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がんばって買い続けるのではなく、おいしいから買い続ける。筒井百合子さんが見つけた、コーヒーを飲みながらできる、おいしい支援とは?

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この記事はグリーンズで発信したい思いがあるライター、ブロガー、研究者の方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、「採用について」に要項をまとめておりますので、そちらをご覧ください。

ふだん、なにげなく飲んでいるコーヒー。そのコーヒーを飲むことが、そのまま誰かの幸せにつながっているとしたら? それは、無理がなく、長く続いていく活動になっていくのだろうと思います。

実は、これ、現在進行形で動きはじめている「エベレストコーヒー」プロジェクトのこと。

今回は、そんな無理のない支援を広げようとしている筒井克佳さん・百合子さん夫妻を紹介します。
 
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筒井百合子(つつい・ゆりこ、写真右)
3人の男児の母。旅行代理店勤務を経て、現在は地元、大阪・豊中市にて、NPO団体の事務局長を務めている。国際交流活動として、留学生や日本在住の外国人女性支援やイベントを開催。国際交流の“場”として共同運営している「cafeサパナ」では、毎日“国”が変わる「日替わりランチ」で各国の料理を提供している。同団体は、2012年にアウンサンスーチー女史(ミヤンマー民主化運動指導者)が受賞した「自由都市・堺 平和貢献賞」を受賞。9年前からはネパールにて、紛争で親をなくした子どもたちの生活支援・就学支援活動を続けている。

筒井克佳(つつい・かつよし、写真左)
一級建築士事務所 アトリエティー・アース代表。現在は、木製サッシ「プロファイルウィンドウ」の普及に務めている。また、似顔絵師としてイベントで似顔絵を書くこともあれば、子供の頃からの手品好きが高じて、プロに弟子入りまでしたマジシャンとしての顔も持ち、小学校・公民館などに赴き、子どもたちの笑顔をつくりだしている。その行動範囲・バイタリティは、既に還暦を迎えていることを感じさせないほど。無類のコーヒー好きでもあり、20代から自宅でコーヒーを挽いて飲み続けているコーヒー通でもある。

9年間の支援活動を続ける中で、ぶつかった“壁”

地元、大阪・豊中市のNPO団体にて事務局長を務める筒井百合子さん。

9年前からはネパールと日本を行き来しながら、現地の人々への支援活動を続けています。

1996年〜2006年まで国内紛争が続いていたネパール。その影響から、ネパールには親をなくした子どもたちが多くいます。

子どもたちへの生活支援・就学支援として、家を建てたり、学校を建てたり、学校にえんぴつやノートなどの物資を送ったりと、これまでの活動では、直接的に「物資」や「お金」を届ける支援をしてきました。
 
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「物資提供」や「寄付」は、ひとつの支援の形であり、必要とされていることでもありますが、百合子さんはそこに「もやもや」したものを感じるようになっていたと言います。

百合子さん 9年間、支援を続けていく中で、その支援に対する現地の人々の「甘え」や「依存」を感じるようにもなっていました。

「自分たちが努力をしなくても、物資や寄付が送られてくる」という状況は、もしかすると、現地の人々の「自立する力」を弱めてしまっているのではないか。この活動は「本当の支援」になっていないのではないか。そんなことを想うようになっていました。

そんな「もやもや」を感じていた頃、出会ったのがエベレストコーヒーでした。

「本当の支援」につながるコーヒーとの出会い

百合子さんがネパールを訪れるようになって数年が経った頃、同じくネパールでの支援活動経験がある知り合いの看護師さんに「日本が技術協力したコーヒー」があると聞いて、エベレストコーヒーのオフィスを訪れたのが最初のきっかけでした。

そこで出会ったのが、エベレストコーヒー現地法人代表のサンタ・ラマさん。
 
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現地法人代表のサンタ・ラマさんと筒井百合子さん。エベレストコーヒーの工場にて。

そこで、笑顔で活き活きと働いている女性を見て、直感的に「これだ」と感じた百合子さん。この活動を応援していくことを心に決めました。
 
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コーヒーの生産には、栽培・収穫・洗い・乾燥・選別・運搬と、たくさんの工程があり、多くの人の手が必要となります。

このコーヒーの生産量が増え、エベレストコーヒーに関わる人を増やすことができれば、それは、つまり雇用を生み出すことになり、現地の人々の経済的自立を促すことにつながっていきます。

紛争後のネパール政府は、まだ憲法もつくれていない状況で、雇用の整備・創出にまで対応が及んでいません。ましてや、ネパールの農村には、本当に仕事がありません。
 
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昼間から木陰でたむろする男性たちに「仕事は?」と聞くと、「ここには何もないよ。政府もNGOも貧乏人を見捨てている。何とかしてくれ!」と返答が来るような状況。

「何とかしてくれ」と支援を待つのではなく、自助努力によって経済的に自立していけるような環境を整えていきたい。

そのために自分に出来ることは何か、と考えた百合子さんは、わずかですが継続的にエベレストコーヒーを買い続ける行動を始めました。

そうしてコーヒー豆を買い、日本に持ち帰った所から、このプロジェクトは広がりを見せ始めます。

克佳さん 帰国した妻から「これ、飲んでみて」と、コーヒー豆を渡されたんです。僕は20代の頃から自分で豆を挽いて飲んできたほど、コーヒーが大好き。

なので、残念ながら、おみやげでもらうコーヒーを「おいしい」と思ったことはほとんどなくて。。このときも、正直まったく期待していませんでした。

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筒井克佳さん。ネパールのエベレストコーヒー農園にて。

そんな克佳さんでしたが、その豆を挽いて飲んでみると、その味がすっかり気に入ってしまったそう。

その後は百合子さんがネパールに行く度に、必ず持って帰ってきてもらうようお願いをするようになり、以来2年間、克佳さんは、コーヒーといえばこのエベレストコーヒーしか飲んでいないとのこと。

