ISSUE☆おすすめの連載! わたしたちエネルギー

2 years ago - 2014.10.30

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“エネルギー・コモンズ”はいかにして可能か? ロフトワーク林千晶さん×R水素ネットワーク江原春義さん×YOSH編集長「これからの文明論」対談(後編)

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(左)江原春義さん(右)林千晶さん

林千晶さん×江原春義さん対談(前編)」では、「どうしてR水素は広がらないの?」という林さんの素朴な質問から、補助金や市民運動など、エネルギー問題を取り巻く複雑な課題について話題が広がりました。

こちらの後編ではそこから一歩進んで、R水素をもっと魅力的なムーブメントにしていくためのヒントを、林さんと話し合ってみました。引き続き対談の進行は編集長のYOSHが務めます。
 
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Facebook プロフィールより

林千晶(はやし・ちあき)さん
ロフトワークの共同創業者、代表取締役。学びのコミュニティ「OpenCU」、デジタルものづくりカフェ「FabCafe」などの事業も展開している。MITメディアラボ 所長補佐(2012年〜)、グッドデザイン審査委員(2013年〜)、経済産業省 産業構造審議会 製造産業分科会委員(2014年〜)も務める。

ビッグデータは操作できない

林さん ここからは希望の話をできたらと思うんだけど、「Safecast」という活動は知ってる?

YOSH 各地の放射線の値を測定して、マッピングしている団体ですよね。

林さん そう。私はすごく彼らを尊敬しているんだけど、何でかというと、彼らは測定された数値がいいとか悪いとか、どの地域が安全とか安全じゃないとか、そういう判断をしないことを大切にしているからなの。

数値に対する考え方は個人のリスク許容度によるし、体質や年齢によってもその影響が異なる。でも、多くの人が数値をもとに自分で判断できるように、データをできるだけ多く、正しく、伝えようとしているんです。

彼らのもとには、世界中のひとが集めたデータが何百万と集まってきます。ビッグデータとして出てくると、ひとつずつのデータ操作なんてできる規模じゃない。そうすると、小さなツッコミが無効化されるんです。
 
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Safecastウェブサイトより

YOSH 思うところはあるだろうけど、プロジェクトとして価値観は押し付けない、と。

林さん 「こんなに素晴らしいよ!」と説得したり、「利権が問題だよ!」と議論で対抗するよりも、「あくまで判断はそれぞれがするべき」というSafecastのスタンスの方が、R水素を広めるヒントになるんじゃないかなあ。

実はそれって、私がクリエイティブ・コモンズに感じた気持ちよさと近いものがあって。

YOSH というと?

林さん もともと私も「社会のためによいことをしたい」という気持ちは持っていたけれど、一方でボランティア活動へコミットの仕方が難しくて行動に移せなかった部分もあったんです。

それが、クリエイティブ・コモンズに出会って、初めて「心から大好き!参加したい!」と思いました。そのポイントは、支え合う関係性が直接的じゃないから。

クリエイターが安心してクリエイティブをシェアできる仕組みや、プラットフォームづくりの部分に関わる活動で、参加メンバーはあくまで自分ができることを淡々とやるんです。

YOSH 自分ができることを淡々と。

林さん ときどき間接的に、自分もそのコモンズから助けられることがあるけれど、支援する・支援されるという関係が明確に分かれているわけではないし、そういった人達から直接「ありがとう」とは言われることはありません。でもその関わり方がとてもよくって。

自分の自己満足のためではなく、みんなが納得できる形で、ほしい未来を一緒につくっている感じが、本当に世界を変えていく力になるんだろうなあって。
 
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林千晶さん

情報合戦を抜け出すために

ハルさん
 ちょっと付け加えますとね、陰謀論というものは政治への不信をあおったり、興味を失わせて、政治に市民が参加するのを放棄させることが狙いだったりするんです。

自分の不幸を感じている人たちは、世界には悪が蔓延しているせいにすることで、なんらかの慰めを見いだします。そして、陰謀論が正しいかどうかという議論を延々とさせることで、力を削ぐんですよね。

とはいえ、確かに国は嘘をつきますし、情報の中には真実と嘘が巧みに混ざっているので、その真偽を見極める洞察力を磨く必要があります。

だけど私たちは、それを見抜いて、より建設的な意見を出して、人々に政治的な行動を呼びかけているんです。目覚めて社会を変えたいと願えば、必ず意欲的に政治的行動を取らずにいられなくなるはずですから。

