ISSUE☆おすすめの連載! a Piece of Social Innovation

1 year ago - 2015.04.08

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どんな人にも「ただいま」と言える場を。「DIC」代表の児童精神科医・小澤いぶきさんに聞く、地域で支える安心の場づくり

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photo by ajari

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

両親のいる家庭ですくすく育ち、学校にも毎日通って友達と一緒に学んで遊ぶ……。

なんとなく社会の中に共有されている、”標準的”な子どもの育ち方のモデル。ですが、そのモデルは本当に全ての人に当たり前なのでしょうか。そしてそこから外れた生き方は他の子と違うからという理由で「かわいそう」なのでしょうか。

子どもの生き方、育ち方にはもっともっと多様なモデルがあるはず。そこで今回は、地域のつながりを広げ、誰もが孤立せず安心できる居場所を持てる社会をつくろうと活動する、「一般社団法人DIC(ディーアイシー)」代表で、児童精神科医の小澤いぶきさんにお話を伺いました。

Diversity × Inclusion × Children

小澤さんは都内の病院および精神保健福祉センターで、子どもや家庭のこころのケアに携わっています。

また、過去にgreenz.jpで紹介した、大人と子どもが平等に交われるコミュニティ「asobi基地」や、アートを通した親子教育プログラム「Pe’Canvas」の立ち上げ、運営にも携わってきました。

そんな小澤さんが2014年10月に新たに立ち上げた団体が「DIC(ディーアイシー)」です。「DIC」という団体名は”Diversity × Inclusion × Children”という3つの言葉を表しています。

一人ひとりの子どもが大切にされる、”多様”で”包摂的”な社会を目指し、食や遊び、学びを切り口とした子どもと地域のつながりづくりを進めています。
 
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小澤いぶきさん

医師として医療機関でも多くの子どもたちとふれ合う一方で、こうした社会的な活動にも精力的に取り組む小澤さん。その原動力は、病院の中だけでは出会えない、地域の子どもたちの存在でした。

精神科医として働いてきて強く実感したことは、そもそも病院に来て医療を受けられる子どもはごく一部だということです。

特に病院から地域の精神福祉センター勤務に移ってから、誰も知らない環境で生き抜いている子どもたちがたくさんいるという、シビアな現実に直面しました。

現在、把握されている児童虐待の数は、児童相談所への相談件数で見ると、年間66,000件以上(平成24年度)。また、虐待による児童死亡事例は、年間50件以上にのぼります。(出典元:NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク「子ども虐待について 統計データ」最終検索日: 2015/02/23

ですが、それはおそらく氷山の一角にすぎず、人権が守られず、社会から存在を見落とされてしまっている子どもたちは、他にもいると考えられます。
 
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児童相談所における児童虐待相談対応件数

ネグレクトは社会がつくり出している

一方で、そんな子どもたちの親御さん自身も、虐待やネグレクトを受けて育った経験があったり、精神疾患やアルコール依存症などで自らが治療やケアを必要としているケースも少なくないのだとか。

親も子もシビアな状況にあるとき、その家庭が地域とのつながりを持っていなければ、必要なケアを受ける段階にも至らないのが現状なのです。

子どもたちと話していると、「子どもは学校に通うべき」「両親がそろっているべき」など、社会の固定観念が自尊心に影響を与えてしまっていることを感じます。

外部の情報に触れることもできない中で、助けを求めることさえ知らないままだったり、中には「これは自分の責任なんだ」「自分がいなくなったらいいのかもしれない」と思っていたり…限られた情報の中で、子どもたちがそう思っていることが少なくありません。

しかし、「ネグレクトや虐待というのは、家庭の中だけの問題ではなく、社会構造の問題」だと小澤さんは続けます。これにはふたつの構造的な要因があるそうです。

ひとつは、家族以外の第三者が子育てに関わりにくいという、養育の社会化への壁。その背景には、子どもを育てるという視点が少ない働き方の問題なども関わっています。

もうひとつは、危険な状況に置かれた子どもの養育環境が不十分であったり、地域差が大きいという社会の仕組み上の課題。

年々虐待通告の件数が増える一方で、児童相談所では、人手が足りなかったり、専門性が育つ前にスタッフが異動になってしまうなど、対応が追いつかない場合が少なくありません。また、仕組みづくりの前提となる、子どもの人権に関する法律もまだまだ整備が必要です。

