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美味しいオーガニックコーヒーで“生きている実感”を持てる世界に。優等生のレールから外れて歩んだ、スロー社小澤陽祐さんの14年

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有限会社スロー 小澤陽祐さん

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

「フェアトレード」も「オーガニック」も現在ほど浸透していなかった14年前。フェアトレードかつオーガニックなコーヒーを焙煎・販売する有限会社スローが設立されました。

スロー社はブラジルやエクアドル、メキシコなどからオーガニックコーヒー豆をフェアトレードで輸入し、焙煎・販売している会社。アースデイなどへのイベント出店や2009年にオープンしたカフェ「スローコーヒー」を通じて美味しいオーガニックコーヒーを届けています。

実は学生時代は環境問題を専門に勉強していたわけではなかったという代表の小澤陽祐さん。なぜそんな小澤さんがスロー社を立ち上げ、現在に至ったのか。14年間の道のりやその思いを伺いました。

フェアトレードもコーヒーも素人、手探り状態からの起業

小澤さんがスロー社を立ち上げたきっかけは、環境=文化NGO「ナマケモノ俱楽部」の設立でした。

同団体は、小澤さんが通っていた明治学院大学国際学部教授の辻信一さんらが設立した、環境運動+文化運動+ビジネスを通じてスローなライフスタイルを提案する団体です。

大学卒業後、フリーターをしていた小澤さんはその立ち上げのミーティングに誘われ、その場にいた大野さん、馬場さんとともに環境と経済を両立したビジネスの起業に手を挙げます。そして、2000年7月に3人で有限会社スローを設立しました。

小澤さん みんなが同じように就職する、というレールに乗るのにすごく違和感を感じて頑として就職活動をしなかったんです。

でも、特にやりたいことがあったわけではなく、卒業後はフリーターを2年くらいやっていました。そんな中、縁あってスロー社を立ち上げることになりました。フェアトレードや環境問題のことはまったく知らなかったけれど、環境と共生しながらビジネスをできたらそれはすごくいいなと思って。

ただ、商売の経験がない3人がやるビジネスということで、事業内容については、ナマケモノ俱楽部立ち上げ人の中村隆市さんがやっていたフェアトレードのコーヒー販売を軸にはじめることになりました。

当初はコーヒーの焙煎に関しても全員素人の状態だったので、まずは中村さんが経営する「ウインドファーム」社で焙煎の仕方などを学ぶことから始まりました。

しかし、ウインドファーム社がある福岡と、スロー社がある千葉ではガス圧が違うことが分かり、結局一からスロー社の焙煎方法を構築しなければならなかったそうです。
 
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スロー社での焙煎の様子

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資金は役員3人と小澤さんら3人で出し合い、300万円でスタート。しかし、始めて3ヶ月くらいで資本金が底をついてしまいました。さらに起業一年目で創業メンバーの一人が辞めてしまいます。

小澤さん 最初の5年間くらいは全然売り上げがなかったので、アルバイトも掛け持ちしていました。週2、3日バイトに行って、残りの週3、4日くらいスロー社の仕事をして。当初は、美味しいコーヒーとは何かもよくわからないままやっていましたね。

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創業当時のひとコマ

しかし、このままではいけないと気づき、美味しいコーヒーを追求していきます。様々なコーヒーを飲んだり、コーヒー屋さんに通ったり、焙煎をしている人に話を聞くなどして、やっと3年目のころに自信を持って美味しいと言えるものができたそうです。
 
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無農薬栽培や森林農法など、環境に配慮した農法でつくられたスロー社のコーヒーは味の評価も高い

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森林農法のコーヒー畑

創業メンバーで残った大野さんが焙煎を、小澤さんが営業や総務などそれ以外を担当し、徐々にスロー社のコーヒーは広がっていきました。

小澤さん 当時はオーガニックやフェアトレードがそこまで浸透してないのでそんなに付加価値として評価されませんでした。

でも味は美味しい、ということで担当者個人がすごく気に入ってくれ、後にその人が独立した時にスロー社のコーヒーを使いたいと連絡が来ることがあります。そういう時はすごく嬉しいですね。

2009年にはフェアトレードやオーガニックコーヒーについて直接お客さんに伝えたいと、カフェ「スローコーヒー」をオープン。地域の人の憩いの場になっています。
 
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スローコーヒー 八柱店

さらに、2013年にはカフェインレスのオーガニックコーヒーを発売。カフェインを控えたい妊婦さんや女性を中心に大人気商品となりました。
 
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カフェインレスコーヒー。ドリップオンタイプ(左)は業界初の人気商品

