ISSUEインクルーシブ 子ども

2 years ago - 2014.11.14

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軽井沢の森で「あったらいいな」をカタチにしました。大人も子どももありのままでいられる育ちの場「森のようちえん ぴっぴ」

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“幼稚園”と聞いて、どんな風景をイメージしますか?

子どもたちは滑り台や鉄棒、砂場で遊び、園舍では歌を歌い、ご飯を食べて……。多くの方が思い浮かべるのは、そんな遊具や園舎のある風景だと思います。でも、それだけが“ようちえん”ではありません。

今日ご紹介するのは、長野県軽井沢町にある「森のようちえん ぴっぴ(以下、「ぴっぴ」)」。一日を自然の中で過ごす、子どもたちの育ちの場。それは、2人の女性が保育や子育て支援の現場に携わった経験から生まれた、親も子も“ありのまま”でいられる保育のカタチでした。

森の中には遊び道具がたくさん

「今日も森の中でいっぱい遊んでください。」

掛け声とともに、子どもたちは思い思いの場所へ走っていきます。土遊びやどんぐり拾い、木のブランコ乗り、崖登り……と遊びは尽きません。
 
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おままごとをする子どもたち

どこで何をして過ごすかは、子どもの自由。

時間ごとにプログラムが組まれ、みんなで同じことをするこれまでの幼稚園とは違い、ここでは最低限のルールを守りながら、子どもたちは思いのままに遊びます。

お待ちかねのランチは、みんなで準備します。この日のメインメニューは、秋野菜の麻婆丼。調理するためのたき火もおこします。
 
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慣れた手つきでじゃがいもの皮むきをします

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薪にする枝も森で探してきます

そしてこの日は、2人のお友だちの誕生日。森の中から探してきた花や葉を、ろうそくの周りに飾り付け、「おめでとう!」とお祝いをしました。
 
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季節ごとに飾り付けする草木も違います

森の中で絵本と歌の時間を過ごしたら、そろそろ終わりの時間。手をつないで一つの輪になって歌います。「みんなでどうぞ、お母さ〜ん」という掛け声と同時に、遠くに隠れていたお母さんたちが出てきました。

大好きなお母さんのもとに駆け寄って行く子どもたち。これで一日の保育は終わりです。

のびのびと子育てできる環境をつくりたい

greenz.jpでは以前、「森のようちえん Little Tree」の野村直子さんの活動を通して「森のようちえん」という保育スタイルをご紹介しました(記事はこちら)。

「森のようちえん」は、保育園、幼稚園、自主保育など全国でさまざまな形があり、フィールドも東京といった都会から、北海道、そして沖縄まで多種多様。現在では、100以上の団体が運営するほどの広がりをみせています。

その中でも「ぴっぴ」は「森のようちえん」というスタイルが広く知られる前、2007年から活動をしてきた、自然豊かな森をフィールドにした自主保育です。

立ち上げに至った想いや「ぴっぴ」のこだわりについて、代表の中澤眞弓さんと、一緒に立ち上げた斉土美和子さんにお話をうかがいました。
 
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子どもたちに絵本を読む中澤さん

中澤さん 森の中で過ごすと、想像していた以上に解放されますよ。

と、笑顔で語る中澤さん。約20年間、東京で幼稚園教諭をしていた頃に感じていたある疑問が、「ぴっぴ」の立ち上げへとつながっていったそうです。

中澤さん 東京では、「周りが習わせているから私も子どもに習わせよう」というように、お母さんたちが一律に見えたんです。閉塞感を感じましたし、もっとのびのび子育てできる環境があればいいのにと、ずっと思っていました。

幼稚園以外に、家庭文庫や子育て相談といった子育て支援にも関わるなど、幅広く活動していた中澤さんは、そんな思いを抱きながら山梨県小淵沢で開かれた「ママチルキャンプ」にスタッフとして参加します。

「ママチルキャンプ」は、お母さん=”ママ”と子ども=”チルドレン”が自然体験やキャンプをして週末を過ごすというプログラムです。

中澤さん 母子が一緒に、また少し離れて自然の中で過ごしてみることで、気持ちがリフレッシュし、自分を見つめ直すことができること、さらに子どもや家族との関係を見直すきっかけになることを実感しました。

でも、「ママチルキャンプ」は不定期の開催でしたし、参加者は週末だけを自然の中で過ごして、平日は都会での生活を送る方がほとんどでした。そうではなくて、毎日をママチルキャンプのような形で過ごせたらいいのに、と思ったんです。

「ママチルキャンプ」を通して知った、森の魅力。その後、学童保育の仕事で軽井沢の森を訪れたとき、中澤さんは、「この場所が親子を楽にしてくれるかもしれない」という直感を得ました。
 
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子どもたちが描いた看板

子どもたちをもっと自然の中へ

一方、斉土さんは東京で保育や子育て支援の現場に関わった後、12年前に家族とともに軽井沢に移住してきました。

斉土さん 移住するときは、自然の中で子育てできたらいいなと思っていた程度で、「ぴっぴ」を立ち上げるとは思ってもいませんでした。

移住してしばらくは、自然農に軸を置いた暮らしを送っていたそうです。

斉土さん 移住してきて、稲刈りのお手伝いに行った時にごちそうになったお昼ご飯がとても美味しくて、それがきっかけで自然農を始めました。

でも、田んぼと畑でお米や小麦、野菜を育てていく中で、こんなに自然がいっぱいなのに子どもたちが外で遊んでいないことに気付きました。もったいないな、と感じたんです。

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子どもたちに話しかける斉土さん

そんなある日、学童保育に子どもを預けたことがきっかけで2人は出会います。中澤さんの「のびのびと子育てできる環境をつくりたい」という想いと、斉土さんの「もっと子どもたちが自然に触れられる環境があったらいいのに」という想いが通じ合い、意気投合。2007年4月、「ぴっぴ」を立ち上げました。