YOSH そうですね。確かにR水素ネットワークでは、情報の吟味をとても大切にしていると思います。ただ一方で、最初に千晶さんがおっしゃっていたように、「情報合戦になりすぎるのはよくないな」とも思うんですよね。

で、僕がどうしてR水素に惹かれているかというと、テクニカルな話というよりも、もっと深いところにあるマインドセットの成長が問われているからなんです。格好つけていうと、自己中心的な文明から、全体論的な、ホリスティックな文明にシフトしない限り、真の意味のR水素社会は実現しないのではと。

クリエイティブ・コモンズの影響で文化活動や教育の前提が変わりつつあるように、”エネルギー・コモンズ”が当たり前になることで、今の独占状態がどう変化していくのか、そこにとても興味があるんです。
 
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すべての社会問題の中心にエネルギーがある

林さん なるほど。そうなるとひとりひとりどうやって貢献できるのか、あるいは10人集まったらどんなことができるのか、その選択肢を描けると変わっていくかもしれないですね。国が動くのを待つんじゃなくて、ひとつひとつ積み上げていく感じで。

政治家とか石油会社とか大きな「敵」から話がはじまってしまうのもわかるのですが、それらに逆らう以外のアプローチから始められたら、きっといいと思います。

ハルさん 敵だとは思っていませんよ(笑)

それぞれの立場の人たちが地球全体の利益を追求することで、歪んでしまったエネルギーの仕組みを変えていく。ともにこれからの社会をポジティブにシフトさせていくために、協力していく仲間だと思っています。

今考えているのは、R水素という新たな時代のシンボルとなりうる、小さなコミュニティモデルをつくることなんです。R水素をリアルなものとして知ってもらうためのモデルがひとつでもあるころで、世界を変容させる一つのステップなるはずです。

林さん まさに!そういうテーマで、クラウドファンディングでお金を集めてもいいかもしれませんね。まずは自分たちで実験してみる、そしてそれを共有するというプロセス。今の大量生産とか大量消費が行き過ぎているってことは、なんとなくみんな感じていると思います。

だから「私やるわ」っていうみんなの気持ちをつくれるかどうかが、本当の意味でのR水素のチャレンジなのかな。そのサイズになれないんだったら、やっぱりまだひとりひとり発のエネルギーのチョイスにはならないから。
 
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ハルさん

クリエイティブ・コモンズに学ぶ

YOSH とはいってもクリエイティブ・コモンズも、20年前だったらみんなの反応は「はっ?」って感じだったと思うんです。それがどうしてこんなにメインストリームになっていったんでしょうか?

林さん それはある程度、問題意識が共有されている土台があったからだと思う。特にインターネットの登場で、“複製”という今までなかったトピックが浮かび上がってきたから。

特に資本主義社会では企業は利益最大化を目指すので、クリエイターには「このまま勝手にコピーされて行ったら、まずいんじゃないの?」っていう危機感があった。そうしないと、今まで一緒に育ててきて、享受してきたクリエーションの文化もダメになっちゃうから。

YOSH すでにクリエーターがそこにいたということが大きいんですね。そこにコミュニティがあったから、何か課題が起こったときにムーブメントになっていったと。

林さん クリエイティブ・コモンズが素晴らしかったのは、「no right reserved」ではなく、「some rights reserved」っていうポジションをとったことだと思う。それは、「all rights reserved」を完全否定するわけではなくて、使い分けを促したということ。

しかも業界団体とか国による「ルール」ではなくて、ひとりひとりのつくり手が選べるプラットフォームになっている。だから政治的なアクティビズムの話じゃなくて、自分の心地よさで選んでいけるっていう個人のレベルで広がっていったんだと思います。

YOSH なるほど。
 
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Some rights reserved by Gwyneth Anne Bronwynne Jones

林さん これって地産地消のものを選ぶことと似ていて、農業政策ウンヌンっていうよりは、「あの人のつくったお米が食べれてうれしい」みたいなもの。そういう風にすると人の気持ちが動くとわかったら、ビジネスの人たちも必ず後からついてくると思っているんです、私は。