でも、オーガニックやフェアトレードが評価されてなかった時期から事業を始め、途中で辞めたいと思ったことはなかったのでしょうか。

小澤さん それはなかったですね。ただ、設立6年目の年に創業メンバーで残っていた大野も辞めちゃったんですよ。

その時、何のために自分はスロー社をやってたんだっけ?と考え込んでしまいました。生業としていけるようにとやってきたけれど、6年経っても誰も1人で生活できるような給与水準じゃなかったので。

けれど、中村隆市さんや周囲の人からは最初から「当分は食えないよ」と言われていたので、6年目ではまだまだ、と思っていました。

一人になった時に“時間”の使い方を見直しました。少人数でやっているのだから、効果や成果をあげないと続けられないんだということが身にしみて分かり、仕事のやり方を見直して徐々に売り上げを上げていきました。

まずは「美味しい」から、オーガニックやフェアトレードを伝えたい

スロー社が設立されて14年。現在ではフェアトレードやオーガニック商品も一般的になってきました。
 
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小澤さん 僕らがスロー社を始めたころ、オーガニックコーヒーは美味しくないという評価が大多数だったので、まずはこの状況を変えないと、と思ったんです。

美味しいと思ったらオーガニックやフェアトレードにも興味をもってもらえるはず。例えば、ファッションなんかでもカッコいいブランドは自分で雑誌などで調べますよね。スローコーヒーもそういう風になりたいと思っています。

オーガニックの「オ」の字も知らなかった普通の僕らがやるので、僕らみたいな普通の人たちに向けてオシャレに、ポップに、楽しくオーガニックやフェアトレードの意義を伝えていきたいですね。それによって少しでも社会が少しでもいい方向に向かってほしいです。

小澤さんにとって「いい社会」とはどのようなものなのでしょうか。

小澤さん 生きている実感を持てる社会です。僕らとか僕らより下の世代って生きている実感が乏しい世代なのではないでしょうか。

だから、自殺者が増えていたり、親や友達を殺してしまったりする。原因は様々ですが、一番は「自分の人生を生きている」という実感を持ててないことではないかと思います。

生きている実感を、コーヒーを通して伝えたいです。僕らはフェアトレード団体というよりコーヒー屋だと思っているので、例えば生産地を訪れ、生産者と交流するなど、コーヒーを軸にしたことをやっていきたいですね。

海外に行くだけでもたくさん発見があって視野が広がりますし。「日本がダメになったらエクアドルに行っちゃえばいいじゃん」、そんな発想を持てたら自殺しないで済むと思うんですよ。

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メキシコのコーヒー生産者の若きリーダー、レオナルドさん

3.11で知った電力供給のもろさをソーラー焙煎で補う

これから、スロー社の焙煎機の電力はソーラー発電でまかなっていく予定だと言います。スロー社の焙煎所がある地区は東日本大震災後に計画停電エリアになりました。それによって、震災後しばらくは焙煎を中止しなければならず、一時は休業状態に。

小澤さん 当時11年目でオーガニックが定着してきたころでしたが、計画停電を経験して、基盤となる電力など、足もとがもろいことを痛感したんですよね。

そんな時にジブリが「原発の電気を使わないで映画をつくりたい」と表明したことにすごくシビれちゃって、とてもいいなと。スローコーヒーも原発抜きの、自然エネルギーでコーヒーを焙煎したいと思ったんです。

いずれ直下型地震もかなり高い確率でくると言われているので、その時のバックアップとしても備えたい。それに、自然エネルギーで焙煎したコーヒーを飲んだら気分もいいでしょ?

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green drinks BOSOのイベントでミニ太陽光発電システムを組み立てる小澤さん

たしかに東日本大震災による計画停電は、多くの人にとって、エネルギーについて考える大きなきっかけになったことと思います。自分たちの手元で電気をつくれると心強いですね。ソーラー焙煎は今年度内を目処に開始する予定とのことです。

最後に、グリーンズの読者に伝えたいことはありますか?

小澤さん グリーンズの読者の方は起業マインドがある方が多いのではないのでしょうか。本当にやりたいことがあるなら、ぜひやってほしいです。

実際にやっても上手くいくことばかりじゃないし、僕らの会社だって何度もギリギリのところを経験しています。でも、やらないよりはやった方が絶対いいし、後悔しないように生きた方がいい。

死ぬ時に「自分の人生、やりきった!」と思えるように人生を全うしたいですよね。

「やりたいことはやった方がいい」という小澤さんの言葉は、それを体現してきたからこそ強い説得力を持って伝わってきます。

順風満帆ではないけれど、信念に従って続けてきたからこそ、現在の状況があるのでしょう。ソーラー焙煎のコーヒーを飲める日が楽しみです。

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