ISSUE 食と農

1 year ago - 2014.12.22

SHARES  

傷がつくとさらに甘くなる!? 青森の”雹(ひょう)害りんご”をイメージアップして、多くの人に届ける「雹kissりんごプロジェクト」

hyoukiss09
弘前のりんご農家、成田英謙さん(左)とNPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHENの西田誠治さん(右)の出会いから雹kissりんごプロジェクトが始まりました。

たとえば果物を買うとき、あなたが手に取るのはどんな果物ですか? 見た目がきれいなもの? 産地が有名なもの、味のよさ、それとも価格でしょうか。

そこには、その物を選んだ理由がなにかしらあると思います。そしてその理由は、人によってさまざまでしょう。けれども、目先の価値の先にある本質を辿っていくと、これまでとはまた、違った選択理由が現れてくることがあります。

そこで今回ご紹介するのが、視点を変えて新しい価値観を提供し、”雹害りんご”のイメージアップを目指す支援活動「雹kissりんごプロジェクト」です。

雹害りんごとは、雹(ひょう)が降ったことによって傷がついてしまい、売り物にならなくなってしまったりんごのこと。被災したりんごをイメージアップしてしまおうという「雹kissりんごプロジェクト」とは、いったいどんなプロジェクトなのでしょうか?

弘前市の若手りんご農家の畑が雹害に!

ことの発端は2014年9月12日。青森県の弘前市、平川市、大鰐町に大量の雹が降ります。そして弘前市のりんご農家、成田英謙さんのりんご畑は、その雹の直撃によって大きな被害を受けました。

収穫間近だったこともあり、ほとんどのりんごに傷がつき、出荷が難しくなってしまったのです。
 
hyoukiss01
雹は、直径1センチ前後の氷の粒のこと。雹害は今年に限ったことではなく、近年の天候異変から今後も増えていくと思われます。

その数、なんと10キログラムのりんご箱で約1000箱、総量だと14〜15トンという膨大さです。それでも青森県全体のりんご生産量から見れば災害と呼べるものではなく、何の補償もありません。

さらに、通常なら傷のついたりんごはジュースなどの加工品に回されるのですが、今年はりんごが豊作で、それもなかなか受け付けてもらえず…運が悪かったと諦めるしかない、大変苦しい状況でした。

農家とYum! Yam! SOUL SOUP KITCHENの出会いがプロジェクトの発端に

hyoukiss12

一方、「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN(以下、ヤムヤム)」の西田誠治さんは、青森編のイベント開催に伴って、取材のため、10月初旬に現地を訪れていました。

ヤムヤムは、タイと日本両国で“食”を通じた地域活性化と国際文化交流の促進を目指すNPO法人。毎回、ひとつの県をフューチャーして、その土地のローカル食材を使ったタイ料理をつくるというユニークな地域活性化の取り組みは、以前にグリーンズでもご紹介し、多くの反響をいただきました。

その活動の中で西田さんがこだわっていたのが「必ず現地に取材に行き、行政の方や生産者の方々に直接お話を伺う」ということです。それが今回、強い意欲と誇りをもってりんご栽培に取り組んでいる若手農家、成田英謙さん、成田晃さんのおふたりと出会うきっかけにもなりました。
 
hyoukiss06
イベントで登壇したもうひとりの若手農家、成田晃さん。

西田さんは、英謙さんのりんご畑を見せてもらい、穴が空いたり、表面に傷がついた大量の雹害りんごを見て、言葉を失ったそうです。

僕がザッと見ただけでも、8割以上のりんごが何かしらの被害を受けていました。これはちょっと、見て見ぬふりはできないなっていうぐらいすごい量で、本当にびっくりしてしまったんです。

このままだと売れなかったりんごは破棄することになる。そうしたら農家さんの収入はまったくありません。収穫したりんごの保管料もかかっているし、破棄するとなればそれにもお金がかかります。

それでなくても、雹害というだけで、当初見込んでいた利益には全然届かないわけですから、なるべくお金に換えていけないだろうかと思いました。

雹害りんごのイメージをポジティブに変える?

そこで立ち上げたのが「雹kissりんごプロジェクト」です。

りんごは生鮮食品ですから、販売できる期間が限られています。その限られた期間の中で1000箱を売り切ろうと動き出した西田さん。まず考えたのは“雹害”というイメージを変えていくことでした。

“害”という言葉が入ると、どうしてもネガティブな印象が拭えません。今回限りの単発の支援ではなく、今後も起こりうる自然災害への答えのひとつとして、そこに新しい価値を見出すことが重要だと考えました。

「かわいそうだから買ってやろう」ではなく、雹害りんご自体をポジティブなイメージに変えていって、もっと違うコミュニケーションにしたかったんです。そこで、雹害りんごのことを「雹kissりんご」と呼ぶことにしました。

hyoukiss03
WACCA IKEBUKUROの1Fで雹kissりんごの産直販売を行ない、2日間で60箱を完売しました。

たった1センチの雹が空から降ってきて、手のひらサイズのりんごに当たる。これって、すごい確率だと思いませんか? しかも、りんごは傷ができると、その傷を治そうとして糖度が上がり、とてもおいしくなるんですよ。

