ISSUE☆おすすめの連載! 震災20年 神戸からのメッセージ

1 year ago - 2015.01.30

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神戸にやってきた避難ママのためにできること。「べこっこMaMa」事務局・小林千登勢さんに聞く「ママたちの力を引き出す支援の仕方」とは

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特集「震災20年 神戸からのメッセージ」は、2015年1月17日に阪神・淡路大震災から20年を経過し、震災を体験した市民、そして体験していない市民へのインタビューを通して、「震災を経験した神戸だからこそできること」を広く発信していく、神戸市、issue+design、デザインクリエイティブセンター神戸(KIITO)との共同企画です。

阪神・淡路大震災によって、兵庫県外に避難した人の数は5万人を超えると推計されています。あれから20年を経た今も、いつかは戻りたいという想いを抱きながら避難先でそのまま暮らしている方も少なくないといいます。

一方、東日本大震災によって宮城・福島・岩手の三県から県外へ避難した人は、復興庁の発表によれば、多いときで7万人。2014年12月現在、いまだ5万人を超える避難者が全国に散らばって暮らしており、兵庫県内にも1,000名近くの避難登録者がいます。

なかには、「とにかく西へ」と幼い子どもを抱えて避難してきたものの、なじみのない土地で、初めての子育てに悩みを抱えている若い母親たちもいます。

べこっこMaMa」は東日本大震災で被災し、福島原発事故の影響を受けた地域から、愛する子どもたちの健康と未来を守るために神戸に避難してきた、ママとこどものグループです。その活動を事務局としてサポートしている小林さんにお話をうかがいました。
 
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小林千登勢(こばやし・ちとせ)
神戸市垂水区生まれ。神戸市西区在住。西宮市内の自宅で阪神・淡路大震災に遭う。東日本大震災の直後から、被災者を支援するボランティア活動を始めた。2011年7月より、福島の原発事故から神戸に避難してきた母親による団体「べこっこMaMa」を事務局としてサポートしている。

よみがえるあの日の記憶と、わき上がってきた想い

小林さんは阪神・淡路大震災の当時、西宮市に住んでいました。今までに経験したことのない、下から突き上げるような大きな揺れ。ガラスが割れる音。暗闇。とにかく怖くて仕方がなかったといいます。

ほんと怖くって、真っ暗な中、布団にくるまったまま心臓がバクバクして、明るくなるまで立ち上がれませんでした。布団の中で、この世が終わったんかな、と思っていました。

明るくなってからやっと立ち上がって外を見たら、北側に火事の煙が何本か見えて、これは大変だ、と。とにかく買い出しに行こうと外に出ると、液状化で泥水がぶわーっと湧き出してて、道路には段差ができて、車がその段差で傾いていました。

それから時は流れて、2011年3月11日。テレビで東日本大震災の映像を目にしたとき、自分が阪神・淡路大震災のことを長い間記憶の底に沈めたままにしていたことに、小林さんは気づきます。

あんなに怖い想いしたのに、子育てや日々のあれこれに追われて、震災のことをほとんど思い出すことなく暮らしていた自分にはっとしました。

そして、メディアを通して東北の被害の様子を知るにつけて、「自分にも何かできることはないか」という気持ちが自然とわき起こります。

「自分たちも頑張って立ち直ったから、あなたたちも頑張って」というのではなく、「頑張ってきた私たちだから何かできることがあるのでは」と思いました。

しかし、高齢の義父と当時小学校1年生だった子どもを家に置いて、現地に駆けつけてボランティア活動をすることは、小林さんにとって現実的な選択肢ではありませんでした。

そこで始めたのが、救援物資を東北へ送るプロジェクトのお手伝い。その時点では「ちょっとやってみようかな」というくらいの軽い気持ちで、物資の仕分けなどをするボランティアに参加したそうです。東日本大震災から間もない、3月下旬のことでした。

ひとつひとつの出会いがつながって

やがて6月頃になると、被災地で必要とされる物資も一旦落ち着きを見せます。しかし、集まった物資は倉庫にまだまだ残っている状態。そこで、今度は神戸に避難してきている人たちに、必要なものを取りにきてもらうということになりました。

中には、まだ生まれたばかりの赤ちゃんを抱いて物資を受け取りにくるお母さんもいました。私は被災した人にあれこれ聞くのも気が引けたのですが、一緒に活動していた方が上手に話を引き出してくれて、「小林さん、子育て支援のNPOから来てはるんやから、なんとかしたげたら?」と。

それなら、ということで小林さんは、ウィズネイチャーの西森さんに相談してみることにします。
 
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ウィズネイチャーは野外活動と子育て支援をするNPO法人。当時小学校1年生の娘さんが参加していたため、小林さんは保護者として関わっていた