克佳さん 個人的に気に入った豆をプロにも見てもらおうと思って、珈琲歴50年のベテラン焙煎士の工房に、ドキドキしながらエベレストコーヒーの生豆を持って行きました。そこで、プロの太鼓判をもらうことができて、この豆のクオリティと味に関して確信が湧いてきました。

で、さらに驚いたのは、ウチの息子。基本的にブラックコーヒーは飲めないのに、エベレストコーヒーはおいしいと言ってブラックで飲んでいた。

これは、僕や妻だけの楽しみに留めておくのはもったいない。そう思うようになって、このコーヒーをもっと多くの方に飲んでいただけるようにするには、どうすれば良いだろうかと考えるようになっていました。

店に置いても、売れない日々。

百合子さんが事務局長を務めるNPO団体では「Cafeサパナ」というカフェレストランを運営しています。
 
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このレストラン、実はちょっと変わったレストランで、ランチの「国」が日替わり。

きのうは、「タイ料理」で、
 
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今日は、「ベトナム料理」で、
 
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あしたは、「ネパール料理」で、
 
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あさっては、「韓国料理」という、「国」が毎日変わる、日替わりランチ。
 
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試しに、このカフェレストランの1コーナーに、エベレストコーヒーを置いてみましたが、売れません。

ランチにセットで付けられるコーヒーは100円プラスで飲めますが、エベレストコーヒーは350円プラス。メニューには追加しましたが、注文はほとんど入りません。

しかし、たまにエベレストコーヒーの注文が入ると、飲んだお客さんには好評で、中には「このコーヒーを売って欲しい」と言われることも。

定期的に買い続けて、ネパールの経済的自立を支援していきたい。買い続ける量を増やしていくことで、雇用を生み出したい。

そう考える想いとは裏腹に、売れない日々が続いていました。

そして、具体的にどう進めていけばいいのか、わからなくなっていた状況で、WEBに詳しい友人の助言で、ひとつのアイデアが実現に向けて動き始めます。

想いを伝えて、応援を受けて進む

この想いを伝え、応援していただきながら、コーヒーを飲んでもらうこともできる、それをすべて満たした「クラウドファンディング」でのプロジェクトを立ち上げる助言を受け、実際に進めてみることにしました。

バレンタインデーの2015年2月14日に、クラウドファンディングサイト「kibidango」にて、エベレストコーヒーのプロジェクトページを立ち上げ、サポーターと呼ばれる支援者からの応援を募り始めました。

そして、プロジェクト開始から約3週間後、3月8日に目標金額50万円を突破し、プロジェクト成立。3月10日には支援者が100名を越える状況となりました。
 
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プロジェクトが成立し、筒井さん夫妻もほっと胸をなでおろしています。が、これで終わりではなく、ここからが本当のスタート。

“寄付”ではない長く続く支援のサイクルを生み出していく

寄付は、どうしても一時的になりがちで、継続的な支援になりづらく、また、それを受け取る側にとっても、必ずしも良い結果にならない場合があります。

なので「寄付」ではなく、現地の人々が、自分たちが努力した労働に対して「対価」が得られる流れが生みだしていく。「依存」ではなく「自立」へと向かっていく、その流れを生み出したいと考えています。

筒井夫妻 今回、みなさまからいただいた「ご支援」には、もちろんエベレストコーヒーの「お代」も含まれていますが、寄付ではない形での生活支援・就学支援、そして現地の人々の経済的自立を「後押しする気持ち」が含まれています。

もちろんエベレストコーヒーへの興味だけ、でもいいですが、できればそういった「意味」と「想い」を理解していただけた方に、この活動を応援する気持ちと共にご支援いただければ嬉しい限りです。

買う人も、売る人も満足し、それを取り巻く環境や社会も良くなっていく「三方良し」とは近江商人の言葉。そんな良いサイクルが、今、回りはじめています。
 
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筒井夫妻とエベレストコーヒー現地法人代表のサンタ・ラマさん

百合子さん がんばって買い続ける、というより、おいしいから、また飲みたくなって買っちゃうんですけどね。

そう話す百合子さんからは、自分の好きなコーヒーを通じて、現地の人々にとって本当に意義のある、経済的自立に結びつく活動が徐々に動き始めていることを、心から喜んでいる様子が伝わってきました。

積み重なってきた活動から、いくつかの偶然がつながり、今こうして広がりを見せ始めた、ひとつの「ものがたり」。おいしいコーヒーを飲みながら、その「ものがたり」の中へ入っていきませんか?

(Text:イノッチ)
 
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イノッチ
「エベレストコーヒーものがたり」プロジェクト 企画・WEB担当スタッフ。「正しくより楽しく」をモットーに、想いを引き出し、広めていく裏方が性に合っている、目立ちたがり屋の恥ずかしがり屋。