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街が、人が、本でつながり、動き出す。カフェにも雑貨屋さんにも、街中に小さな古本屋さんがオープンする“始まり”の日「小田原ブックマーケット」

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あなたの本棚には、どんな本が並んでいますか?

あのとき夢中になった趣味の本、夢を抱いて読んだビジネス書、自分の価値観に大きな影響を与えた1冊……。改めて眺めてみると、自分の人生の縮図と言っても過言ではないほど、“あなた自身”をよく表していると感じるのではないでしょうか。

今日ご紹介するのは、そんな本から始まるまちづくりのお話。読書の秋、本が媒介となって人と人をつないでいく、そんな本が紡ぐ“つながり”のストーリーへ、ご案内しましょう。

街中に小さな古本屋さんが出現!「小田原ブックマーケット」

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今年6月29日、夏の始まりを感じる青空の広がった神奈川県小田原市の街に、たくさんの小さな古本屋さんが出現しました。

カフェの軒先にも、雑貨屋さんの店内にも、公民館にも、コワーキングスペースの中にも。
 
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様々な場所に様々な種類の古本が並び、街行く人は足を止め、会話を交わし、しばし読み入る……。そんな光景が街中に広がりました。
 
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これは、地元の人たちが手づくりで企画した「第2回小田原ブックマーケット」の一幕。

簡単に言えばフリーマーケットの本版、古本市なのですが、会場が1ヶ所ではなく、街中に広がっていることが大きな特徴です。

公民館に19店舗、“まちなか会場”としてカフェや雑貨屋さん、アトリエ、コワーキングスペースなどの一角に13店舗、特別企画が2つ、合計34もの古本屋さんが当日限定でオープンしました。
 
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子どもたちのための紙芝居も行われました。

一番大きな公民館会場には、普段は会社員をしている個人の方から、デザイナーさんや建築家さん、ブックカフェのオーナーさん、本職の古本屋さん、そして小説家さんまで、個性豊かな出店者が顔を揃えました。
 
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古本市のベテランの方から……

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中には、自分でつくったリトルプレスを販売する方も。しおりやブックカバーなど、本にまつわるものを販売する店主もいました。

参加者は会場マップを片手に街を散策し、本と出会い、お店と出会い、店主と出会い、新たな街の表情に出会う。そんな小さな出会いが小田原の街中に広がった1日となりました。
 
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本が語る“その人自身”。
牛山恵子さん、山居是文さんインタビュー

「小田原ブックマーケット」は、昨年2013年11月に引き続き今回で2回目の開催。昨年の11店舗での開催から今年は大幅に規模を拡大し、参加者も1,500人(推定)を超えるほどの賑わいに。

その盛況ぶりは、企画した実行委員会の方々も驚くほどのものになりました。もともとはコワーキングスペース内の小さな本棚から始まった「小田原ブックマーケット」にまつわるストーリーを、言い出しっぺで実行委員会の牛山惠子さん、山居是文さんに聞きました。
 
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小田原ブックマーケット実行委員会の牛山さん(左)と山居さん(右)

牛山さん 街歩きの楽しさと、誰かが選んだ本に出会う楽しさ。そして、売った人と買った人が本を通じてつながったという感覚が、すごく楽しいイベントなんです。

と語る牛山さん。

牛山さんはもともと、今年で10周年を迎えた“一箱古本市”「不忍ブックストリート」(東京の谷中・根津・千駄木エリアで開催)、そして「ブックカーニバルinカマクラ」(鎌倉市で開催)の大ファンで、毎回会場に足を運んでいたのだとか。一般的なフリーマーケットでは得られない、古本市ならではの魅力について、こう語ります。

牛山さん 古本市に並ぶのは、その方のオススメの本。本を人に勧めることって、心をオープンにするというか、自分の大事にしているものを伝えることなんですよね。

例えば人が遊びに来て、私は本棚を見られるのってけっこう恥ずかしかったりするのですが、本は自分自身の心の中とダイレクトにつながっていて、本に触れることで、“その人自身”に出会う感じがあるからだと思うんです。