ちょうどこのころ、ある助産院からも、ウィズネイチャーに同じような連絡が来ていました。東日本大震災後、着の身着のままで避難してきた妊婦さんの支援をしてもらえないかという相談です。

こうして、少しずつ同じような境遇の人たちとのつながりができはじめ、「一度みんなで集まってみよう」ということになりました。

ママが元気になると子どもも元気になる

2011年7月、神戸の子育て支援団体5つによって結成された「神戸ぽけっとnet.」の声かけで、それぞれバラバラに神戸に避難してきたママたちを集めて「お好み焼き会」を開催。これが「べこっこMaMa」誕生の契機となります。

また、このころになると、避難生活は長引きそうということも、支援を受けるだけではだめということも分かってきていました。

そこで、避難ママたちの自立を目指してべこっこMaMaとしての活動を開始。支援物資のボランティアが一段落ついた小林さんが事務局としてそのサポートに入ることになりました。最初は7名からスタートし、少しずつ入れ替わりながら現在は8名が活動しています。
 
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新長田駅前の鉄人広場。実物大の鉄人28号のもと、イベントにたくさんの人が集う

べこっこMaMaの第1回目の活動は、JR新長田駅前の鉄人広場で行われたイベントでの東北物産の販売。

この活動を皮切りに、新商品を開発したり、積極的にイベントに出店したり、これまでなじみのない土地で息をひそめるようにして暮らしていたママたちが、少しずつ元気を取り戻していきます。

気合いを入れて「頑張ろう!」っていうのではなくて、みんなで集まってみたら、なんだか力が湧いてくるんですね、きっと。そして、ママが元気になると子どもたちも元気になります。

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有名なケーキ店「神戸旧居留地 美侑」の協力で開発した「べこっこロール」。美侑のファンだったスタッフが直談判して協力を依頼すると、翌日には試作品が! 木苺たっぷりの赤いスポンジで生クリームとカスタードクリームを包む。残念ながら現在は取り扱っていないが、イベントでは即完売するほどの大人気商品だった

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神戸産のトマトを使用したジャム。キャルファーム神戸の大西さんのこだわりの「恵水(めぐみ)トマト」を、patisserie AKITOの田中哲人パティシエの協力で商品化。現在の主力商品

なんだ、できるやん!

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Winaの森。子ども連れでも安心してくつろげる

現在べこっこMaMaでは、JR新長田駅にある「Winaの森」という場所で、“避難ママ目線”で考えたメニューを提供する「べこっこ*カフェ」を毎月開催しています。最初は、「予算をどうするのか」「何食用意するのか」などを何度もくり返しみんなで話し合いました。

やがて月一回のペースで続けていくうちに、新聞などのメディアにもたびたび取り上げられるようになり、自分たちの活動が世間に知られていくにしたがって、ママたちも自信をつけていったそう。

自主避難してきている人たちの中には、「本当に避難生活を続けていてよいのか」という迷いを抱えている人もいます。友人は普通に地元で暮らしていることもあるし、家族から帰ってくるように言われることもあるようです。

彼女たちの悩みは尽きません。離れて暮らす家族のこと、子どもの健康のこと、家のこと、仕事のこと、お金のこと……。そんな中で、同じような境遇の人とつながれたことだけでも心強いことに加え、自分たちがやっていることが認められたというのは自信になりますよね。

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JR新長田駅の南側、六間道五丁目商店街にあるWinaの森で月に1回開催しているべこっこ*カフェ。「子どもたちに野菜をたくさん食べてもらいたい」という願いから、オリジナルメニューを提供している

当初はさまざまな手助けを必要としていたべこっこMaMaでしたが、次第にそれぞれのメンバーが自発的に動き出すようになっていきます。こうして、人と人とがつながり、輪が広がっていくにともない、小林さんの関わり方もだんだんと変化していきました。

「べこっこMaMaたちでカフェをやってみませんか」とWinaの森の合田さんから提案を受けたときも、私は「ほんまにできるんかな」と心配でした。でも実際に動き出してみたら、みんないきいきと積極的になっていって「なんだ、できるやん!」って。

結成から3年、以前は私がやってきたような外部との交渉や事務的なことも、少しずつメンバーに任せる比率を増やしています。

実は、これまでべこっこMaMaでは、特定の一人の負担が重くなりすぎないように、あえて代表を立てずに活動していました。そのため、外部からの連絡はほとんど事務局の小林さんが受けてきたのです。

もちろん神戸になじみがないママの団体ということもあり、神戸で生まれ育った小林さんが間に入ることで、スムーズに活動ができていたという面があります。そして小林さんは今後を見据えて、「将来的には、私がいなくても活動ができることが理想」と強調します。

