ISSUE☆おすすめの連載! ぼくらの未来シナリオ

2 years ago - 2014.10.31

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短時間勤務だって活躍できる! ArrowArrow堀江由香里さんに聞く「育児をしながら楽しく働くためのヒント」

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特集「ぼくらの未来シナリオ」は、国立環境研究所「2030年の未来シナリオ」研究チームと一緒にお届けするインタビュー企画です。有識者の方々に「2030年の日本が直面しうるリスク」と「よりよい未来にしていくためにいま必要なこと」を伺っていきます。

女性が出産や育児があっても働き続けられるために、中小企業向けの支援をしてきた、NPO法人「ArrowArrow(アローアロー)」の堀江由香里さん。

活動の様子はgreenz.jpでもご紹介してきましたが、現在、堀江さんは出産を控えて、ご自身も「制約ある働き方」に挑戦中です。

2030年には、いまおなかにいるお子さんは高校1年生になっているでしょう。その頃、日本の「働き方」はどう変化しているでしょうか。次世代への思いもこめて語っていただいた、「リスクを乗り越えるためのヒント」をご紹介します。
 
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堀江由香里(ほりえ・ゆかり)
NPO法人ArrowArrow代表理事。「子育てや介護等の外的要因に左右されず仕事が当たり前に続けられる」ことをめざし、産育休を取得したい社員や取得させたい中小企業対象のコンサルティングプログラム『産休!Thank you!』を創出。子育てと仕事の両立を実現するための勉強会として、国分寺市と協働した女性の再就職を支援するママインターン事業などを展開。11月に出産予定。

介護と育児が同時に進む共働き社会

グリーンズ 女性が働き続けることができる環境をつくるために、さまざまな活動をされていますが、そんな堀江さんが感じている「日本のリスク」を教えていただけますか。

堀江さん 一言で言うと、「共働き社会における働き方」ですね。誰もが働くのが当たり前の社会になったとしても、今のままでは働き続けること自体、難しくなる人も出てくるのではないかと思っています。

グリーンズ というと?

堀江さん これまでの日本は長時間労働が中心で、介護や育児など家庭の役割を妻が担ってきました。現在も、産育休を取得したあと仕事を辞めてしまう女性の割合は、10〜15年前と変わりません。特に中小企業では、マタニティ・ハラスメントなどによって辞めてしまう女性もたくさん存在します。

そんな中でもここ数年、共働き家庭の数が、専業主婦家庭の数を上回るようになりました。さらに今後は少子高齢化と晩婚化の進行により、介護と子育てが重なる時代に突入します。

このような極端な変化に対応する働き方が社会に浸透しなければ、妻か夫のどちらかが疲弊して身体を壊したり、精神的なダメージを受けたりするようになるのではないかという危機感を持っています。

グリーンズ その危機感が、ArrowArrowの活動につながるわけですね。
 
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「戦略的産育休取得」について講演する堀江さん

堀江さん はい。今までの福利厚生の制度は、出産や育児をする女性社員を“保護する”という観点からつくられていて、制約のある働き方をする人を“活躍させる”という観点ではないんですね。

「女性は組織の中で活躍できない」という固定概念が崩されない限り、本当の意味でのダイバーシティ(多様性)は実現されないでしょうし、組織の中で活躍する女性は増えていかないと思います。

グリーンズ 確かに。

堀江さん 中小企業の経営者の方から「アジアの人を採用したい」と相談されることがあります。もちろんそれも大事なことですが、私は「その前に、女性活用というもっと身近なダイバーシティがありますよね」とお話しています。

日本で同じような環境で生きてきた女性でさえ活躍できないところでは、多国籍の人が入ったとしても活躍してもらうのは無理だと思うんです。

グリーンズ まずは女性を活用できるようになってから、ということですね。

堀江さん ArrowArrowでは産育休の取得に特化してきましたが、これを、社会全体の働き方を変えていく切り口にできると考えています。それくらい妊娠というのは、「制約があっても活躍するには・してもらうには」という問題に向き合う、いいきっかけになるんです。

グリーンズ それはどうしてですか?