YOSH そういう意味では、まずはエネルギーのつくり手を増やして、つなげていくことが大事なんですね。

ハルさん 素晴らしいね。ただR水素の場合はデジタルだけじゃないし、量産されないとなかなか安くならないというジレンマもある。でも諦めちゃいけないね。

林さん エネルギーの場合は、一個人より集合住宅単位とかがいいかもしれない。結婚していない友達も周りにたくさんいるし、家族だけじゃない新しい住まい方も増えているから、そういう場所やシェアハウスにおいてR水素システムが選択肢になるといいんだけど。

私たちが買えるくらいの金額で、いろいろ話を聞いて納得できたら実践してみたいと思います。

ハルさん クリエイティブ産業の裾野が広がったことや、クリエイティブ・コモンズのアイデアが広がっていったベースには、ITインフラの進化がありますよね。

R水素によってエネルギーがコモンズになっていくためには、その基盤となるハード、つまり再生可能エネルギー機器や水素発生装置、燃料電池といったもののマーケットが拡大していくことが必要だと思っています。

マーケットが大きくなれば、コストは下がり、効率は上がっていきますからね。そのためにも、政策に働きかけていく動きをみんなで起こしていきたいです。

林さん でも、国を動かすことと個人を巻き込むことって、方法論が違うじゃないですか。やっぱり大きくてもひとつの市町村とか、そのぐらいの単位からはじめるのはどうでしょう。面白い人数が動いたら、驚くほど面になってたっていうのが、私の周りでは多くて。

私たちが今、新しいプロジェクトを進めている地方の行政もそうなんです。小さい行政が味方になってくれると面白いですよ。

YOSH 話題の場所で2、3箇所、R水素が導入されていったら、確かにみんな注目しますしね。

林さん うんうん。すごくシンプルに、たとえば、リノベーションサービスで選べるオプションのなかに、「R水素」があるといいんじゃないかな。もし1,000万円かかるなら、その値段でちゃんと見えるようにしておく。それでも、1,000万円だったら導入してもいいという人もいると思う。

R水素や次のエネルギーの形を考えていく、私たちみんなが実践していくということはとても大事なことだと感じています。あとはひとりひとりが体感し、納得しながら判断していけるようになるといいですね。

ハルさん そうですね。新しいアイデアは理念と体験が同時にあって、より現実的なイメージになりますから。どんな人でも気軽に訪ねられて、R水素でエネルギーをつくって貯めて使う、地球に寄り添うエネルギー・コモンズな生活を体験できる場を、一歩一歩つくっていきたいと思います。

その第一歩として近々都心で、アートのオブジェとして触れることができる小さなR水素マシンを準備しているので、完成したらぜひお越しいただきたいです。

そして、その場を広めていくためのアイデアを相談させてもらえればと思います。今後ともよろしくお願いします。

(対談ここまで)

 
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以上、お届けしてきた林千晶さん×江原春義さん×YOSH編集長の対談、みなさんはどんな感想を持ちましたか? 新しすぎて物議を醸すほどのアイデアだからこそ、理念と体験の両方が大事。ということで、この秋都心にできるという”R水素体スペース”を楽しみに待ちたいですね。

これからもR水素ネットワークとのコラボレーションで、普段のグリーンズではあまり触れることのない、大きなビジョンをお伝えできたらと思います。どうぞお楽しみに!

writer ライターリスト

YOSH

YOSH

greenz シニアエディター/NPO法人グリーンズ理事 1979年生まれの勉強家 兼 お父さん。2004年よりウェブデザイナーとしてNPO支援に関わりながら、「デザインは世界を変えられる?」をテーマに世界中のデザイナーへのインタビューを連載。 CSRコンサルティング企業に転職後、2006年クリエイティブディレクターとして独立し、ウェブマガジン「greenz.jp」の立ち上げに関わる。2010年より編集長。秋田市出身、京都市在住。一児の父。 2016年より京都精華大学人文学部の特任講師として、「ソーシャルデザイン・プログラム(社会創造演習)」を担当予定。

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R水素ネットワーク

R水素は、水の中にある水素をパートナーにすることで再生可能エネルギーのポテンシャルを高める、持続可能なエネルギーのかたちです。 NPO法人R水素ネットワークの公式ウェブサイトはこちら

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