ISSUE☆おすすめの連載! ぼくらの未来シナリオ

2 years ago - 2014.10.27

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「拡大・成長」から「定常」の時代へ! 千葉大学・広井良典教授に聞く「リスクをポジティブに捉えるためのヒント」 [ぼくらの未来シナリオ]

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岐阜県中津川の景色 Some rights reserved by Tamago Moffle

特集「ぼくらの未来シナリオ」は、国立環境研究所「2030年の未来シナリオ」研究チームと一緒にお届けするインタビュー企画です。有識者の方々に「2030年の日本が直面しうるリスク」と「よりよい未来にしていくためにいま必要なこと」を伺っていきます。

日本の人口は、2004年12月の1億2748万人(確定値)をピークに、2005年から減少に転じています。

その「事の重大さ」は、近年になって広く認識されるようになりましたが、「人口減少は希望だ」という意見を展開されているのが、『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)などの著者として知られる千葉大学法政経学部の広井良典教授です。

人口減少がなぜ「希望」なのか? 2030年の日本が直面するリスクは何か? 直接お話しを伺ってきました。
 
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広井良典(ひろい・よしのり)
1961年岡山市生まれ。東京大学教養学部、同大学院修士課程修了後、厚生省勤務をへて96年より千葉大学法経学部助教授、2003年同教授。専攻は公共政策及び科学哲学。著書に『定常型社会』(岩波新書)、『人口減少社会という希望』(朝日新聞出版)など多数。

「木綿のハンカチーフ」の時代

グリーンズ この特集では、2030年の日本のリスクについて伺っているのですが、広井先生は『人口減少社会という希望』(朝日新聞出版)の中で、人口減少は悲観すべき事態ではなく、むしろ「希望ある未来へ向かう転換点」だとおっしゃっています。

まずはその理由から教えていただけますか?

広井さん そもそも、人口減少がなぜリスクと見なされるかを振り返っておきましょう。

日本の人口の長期的な推移を見ると、江戸時代後半に3000万人強でほぼ安定していた人口が、明治維新を境に、グラフが直立するほど急激に増加しています。

その上昇の勢いは2000年ごろまで続き、2004年にピークを迎えると今度は一転して急激に人口減少へと向かいます。急勾配な下り坂は、ジェットコースターの落下地点の縁に立っているかのようです。
 
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日本の総人口の長期的トレンド

グリーンズ いままさに落ちようとしているところですね。

広井さん ところが、少し見方を変えると違った側面が見えてきます。明治以降、グラフが直立するほど人口が急増したということは、日本全体が相当な無理をしてきたことを意味します。

「黒船ショック」に追い立てられ、欧米の軍事力に追いつけ追い越せと「富国強兵」のスローガンを掲げ、国家を総動員してひたすら「拡大・成長」を追い求めてきました。敗戦後は、そのスローガンが「経済成長」に変わったに過ぎません。

日本は確かに、物質的な豊かさを手に入れましたが、急激な「拡大・成長」と引き換えに積み重ねてきた矛盾も大きなものでした。自殺者はここ15年近く年間3万人前後を数え、年間数千人の交通事故による死亡者をはるかに上回っています。過労死や過労自殺は、労災請求という形で表面化したものだけでもここ数年2,000件近くで推移しています。

グリーンズ そういう社会が果たして豊かなのかというと、やはり違う気がします。

広井さん ここで付け加えておきたいのが、人口増加の時代とは、すべてが東京に向かって流れ続けていた時代でもあったということです。グリーンズ読者のみなさんには馴染みが薄いかもしれませんが、1976年に大ヒットした『木綿のハンカチーフ』という曲があります。

グリーンズ 「恋人よ〜 僕は旅立つ〜♪」の歌詞の。

広井さん はい。あの歌は「東」へ向かう列車に乗って、旅立ったまま帰ってこない恋人を思い、涙を拭くハンカチをくださいという内容の歌詞なんです。

この曲は、地方から東京の会社に就職して企業戦士になることが、当時の多くの若者が望んだ幸せの形であったということを象徴しています。では、こうして東京に働きに出た若者は、その後実際にどういう人生を歩んだのでしょうか。

乗車率300%の満員電車に乗って通勤し、毎日毎日遅くまで残業してヘトヘトになり、地元に住む両親は介護を必要としているにもかかわらず、会社を辞めて戻るわけにもいかない……。

「拡大・成長」を信奉する社会に捧げた人生は、果たして幸せだったのか、今はそのことを問い直す時代の転換点に差し掛かっているということです。
 
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グリーンズ 「拡大・成長」に伴い無理が積み重なってきたということですが、人口減少が希望であるということにどうつながってくるのでしょうか?

