ISSUE☆連載 野良的生活のススメ

2 years ago - 2014.11.08

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食べることは未来をつくる!?「奇跡のリンゴ」木村秋則さんと食の未来を考える、対話式の90分間

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特集「野良的生活のススメ」は、“野良”な生活、“野良”な働き方を探求する連載企画です。自由気ままに人間らしく、自然のリズムと共に生きる人々の知恵やアイデアを掘り下げ、野良的な感性をみなさんの元へ届けます。

私たちの身体と心をつくる日々の食事。食卓に並ぶまでに私たちは「選択」をします。それは、安く手に入った食材、旬の果物、減農薬のお米、国産の小麦粉、有機栽培の野菜…といったようにさまざま。

先日、青山ファーマーズマーケットが開かれている国連大学でトークイベント「木村秋則氏と共に食の未来を考える、対話式の90分間」が開催されました。つくり手と食べ手が一緒に考えることで見えてくる、これからの食のこと。今回はその様子をお伝えします。

「奇跡のリンゴ」を通して自然栽培の輪を広める木村秋則さん

木村秋則さんは常識では不可能といわれた、農薬と肥料を使わない自然栽培でりんごを実らせました。それは「奇跡のリンゴ」と呼ばれています。

りんごがならなかった約10年間、木村さんはあらゆる作物で試しながら、農薬と肥料を使わない自然栽培という方法を体得します。それは農薬や肥料を使ったこれまでの生産方法を否定するものではなく、「農法に答えはない」という考え方の上に成り立っています。

これまで木村さんの講演会は、実践してきた自然栽培のことなどをお話するスタイルでしたが、今回は参加者が質問し、それに対して木村さんが答えていくという、初めての試みで行いました。
 
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私たちは自然の中で生きる一つの生き物

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農薬や肥料を使ったりんごの木と、自然栽培で育てたりんごの木はどう違いますか?

秋が近づくと木々は、自然の営みとして紅葉という現象を見せます。りんごももちろん、秋になると紅葉し落葉する木です。ところが秋になっても葉が緑のまま、雪が降っても紅葉せず、まるで季節を忘れてしまったかのようです。

私が小学生の頃は、何があっても紅葉し、厳しい冬に備えていましたから、つまり長年、農薬や肥料を与え続けた影響ではないかと感じています。

このことが一番大きな違いだと話す木村さん。そして次のようにも強調されました。

自然は人間のためのものではありません。私たち人間は、自然の中で生きるひとつの生き物なのです。

農薬が良い悪いではなく、農薬や肥料が野菜を変えてしまった

二つ目の質問です。

農薬は安全だといわれています。農薬を使った場合と比べて、自然栽培の野菜は安全なのでしょうか?

農薬や肥料を使った生産方法があったから大量生産でき、飢餓から解消されました。農薬が良い悪いということではなく、それらを長い間使った栽培によって野菜の栄養価値が変わってしまったのです。

例えば、ほうれん草に含まれるビタミンA。昭和26年と平成14年を比べると約10分の1しかありません。みかんに含まれるビタミンAだと、50分の1まで減ってしまっています。(科学技術庁 食品成分分析調査のデータによる)

今の野菜は見た目だけになってしまっています。サプリメントで体のバランスを取るには限界がありますし、現代は野菜からわずかな栄養を取って、生命を維持していると思います。

農薬や肥料は、使わずに済むのなら使わないほうが良いと思っています。農薬や肥料による弊害が現れていることからも、今が切り替えるタイミングだと思います。

農家が一生懸命育てた野菜を愛してほしい

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生産者の意識が変わりつつあることを感じる中で、消費者の意識が変わっていることを感じにくい。どうすれば変わるのでしょうか?

私の住む弘前は、きわめて保守的な場所。そこでも自然栽培する農家さんが出てきていますし、スローテンポながら生産者の意識改革は始まっていると思います。

木村さんはこのように生産者の意識が変わっていることを実感する一方で、消費者が食にあまり関心を示してくれないことを感じているそうです。

例えば50万円で売られている高級バッグが、セールで半額の25万円になったら大勢の人が買います。ところが農薬や肥料を使わずに、お客様の喜ぶ顔を見たいという想いで、汗を流して育てたお米を「高い」といいます。

お米は1日に換算すれば100円足らずなのに、です。消費者のみなさんには、自然栽培で育てた農産品を愛してほしいなと思います。

私たちは何十年と命をつなぎます。そして、仲間や家族もいます。病気になって後悔しないよう、日々の食事には気をつけてほしいと思います。

続けて、次のように話しました。

日本は世界一の農薬使用国というレッテルを貼られています。海外では「日本の野菜は健康に異常をきたす場合があるので、食べないようにしましょう」と書かれた旅行者向けパンフレットもあるくらいです。

その汚名を挽回しなければいけません。一人ではなく、みんなで力を合わせれば大きなうねりになります。毎日の食卓の一品でもいいから変えていきましょう。

一本のきゅうりから知る食べ物の働き

続いての質問者の方は、子どもの頃から化学物質過敏症だったそうです。「原因が分からず、食べられないものが多かったのですが、自然栽培の野菜やお米だと食べることができました。感謝しています」と話した上で、次のように質問しました。

自然栽培の生産者を応援するためにできることはありますか?