奇跡的な確率で雹がりんごにキスをして、そのりんごがますますおいしくなる。なんだかすてきじゃないですか。

傷のついたりんごも、視点を変えれば、魅力が詰まったりんごになる。消費者は、おいしいりんごを市場価格より安く買うことができ、りんご農家はおいしいからという理由で大切に育てたりんごを購入してもらうことができます。そしてもちろん、一定の収入にもつながります。

不思議なことに、災害の支援プロジェクトなのに、話を聞いてワクワクしてくるのを感じました。視点を変えれば、世界も違って見えるのです。

1000箱を売り切るための3つの取り組み

では、雹kissりんごプロジェクトは、具体的にどのような活動をしているのでしょうか? 今年度の主な活動は3つあります。

ひとつめは個人に向けたチャリティサイトでの雹kissりんごの販売です。サイトでは雹害の実状を伝えるとともに、雹とりんごが出会い、雹kissりんごが誕生するストーリーを掲載しました。

サイトがオープンした11月10日から20日間で、約500キログラムの販売に成功。購入してくれた方からは「今まで食べたりんごの中でいちばんおいしい!」という嬉しい感想が届いていて、リピーターが多いのも特徴だそう。
 
hyoukiss05
10kgや30kg、品種別や混合など、さまざまなセットから選ぶことができます。イラストレーションは、りんご王国のビジュアルも手がける弘前市出身の山内マスミさん。プロジェクトのことを知り、協力してくれました。雹kissりんごのストーリーも必読です!

ふたつめは「スーパーや商店、卸業者に向けた販路の開拓」です。イベントのたびに必ず現地取材を行っているヤムヤムは、長年の積み重ねにより日本中に多くの人脈をもっていました。今回はそれを活用することにしたのです。

個人販売だけで1000箱売るのはどうしても難しいので、つながりのある企業やお店の方にお声がけしました。先日、原料卸の商談がまとまって、一気に6トンを購入していただけることになりました。本当に良かったです!

これは、人との出会いや直接会って話すことを大切にしてきたヤムヤムだからこそ、実現できた支援なのではないでしょうか。

雹害を学び、農家さんと交流し、コラボ商品で楽しむ!

hyoukiss10
池袋のwaccaで開催されたりんごカフェ。平日にも関わらず、たくさんの人が集まりました。

3つめは、11月28日に開催された「りんごカフェ in IKEBUKURO」というPRイベントです。

当日は、弘前から英謙さん、晃さんをはじめとした若手農家の方々がきて、雹kissりんごの販売と、りんご栽培についてのお話をしてくれました。りんご栽培に対する熱い思いが感じられる内容で、参加者は皆、英謙さんたちの話に聞き入っていました。

また、このイベントに合わせて都内の人気スイーツショップやパン屋に、雹kissりんごを使った限定商品をつくってもらうという楽しいコラボ企画も用意されていました。雹害に興味をもってもらい、そのイメージを変えてもらうにはぴったりの内容です。
 
hyoukiss04
協力店舗は、アップルパイが有名な「GRANNY SMITH APPLE PIE & COFFEE(青山)」、ポルトガル菓子店の「ナタ・デ・クリスチアノ(代々木八幡)」、人気のパン屋さん「パンとエスプレッソと。(表参道)」、その姉妹店にあたる「onka(経堂)」の計4店舗です。

hyoukiss08
お土産として購入もできたコラボ商品。イベント限定のものもありますが、店舗で購入できるものもあります。雹kissりんごのシュトーレンは、クリスマス限定で、オンカや用賀の産直市場にて販売しています。

りんごを使ったパンやアップルパイ、エッグタルトやシュトーレンなど、用意された商品はどれもおいしく、見た目にも楽しいものばかり。りんご農家さんを思う心が伝わってきて、とても温かい気もちになりました。

そしてそこには、被災したという悲壮感は、ほとんど感じられませんでした。

雹kissりんごの販売は12月25日まで!

hyoukiss07
りんごカフェの雹kissりんごの販売ブースにて。参加者と農家さんの交流も楽しみのひとつ。

なぜ悲壮感が感じられなかったのでしょうか? それはひとえに、このプロジェクトに関わった人々の心意気が、とても力強く、ユーモアに溢れていたからではないかと思います。

農業に自然災害はつきものです。でもそんなとき、ものごとの見方をポジティブに変えること、農家さんの思いを知って、そこにわずかでも力添えすることは、意外と簡単で、誰にでもできることなのかもしれません。

思いは膨らんで、勢いを増して伝播していきます。人と人の、雹とりんごの、偶然の出会いから始まったストーリーは、まだ、始まったばかりです!

今年度の雹kissりんごの販売は、年内12月25日までの予定です(延長の可能性あり)。市場には出回らないおいしいりんごを食べてみたい方、少しでも農家さんの力になりたいと思った方、ぜひサイトをチェックしてみてくださいね。

甘くておいしい雹kissりんごを食べてみよう!
雹kissりんごプロジェクト・チャリティサイト

writer ライターリスト

平川 友紀

greenz シニアライター リアリティを残し、行間を拾う ストーリーライター 1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。体調を崩したことをきっかけにマクロビオティックを学び、持続可能なライフスタイルを模索し始める。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らし、コミュニティを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。 facebook:https://www.facebook.com/captainmanbou twitter:@captainmanbou

AD

infoグリーンズからのお知らせ