広井さん 端的に言えば、「拡大・成長」の過程で失ってきたものを取り戻すことが希望につながると考えています。とはいえ私も、人口が減少し続けるのがいいと考えているわけではありません。「拡大・成長」が絶対的に良いものととらえ、経済の縮小につながるという理由で人口減少を単純に悪しきことと考える発想から抜け出す必要があるのではないかと問いかけたいのです。

国連の推計によると、先進諸国の出生率は2100年に向けて2.0前後に収斂し、日本の人口もそのころには9,000万人程度で安定すると見込まれています。

それが多いか少ないかという議論もあるでしょうが、膨らみすぎた経済を縮小させ、時間的・空間的・精神的なゆとりを回復し、安定した成熟社会を目指すことを考える時機に差し掛かっているのではないかと思うのです。

人類は「拡大・成長」と「定常」を繰り返してきた

広井さん 少し話が大きくなりますが、人口動態と経済規模を人類20万年の歴史に視野を広げて概観してみたいと思います。

最初に結論を言ってしまうと、人類の歴史は、人口と経済が大きく成長する「拡大・成長期」と、人口・経済ともに大きな成長はないけれど、持続可能で文化的な発展が見られる「定常期」を交互に繰り返してきました。

そして、人口減少社会の先に訪れるはずの定常社会は、人類史3度目の「定常期」に当たります。

グリーンズ もう少し詳しく教えていただけますか?

広井さん 誕生したばかりの人類は、狩猟・採集によって食料を得て暮らしていました。それによって個体数を増やしてきたのが最初の「拡大・成長期」です。

ところが約5万年前、獲物や収穫物をとり過ぎた結果、人類は食料問題・環境問題に直面します。それによって「拡大・成長」を諦めざるを得ず「定常期」に入った人類は、このとき心を獲得したとされます。

この「心のビッグバン」と呼ばれる時代に生まれたのが、ラスコーの壁画に象徴される文化の萌芽です。外へ外へ量的拡大を目指していたベクトルが行き詰まり、意識を内に向けるようになった先に、精神と文化が育まれることになったのです。

グリーンズ それが「拡大・成長」と「定常」の1サイクル目というわけですね。
 
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ラスコーの絵画 Some rights reserved by Jack Versloot

広井さん 2度目の「拡大・成長期」は、約1万年前の農耕とともに始まります。豊富な食料を生産する技術を手にした人類は爆発的に人口を増やします。余剰生産物によって社会が階層化し、権力・国家の原型が生まれたのもこの時期です。

ところが、過剰な食料生産は土地から生産力を奪います。生産の「拡大・成長」を目指すあまりに土地が痩せ、いまのような砂漠と化してしまったのです。人類はまたしても食糧問題・環境問題に直面し、2度目の「定常期」に移行していきます。だいたい紀元前5世紀ごろのことです。

そのころ、哲学者のヤスパースが「枢軸時代」と呼ぶ精神革命が起こりました。インドでは仏教が、中国では儒教や老荘思想が、ヨーロッパではギリシャ哲学が、中東では後のキリスト教につながるユダヤ教が生まれたのです。

グリーンズ 物質的なものではなく、精神的な豊かさを説くようになったと。

広井さん そして3度目の「拡大・成長期」が、ここ300年から400年続く経済活動の拡大です。その象徴が18世紀後半から進展した産業革命でした。その「拡大・成長」の波が、黒船によって「定常期」にあった江戸時代終盤の日本にも伝搬することになるわけです。

この3度目の「拡大・成長期」が行き詰まり始めたのが、まさに20世紀後半なのです。有名な『成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機レポート」』(ダイヤモンド社)が出版されたのは1972年。人類は今、3度目の「定常期」の入り口に立っていると言えます。
 