厚生労働省によると、国民の60%以上は化学物質過敏症だと発表されています。私はその原因は、毎日の食が関係しているのではないかと思っています。

またある研究によると、化学物質過敏症は親子孫3代まで続くともいわれています。そこに歯止めをかけるのが親として、そして社会の先輩としてあたり前のことではないかと思うのです。

ここで木村さんは1本のきゅうりを取り出します。それは当日、青山ファーマーズマーケットで購入した “不揃い”のきゅうり。

このきゅうりは、形が不揃いだという理由で安く売られていました。味は同じなのに、見た目の違いだけで人は判断します。しかし、このきゅうりからすると精一杯頑張って一本を実らせているのです。

食べ物にはさまざまな働きがあるんですよ。例えば、このきゅうり。折ってもくっつくんです。

と話しながら、実演して見せてくれました。
 
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折ったきゅうりを手にします。

「爪楊枝は入れていませんよ」と笑いを誘いながら、折ったきゅうりをくっつけて、片手を離すと…見事に1本になりました。
 
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どうしてか私には分かりませんが、自然栽培のきゅうりだとくっつくのが早いんです。

また、実っている状態できゅうりを折ると、農薬や肥料を使って育てたものは、折ったところから水分が流れ出て枯れてしまいます。ところが、自然栽培で育てたものは、折ったところからまた成長を続けるのです。

食べ物の持つ生命力。それは見た目の美しさなどでは判断できるものではないようです。もしかしたら生命力に満ちた食べ物は、化学物質過敏症の方々を救う一つの方法になるかもしれません。

化学物質過敏症の方々には、食のことを考えてほしいと思います。健康な方は日々の食に気を配ることで、将来の発症を防ぐことにもつながります。化学物質過敏症の方々のためにも、生産者の意識を「社会のために食を生産するんだ」というものに変えていきたいと思っています。

きれいな水を取り戻すために

質問は続きます。

耕作放棄地を解消するために、自然栽培でできることはありますか?今、最も力を入れている活動は、どういったことですか?

日本の耕作放棄地は40万町歩(ちょうぶ)以上という桁外れの面積。日本は飽食のように見えますが、田畑を捨て、世界からの輸入に頼っている“貧食”です。

大旱魃といった異常気象が世界で起こっていることからも考えられるように、日本への食の輸入がストップすることは近い将来の話なのです。これは農家だけの問題ではなく、消費者も一緒に考えることだと思います。

耕作放棄地は長い間、農薬や肥料を使わずそのままにされていたため、自然栽培をするには最適の土地です。自然栽培に取り組もうとしている新規就農者にとって、この耕作放棄地は宝物になっていくのではないかと思います。

また、一番力を入れている活動について、木村さんは次のように話しました。

世界の異常気象は水が汚れたことが原因です。海水のバクテリアが増え、その呼吸熱により水温が上がり、低気圧が巨大化したことで引き起こされています。丘と海はひとつ。農業で使った農薬や肥料は地下水を汚染し、そのまま海へ流れているのです。

農薬や肥料を使わず、きれいな地下水を川に流し、海をきれいに保つことが、地球で一番大事な仕事として求められていると思います。きれいな水を守るために、日本やヨーロッパなどに出歩き、地下水を汚すことのない自然栽培を伝えています。

日本からこの自然栽培を発信し、世界へ広めていきたいと思っています。

自然はマニュアルでは語れない

最後は、新規就農を考えている方からの質問です。

自然栽培を仕事にして生活していく上でのアドバイスをもらえますか?

効率を求めた生産方法だけが良いとはいえません。農薬や肥料を使って生産すると収穫量は増え、売り上げも伸びますが、農薬代など約7割が経費です。自然栽培だと売り上げは半分になりますが、経費がほとんどかかりませんから、手元に多く残ります。

木村さん自身、自然栽培を始めた頃は生活が成り立たなかった時期があります。その経験を踏まえながら、「自然栽培で上手くいかない時があっても、自分のしていることを見つめ直せば、必ず答えはある」といいます。

世の中はマニュアル社会ですが、自然はマニュアルでは語れません。その場所の特徴に合わせて、各々のやり方で実践していくことです。

食はお金儲けの手段に使ってはならないと思います。生産者は、食べてもらう人のために生産するんです。これからは消費者と生産者が一つの輪になっていってほしいなと思います。

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食事から、つくった人や場所、つくり方といったことを紐解いていくと、健康はもちろん、環境問題にも関係しているようです。

みなさんは、どんなことを感じましたか?

木村さんの活動はこちらから
木村秋則オフィシャルホームページ

writer ライターリスト

藤野 あずさ

greenz ライター 高知生まれ。東京でCSR・環境報告書の企画制作を経験後、信州で4年間を過ごす。農家さんや地域の人たちとの出会いを通して、食や伝統文化、自然の中で育まれた暮らしに触れ、五感で楽しむ地域の魅力を知る。 テーマは衣食と農、森など、自然のなかで暮らすこと、生きること。

partner パートナーリスト

男子野菜部

毎週末、青山でFarmer's Market @ UNUを運営。野菜をメディアと考えて、人と野菜、人と農をつなぐべく、イベントへのケータリングなども行う。2013年よりファーマーズマーケットの季刊誌『NORAH』の編集にも携わり、“野良”な生活、“野良”な働き方を探求中。 著書 『これからの野菜の食べ方』(幻冬舎) 『青山ファーマーズマーケット 畑レシピ』(主婦と生活社)『NORAH』ウェブサイト男子野菜部 Facebookページ

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