「森のようちえん」という保育スタイルを知ったのはその後。「ぴっぴ」は二人の「あったらいいな」という想いからつくられました。

子どもも大人もありのままでいられる場所

こうしてまずは“自主保育”というスタイルで始まった「ぴっぴ」。代表を務める中澤さんに、改めて、自然の中で過ごすことの魅力を聞きました。

中澤さん 森の中で過ごすことで自分を解放しやすくなります。自分がありのままでいられる場所は、他の人のありのままも受け入れやすくなりますよ。ここは大人も子どももありのままでいられます。

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“ありのまま”でいるために中澤さんが心がけていること、それは、ゆっくりていねいに「子どもが育つ過程を見守る」こと。

中澤さん ある子が、ほうきを持ってギター遊びを始めたことがありました。

その場にいたスタッフが以前勤めていた幼稚園だと、「遊ぶ道具ではない」「危ない」「喧嘩になる」といった理由でその遊びを止めるところを、あまりに楽しそうにしていたので、そのままにしていました。すると、近寄ってきた子どもたちは、他の枝を見つけて一緒に遊びだしたのです。

もし、さっきの理由で止めさせていたら、遊びは広がりませんでした。子どもたちの工夫やアイディアって面白い。子どもが育つ過程を見守ってあげられるのが、この森だと思っています。

子どもたちは、中澤さんのことを「まゆさん」、斉土さんのことを「わこさん」と呼んでいます。これも、「スタッフは指示する人でもなければ、管理する人でもなく、喧嘩を仲裁する人でもない仲間の一人」という中澤さんの想いから生まれた、「ぴっぴ」らしい習慣。

大人も子どもも、文字通り“自然体”で過ごし、“自然”に育ちあうことができる場所。それが、「ぴっぴ」がフィールドに選んだ「森」という環境なのです。

親子の関係を大切に育む、2歳児入園

2歳児からの入園という形を取っていることも「ぴっぴ」の大きな特徴の一つです。

中澤さん 2歳は親子関係のベースを築く時です。ところがこの時期の子育ては、「自分でやりたいのにできない」といった、自我が芽生えてさまざまな感情の出てくる2歳児特有の難しさで、お母さんの気持ちが不安定になってしまいがち。

私たちがワンクッションになることで、親子の心地好い関係ができやすくなれば、という想いから、2歳児から入園する形をつくりました。

ただ2歳という年齢は、家族で過ごすことも大切な時期。「ぴっぴ」にきて集団生活を送るのも大切な時間なので、2歳児の保育は週3日にしているとのこと。

中澤さん 2歳児の一年をベースに、小学校に入学するまでの4年間を通して、一緒に信頼関係を築いていくことを大切にしています。

森と仲間とともに、出会い、関わり合い、育み合いながら、親以外の仲間と信頼関係を築く体験。それは、子どもたちが自分自身への信頼感を育てることにもつながることでしょう。

暮らしから得ることで養う、食べることへの興味

そして、「ぴっぴ」を語る上で欠かせないのが、食へのこだわりです。
 
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この日のお米・野菜はもちろん果物も自然農のものです

「ぴっぴ」の食事は、無農薬、自然農のものを中心にこだわってつくられています。さらに、食事の準備をするだけではなく、田植えや稲刈りをしたり野菜や豆なども育てることで、田畑も保育のフィールドになっています。

斉土さん 食への興味は、お米を育てることや調理するといった「過程」に関わることで広がることがあります。みんなで体を動かし、五感を働かせながら、日々の暮らしの中で、「田んぼの水の暖かさがこの前とは違う」といったことのように、体感し、自分で得ていくもの。

「育てる」「調理をする」という過程を毎年積み重ねながら、暮らしの中に「おいしく、楽しく食べること」が自然にあってほしいと願っています。

この日のランチも多くの子どもたちがおかわりし、もりもりと美味しそうに食べていた姿が印象的でした。「こだわった食材だから」「美味しいから」といった理由だけではなく、日々の豊かな食体験が、そんな子どもたちの姿につながっているのだと感じます。
 
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立ち上げは2人だった「ぴっぴ」も、今では7名のスタッフで運営しています。「話し合うことを大切にしてきたことで、軸がぶれることなく、深まっている」と中澤さんは話します。今後の「ぴっぴ」はどのように変化していくのでしょうか。

斉土さん 立ち上げてから9年目。卒業した75名の子どもたちを「お帰り」と迎えられる場所にしたいと思っています。これまでは無認可の自主保育という形でしたが今年の9月に一般社団法人化しました。これからしっかりとここに根を張り、自分たちの森をつくっていきたいです。

家族と同じように「お帰り」と言ってくれる「森」を持つ子どもたち。ここで育った子どもたちが切り開いていく未来にワクワクしますね。

季節ごとの活動の様子も知ることができます。
森のようちえん ぴっぴ
全国にある「森のようちえん」について知ることができます。
森のようちえん全国ネットワーク

writer ライターリスト

藤野 あずさ

greenz ライター 高知生まれ。東京でCSR・環境報告書の企画制作を経験後、信州で4年間を過ごす。農家さんや地域の人たちとの出会いを通して、食や伝統文化、自然の中で育まれた暮らしに触れ、五感で楽しむ地域の魅力を知る。 テーマは衣食と農、森など、自然のなかで暮らすこと、生きること。

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