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グリーンズ なるほど、壮大なストーリーですね。

広井さん 話はもう少し続きます。これまで2度の「定常期」では、人類は過去の反省を踏まえ、精神を成熟させ、文化を育んできました。

人口減少が3度目の「定常期」に向かう端境期の出来事だと考えれば、これから人類は豊かな成熟社会を迎えることになるはずです。

日本が人口減少によって「拡大・成長期」に失ったものを回復し、希望ある未来に向かうというのは、そういう大きな歴史の流れを踏まえてのことなのです。

豊かな成熟社会を迎えるために

グリーンズ 人口減少社会の先に希望があるとすると、未来のリスクについてはどのようにお考えでしょうか?

広井さん ここまでポジティブなことを語ってきましたが、日本がこれから豊かな成熟社会を迎えるには、越えなければいくつかのハードルがあります。

課題は大きく3つです。ひとつは、集団の内に向かって閉じがちな日本人が、どうやって開かれた関係性を築いていくことができるかです。国際的に見ても、日本人は家族や特定の集団に閉じこもり、外との人間関係が希薄で社会的孤立度が高いとされます。

最近の学生や若い世代の様子を見ていると、自分が所属する集団にとらわれずに軽やかに人間関係を築いていく若者が増えていることに希望を感じる反面、インターネット空間上で新たな「ムラ」のような集団を形成していることには危惧を覚えます。事態はどちらにも転びうる状況にあると見ています。
 
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先進諸国における社会的孤立の状況

グリーンズ 続いては?

広井さん 「分配」の問題です。本来なら、社会保障には格差を是正する働きがありますが、ここ最近の傾向では格差は拡大傾向にあり、特に子どもや若者の貧困が顕著になっています。

それを端的に示すのが、100兆円強の社会保障支出の高齢者への大幅な偏りです。年金支出が50兆円強を占めるのに対し、若年層への支援は1兆円にも届きません。そのうえ、国は1,000兆円を超える財政赤字を抱え、これは結局のところ現在の若い世代や今後生まれてくる将来世代にツケとして回されます。

問題がややこしいのは、高齢者への支出を一律でカットすればいいという単純な話ではないことです。持てる高齢者への「過剰な分配」と持たざる高齢者への「過小な分配」が共存し、高齢者どうしのあいだでも分配の不均衡が起きています。

各論にもきちんと目を配りながら、公正な分配を目指していく必要があります。

グリーンズ 非常に難しい問題ですね。
 
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広井さん そしてみっつめは、日本人が精神的な拠り所を取り戻すことができるかどうかです。

江戸時代の日本は、「神道・仏教・儒教」を融合させて精神的な拠り所としていましたが、明治維新をきっかけに、中央集権化を進める国家が西洋のキリスト教に対抗するものとして「国家神道」を突貫工事でつくりあげると、かつての価値観や感性は忘れ去られてしまいました。

敗戦によって「国家神道」が否定され、その代わりに日本人が手にしたのが「経済成長」という信仰です。経済の「拡大・成長」以外に拠って立つ精神的な土台を見いだせず、「経済成長」そのものが難しくなりつつある今、途方に暮れているのが今の日本社会と言えます。

「鎮守の森」に光を当てる

グリーンズ ご指摘いただいた課題を乗り越えていくには、どうすればよいとお考えでしょうか?

広井さん 簡単に答えられることではないですが、いくつか考えていることがあります。ひとつが「ローカル」に帰るということです。人類の歴史は、ローカル⇒ナショナル⇒グローバルという流れで進展してきました。

社会保障という国家規模の「分配」機能は、「ナショナル(国家)」が確立される過程で整備されてきたものです。それまでは、いざというときのセイフティネットは、「ローカル」な地域共同体のなかで手当てされてきました。

「公助・共助・自助」という言葉がありますが、「ローカル」による「共助」を強化することで、「公助」の負担を減らすとともに、人と人との結びつきを強める効果が期待できると考えています。

つまり、冒頭でお話しした「木綿のハンカチーフ」の逆の流れ、都市から地方へ人口が戻る流れをつくることが、未来へのリスクに備えるひとつのアプローチになるのではないかと思うのです。いわば「逆・木綿のハンカチーフ」ですね。