みんなそれぞれ本当に一生懸命頑張っています。だから「頑張りましょう」とは言えないけど、「一緒にいるよ」ぐらいの関わり方で、今のメンバーの子どもたちが成人するくらいまでは、見守っていきたいなと思っています。

そして、もし神戸に避難してきたものの、まだ立ち止まって悩んでいる人がいるなら、べこっこMaMaみたいな場があることを知ってもらうことにも力を入れていきたい。

小林さんのまなざしは、深くやさしい。それはご自身も震災を経験し、子育てに奮闘してきたからこそのものなのでしょう。

東日本大震災が起きたときには、小学校1年生だった小林さんの娘さんも、今では5年生となり、べこっこMaMaの活動に参加しています。また、ご主人もイベントのときの荷物の運搬を手伝ってくれるなど、あたたかくサポートしてくれているそう。

離れてもつながっている

自身が活動するために家族の理解と支えが不可欠なように、「べこっこMaMa自体の活動には、地域の方々の支えが欠かせない」と小林さん。

誕生のきっかけとなったウィズネイチャーや神戸ぽけっとnet.をはじめ、トマトジャムをつくっているキャルファーム神戸、イベント時には欠かせない託児ボランティアの方々、そして応援してくれる支援団体や地域のみなさんが、避難ママたちの周りにはいます。

ママたちが「神戸の人はあたたかい」と言ってくれるのがとてもうれしいですね。

メンバーの一人がテレビの取材を受けたときに、インタビューで「今の私があるのは神戸のみんなのおかげです」と話してくれていて、それを聞いたらウルウルきちゃって。ほんとにつながれてよかったな、と思います。

避難してくるママたちには、できるだけ早く地元に戻りたいと思っている人もいれば、子どもが成人するまでは避難生活を続けるつもりの人もいます。

また、地元に戻ることはあきらめて、新たな地に根を下ろす覚悟の人もいます。それぞれがお互いの価値観を尊重し合いながら、べこっこMaMaでつながった縁。

いったん神戸から離れたかつてのメンバーとも、メーリングリストを介してつながっていて、イベントのときには手づくりの雑貨を商品として送ってきてくれるそうです。
 
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ハンドメイドの雑貨

大切なのは“続ける”ということだと思っています。

活動を続けることで避難している人の現状を知ってもらう機会も増えるし、イベントに出店して人の目にふれることで“今でも避難生活を続けている人がいて、こんな風に活動している”ということを思い出してもらうきっかけにもなると思っています。

べこっこMaMaの「MaMa」は母牛を表す「M」と子牛を表す「a」が寄り添った姿を表現しています。母と子が寄り添って、仲間と一緒にマイペースで活動しているべこっこMaMaのメンバー。牛のようにゆったりとした歩みかもしれませんが、着実に前へ進む力強さ。そして、そのママたちのパワーを引き出す小林さん。

それぞれ置かれている境遇は違いますが、「子どもを守りたい」という気持ちでつながっているべこっこMaMaには、今も新たな仲間が増え続けています。

神戸発、地域に、日本に、そして世界に貢献する活動に取り組む人をご紹介するプロジェクト
震災20年 神戸からのメッセージ

writer ライターリスト

Fumie Matsuyama

Fumie Matsuyama

greenz シニアライター ライター/ヨガインストラクター 静岡県出身。横浜市在住。 大学卒業後、教育系の出版社で国語・小論文教材の編集に5年、新卒採用・新人教育に3年携わる。 現在はヨガインストラクターとして都内および横浜近郊のヨガスタジオ・カルチャースクール・スポーツクラブ等で指導を行っている。季節の移ろいを感じとる目を養い、それぞれの時期に合った身体を作る「こよみヨガ」を提唱し、都内・横浜でワークショップも開催している。 関心のあるテーマは教育・健康・女性の生き方。 website:纂灯舎 facebook:Fumie Matsuyama

partner パートナーリスト

神戸市

2015年1月17日、阪神・淡路大震災から20年を迎えるにあたり、震災以降、神戸で生まれた教訓や知恵を共有し、発信する「震災20年 神戸からのメッセージ」を実施します。 issue+designとデザイン・クリエイティブセンターKIITOと協働し、「震災を経験した神戸だからこそできること」を市民と共に考え、発信していきます。なお、この事業は、「ひょうご安全の日推進県民会議」の助成を受けて実施しています。 ※このページでは一部の記事が掲載されています。他の方の記事は神戸市の公式サイトからお読みください。 ⇒ 神戸市公式サイト神戸市×グリーンズ キックオフ対談!

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