堀江さん まず、休む時期も戻ってくる時期も、ある程度計算できてスケジューリングしやすいということがあります。

もうひとつは、私たちがコンサルティングをしている中小企業では、「この女性社員が戻ってきてくれないと、支店の売上が半分消えてしまう」というケースが多いことです。

そういった優秀な方の妊娠をきっかけとして、企業が体勢や制度を整え、ダイバーシティへの一歩を踏み出していけるんです。
 
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女性の働き方を変える支援をすることが、社会全体の働き方を変える切り口に。

グリーンズ ひとつ事例ができると、ほかの人も後に続きやすくなりますね。

堀江さん 男性も変わらないと社会は変わりませんが、男性に「変わりなさい」っていっても難しい。でも、女性が「短時間労働でも活躍できる」という成功事例を積みあげられれば、「僕にもできる」「こういう職種の人もできるかもしれない」という意識が広がっていくと思うんです。

実際、「今まで言えなかったけど、子どもができたら育児休暇をとりたい」と考えている男性も増えています。

自身の妊娠を機に、組織も組織内の働き方も改変

グリーンズ ちなみに堀江さんご自身が妊娠されたことで、何か変化は生まれましたか?

堀江さん 役割を委譲するために、自分にしかできないスキルの棚卸しをしたり、メンバーの強みを見つけることを意識したりするようになりましたね。やってみると「実は、自分にしかできないことってそんなにない」ということに気づきました。

例えば講演もそうで、今までは「私じゃないと引き受けられない」と思い込んでいたんですが、思い切って任せてみたら、私とは違った視点から魅力的な話ができていました。

グリーンズ それはいいですね。

堀江さん 私とまったく同じやり方をしてもらうのではなく、基本的なスキルを身につけてもらえば、あとは、メンバーそれぞれが自分の強みを活かせるんですよね。

今後もメンバーにどんどん振って、私は本当に注力すべきことに集中していく。本当にArrowArrowにとって、よいきっかけになっています。

グリーンズ ほかのメンバーのみなさんは子育てをされているんですか?

堀江さん これまでは子育て前の世代が中心だったんですが、今では過半数が子育て世代になっています。クラウドなども活用して、週2.5日〜3日の範囲で働くメンバーがチームを組んで、プロジェクトを回しています。

こういう少ない日数だけ出勤するメンバーだけで事業を成り立たせることは、去年の自分だったらイメージできていなかったかもしれません。
 
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11月に出産予定の堀江さん

グリーンズ 時間もフレキシブルなんですよね。

堀江さん どうしても夕食の準備などがある18時から21時は抜ける事が多いので、自宅からの参加も含め朝8時から15時までにしたり、夜の20時から22時まで働いたり、その人に合わせて時間を決めてもらっています。

実はこの夕食の時間を夫婦で過ごせると、とても楽になるんです。子どもを抱っこしながら片手で料理するような大変な時間帯に、夫の手があるだけで、妻も夜、寝落ちしないんですよ(笑)そして、お互い夜はまた仕事ができたりする。

グリーンズ となると、夫たちがこの時間に家にいることも大切だと。

堀江さん そうなんです。実はクライアント企業にも、この時間を自宅で過ごす働き方をオススメしています。サービス残業のように自宅に仕事をもって帰るのではなく、「これを正規の業務にしませんか?」と。

今の中小企業の幹部の方々は専業主婦のご家庭が多く、共働き家庭の都合がイメージできないので、私たちの実体験に基づいた提案を大切にしています。

“地域ぐるみの子育て”を目指して

グリーンズ ArrowArrowではさらに、一旦仕事を離れた女性の再就職支援にも力を入れていますね。

堀江さん 子育てを機に仕事を辞めた人が正社員に戻る割合は、たったの18%と言われていて。そんな「一回やめたら戻れない」という状況を何とか変えたいと思っているんです。具体的には、いま住んでいる東京都国分寺市と組んだ「ママインターン事業」があります。

国分寺には優秀な人材を欲しているNPOや中小企業がたくさんあるのですが、広報に力を注いだり、採用費がかけられなかったりという問題があります。また、週2日程度の勤務であることも多く、再就職を目指すお母さんたちの希望とも合うんです。

地元ですから通勤に時間もかかりませんし、のちに正社員になってちゃんと税金が払えるぐらい働けるようになったら、自治体としても納税者が増えるというメリットがあります。このような試みを、ほかの自治体でも展開していけるといいですね。
 
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国分寺市と協働した“第一期ママインターン事業”の卒業生のみなさん。現在は、第二期募集中!

グリーンズ 地元で新しい事業を始めてみて、いかがでしたか?