最近の学生を見ていると、最近の若い世代がローカル志向、地元志向を強めていて、そこにポジティブな可能性があると感じています。

グリーンズ 確かにグリーンズの読者の価値観とも通じるところがありますね。

広井さん もうひとつ、今の話とも関連しますが、私は「鎮守の森コミュニティ研究所」というシンクタンクを立ち上げ、「鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ構想」というプロジェクトに取り組んでいます。

グリーンズ 興味深いです。
 
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Some rights reserved by Michishita Masaaki

広井さん 全国に神社は約81,000、お寺は約86,000あります。コンビニ約5万店、中学校約1万校と比べると数の多さが際立ちます。

それもそのはず、神社仏閣というのはかつての地域共同体で中核的な役割を果たしていました。単なる宗教施設としてだけではなく、門前や境内に「市」が立ち、「寺子屋」を開き、「祭り」を開いて地域の結びつきを確認する空間にもなりました。

明治のなかごろ、町と村が約71,000あったことが示すように、神社仏閣の数は、かつてあった日本の地域共同体の数を示しているのです。

グリーンズ それだけ身近な存在だったと。

広井さん 私が取り組むプロジェクトは、かつて地域共同体の中核を担っていた「鎮守の森」にもう一度光を当てる試みです。今でも祭りの盛んな地域は、若者がその地にとどまることが多く、Uターン率も高いとされます。

「拡大・成長」の影で人々の関心が薄れた場所を地域資源として再評価し、地域共同体の再構築を目指すとともに、日本人が失った精神的な拠り所を取り戻せないかと考えています。

さらに、温暖化への取り組みが世界的な問題となっている今、「鎮守の森」が持つ環境保全効果も注目されています。そこに自然エネルギーを導入し、自然とのつながりを再確認できる象徴的な場をつくりたいと考えています。
 
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グリーンズ 具体的にはどんな活動を?

広井さん 長野県小布施町、岐阜県中津川市、天孫降臨の舞台とされる宮崎県高原町の3つの地域で、鎮守の森と結びつけて小水力発電を導入する取り組みが具体化しつつあります。

この「鎮守の森」での取り組みには、3度目の「定常期」にふさわしい心の成熟につながってほしいという期待も込めています。それは、ローカルな場所に根差しながら地球全体や生命とのつながりをも意識する、私が「地球倫理」と呼ぶ精神のありようです。

そこに至るための象徴的な場として、「鎮守の森」の可能性に注目していきたいと思っています。
 
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(インタビューここまで)

 
広井先生のお話、いかがでしたでしょうか? 壮大な人類史を俯瞰することで見えてきたのは、定常社会という希望と、その前に立ちはだかる大きなハードルでした。そして、「それを乗り越えるためのヒントは心の成熟にある」と広井さんは強調します。

“ソーシャルデザイン”というキーワードのその先の、地球規模の精神性のシフトとはどのようなものなのでしょう。みなさんも一緒に考えてみませんか?

(撮影:山本恵太)

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萱原 正嗣

萱原正嗣(かやはら・まさつぐ) フリーライター。主に本づくりやインタビュー記事を手掛ける。制作に携わった主な書籍は、『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(渡邉格著、講談社)、『「ほしい未来」は自分の手でつくる』(鈴木菜央著、星海社新書)、『あわいの力』(ミシマ社)など。現在、本づくりでご縁のあった岡山県真庭市勝山で、本屋と出版を始めるべく準備中。 【連載】町の本屋制作ノート(本屋を始めるまでのあれこれを綴っています)

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国立環境研究所は、地球規模から地域の問題まで、環境をテーマに広範かつ総合的に研究する我が国の中核的な研究所のひとつです。 今回の「持続可能なライフスタイルと消費への転換に関する研究」では、環境への取り組みをもう一段深めるために、環境と生活者のライフスタイルの関係性というテーマで、未来のシナリオを描いていきました。 日々の暮らしのあり方や、これからの生活設計を見つめ直す材料にしていだけると嬉しく思います。 ⇒ 国立環境研究所×グリーンズ対談!特集「ぼくらの未来シナリオ」

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