こうした状況に対して、親や家庭、児童相談所などをスケープゴート(身代わり)にして責めることは簡単です。ですがそれは、どこかの組織や人が防衛的になるばかりで、根本的な課題解決にはつながりません。

時代や社会情勢の変化とともに、既存の制度の枠組みではうまく支えることができない家族も出てきています。

子どもも親も孤立しないですむようなつながりを、社会の中に広げていくために。そこで小澤さんが着目したのは、身近な第三者である地域の”家庭”や企業でした。

一定の養育者のもとで信頼関係を築くことはとても大切ですし、子どもの学びを保障することは必要です。確かにそれは大人の責任でもあります。

しかし、そうした機会は、親や学校だけでなく、もっとほかにもあってもいいはずです。大人がつくった価値観を子どもに押し付けるのではなく、その子や家族にとってよりよい環境や代替案をつくっていくことが大切なことだと思います。

「うちに遊びにおいで!」から始まる安心の場

現在、DICが東京都で展開しているのが、”ホスト”として自宅を子どもたちに開放し、一人ひとりの子どもや親御さんが自分のペースで過ごせるような安心基地をつくる試みです。

また、そこに来た子どもたちが社会との接点をつくれるように、子育てに強みを持っていたり、CSRに力を入れている大手企業などとも協力しながら進めているそうです。
 
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地域の子どもたちを招いて食事会。ごはんを食べながらだと会話も弾みます。

一緒に遊べる友達が欲しいとき、嫌なことを言われて落ち込んだとき、友達とケンカしちゃったとき、いつも一人の食事ばかりでさみしいとき…生活の中でちょっとした悩みやモヤモヤを抱えたことは、誰にでもあるはずです。

そんなとき、近くに他のつながりがあり、ふらっと遊びに行って話ができれば、行政機関には相談できないことも何気なく打ち明けられたり、気分転換ができます。関係ができてくる中でなかなか外に出ない声をしっかりと拾うことができるのです。

いろいろな事情で病院や学校に行くことができなかったり、「行きたくないから行かない」という選択をしている子どもたちもいます。しかし、子どもの育ちには多様な人の関わりが必要です。

ただ来てご飯を食べるだけでもいいし、おしゃべりしてもいい。医者でも先生でもない近所の人や、自分のモデルになっていくような少し上のお兄さんお姉さんたちとのつながりが、そんな子たちの支えや希望になることもあるんです。

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この活動を続けるためには、”ホスト”となる家庭を増やすだけでなく、居場所を必要とする子どもたち自身への呼びかけも重要です。

そこで大きな力を果たしているのが、地元住民の方々。彼らがコミュニティのハブとなることで、人との信頼関係をつくることが難しかったり、新しい人との出会いが苦手だったりする方々も、安心して参加することができていると、小澤さんは言います。

外から地域全体に向けてただ発信するだけでは、本当に来て欲しい人にはなかなか情報が届きません。なぜなら、虐待やネグレクトに至るような家庭は、こうした情報にすらなかなかアクセスできないことが多いからです。

そんな家庭とリアルなつながりを持っている人たちと協力しながら、情報を伝えていくことが大切だと考えています。

また、ななめの関係としてのつながりである、”ユースワーカー”と呼ばれる地域のお兄さん、お姉さんも重要な存在です。そこでDICでは都内の高校と提携しながら、高校生向けのユースワーカー育成事業も展開しています。

最近は、つながりや居場所づくりに関心がある高校生たちも増えているそう。そこで小澤さんたちと一緒に自分たちの地域を回り、”ホスト”の開拓や子ども向け企画を実行し、そのプロセスの中で顔の見える地域のつながりを持ったユースワーカーも育っていく、という仕組みです。

