの、それは、そんなクリエイターフレンドリーなベイエリアのカルチャーだったと言えるでしょう。

地域で小さなビジネスを成功させるには?

地域コミュニティで小さなビジネスを成功させるポイント。ふたりによると、それは「コミュニティの一部になること」です。

リエさん まずはコミュニティのことを知り、人々ととにかく会うこと。そして、自分のやっていることに彼らをどんどん巻き込んでいくんです。

私たちの場合は陶磁器が媒介になりましたが、自分にできること、つくれるものなら何でもいいのかもしれません。大事なのは、楽しんでやることです。楽しいことが起こっているところに人は集まります。

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ふたりにとって、コミュニティでつながった仲間は、クライアントであってもただの「取引先」やマーケティング上の 「ターゲット」ではありません。仕事を通して価値観をシェアする“友人”です。

ジェイさん もし相手と僕たちに何も通じるところがなくて、相手にとって大事なのが単に売り上げだったとしたら、僕たちは彼らへの関心を無くして、仕事はただつらいだけの作業になってしまいます。

「Atelier Dion」の作品は、多大な手間と時間と情熱の結晶です。彼らの名を一躍有名にしたFour Barrel Coffeeのラインは、デザインしてプロトタイプをつくっては修正してというプロセスを6回も繰り返し、完成まで実に一年をかけたと言います。

そんな彼らだからこそ、ただのビジネス関係じゃなく、個人的な部分で通じ合うものを持った関係を築くことは、何より大切なのかもしれません。
 
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Four Barrel Coffeeのためにデザインされた、取っ手の無いコーヒーカップ。

新たな挑戦に向け、「Kickstarter」で5万ドルを調達!

「Atelier Dion」のふたりは今、更なる挑戦に向けて意欲を燃やしています。武器となるのは、昨年Kickstarterで調達した5万ドルで購入した新たな機材。これまで丸一日かけていた土の成形作業をわずか一時間に短縮する強力な味方です。
 
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Kickstarterのキャンペーンページ。(キャンペーンは既に終了)

効率を上げることで、デザインをもっとよくしたり新たなラインをつくったりしたい、とふたりは目を輝かせます。

ジェイさん 以前から何度もKickstarterのことは考えていたんですが、人に「募金してもらう」という感覚に居心地の悪さを感じて、どうしても踏み切れませんでした。

でも、僕たちの作品をサポートの代わりに提供すれば、それは募金ではなくある種の交換だと気付きました。

それに、僕たちはちょうど、活動をジャンプアップさせようとしているタイミングでした。そのために必要なお金を銀行から借りるのか、僕たちをサポートしたいと思ってくれる人たちに作品を売って用意するのか。そう考えた時、魅力的なのは後者でした。

こうして始めたKickstarterのキャンペーンは、大成功のうちに終わりました。キャンペーン期間中を振り返って、「素晴らしい経験だった」とふたりは言います。

リエさん 私たちはこれまでオンラインショップも小売店も持っておらず、レストランからのオファーに対して作品をつくったり、制品をいくつかのショップに置いてもらったりしていました。

つまり昨年のKickstarterは、私とジェイにとって、個人のカスタマーと直接触れ合う初めての機会だったんです。

最初はそのことに関してナーバスでしたが、実際はキャンペーンを通してたくさんの素晴らしいフィードバックを得ました。

この新しい体験にインスパイアされ、ふたりは今、オンラインショップを始める準備をしています。新しい機器により生産性があがることも、その後押しになりました。
 
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挑戦し続ける「Atelier Dion」。

彼らはこれからも多くの人を巻き込み、同時に、コミュニティへの関わりをより深いものにしていくことでしょう。

もしあなたが地域との関わりをもっと持ちたいと思っているなら、もし地域に密着したビジネスをしてみたいと考えているなら。彼らのスタイル、そして彼らを育んだベイエリアのコミュニティから、得られるヒントはたくさんありそうです。

まずは地域を知るところから、地域に自分を知ってもらうところから始めてみるのはいかがでしょうか? 素敵な友人との出会いが待っているかもしれません。

Atelier Dionの作品をもっと見てみよう!
Atelier Dionホームページ

writer ライターリスト

栗林 明子

栗林 明子

大学卒業後、不動産ポータルサイトにてウェブディレクション、編集などに従事。現在はサンフランシスコでライター兼、主婦ときどき学生。 主なテーマは住まい、都会と地方、食、健康、旅 etc....

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