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牛山さん だから買わなくても店主とその本の話を一瞬するだけで気持ちと気持ちがつながる感覚があるし、例え会話を交わさなくても、並んだ本を見て「あ、この人もこの本好きなんだ!」と、目と目の会話があったり。古本市には、本が並んでいるだけで会話をしているような、そんな面白さがあります。

出店者の中には、「この本に目を留めてくれる人と出会いたい」と、売るつもりのない本も並べて、コミュニケーションを楽しんでいた人もいたのだとか。

言葉以上にその人自身のことを語っている「本」という存在が、コミュニケーションを生み出し、自然に人と人がつながっていく。“古本市”は、そんな感覚を体感できる場所なのです。

本をきっかけに、新たな街の表情と出会う。

そしてもうひとつの大きな魅力は、これまで知らなかった街の表情との出会い。コワーキングスペース「旧三福」(紹介記事はこちら)を運営する山居さんは、様々なイベントを開催して市内外の方を集客する中で、こんな想いを抱いていました。

山居さん 旧三福にイベントで来てくれた人は、それだけで帰ってしまう方が多かったんです。小田原には他にも面白いお店がたくさんあるのに、知るきっかけがないんですよね。それに小田原の方にとっても、小さな個人商店は入り難かったりもします。

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そこで山居さんと牛山さんは、古本を街のお店を知るきっかけにしようと考え、メインの公民館だけではなく、“まちなか”会場を設置。様々なお店の店先に、店主が選んだ本が並び、一日限りの古本屋がオープンしました。

山居さん 本があることで、お店に入るきっかけができて、「あ、こういうお店なんだな」と知ることができる。そうすると、次来たときにも、すごく入りやすくなると思うんですよね。

牛山さん そうやって好きなお店や店主さんの知り合いができると、その街まで好きになるってこともありますよね。それが小田原の他の場所を訪れるきっかけになってくれたらうれしいな、と思っています。

今回のイベント後、再度そのお店を訪れ常連になった方もいるのだとか。「そんな後日談を聞くのが何よりうれしい」と、牛山さんはイベント後に感じている手応えを聞かせてくれました。

言葉を交わさずにコミュニケーションできる“本”に惹かれて

今回、実行委員会で中心となって動いた牛山さんは、小中学生の頃から「遊び場が図書館だった」というほどの本好き。

漫画から小説、落語の本まで、なんでも読みあさり、お小遣いをもらうと本屋さんへ直行。“リカちゃん人形よりも本”派で、誕生日にも本をプレゼントしてもらっていたのだとか。
 
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大人になっても相変わらずの本好きで、新しい街に出かけたり、旅に出ればまず真っ先に本屋さんや古本屋さんを探すのだとか。そして山居さんをはじめとする仲間と出会い、コワーキングスペース「旧三福」の運営に関わり始めたときも、真っ先に提案したのは、ライブラリーをつくることでした。

牛山さん 私たちがしゃべることって限界がありますよね。だから本棚を見ていただいて、「この人たちはこういうことに興味があるんだな」と思ってくれるといいな、と思いました。

もうひとつ、ライブラリーには大事な役目があって、イベントなどで初めてここに来た方が、開始までの時間や休憩時間に間が持たないな、って思った時、自由に読んでいい本棚があったら、本に逃げることができるじゃないですか(笑)。

初めて来た人が言葉を交わさずにこの場所とコミュニケーションできることってなんだろう、と考えたら、本だな、と思ったんです。

こうして旧三福には牛山さんをはじめとする運営メンバーが選書した本棚が常設され、現在は会員制の「三福文庫」として、貸し出しも行うようになりました。
 
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デザインや生き方、働き方の本、ロングセラーのコミックまで、旧三福の運営メンバーが選んだ様々な書籍が並ぶ「三福文庫」