堀江さん ”地域”というテーマがより身近になってきましたね。

例えばお母さんが里帰りをせずに、地域で自分たちが築いたコミュニティのなかで、生まれた子どもを一緒に育てるにはどうしたらよいか。実際に自分の知り合いを総動員して、子育てを助けあうメンバーのシフト表をつくったりしています。

グリーンズ 夫婦ともに実家が遠方だったりすると、地域ぐるみの子育てはありがたいでしょうね。

堀江さん 私自身、これから国分寺市で子どもを産む人たちに、「何か還元できたらいいな」という気持ちがあるんですよね。

私の母は育児休暇のない時代に、一ヶ月半で仕事に復帰したので、私は今でいう保育ママのような方に育てられたんです。専業主婦が当たり前の時代だったので、「かわいそう」と言われたりもしたのですが、その人たちにすごくかわいがってもらったので、辛かった記憶はありません。

だからこそ、私も子どものために、より多くの人から愛情を注がれる環境をつくりたいなと。
 
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都市部や晩婚化社会の育児ならではの問題も。妊娠、出産、育児にまつわる新しいコミュニティや教育のあり方も、堀江さんは考えています。Some rights reserved by il-young ko

お腹の子が高校生になる2030年。
「そんな時代もあったんだね」と言ってもらいたい

グリーンズ 特に都市部では、仕事と育児の両立に悩みながらも、孤立している母親は多いですよね。最近は虐待やネグレクトのニュースがメディアを賑わしますが、「加害者の気持ちがわかってしまう…」という方もいるのではないかと思います。

堀江さん 多分その人たちも、すごく頑張っているはずなんです。だからこそ大切なのは、育児をひとりに担わせないことだと思います。

私の田舎では祖母がいたり、近所の人たちが助けてくれて、孤独な子育てをしなくてもすむ環境なのですが、都市ではなかなか自然にコミュニティはできにくい。そう言っていてもしかたないので、いっそ自分たちでつくってみようと思っています。

グリーンズ とても心強いです。十分でないからこそ、チャレンジできる領域はいろいろありそうですね。

堀江さん 座右の銘は「ネガティブはポジティブ」なんです。“できないこと”や“できていないこと”に目をむけ、“どうしたらできるか”を考えるのが本当のポジティブだと思うんですよね。

私は不妊治療を経て子どもを授かったんですが、治療中はしんどいこともありました。学校などではずっと「望まない妊娠を避けるための性教育」を受けてきたので、子どもというのは「ちょっと気を抜くとすぐにできちゃうもの」だと思っていたんです。

でも、いざ子どもがほしいと思ったら、中々できない。晩婚化でこの問題も増えていくと思うので、産むための教育のようなものができたらいいなと、個人的に考えています。

グリーンズ 今日は様々な角度からお話いただき、ありがとうございました。ちなみに2030年となると、堀江さんのお子さんも高校生くらいになっていますね。

堀江さん この子の性別は、8割の確率で女の子と言われています。そうわかった瞬間に、決意も新たになりました。自分が感じてきた葛藤を味わってほしくない。そのためにも、社会をよくして、いい景色を見せてあげたいなって。

その頃には、今のこの事業があったことに、びっくりするほどになっていてほしいんです。「子ども産んだら仕事やめなきゃいけないとかって、マジうけるんだけどー」などと言ってもらえるように(笑)

NPOにした理由もそこにあるんですよね。やるべきことを達成したら、消滅しなければいけない。「そんな時代もあったんだね」と言ってもらえるように、がんばらなきゃなあ、って思っておりますよ。

(インタビューここまで)

 
「がんばらなきゃなあ。」堀江さんはインタビューに答えながら、お腹の赤ちゃんに向かって話しかけていました。

まだまだ「制約のある働き方をする女性は活躍できない」という固定観念が社会に広がっています。ArrowArrowの事業のように、ひとちひとりの成功事例を積み重ねていくことから、新しい働き方の可能性が広がっていくのかもしれません。

みなさんも2030年の働き方について、立ち止まって考えてみませんか?

(撮影:山本恵太)

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仙波 千恵子

仙波 千恵子

greenz ジュニアライター 東京 高尾うまれ。在住。 大学時代に編集プロダクションで編集・ライティングをはじめ、その後フリーランスに。 書籍・雑誌・WEBの、編集・企画・取材・執筆・広告プロモーションを手がけ、教育、女性の生き方、ワークスタイル、途上国の児童労働問題、地域振興などをテーマに配信。 幼児〜高校生までの学習コンテンツの制作や授業も。 「ひとりひとりの人生を大切にすること、輝きを発掘し続けること、それが問題解決につながるような、生き方・働き方・育て方を考えています」

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国立環境研究所

国立環境研究所は、地球規模から地域の問題まで、環境をテーマに広範かつ総合的に研究する我が国の中核的な研究所のひとつです。 今回の「持続可能なライフスタイルと消費への転換に関する研究」では、環境への取り組みをもう一段深めるために、環境と生活者のライフスタイルの関係性というテーマで、未来のシナリオを描いていきました。 日々の暮らしのあり方や、これからの生活設計を見つめ直す材料にしていだけると嬉しく思います。 ⇒ 国立環境研究所×グリーンズ対談!特集「ぼくらの未来シナリオ」

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