この活動は、自分もユースワーカーだった荒井さんというメンバーが中心となって進めています。

彼と一緒に活動することで、子どもたちと仲良くなるのが得意だったり、大人と一緒に企画をするのが好きだったり、高校生自身も自分のいろんな特技に気づき、その活かし方を学んでいるんです。

中には表に出るのが苦手でも、細かい事務仕事がすごく丁寧な高校生もいますね。子どもの安心基地をつくるためのユースワーカーの活動が、地域の高校生の新たな居場所づくりにもつながっていくと思います。

学校や病院、行政にできること。地域の家庭にできること。そして、若者にできること。それぞれが持てる力を活かしながら、「有機的につながる、地域の”生態系”をつくっていくことが大切」と小澤さんは語ります。

どんな人にも「ただいま」と言える場を

大人が思っている以上に、子どもたちは力や可能性を秘めている。そう確信する小澤さんですが、最近気になっているのが、社会が勝手につくり上げてしまう、ネグレクトや虐待を受けた子どもたちに対する「かわいそう」という視点なのだそう。

子どもたちが受けてきた傷へのケアはとても大切です。ケアという視点とは別に、どの視点がいいとか悪いとかではなく、きっかけとしていろいろな視点があっていいと思います。ただ、それが上からの目線になってしまうと、本当のエンパワメントになりません。

また、子どもたち自身も「かわいそうな存在」と思い込むがゆえに、自分の資質が見えなくなることもあります。でも、彼らが秘めているその力こそ、既存の価値観に風穴を開け、新たな社会を切り拓いていく力になるんです。

大人が考える”正しい”育ち方のレールに載せようとするのでなく、もっと子ども自身の持つ力を信じること。そして一人ひとりの子どもが、それぞれの方法で人生の物語を紡いでいけるような文化や環境をつくること。

そのためには、”支援する側”と”支援される側”という構造を超えていくことが必要なのかもしれません。

条件付きではなく、無条件に自分の存在を受け止めてくれる人との出会いがとても大切です。無条件の承認の経験を幼少期に持つことは、自尊心の育みにも関わります。それがあって初めて、さまざまな人の多様な生き方に寛容になれる。

今まではその環境は「家」だけでしたが、これからは地域の中にいろんなつながりを育んでいきたい。それはおそらく、子育てに孤高奮闘している親御さんにとっても、必要なものだと思っています。

「こうあるべき」というモデルから外れていても、「大丈夫だよ」と一貫して見守ってくれる人との関わりの中で、安心できる場所や帰ってこられる場所が根付いていく。

それが自分の家だけでなく地域のなかにもあり、子育てが家庭の中だけでなく、必要に応じて地域の人たちが力になってくれる。DICがつくろうとしている未来には、たくさんの可能性が秘められているように感じました。

writer ライターリスト

鈴木悠平

鈴木悠平

greenz シニアライター ひと・もの・ことの閒-あわい-にある物語を探求しています。 お仕事は、企画・執筆・編集業が中心。 東日本大震災後の宮城県石巻市におけるコミュニティ事業、大学院での地域保健政策及び高齢者ケアの国際比較研究を経験した後、株式会社LITALICO入社。発達障害に関するポータルサイト「LITALICO発達ナビ」の企画・編集を担当。 ウェブマガジン「アパートメント」「soar」の運営・編集にも携わる。

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ミラツク

ミラツクは、対話を通じて、異なるセクター、異なる地域、異なるステークホルダーの間に協力を生み出し、より良い社会に向けたイノベーションを生み出すことに取り組むNPOです。 ミラツクが応援するのは、未だあまり知られていない社会を良くする取り組みとそこにいる”人”たちです。1人の人が生み出す未来の可能性を世の中に伝えていくことで、また新しい次の未来の種が生まれる。そんな未来をつくるサイクルを共につくっていければと思います。 ⇒ 特集「a Piece of Social Innovation」ミラツク×グリーンズ対談!Facebookページ

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