牛山さん 本棚があることで、ここでたくさんの会話が生まれていきましたし、ゲストに本を選んできてもらうトークイベントも実施しました。私はそれがとにかく面白くて。新たな発見もあるし、その人自身に出会う感じがしました。

そして牛山さんは、さらにコミュニケーションを広げようと、以前からやりたかった「不忍ブックストリート」や「ブックカーニバルinカマクラ」をお手本にした古本市を提案します。

名前は「三福文庫ブックマーケット」。山居さんの「もっと街全体のことに」というアドバイスを受け、思い切って「小田原ブックマーケット」という名称に決定。まずは身近な方々に声をかけ、旧三福をメイン会場に開催することになりました。

牛山さん 初回は去年の11月に開催したのですが、やってみると、とにかくすごい人出で。開店前から並ぶ人がいましたし、どの会場も常に中に入れないで待っている人々がいる状態。

特にここは元々狭い場所ではあるのですが、あんなに人が溢れた「旧三福」は、初めて見ました。狭すぎて、店主が外に出なくてはならないほどだったんです(笑)。

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2013年11月の第1回小田原ブックマーケットには、会場に入りきれない程の人が集まりました。

20〜40代を中心に、小学生から年配の方まで、あらゆる世代の人で賑わった第一回の開催を経て、今回は規模を拡大。公民館を借り、まちなかの店舗も増やし、ボランティアチーム「しおり隊」も組織して、第2回は名前の通り、小田原の街に拡がるイベントに成長しました。

ブックマーケットは、“始まりの日”。

大盛況の第2回を経て、牛山さんに今後への想いを聞きました。

牛山さん やってみて分かったんですけど、古本市って出店できる人が多いんですよね。本を読まない人はいないですし、その人にとっての「普通」が他の人には面白かったりするんです。

だから誰でも出店者にも、お客さんにもなれますし、運営サイドとして関わっても、“人ごと”にならない。どの立場で参加しても楽しいと思うんです。

だから年に1回くらいは、コンスタントに続けていきたいですね。規模を大きくしたい、というよりは、とにかく続ける。

そうすれば、毎回出店じゃなくて、あるときはボランティアスタッフだけやったり、お客さんになったり、次があると思えば無理せずに「今回はこう楽しもう」って選択できると思うんです。そうやって、何らかの形で関わってくれる人を少しずつ増やしていきたいです。

そして本好きの牛山さんにとっての喜びは、本をきっかけに街が少し表情を変えること。

牛山さん 「街をこうしたい」というよりは、私としては、参加した人一人ひとりがちょっと楽しくなったりとか、違うコミュニケーションの在り方とか、そういうことにこの街で出会えたら喜びだな、と思います。

前回、私の本を買った人が「読んだよ」って言ってくれたのですが、その方とは前からの知り合いだったのに本の話をしたことがなかったので、すごくうれしかったんですよね。

みんながもっと本を読み出して、本の話ができる人が街に増えて、「なんか小田原ってお店に本を置いているところ多いよね」なんてことになったら、私としてはとてもうれしいな、と思います。

山居さん 結局、本を売るだけじゃなくて、本を媒介にして人が話したり、人がつながったりすることがアウトプットとしてあるので、むしろそこからの広がりの方が大きいのかもしれません。

牛山さん 本は主役であり、触媒であり、すごく働いています。ブックマーケットという日をスタートにして、人と人がつながっていくような。そんなきっかけづくりを続けていきたいと思います。

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雑貨屋さんが本棚を常設するようになったり、本屋さんが古本屋をやって話題になったり、店主に読んだ本の感想を言いに来る人がいたり、その後のエピソードは尽きることはありません。

1日限りのイベントではなく、人と人がつながる始まりの日としての古本市。牛山さんが「どこでもできるし、やる街が増えたらいい」と言う通り、このモデルはどの街でも応用できますし、広がっていけば街それぞれのカラーも出てきそうです。

本からはじまるまちづくり、あなたの街でも、はじめてみませんか?